誤字脱字報告ありがとうございます。
前回の続きです。
トラヴィスのおっさんと話し合いをしたその日の晩。
俺はハマーンの部屋を訪ねる。
「ちょっと聞きたいことがあってな」
「なんだ?」
ハマーンは窓の横に椅子を置き、いつのように宇宙(そら)を見上げていた。
「できればあまり俺もこの話題には触れたくなかった……」
「ふん。ネオ・ジオンの事か?大方昼間の中年の男は元軍人か何かだろう、連邦かジオンか?……私の素性もバレでもしたか?」
「流石は察しがいいな。元連邦軍で一年戦争時の特殊部隊出身の中尉。名はトラヴィス・カークランド、凄腕のパイロットだ。……あんたの事も一目で見抜ていたよ」
「……その元連邦軍の兵士が私に聞きたいことが……いや、お前は何か取引でもしたのか?」
「それも察しがいい。流石元摂政殿だ。安心しろ、トラヴィスは信用できる人物だ」
「ふん……本題は何だ?」
「彼は生き別れた息子を探している。息子は一年戦争時にジオンの新兵だった。サイド3出身でな……それで現在ネオ・ジオンに居る可能性がある。名はヴィンセント・グライスナー。心当たりは……知っているのか?」
俺がその名を口にするとハマーンの表情が硬くなったの感じる。
「その男はよく知っている。パイロットの腕と共に作戦遂行能力に長けた男だ。だが何かに何時も葛藤しているような雰囲気の男だった。……絶対の忠誠を誓うでもないが、軍務には忠実であった」
やはり当たりだったか。
「そいつは、どうなった?」
「グレミー・トトの反乱の際にも私の側に着き、後方奇襲の備えを任せていた。私が知る限り、その場所では戦闘は行われていない。ならば私が倒れた時点で撤退支援を行ったはずだ」
「……生きている可能性が高いんだな」
「ああ、奴の隣には死神がついている。片時も離れずにな」
「なんだそれは?」
「クロエ・クローチェ……強化人間の一種だ」
「トラヴィスのおっさんから、その名も聞いたことがある。一緒に居る可能性が高いと言っていた。しかし強化人間とは……」
強化人間には俺はいいイメージを持っていない。
人間を人工的に強化し、飛行中のGに耐えられるようにしたり、反射神経を高めたりと、戦争のための人工強化兵として体をいじられた人たちの事だ。さらには人工的なニュータイプまで……
強化された人間は確かに兵士として強い肉体や感覚を手に入れる事が出来たがその副作用は大きい、寿命が短くなったり、一生薬と通院が必要な体になる。
リゼもその被害者の一人だ。
「一年戦争時の連邦の負の遺産というやつだ」
「くそっ、人を戦争の道具にしやがって……」
「……私も同類だがな。……奴は私の後の新しい指導者に従っている可能性が高い。奴も戦場を捨てられないらしい」
という事はトラヴィスのおっさんの息子は自分から戦争に参加しているという事だよな。
ハマーンとグレミー・トトやらが倒れた今、そこまで義理立てして、ネオ・ジオンに残る必要はなさそうだが。
根っからの軍人って奴なのか?
そんな奴をトラヴィスのおっさんはどう連れ戻すつもりだ?
「そいつの居場所はわかるか?」
「正確にはわからん……アステロイドベルトか、それともどこかのコロニーに潜伏しているか……何れにしろ後方艦隊に一度は接触しているはずだ」
「……すまん。助かった」
「あの男と取引するのに必要なのだろう?今の私には必要の無い情報だ」
そう言ってハマーンは再び窓の外の宇宙(そら)を見上げる。
「……すまん」
俺は翌日にトラヴィスのおっさんに連絡を取り、直接会ってこの話をする。
おっさんは、かなり喜んでいた。
そこから2週間後、おっさんはふらりと俺の所に現れて……
「ヴィンセントの居場所が分かった。お前の言った通りだ。追跡調査をしたらビンゴだ。クロエも一緒の様だ……。お前のお陰だ」
「知らねーな。礼ならローザに言ってやってくれ」
「さっき表で会った。礼を言ったが、「私は知らん」ってお前と同じ反応だったぞエド」
「……まあ、そう言うだろうな」
「似た者兄妹かよ。はぁ、しばらく気楽なジャンク屋家業も閉めにゃならん……もし、俺に何かあって息子が訪ねて来たら……俺の遺産を渡してくれ……エドの分もある」
おっさんはそう言って俺に電子キーを何枚か渡す。
「おっさん約束したよな。ローザの事で俺に協力するって、死んでもらっちゃ困るんだが」
折角得たローザの秘密を知る協力者がいなくなるのは困る。
しかも、荒事が得意なおっさんは頼りになるからな。
「はっ、お前らしいな。じゃあなエド」
「おっさん。死ぬなよ」
トラヴィスのおっさんは次の日には店を閉め、姿を消した。
おっさん生き延びて、早くドラ息子を連れ帰って来いよ。
俺も一緒にそのドラ息子に説教たれてやるからさ。
連続投稿です。