卵のナカミ   作:枝豆%

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卵のタタカイ

 200階に上がった途端、どこにでも居るような新人潰しにあたる連中に絡まれた。僕としても実験台が欲しかったので、乗ったのだが……大丈夫だろうか? 

 やはり念能力の相性も考えた上で始めた方が良かったのかもしれない。

 

 自室でトトと本を読みながら時間を潰す。

 トトは絵本を読み、言語を覚えようと必死だ。元々出来ていると思うのだが……やはり流暢に話せるようになるのが目標だろう。

 

「時間だ、トト」

「ヴ──ゥ」

 

 まるでお腹が空いていたのかと思わせほど食い付きがいい。だが、人前での捕食は勘弁してもらいたいものだ……。

 そんな淡い期待を持ちながら、初の念能力での戦闘が始まった──。

 

 

 

 ────ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合が始まった途端に念獣トトを指輪から実物の姿へと戻した。

 トトには念を抑えてもらっている、もし練でもしたら相手が直ぐに参ったと言うのでそのための処置だ。

 故に今のトトは、禍々しいオーラを持った念獣程度にしか考えていられないだろう。

 

「トト、まずは好きにやっていいぞ」

「トト……スキ、二……ャル……」

 

 トトは少女の姿のまま相手の念能力へとかけよる。

 走るという定義に収まるのか微妙な動きだが、ワープ系の能力を使っていないので問題は無いと思いたい。

 

 しかしトトの攻撃は相手選手には当たらず、何かが身代わりになった。

 

「なかなかいい念獣持ってるネ。でも、ミーのキョンキョンには勝てないネ」

 

 相手も都合のいいことに念獣使い。

 僕のようにトト一体ではなく、相手は四体五体六体とどんどん増えていく。増殖しているようだ……。

 

「何体まで増やせるんだ?」

「そんなことを言うわけないネ」

 

「そりゃそうだ」

 

 一斉に念獣が襲いかかってくる、初めての念での攻撃に少しだけ戸惑いがあったものの……心強い味方がいるので怯むことはなかった。

 

「トト」

「ヴ──ゥ」

 

 トトは華奢な手から異様な音を鳴らし、腕から腕が増殖を繰り返した。そしてその異様な剛腕で敵の念獣を嬲り潰す。

 

 異様だ、知性も理性もない念獣が恐怖を埋めつける。

 

「な、なんなんだその念獣は!!!」

「……なんなんだろうな?」

 

 そんな哲学じみな答えを求められても困る、何せ全貌は僕にですらわからないのに。作った本人がにんちしていないって……どれだけ自由なんだよ念能力は……。

 

 だがこれで分かった、並大抵ならトトは負けることは無い。

 相手が弱すぎる可能性もないことは無いが、圧倒的故にトトが破壊される可能性が見えてこない。

 射撃は得意なのでそういう援護の【発】にしようとしたが……。

 

 

 まずは強すぎる力を抑える発を覚えよう。

 

 この試合は勝ち確だとフィルは考えていたので、その先のことしか頭にはなかった。

 

「トト、終わらせていいぞ。悪かったな」

 

 するとトトは腕を更に肥大化させ、何千何万の腕が腕にまとわりつき、不気味で巨大な物体へと早変わりする。

 そしてその凶器をリングへと叩きつけた……。

 

 

 天空闘技場でいわれるKO。それは死を意味していた。

 そしてトトは200階クラスでの初戦をKO勝ちで収めた。

 

 

 

 

 

 

 ────ー

 

 

「さて、トトの力は無駄が多すぎるのが難点だな」

 

 知能がないからか、基本的にいい具合の加減というものができない。いや、もちろん全体の1パーセント未満で戦ってもらっているのだが、やはりそれでも過剰戦力であることは変わらない。

 

 オーラを抑えてもらっているつもりでも、それは並の念獣を遥かに凌ぐ。トトには枷のようなものが必要と考えた。

 

 自分を強くする【発】が普通なのだが、態々自分に枷をかけるなんて……。予定が大幅に狂う。

 

