誤字脱字報告ありがとうございます。
本編にもどります。
宇宙世紀0090年1月午後
新年を迎える。
ハマーンのリハビリは進む。
ゆっくりとした足取りだが今では近所に散歩に出られる程度に回復した。
その際、ご近所やら知り合いには、ハマーンの事を死に別れたはずの下の妹ローザだと説明する。
一年戦争で記憶喪失になり、先の戦役で兵士にさせられ重傷を負い、偶然見つけたという事にした。
ただ、そのままの姿だと直ぐにハマーンだとバレてしまう。
ネオ・ジオンのハマーン・カーンの顔は全世界に広まっているからな。
ハマーンの髪の色は、俺とリゼと同じ色の薄い栗毛色に染めさせた。
髪は随分と伸びたため、頭後ろ右斜め下でまとめ、肩から前に出し括っている。サイドダウンって言う髪型らしい。
その髪型のお陰で、多少柔らかい印象を与えてくれるだろう。たぶん。
それ以上の事はしていない。
メガネやサングラスなんて、余計な事をすれば余計に怪しまれる気がしてならない。
まあ、ハマーンに似ている人程度に思ってもらっても構わない。
逆にその方が後先の事を考えるといいかもしれない。
隠しすぎるとボロが出る可能性が高いからな。
最悪、影武者をさせられていたとでも言っておけばいい、このご近所で誰かにチクるような人は居ない。
それに何だかんだといって、15番コロニーの住人は連邦にもジオンにもいい印象を持っていない連中ばかりだ。
しかし、特徴のある髪の色と髪型を変えるだけで、随分と印象が変わるもんだ。
本人は相変わらず、ツンツンした厳しい顔つきをするがな。
もっと柔らかい表情をすれば、バレる心配は減るはずだ。
だが、リゼの前ではそんなにツンツンしていないらしい。
今は、ハマーンのリハビリを兼ねて散歩に出かけている。
畑用の貯水池の畔にあるベンチで休憩中だ。
因みに1月だが、畑には農作物がちゃんと植わって育っている。
地球の北半球では冬にあたるが、そこまでコロニーでは再現していない。
季節の移ろいが分かる程度の多少低温設定にはしている。
特に農業が盛んなこのコロニーは、温度管理は重要だ。
この時期は低温帯で育つ野菜などを育てている。
出来るだけ自然に近い形で育て収穫する。
しかも無農薬で遺伝子の操作を行っていないこの15番コロニー産の野菜は、新サイド6では健康志向の強い客層からは名が知られていたりする。
「大分、いい感じだな。もうそろそろ退院しても問題無いだろう」
「………」
ハマーンは無表情に空を見上げていた。
見上げた先には人工の雲と霧、その隙間から対面の地面と宇宙が見えるだけ。
「そのまま、放り出すような真似はしないから安心しろ。以前のように動けるようになるまでには、まだまだ時間が掛かるしな。ただ自分の身の振り方は考えておいた方がいい。自分がどうしたいか、何をしたいかをだ」
「………お前はなぜ私を生かした」
「またそれか。お前に考える時間をやって、説教垂れてやろうと思っただけだって言ったろ」
「今の私には何もない……ただの抜け殻だ」
「そうかよ」
「私はジオン再興のために尽くし……いや、なぜ私は地球連邦を打倒しジオンの再興などと考えたのか……冷静に考えれば、あの戦力では不可能だろう。何せ人材が乏しかったのだ。グリプス戦役に大幅に戦力がダウンしたと言えども、連邦の地球での戦力は健在だった。あの戦いの後に連邦上層部が混乱している内に休戦協定を結ぶのがベストだったのだろう。グリプス戦役に横やりを入れ、介入したのは千載一遇だった。少なくともサイド3は独立させることはできた可能性は高い」
「なんだ?まだジオンの再興とかを考えているのか?」
「いいや……」
「そうか、そりゃよかった」
「何がだ」
「お前が、そんな事を考えていやがるなら……お前をあの病室に閉じ込めにゃならないって思っただけだ」
「私を連邦軍に突き出すのではないのか?」
ハマーンはフッと口元だけ笑う。
「俺は連邦軍も嫌いだ。それは最終手段だ」
俺は憮然と答える。ハマーンの奴が何となく俺を見透かしているようで、何となくむかついた。
「ただ……残してきたミネバ様と妹の事だけは気がかりではあるが……今の私にはどうすることも出来ない」
「ミネバって、ドズルの忘れ形見か……ん?お前妹居たのかよ」
「……あの子、セラーナだけは、ジオンに関わらせたくなかった。私と同じ道を歩ませたくはなかった。私の弱点でもあった。だから遠い場所に送った。もう6年も会っていない。さぞかし私を恨んでいるだろうな」
「お前……」
「私はこの世にいるだけで害悪しかならない存在だと認識している。今更ネオ・ジオンに戻る気もない上に、既に邪魔者であろう。そうかと言って連邦になどにこの命をくれてやるのも癪に障る。……だがお前の言う様に私は悪党だ。悪党の最後は悲惨な死と決まっている」
「死ぬつもりか?折角拾ってやった命を無駄遣いする気かよ。命の使い方は自分次第なんていうがな、その命、もっと有効活用しろよ」
「ふぅ、お前は酷な事を言う。悪党に死に場所も与えてくれない」
「当面は生きる事を考えたらどうだ?生きていれば妹にも会えるだろ?」
「私はこの身をすべてジオン再興に掲げて来た……他の生き方など想像もつかない」
ハマーンは相変わらずの仏頂面の無表情だったが、かすかに表情が動いていた。
「はぁ、とりあえずここで考えたらいい。今のお前は俺の妹ローザだからな。前のように体が動けるようにでもなれば、やりたい事も出てくるだろう」
「私がここに居るだけでお前にとってリスクだぞ。ネオ・ジオンにとっても、連邦にとっても私が生きていると知れれば、抹殺に来るだろう事は想像に易い」
「今更だな。ようは知られなきゃいいだけだ。お前は知らないだろうが一年戦争後に元ジオンの高官やら、連邦のお偉いさんまで、戦争に嫌気をさして、名前を変えてひっそりとこのコロニーに住んでたりするんだぞ。今じゃどう見ても、農家のおっさんだったり、食品工場の工場長だったりしてるけどな」
「お前にとって何の得がある……リゼの事もだ。あの子は……」
「リゼは俺のせめてもの贖罪のつもりだった。救えなかった妹達の代わりにな……リゼにとってはいい迷惑な話だが。お前は……なんだ?拾っちまったからな。しゃーなしだ」
「ふっ、おかしな奴だ」
口元だけで笑うのはやめろよな。
また見透かしてるような顔をしやがる。
「ああ、そうかよ」
まあ、しっかり考えて答えを見つけたらいい。