目の前にはゴミしか無かった。
人を殺すようなゴミ、汚いゴミ、異臭の漂うゴミ。
本当に気持ち悪いゴミしかなかった。
そしてそのゴミは自分も含まれると考えると……。
もう何も感じなくなり、ゴミであることを恥じなくなった。
ゴミならゴミらしく……そういう風に生きていこう。
そう決意した瞬間、体から蒸気のようなものが溢れ出した。
────ー
体にモヤがまとわりついてから2週間が経った。
自分と同じようなモヤを持っている人物に聞いたところ、それはオーラや念と呼ばれる類の能力だということが分かった。
しかし、その人物曰く僕は念の才能がないらしい。
纏う念の量とこれから増えるであろう見込みは、並かそれ以下。更にいえばここでのケンカで勝ったことなど一度もない。
根っからの負け犬。
だから『発』に関しては、もうどうやるかは決まっていた。
念能力には種類があるらしい、それを見分けるために水見式とう方法をとったのだが……先にコップが割れた。
これはどれにも該当しない能力、特質系と呼ばれるものらしい。
とりあえず『発』を作ることにした。
僕自身ケンカが強い訳では無い、どちらかと言えば参謀向きだろう。
だから簡単な思考回路だ。
「僕以外の力で僕以外が戦えばいい」
僕のオーラ総量ではロクなモノは生み出せない、それなら僕以外の誰かから強制的に寄生すればいい。
故に考えついた能力は……。
「《
・念能力者以外へ寄生し、無理やり念を習得させ全ての念を吸収する。寄生は原則非能力者にしか寄生できない。
・この能力は直接攻撃はできない、故に念での破壊は不可能。
・もし寄生対象が死亡し念能力がもう使えないと判断した場合に限り新たに寄生対象を選択することが出来る。
・この能力が除念された場合に限りこの能力は使用者の手元に戻り、今まで集めたオーラを糧に卵の殻を破り能力は完成し、《寄生の卵》の能力は永久に失われる。
制約
・この能力の発動中は強制的に絶状態となる。
誓約
・もし本能力が自分以外のコントロール下に置かれた場合、使用者は念能力を失い死亡する。
・発動中に使用者が死亡した場合、最後に寄生した相手又は現在寄生している対象に能力を譲渡する。
このゴミだめは思ったよりも静かに暮らせば死ぬことは無い。
たまにそういう殺し屋紛いな人もくるが、絶状態ならば見つかることは無いだろう。
ある程度リスキーな条件を持たなければ僕程度では死んでしまう。
それに潜伏する期間は長い方がオーラを集められるだろう。とその程度しか考えていなかった。
確かに考えが甘かったのかもしれない……。
まさかこの能力が、予想外の成長を遂げることになることを……。
────ー
早速能力を発動すると、掌には卵のようなものが現れた。
そしてその卵は素早く僕から離れ、寄生対象となる宿主を探すために空へと飛んで行った。
できるだけ遠くへと。
そして卵は宿主を見つける。
何の変哲もない青年だ、どこかの王族でも奴隷でも無い。本当にどこにでも居るような平々凡々な青年。
《寄生の卵》は非能力者である青年へと寄生した。
その瞬間に青年は体から蒸気が溢れ出す、精孔が無理矢理こじ開けられたのだ……。
途端に青年はのたうち回る、何が起きているのか理解が出来ずに暴れだしたのだ。青年はずっと精孔が開かれており非常に危険な状態。
しかし《寄生の卵》はそんなことをお構い無しに、体から漏れ出すオーラを捕食する。
何の変哲もない青年が無理矢理に精孔を開かれ念を習得するには些か無茶があった。本来ならただの失敗で気絶やそこそこのペナルティが求められただろうが、彼は今所謂念をかけられた状態。陰念に値する。
そしてその能力もタチが悪い。
常に使用者のオーラを捕食する。
精孔が全開で常にオーラを消費、青年はものの数分で死亡した。
が、それで終わりではない。
この能力は念能力が完全に消えなければ宿主の切り替えを可能としない。故に……