 しかし必要経費というやつだ。

 

 早速トトに指輪に戻ってもらい、今だけは全てのオーラを放ってもらう。

 余りに攻撃的なオーラ故に宿主である僕も長時間オーラの中にいるのは危険だ、だからこそ早めに動く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

化物の枷(あなたの為に)

 

 ・宿主とオーラで繋がっている念獣トトにのみ発動できる。トトのオーラの大半を三分割して封印する。

 

 ・トトの封印は全てフィルへと流れるが、そのオーラを使用することはできない。

 ・封印は左手の甲に痣として浮かび上がる。

 ・封印されたオーラを使いそれに応じた願いを叶えることが出来る。(除念、瞬間移動などトトの能力には関係の無いものでも可能)

 

【制約】

 ・フィル以外が封印を解くことはできない。

 ・トトが生命の危機に侵された時以外は三つ同時に解放してはならない。

 ・封印を一つ解くには目的を宣言しなければならない。

 

【誓約】

 ・目的が達成できなかった場合、フィルはそれから24時間【絶】状態となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえずはこんなものだろう。

 フィルはそう考えながら、手の甲にあるアートのような痣を凝視する。残念ながらこの痣は隠によって隠せないので常に晒さなければならない。

 トトは念能力者にしか見えないので非能力への配慮は問題ないが……。まぁいい、およそ他人事だ気にする必要もないだろう。

 

 こんな能力は本来必要ないのだが……攻撃的で莫大なオーラを常に肌に受けるのは鬱陶しいし矮小なフィルの体には良くない。更にいえばトトは卵の段階で間違いなくハンター協会から目をつけられているだろう……。卵とトトが今は別物だったとしても、今目立つのは得策ではない。

 

 天空闘技場は200階からはファイトマネーの支払いがないので、このままならいつか資金の底をつくことになるだろう。今のところ貯金は5億ジェニーあるが……。

 

「仕事でも探すか?」

 

 簡単なところで殺し屋、面倒だかハンターという手もおる。

 トトがいる限り、どちらでも問題ないと思うが……。

 

 

「よし、マフィアでも潰すか」

 トトの試運転がまだ終了していなかったので、手頃なマフィアを潰させることを目標にしようと情報を探す。

 

 まずはマフィアに恨みを持っている人物から当たって情報を。

 マフィアは善では成り立ってはいない、ドラッグに殺人、恐喝、闇金、などなど。挙げればキリがないだろう。

 別に正義の味方を気取る気は無いが……。

 

「別に誰も困らんだろう……」

 

 本来の力から考えれば残りカス位の力しかだせないトトを指輪から実体へと戻す。

 見たところ丁度いい。

 

 これなら人目見て「やばい!」と思わせるレベルだ、失禁や気絶に心臓麻痺と言った具合でないだけましだ。

 

 だがそれでも僕以上のオーラ総量。軽く十倍はあるだろう。卵の殻を食べた僕の……だ。

 

「ここまで来ると、どうすれば倒せるのかご教授願いたいな」

 下手な精神操作ならば、寧ろ逆流して相手の精神を破壊しそうだし。生半可な攻撃なら寧ろ怪我をする。下手な発ならトトに近づくだけで消滅する。

 

 

「なるほど、これがチートと呼ばれる現象か」

 合ってるようで間違っている読書中にでてきた覚えたての言葉を使うフィル。

 戦闘準備期間の90日まではのらりくらりと貯金を増やそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────ー

 

 

 

 

 

 

「助けて……助けてくれ!!!」

「雇われの身なんだ!! 本当だ!!!」

「頼む!! 頼むよ!!」

 

 

 血と硝煙の匂いのする一室。

 ブランド物でみを固めた男からは血が吹き出しており、その護衛だったであろう人物達は藁にもすがる思いで地面に頭を擦り付ける。

 

 そしてその一室の上座にある机に座りながら、金庫の中身を物色する男。

 

 フィルだ。

 

