誤字脱字報告ありがとうございます。
今回はストーリーモードのシリアス編です。
中編も一緒に投稿します。
宇宙世紀0090年6月上旬
この時期、このコロニーでは計画的に雨をわざわざ降らしていた。
農業が盛んなコロニーとはいえ、別に雨を降らさなくても、直接農園のみに水を撒けばいいだけの話だ。
まあ、風情の問題だったり、地球と同じ環境づくりを再現するための一環だったりする。
流石に雷は再現してはいないが……
真夜中に、診療所のドアを叩く音がする。
なんだ?急患か?
おい、ここは中世じゃないんだぞ。インターフォン位押せよな。
目覚めが悪い俺は、インターフォンカメラ越しに入口の様子を見ると……そこにはトラヴィスのおっさんが映っていた。その後ろには人影が見える。
おっさん生きて帰って来たか……後ろの人物は息子か?
俺はホッと息を吐く。
「おっさんいつ戻って来た?真夜中になんだ?」
インターフォン越しにおっさんに問いかける。
「エド!すまん急患だ!緊急を要するんだ!見てやってくれ!」
おっさんは何時になく真剣な顔をし、慌てている様子だ。
「わかったすぐ行く」
俺は三階から一階の診療所入口に降りて行くと、二階でパジャマ姿のハマーンと出くわす。
ハマーンもドアの叩く音に気が付いたようだ。
警戒しているのか、その眼光は鋭かった。
「ローザ…大丈夫だ。トラヴィスのおっさんだ。人を連れてる。多分息子だろう。今出くわすのはまずい。部屋で大人しくしてくれ」
「……わかった」
ハマーンは頷き素直に従ってくれた。
トラヴィスのおっさんの息子のヴィンセントは元ハマーンの部下だ。
ひっ迫した状況で、無用ないざこざはさけたいところだ。
焦ってる様子を見るに本当に急患が居るのだろう。
俺は一人、診療所の扉を開けると……
「エド!この子を助けてくれ!!頼む!!」
「どういうことだ?」
トラヴィスは俺の両手を掴み、必死に懇願しだした。
俺はトラヴィスの後ろを見ると、俺と年齢が近い優男が若い女性を背負っていた。
暗がりで分かりにくいが、意識が無い様に見える。
「とりあえず……中に入れ」
奥の診察室に向かい入れ、トラヴィスのおっさんと優男に背負っていた金髪の若い女性を、診察台に乗せるように指示を出す。
「エド!頼む!この子を!」
「落ち着け、おっさん!」
「意識は無し、全身が発熱してる………外傷はなさそうだ。この子の情報と経緯を教えろ」
「……クロエ・クローチェ……昔受けた度重なる人体実験と……特殊な兵器のせいで、体と精神が弱って……俺がもっと前に止めておけば……」
優男は顔をゆがめ悔しそうにそう語った。
「あんたがトラヴィスのおっさんのドラ息子のヴィンセントか、という事はこの子は強化人間か?」
「なぜそれをあんたが!」
ヴィンセントは驚きの声を上げる。
俺はその間も、彼女の容態の確認を続けていた。
彼女はコートの下はインナーだけだった。
「おっさんに聞いてたんだよ。それよりもこの子が常用してる薬があるはずだ」
「エド、これだ……」
「薬切れではないという事か」
おっさんに何種類かの錠剤が入ったケースを渡された。
クロエは重篤な状況だ。とりあえず発熱を抑えない事には始まらないか……
俺は点滴などを行い、発熱を抑える処置を施す。
すると、もう一人、赤茶色の髪をした若い女が、診察室に入ってきた。
「あんたも、こいつらの知り合いか」
「そうよ」
「男連中は外に出ろ。俺は必要な処置を施す。あんたはこの子の下着を取って体を拭ってから患者衣に着替えさせてやってくれ。その前にあんたも消毒して、雨に濡れた髪をそこのタオルで拭いておけ」
「エド……」
「………」
「さっさと出ろよおっさんら……安心しろ。こっからは俺の領分(戦い)だ」
俺はこの赤茶髪の若い女と話しながらクロエの処置をする。
そして分かった事は、この子はアンネローゼ・ローゼンハイン26歳モビルスーツのパイロットらしい。
驚くことに半日前まで、こいつらはモビルスーツ戦を行っていたという事だ。
この診療台で寝ているクロエのモビルスーツは破壊され脱出ポットで難を逃れたところをおっさんが助けたらしいのだが……、その直後からこの状態らしい。
強化人間は戦いを強要するような特殊な装置をモビルスーツに載せていたりする。
モビルスーツに乗るだけで肉体だけでなく、かなりの精神負荷がかかる。
状況によっては精神の崩壊や記憶喪失、いろいろな問題が起こる。
度重なる人体実験の影響もあり肉体も限界なのかもしれない。
リゼの時にこの辺の資料は裏から手を回し手に入れ、すべて漁った。
アンネローゼが彼女を患者衣に着替えさせたところで、俺の方の処置は終わる。
クロエの荒かった呼吸も幾分かマシになって来た。
