なんか、ハマーン拾っちまった。   作:ローファイト

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では続きです。


⑳雨の日の来訪者 後編

「ん…朝か……っと。患者の容体はと……」

俺は集中治療室のメディカルマシーンの横に診察台を置いて、そこで仮眠を取っていた。

重篤な状態で運ばれたクロエはメディカルマシーンの中で生命維持治療を受けている状態だ。

仮眠中に、メディカルマシーンが患者の異常を示す警報を鳴らしていないからクロエは大丈夫だろう。

 

俺は気だるい体を起こし、メディカルマシーンの端末でクロエの状態をチェックする。

脈拍も心電も正常値だ。発熱して上がっていた体温は昨日に比べれば随分下がっていた。

ふぅ。一応生命の危機は脱したようだ。

 

時計の針は6時30分過ぎか……今日は俺が朝飯の当番だった。

体が重い。完全に睡眠不足だこりゃ。

 

……ん?

よく見るとヴィンセントが集中治療室の壁にもたれかかって寝ていた。

病室のベッドで寝てりゃいいものの、よっぽどクロエが心配なんだな。

まあ、昨日の話を聞けば、クロエはヴィンセントに好意をもっているようだし、ヴィンセントもまんざらでもない。態度を見れば間違いなく大切に思っているのだろう。

経緯が経緯だけにヴィンセントの方が前に踏み出せない感じだ。

この機会に自分の思いを伝えるこった。

死んじまった相手には何も伝える事なんて出来ない。

クロエは今も生きてるんだからな。それに俺が死なせねー。

 

俺はヴィンセントにシーツを掛けてやろうとすると、目を覚まして、パッと臨戦態勢を取りやがった。

「……なんだ先生か」

俺だと気が付いて、ホッと息を吐くヴィンセント。

流石は現役の軍人だな。

 

「エドでいいぜ。年も近いしな」

「せん…エド、クロエの容態は?」

「安定してる。昨日に比べりゃ随分とよくなった。大丈夫だ安心しろ」

「そうか……」

「彼女、大切なんだな」

「……俺は彼女がこんな状態になってようやくわかった。彼女が大切で掛け替えのない存在だと」

「じゃあ、大事にしてやんな」

「そうする」

ヴィンセントは言葉短く素直にそう言った。

 

若者はそうでなくっちゃな。

ん?何じじ臭い事を言ってんだ俺は。まだ年は30だぞ。そんでこいつは28歳で……

しかし、なんだかこいつが眩しく見える。30と20代はこんなに違うものなのか?

 

「シャワーでも浴びて来い。どうせ昨日からそのままなんだろ?着替えは俺のを貸してやる。その後はもうちょっと寝てろよ。おっさんもまだ寝てるはずだ」

こいつ等の話では一昨日モビルスーツ戦をやってからここまで来るのに一睡もしていないはずだ。もしかすると、2日間ぐらい寝ていないのかもしれん。

おっさんは多分爆睡中だろう。流石に年だろうしな。

 

「ああ、そうさせてもらう……いろいろとありがとうエド先生」

 

「おい、先生呼びに戻ってるぞ」

 

 

 

 

俺は三階の居住スペースに戻ると、ローザがキッチンに入り朝食の用意をしていた。

「おっ、ローザ、なんだ?今日は俺が朝食当番だぞ」

 

「そうか。そうだったかもしれん」

こんなとぼけた言い方だが、ローザは俺に気を使って、代わりに朝食を作ってくれているのだろう。

 

「……ありがとな」

 

「連中はどうした」

 

「ああ、トラヴィスのおっさんは知ってるな。その息子のヴィンセント……」

俺もキッチンに入り朝食の用意を手伝いながら、昨晩の事を簡単に説明する

 

一通り説明を聞いたハマーンは……

「ふん。凡その事情は理解した。だが、アンネローゼ・ローゼンハインという女は知らんな。確かに純粋なニュータイプの気配を感じたが」

ハマーンはどうやら本当にアンネローゼの事は知らない様だ。なぜだ?

