陽光反射オンライン 作:避雷針
牢獄はまともに機能していなかった。
そのため、俺は黒鉄宮にぶつかるだけで済んだ。
ぶつかった反動で転がり、広場の中央付近まできた。
腕を頭頂部に持ってきて帽子の存在を確認した。なぜか腕が震えている。膝もガクガクしている。体も重い。
立ち上がる気力がないので横たわったまま広場を見ると、放水に巻き込まれたり、その様子を間近に見たせいで呆然としている人が多い。
そういえば、ゲームオーバー=現実での死と言われていたな。騒いだり震えたりしている人はその影響か。
しかし、走ってどこかへ行っている人もいる。
気力あるなあ。何か目的があって現実世界に帰りたい人なんだろうなあ。
親の顔を思い浮かべようとしてもモアイ像しか出てこない俺にそんなに未練は……
いや、待てよ。アニメ、ゲーム、漫画を積んでいたな。そしてかなりアブノーマルなエロ画像フォルダ、そういえば黒歴史ノートも処分しないと死んでも死にきれない!
これはマズイ。ボーッとしている場合ではない!
目立つ場所は無いか。仕方ない。これで妥協しよう。
俺は呆然としている人達を何人か地面にうつ伏せに倒して積み重ね、その上で声を張り上げた。
『こんにちは、RAIで~す。みんな~、パーティー組みませんか~』
俺に注目が集まった。
とはいえ、そのまま広場を出ていく人もいるが、そういう薄情者に用はない。
俺が必要とするのは、足を止めた人達だ。
なぜなら、良心のある人は肉壁として使えるからな。
俺は足を止めた人の中で一番外側に居た人を指差しながら言う。
『そこの黒髪の人~、俺と組みませんか~』
やば、うっかり俺って言ってしまった。まあいいか。
黒髪の人は広場の外に行くか俺の居る中央に行くか迷った後、ゆっくりとこちらに向かってきていた。
「ちょお待ってんか!」
俺の肉壁要員を邪魔するやつは誰だ!
声が聞こえた方を見ると変な髪型の男が近づいてきた。
「ワイはキバオウってもんや、自分βテスターちゃうん?」
俺はβテスターではないが、βテスターと言っておけば、優秀な肉壁を集めやすいだろうか。そんなことを考えているとキバオウは続けた。
「βテスターなら何ぞ引き継ぎ特典もろてへんか?その服特典やないか?少なくとも情報持っとるやろ」
服は買ったし、情報なんて知るか。というか服剥ぎ取る気かよ?何に使うんだ?女装癖でもあるのか?
現実逃避はやめて真面目に考える。
ここは素直にβテスターでは無いと言うか。
いや、俺はプレイヤースキルが高くないし、頼りがいのある強そうな容姿でもない。2人組作ってという言葉にトラウマがあるくらいだし、ここでβテスターではないと正直に言ってしまうと誰もパーティーを組んでくれない可能性がある。
周りを見渡すとみんな俺の言葉を待っている。
その時、俺の脳内に電流が走った。
顔を上げ、胸を張って大きな声で答える。
『βテスターでは無い。俺自身も完全に把握している訳ではないから、詳しい説明は出来ないが、俺はイベントキャラに近いと思う』
嘘は大き過ぎると逆にバレにくくなる。
俺の発言に辺りはざわざわとする。
膝の震えを必死に隠していると想定通りの質問が来た。
「どういうことや」
『記憶喪失だけど条件が満たされると記憶や情報が解放されるゲームってあるだろう。断言は出来ないけど、それに近い気がする。例えば、ストーリー終盤でラスボスはギミックを解除しないとダメージが入らず、勝ち目が無いみたいな情報が手に入るのかも』
誰かがピクリと動いた気がする。ヤバイ、バレた?
「証拠はあるか?」
『無い。証拠があったとしても信じないからその議論に意味はない。ただ、俺は男女どちらにみえる?』
「は?」
『いいから答えろ』
「女に見える」
『だが男だ』
「「「えっ」」」
『俺は現実では男だ。女と間違えられる顔でも無い。そしてお前達の中で現在の顔と現実の顔が一致していない人は居るか?』
誰も名乗り出ない。
まあ、俺みたいに現実世界で物理的にマスク被ってゲームするわけないよな。俺もネカマする気だったのとアバターや音声の設定が面倒だったからマスクとボイスチェンジャー付けてただけだし。
『居ないのか。ならば、俺に何らかのイベントが起きていると考えられないか?』
「その言葉自体が嘘……」
『そこは信じてもらわないとどうしようもない。だから言ったんだ、証拠を提示しても意味が無いと』
その後も尋問は続き、俺は戦々恐々していたが、俺が嘘を付いていると論破出来た人はいなかった。大量の質問を分からない多分記憶喪失だと乗り切り、余計なことを言わなかったのが功を奏したようだ。
運営側の人がいると一瞬で嘘をついていることがバレるが、そもそもそれを証明するためには運営側であるということを明かさねばならない。つまり、俺を論破出来たらその人が袋叩きにあうことになる。デメリットが大きすぎてやりたくないだろう。
何か意味のない質問だとか戦いたくないなんていう意見が増えてきた。俺は手を叩いて言った。
『よし、みんなでフィールドに行こうか』
死んだらどうするとか武器持ってないとかブーイングが起きる。
『大丈夫。全員が一番最初のステージで死ぬゲームとかクソゲーだからそれはない。もしそうなら難易度設定がおかしい運営のせいだから補填がある。それと俺も武器は持ってないけど無くてもなんとかなる。数こそ力!みんなでモンスターを囲んでボコボコにするぞ!』
「……」
『おー!って言え!敵をボコボコにするぞ!』
「……オー」
『声が小さい!敵をボコボコにするぞ!』
「おー」
『もっと叫べ!ボコボコにするぞ!』
「おー!」
楽観的なことを断言する。勢いが大事だ。
それに武器を持たせて楽なんてさせるか!俺が持ってないんだからお前らも持つな!苦しみは分かち合おう。
一部の人はやる気になってくれたか。
俺はもう一度手を叩いて注目を集め、必死で首を上向けようとしている踏み台達から飛び降りた。足がなかなか動かないバグは空中でも発生して滞空時間が異常に長くなる。
『このように俺はイベントキャラだから俺の近くにいた方が生存率高くなる。さあ、ついてこい』
「……」
『おー!はどうした!行くぞっ!』
「おー!」
俺は堂々と歩き始めた。
「あのー、RAIさん。そっちに行ってもフィールドには出られないです」
『……や、やっと気付いたのか。突っ込み待ちだったんだ』
俺は方向転換して歩きだした。顔が熱い。
「あのー、その道も……」
『……道分かる奴が前に出て案内しろ!俺は後ろをついて……待て、お前、俺を抱えて歩け!』
道なんて分かるか!
それに足が遅すぎて移動が面倒すぎる。
フィールドに出る途中で広場に戻った。
広場にはまだ戦うか引きこもるか迷っている人達がいた。
俺は優しいから日本人に有効な言葉で背中を押してやろう。
『皆さんフィールドに出ていきましたよ。あなたは行かないのですか』
そういえば、俺の肉壁要員の黒髪はと思って探したが見つからない。ここで喋っていた間にどこかに行ってしまったか。その原因となったキバオウもいつの間にか居なくなっている。
逃がした魚が大きかったら嫌だな。