隣の集中治療室に置いてある上部がガラス張りの人がすっぽり入るメディカルマシーンにクロエを移す。
この装置の中では酸素吸入から栄養補給とあらゆる生命維持のための処置が常時行われる。
俺はメディカルマシーンの設定を行ってから、改めておっさんとヴィンセントを診察室に呼びつける。
「あの子の応急処置は終わった。とりあえずはだが、……おっさん全部話せ」
おっさんが語った事は……
ネオ・ジオンの残党同士の戦いに、ヴィンセントとクロエ、この赤茶髪のアンネローゼが敵同士で戦っていた所に、トラヴィスのおっさんが介入したそうだ。
ヴィンセントとクロエはハマーン派の新しい指導者の元で、アンネローゼはグレミー派の後継者の元でお互い戦っていたらしい。
トラヴィスのおっさん、もう50だろ?そんな戦闘にモビルスーツで単騎で第三者として乱入して、よく無事だよな。
やはり、このおっさん只者じゃない。実力で言えば、一年戦争の英雄たちにも劣らないはずだ。さらにこのおっさんは駆け引きもうまいし、相当頭が切れる。
こんな超有能なおっさんを手放す連邦軍という組織はアホとしか言いようがない。
もし、おっさんが艦隊を率いるポジションにでもつけて見ろ。デラーズの反乱やグリプス戦役も多少マシになっただろうに。
まあ、おっさんだけじゃねー、俺が知ってるだけで、有能な連中はほぼ、閑職に付けられるか、やめて行った。最悪暗殺なんてケースもあった。
そりゃ、反乱もおこるよな。
「でだ。クロエのモビルスーツには強化人間用に何の装置を載せていた?」
俺はここで本題に入る。
「HADES……」
ヴィンセントは苦しそうに答える。
HADES?聞いた事が無いな。最新の強化人間用の装置か?
「HADESはEXAMシステムの改良版だ……って言ってもわからないか。パイロットの肉体を限界まで……」
おっさんも苦悶の表情で語りだす。
「EXAMだと!?」
俺はEXAMシステムの事を知っていた。
というよりもEXAMシステムを搭載されたモビルスーツに載ったパイロットの成れの果てを知っている。そのEXAMの試験運用を行った現地基地で、ちょうど基地に居合わせた俺は、その死亡解剖に付き合わされた。あのマッドサイエンティストにな。
俺もあの狂気のシステムに怒りを覚える。
事情も知らされずに死体解剖に付き合ったが、そのパイロットの死に方が普通じゃない事に疑問を覚え、ちょいっと調べて、奴らのやっている事を知った。
マッドサイエンティストが行ってきた所業をな……胸糞悪いにも程がある。
このシステムは簡単に言うとモビルスーツに圧倒的な性能を付与させるが、敵味方見境なくなる。要するにモビルスーツを狂戦士にするシステムだ。
パイロットは肉体的にも精神的に凄まじい負荷が掛かる。常人が耐えられるような代物じゃない。
このシステムが載ったモビルスーツに搭乗したパイロットはシステムに耐えられず、
まず間違いなく死亡する。
例外的に相性がいいパイロットはそれを乗りこなしていたが、そんなものは偶然でしかない。たしか…ユウ・カジマ中尉だったか。
「なぜあんたがEXAMを……、父さんこの人はいったい?」
ヴィンセントは驚きの顔で俺を見やり、となりのトラヴィスに聞く。
「心配するな。エドは信頼できる」
「おいドラ息子。お前はこのクロエって子の相棒じゃなかったのか?お前も知っていたんだろ?EXAMはパイロットを蝕む事を!しかもこの子は人工的にEXAMに乗れるようにされた子じゃないのか?なぜ今まで乗せた!!なぜ止めなかった!!」
俺はついカッとなって、ヴィンセントの胸倉を掴んでいた。
「それは……」
ヴィンセントは項垂れるばかりだ。
「エド……それぐらいにしてやってくれ……いろいろあったんだよ。俺らじゃ分からない事情がな」
トラヴィスのおっさんが苦笑いをしながら俺を諭す。
「いや……この人の言う通りだ。俺は彼女を止めるべきだった」
ヴィンセントは苦しそうに声を漏らす。
「……すまなかった。部外者の俺が立ちいる話じゃなかったな」
俺は胸倉を放す。
「エド、クロエはどうなる?……寿命もその……だ」
トラヴィスのおっさんが言いたいことは分かっている。
強化人間は寿命が短い。しかも彼女はここまで疲弊するぐらいにEXAMを使用していた。
「おっさん。俺が何とかする。普通に生活できるぐらいには何とかしてやるよ。俺は医者だからな。だが二度とモビルスーツに乗せるな。わかったな」
何とかしてやるよ。幸いリゼの件で強化人間に関する資料は山のようにある。
なんらかの投薬や手術での改造なのか、遺伝子組み換えなのかは分からんが、何とかして見せる。
「エド……感謝する」
「………」
おっさんとヴィンセントは頭を下げる。
アンネローゼは複雑な顔をしていた。
連続投稿です。