それにニュータイプの気配とかさらっと言ってやがるが、やっぱりニュータイプ同士はテレパスとまで行かないが、まじでお互いの存在を感じる事ができるようだ。

アンネローゼの方はプレッシャーとか言っていたが。

 

「ニュータイプの気配か…まあ、それは置いといてだ。彼女はジオンの残党でグレミーに付いたって事は、元は同じ釜の飯を食った仲じゃないのか?」

 

「いや、ジオンの残党は地球や宇宙各所に存在する。一枚岩ではない。グレミーが反乱を起こした際に、どこぞのジオンの残党一派がグレミーに付き従い合流したのだろう」

 

「なにか?ジオン残党同士でもお互いけん制し合ってるって事か?」

 

「ああ、ネオ・ジオンと名乗ってはいたが、元はアクシズ。勢力としては大きくはあったが、宇宙におけるジオン残党の一勢力に過ぎん。ミネバ様の名を冠している事からわかるだろうが、ドズル中将一派だ。特にキシリア派とはそりが合わないのは今も昔も同じだ」

なんだそりゃ?ドズルとキシリアって兄妹だよな。ザビ家同士で争っていたのかよ。

ただでさえ国力の弱いジオンが、内部でいがみ合ってりゃ、ざまーねーわな。

散り散りになったジオン残党は律儀にそれを守っていたってことか?アホらしいにも程がある。

 

「まあいいか。とりあえずだ。クロエはまだ意識が戻らんし、しばらくは安静状態だからいいとして、ヴィンセントには直ぐにバレるだろうし。アンネローゼはヴィンセント達とは一応和解したようだが、いわば敵同士なのだろう?どうしたものか」

 

「ふん。私は既に死んだ人間だ。もはやネオ・ジオンの人間ではない。それに今の私はローザだ。そうなのだろう?」

 

「まあ、ちげーねーけどよ。あいつ等に騒がれるのもな……トラヴィスのおっさんにちょっと言い含めておくか」

 

「私に任せろ。自分の後始末は自分で行う。これも過去の清算だ」

 

「いいのか?」

 

「自分の事は自分でしろと言ったのはどこの誰だ?」

 

「俺だけどよー……流石にこれはな」

 

「いいから任せろ」

自信満々に胸をはるハマーン。

いや、なんか逆に不安なんだが……

 

「わかった。……それとだ。今の二階の部屋から三階に引っ越してくれないか?」

その件はとりあえずハマーンに任せるとして、俺はこんな事を彼女に頼む。

 

「どういうことだ?」

 

「しばらく入院患者が二人増えそうだし、流石にそこに曲がりなりにも家族を置いておくわけにはいかねーだろ?本来あそこは病室だしな。あの部屋を気に入ってるんなら仕方が無いが」

今迄何となくそのままの流れで来たが、2階は本来診療所の病室だ。殆ど使ってなかったがな。

仮にも俺の妹を名乗ってる分だし、この機会に三階の居住スペースに移った方が良いだろうと提案した。

 

「か…かぞ…ぞく……うむ。仕方がないな。気に入っていたのだが致し方ない。窓から宇宙(そら)が見えるのだろうな?」

ん?相変わらず仏頂面だが、ちょっと動揺してるような……何か変な事を俺は言ったか?

 

「どこからでも見えるだろ?まあ、三階に余ってる部屋が二つあるし。好きなのを使えばいい」

 

「ふむ。悪くはない」

で、なんでそこで偉そうなんだ?っと言っても仕方がない。今更だ。

 

「そうか、後で手伝ってやる」

部屋の入れ替えをちょっとは手伝ってやるか。

荷物も衣服程度だから、直ぐに終わるだろう。

 

しばらくして、リゼも起きてきて、朝飯を3人で摂る。

リゼにはトラヴィスのおっさんの知り合いが怪我と病気で今日から二人入院すること、一人は重篤ということ、今2階でおっさんと息子とその知り合いの一人が2階の病室で寝てる事を告げる。

 

リゼは7時半過ぎには学校へと出かけた。

 

俺もクロエの様子を見、クロエの血液と副作用を抑えるために常用していた錠剤をそれぞれの検査機にセットする。

それに、今日は普通に診療日だ。

9時からの午前の診察のために準備をしなきゃならない。

昨晩あんなことがあったとしても、通常どおり開院する。

待ってる患者も居るからな。

まあ、準備と言っても、通院患者の予約のチェックと清掃や昨晩洗浄殺菌しておいた器具のチェックなど、それほど大層な物じゃない。

それに今はローザも手伝ってくれる。

 

それにトラヴィスのおっさんらは午前中は寝てるだろうし……、起きてきても2階で待ってもらう。

診察も13時には午前の部は終わる。

話はその後だ。

ローザ…ハマーンの件もな。

 

それにしてもあいつ、自信満々だったが、どう説明するつもりだ?

 




次回は遂にハマーン様、過去との遭遇ですね。
ハマーン様に秘策あり?

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