念が暴れ出す、死体となった青年からこの世のものとは思えないほどのおぞましさ、禍々しさ……。深淵のような黒に塗りつぶされた黒、全てを飲み込む絶望がそのオーラにはあった。
これは死後に強まる念。
《寄生の卵》はそれを強制的に発動させて奪うことが、隠された真の能力と言っていい。
そのおぞましいオーラをも全て捕食し、全てを飲み込んだ。
卵に変わりはない、上げるとするならば純白だった卵に少し穢れが着いたぐらいだ。
死体となった青年に《寄生の卵》は興味を無くしたかのように去っていき、新しい宿主を探し始めた。
この能力は天賦の才を持つ者以外に寄生した場合は、死後強まる念で無理矢理成長させることしかできない。
故に世界の至る場所でオーラの絞りカスとなった変死体が発見された。
────ー
《寄生の卵》の発動者である【フィル】は齢4歳にして念能力として発まで覚えたのだが、天才ではない。
それはフィル自身がよく分かっている。
それはよく居る、スタートだけが早いと言うだけでいつかは抜かれるから天才ではないと判断したのだ。
更にただのガキに求めるには酷だが、戦闘を普通にできない。
それはこのゴミだめで生きていくのには適さないからだ。ここ【流星街】ではマフィアへの引き抜きも珍しい話ではない。
故に生きるためには力を……。それは鉄則と呼ばれるものでもあった。
だからフィルは念能力のない今現在、盗みをしながら生きている。
いいことに絶状態ならば、非能力者ならばそう簡単には姿すら見つけられることがない。
人の家に入り、日持ちしそうな食材を盗む。
更には殺傷能力のあるナイフや、マフィアから盗んだであろう銃もあった場合に限り盗む。
4歳からそんな生活をして、約8年。
自分の体の中にオーラが帰ってきたのが分かった。
そしてそれは、普通ではありえない程の量のオーラ。
高密度で、自分ですら目の前が真っ暗になってしまう程の黒いオーラ。
一体どれだけのことをすればこんな力になったのか……。
フィルは薄気味悪いにやけ顔をしながら、本来の能力の最終目的である卵からどれだけのモノが出てくるか楽しみになった。
「《
念能力を発動して、卵を手元に召喚する。
そして言葉を失った……。
卵が真っ黒になっていたからだ、これを見ただけでこの卵は本来フィルが思い描いていた方法以外で成長したことが分かる。
当然だ、フィルは死後強まる念の存在を未だに知らない。
フィルに念を教えた人物も、そこまで詳しく教えてはいないのだ。
真っ黒に焦げたような卵を手に取り、その卵はモゾモゾと動き始めた。
それはまるで生命の誕生のように。
そして、その最悪は世界に命を降ろした。
「……」
言葉を失うフィル。
そこから出てきたのは、人間の形をしたナニカ。
それは世界に存在してはいけないような禍々しいナニカ。
一目見ただけなら目を奪われるほどに美しい外形だろう、しかしそれは瞬時に違うと言える。
黒い髪に黒い目、真っ白な肌に服装なのか見分けのつかない黒いナニカ。
直視していれば、全てを飲み込んでしまうようなクロ。
「言葉は話せるか?」
恐る恐る問いかける。
それはもう自分の能力だということを忘れているかのように……。
「ワ……タシ……ハナ……シスル」
低音に、更に重音などの低い音の更に低い音のような声が彼女から聞こえた。
「名前は持っているか?」
「……ト……ト」
「そうか、トトこれからよろしく」
「……ヨロ、ヨヨロ……ヨロシ……ククク」
何年も掛けて成長を遂げた僕の念能力。
《
せっかくなのでトトが産まれた時に、剥がれ落ちた卵の殻を回収して
《
特質系
・前能力《寄生の卵》から誕生した念能力、強さは《寄生の卵》で摂取したオーラに比例する。人間の形をしているが、人間が宿主になることが比較的に多かったため自然とその形になっているが、本来の形態はオゾマシイ。
誓約
・対象名【トト】が死亡した場合、宿主たる【フィル】も死亡する。