「あーそう」

 

 護衛たちの命乞いなど気に求めず、中にあった札束と本来の目的だった書物を手に取る。

 

「ふー、これが例の本か。一応オーラを纏っているから間違いはないだろうが……もっと豪華な見た目だと思ったんだがな」

 

 中身をパラパラと開き、千切れていたり白紙になっていたりとその可能性を思い確認する。

 

「よし。問題ないな」

 

 本をパタンとしまい、札束を黒い穴のようなモノに投げ込んだ。

 そしてその穴に投げこめば、途端に札束はその場から消える。護衛たちは何がどうなっているのか理解不能だ。

 急に入ってきた男に銃を打てば、当たる前に弾丸が何故か止まり。ボスは首がネジ切れ、最後に誰も知らない金庫の場所を当て触らずに壊して中身を出す。

 

 意味がわからない、本当に何が起きているのか。

 護衛たちは最後の頼みで、死ぬならば認識できないほどの速さで痛みはなく……出来れば見逃して欲しい。

 

 それくらいしか考えることはできない。

 

 なぜなら相手は普通が通用しない相手だからだ。

 

 

 

 

 怖い、怖い、怖い、怖い。

 全身から血が出るほどの緊張感を秘めながら、気に触らないように動かず話さず、そしてなるべく荒い息もせず。

 

 そんなことをしていると、フィルは声を発した。

 

 

「【卵の窓(ウィンドウエッグ)】は便利だな、手のひらサイズってところが玉に瑕だけど」

 

 意味の分からないことを言いながらドアの方へと向かうフィル。

 護衛たちにそのまま帰るのでは……という期待が芽生えた。

 

 

 ──しかし。

 

「トト、もう食べていいよ」

「ハハハハ────……ハハ……ハイ!!」

 

 とても嬉しそうな声を出したトトは、好物である非能力者の肉を貪った。

 

 ここで雇われたのが運の尽きだったのだろう……護衛たちには甘んじて受け止めてもらいたい。

 

 フィルのターゲットになったという不運を呪えば、些かマシになるだろう。

 

 と言っても今回はフィルが決めて動いた訳では無い……。

 ある人物に依頼されたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 さっきの部屋から少し離れた場所で電話がなる。

「ん? あー……片付いたよ、欲しいのは本だけだよね……うん、…………うん。じゃあ今回の金と宝石は僕が貰うから……。分かったよ……それじゃ天空闘技場に来てくれれば本は渡すよ」

 

 

 フィルは誰かと通話をしていた。

 恐らくフィルに依頼を出したクライアントだろう、フィルはいつもより少しだけ明るい口調で会話をする。

 

 何せフィルにとってその相手は、念を教えてくれた師匠のような存在だからだ。と言っても信頼や絆がある訳では無い。

 フィルが明るかったのは報酬の羽振りが良かったからだ。

 

 別にフィルにとってその人物は恩人であっても、敬意をもって接する相手ではない。

 

「……うん。分かった……それじゃまた……待ってるよ──」

 

 食べ終えたのかトトは指輪となって帰ってくる。

 血を一滴も零さないほど美味しかったのか、それとも腹が減っていただけなのか……。護衛たちと身なりのいい男のいた部屋は死体はおろか血痕すら残っていなかった。

 

 

「──クロロ」

 

 

 通話を切った効果音は、ビルの爆破によって掻き消された。




卵の窓(ウィンドウエッグ)

・左手の平から黒い卵のようなゲートを作る。
・念でゲートを作成して離れた場所へ繋げることが出来る。原則として視認できる場所以外は繋げることはできないが、1ヶ所だけ登録することができその1ヶ所に限り目視していなくてもゲートを繋げることができる。

【制約】
・卵のサイズが小さく手のひらサイズの物しか入れることが出来ない。また生物をゲートに通すことはできないが、念なら通すことが出来る。


あと一つ能力を出したら完成。
フィル自身の能力なのでカタカナに逃げた(いいのが浮かばなかった)

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