なんか、ハマーン拾っちまった。   作:ローファイト

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誤字脱字報告ありがとうございます。

今回は日常編です。


⑮カレー

宇宙世紀0090年2月中旬

 

「ほう、これをローザが作ったのか?」

午前の診療を終え、居住階の3階リビングに戻ると、ハマーンが昼食の用意をしていた。

テーブルにはコッペパンのサンドとホットミルク。

俺のサンドはハムとスライスオニオンにトマト、たっぷりのマスタードとバター。

ハマーン自身のはオレンジのマーマレードとそれとイチゴジャムにマーガリンをたっぷり塗ったサンドだった。

 

「ふん。この程度のもの造作もない」

さも当然だという感じだが…何言ってんだか。

ちょっと前まで野菜の切り方も知らねー包丁も扱えねー、玉ねぎ切って涙して、催涙ガストラップと勘違いしてた奴が。

 

ハマーンはお気に入りのクマさんマスコットキャラがプリントされた白地に薄茶のフリルが付いたエプロンを脱ぎ、テーブルを挟み昼食を始める。

俺はそのエプロンが買い物籠に入ってた時はリゼのもんだと思ってたよ。

そんなに気に入ったのか?そのクマさんマスコットキャラ。

……あのパンツの事は忘れよう。

 

「じゃあ、ありがたく頂くか……ちゃんと出来てる。うまいな」

おおっ?ハマーンが一人で全部料理したのは初めてだったが、ちゃんとうまく出来てる。

根気よく教えたリゼのお陰だろうな。

 

「当然だ」

何でそんなに自信満々なんだ?

まあ、いいけどよ。

 

「そう言えば朝、学校の出かけ際にリゼが今日遅くなるって言ってたな。なんでも部活の助っ人でラクロスの試合にでるそうだ」

リゼはかなり運動神経がいい。正直言って大人顔負けだ。

遺伝子の主がよかったのか、はたまた強化の結果なのかは分からない。

既にリゼは薬を殆ど必要としない体に戻っている。

成長期だったせいもあるかもしれない。

 

「……そうか」

その返事の仕方は何か分からない事柄が合った時の奴だな。

大方……

 

「ああ、ラクロスってのはサッカーとハンドボールとテニスを混ぜたような球技だ。高校や中学の部活では結構有名なスポーツだと思うぞ」

 

「ふん。学校などという場所に行った事が無い」

ハマーンはミルクを口にしてからそう答える。

 

「……まじか。勉強とかどうしてたんだ?」

 

「我が家は教育係を雇っていた。目の前の私のことなぞ見ず、権力に媚びへつらう虫唾が走る連中だった」

上流階級って学校行かないのが普通なのか?

帝王学とやらを学ぶために、余計な知識や雑音を入れないように、家庭教師オンリーで勉強していたという事なのだろうか?

しかし、家庭教師も大変だろうな。このツンケン娘を相手にするのも。

こいつ、昔っからこんな感じだったんだろうか?

 

「そうか。学校に行った事が無い……か」

学校に行かない弊害という奴か、一般常識がいろいろと欠如してるからな。

一般人の生活とか、現金の扱い方も知らないし。

確かに世の中はカード社会だが、田舎に行けば行くほど、現金ってのは重宝される。

高いもん買うのはカードだが、日常生活程度だったらこの辺は現金が主流だ。

しかも、この辺は農業や畜産が盛んだから、たまに物々交換までしてる。

まあ、こいつの場合根本的に買い物のやり方も知らなかったし。

多分、ジオンというか、身内だけの人間関係で生活が完結していたから、必要性を感じなかったのだろう。

 

んん?ちょっと待てよ。

アステロイドベルトにあった資源衛星アクシズにずっと住んでたんだよな。

そもそも学校とか有ったのだろうか?

いや、アステロイドベルトにコロニーとかの居住施設が有るのか?

逆に俺がそっちの方の常識を知らない。

 

「なんだその目は」

 

「いやなんだ。同じスペースノイドなんだが、俺とあんたの常識が全く違うなと思っただけだ」

 

「ふん当然だ。立場や育ちが違う」

 

「へーへー、どうせ俺は田舎出身の根っからの小市民だっ」

 

「まあいい、私の世界が確かに狭かった事は感じている。だからあの男に……」

 

「んっ?男?」

男って今言ったよな。

 

「……忘れろ」

 

「なんだ?良い奴でも居たのかよ」

 

「忘れろ!」

思いっきり俺を睨みつけてきやがった。

しかも、バターナイフを突きつけてくる。

バターナイフで人は刺せないぞ。

というか図星だったのか?

 

「もう聞かねーよ。っていうかお前がポロって漏らすから……」

 

「………」

ハマーンは尚も無言の圧力を高めてくる。

その男と何かあったのか?ただの恋人同士って感じじゃないよな。笑い話じゃすまない関係か?

この話題はやめておく方が無難そうだな。

 

「ふう、今日の夕飯はカレーにするか」

俺は一息吐いて、ワザとらしく話題を180度変える。

 

「甘口だろうな」

ハマーンはこの話題に乗って来た。

 

「甘口だ。家には甘口派が二人もいるからな。俺はちょっと辛い方が好きなんだが」

どうもこのハマーンお嬢様は辛いものが苦手らしい。

しかも甘いものが滅法好きだ。

要するにおこちゃま舌という事だ。

この前ジャパニーズ寿司バーに食いに行ったら、わさび入り寿司を食べたハマーンは顔を青くしていたな。表情を変えないように我慢していたのが見え見えだ。目に涙をためていたのは黙っておいてやろう。

 

「民主主義に則った結果だ」

何その勝ち誇った顔は、民主主義って3人しかいないだろ?

元独裁者だったのにその口が良く言う。

 

「じゃあ、民主主義に則って、手伝ってもらおうか」

カレーはこの頃のヘイガー家の定番料理だ。

カレーに必要なジャガイモ、玉ねぎと、このコロニーで採れる野菜がメインの料理だ。

しかも、野菜を切って煮込んで、市販のルーを数種類混ぜるだけの簡単な料理だ。

甘さを出すために、リンゴなどの果汁も混ぜたりと、多少味のバリエーションも変えられる。

 

「ふん、致し方がない」

その上から目線な言い方なんとかならんのか?

 

昼飯を摂った後、しばらくしてからカレーの仕込みを始める。

ハマーンが野菜の皮をピーラーで剥き、剥いた野菜を俺が適当な大きさにカットして鍋に放り込み煮込む。

 

何だかんだとハマーンは俺らの日常生活に随分と慣れてきていた。

最初は不器用なのではないかと思うぐらい料理や家事が出来なかったが、今はそれなりにこなせるようになっていた。

口では、嫌そうな言い回しをするが、嫌々やってるようには見えない。

むしろ楽しんでいるかのようだ。

なんというかだ。出来なかった事が出来るようになっていく喜び?みたいな感じだよな。

 

何にしろこのまま日常を過ごしていけば、ジオン再興という重荷を背負ってきた女傑から、ただの女になれる日が来るかも知れない。

 

俺はふと、横で野菜の皮むきに集中するエプロン姿の彼女を見る……

今後の事は今後に考えればいい。

今はこのままでいいんじゃないか。

 

 




あの男とはやはり赤い人の事です。
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