誤字脱字報告ありがとうございます。
続きです。
連続投稿になります。
午前の診療が終わり、クロエの様子を再びチェックする。
メディカルマシーンの経過情報を見る限りは安定している。
この分だと、しばらくすると目を覚ますかもな。
「エドいいか?」
すると、診察室の方からノックの音と共にトラヴィスのおっさんが声をかけて来た。
「ああ、いいぞ」
トラヴィスのおっさんと息子のヴィンセント、アンネローゼがそろって診療室の方からこの集中治療室に入って来た。
「ちょっとは寝れたか?」
その3人に挨拶がてら聞く。
「ははっ、二日ぶりだったから爆睡だっての」
「おかげで」
「少しは……」
おっさんは予想通り爆睡してすっきりした顔になってるな、ヴィンセントも少しは寝れたようだ。アンネローゼはあまり寝られなかったような感じだ。やはり精神的な問題があるのか?それともプレッシャーとやらの影響か?
「エド先生、クロエの様子は?」
ヴィンセントは早速、メディカルマシーンの中で眠るクロエの様子を見ながら、容態を聞いてきた。
「安定してる。この分だと、今日にも目が覚めるかもしれないな」
「エド、本当に助かった。この恩は必ず返す」
「エド先生……」
トラヴィスとヴィンセントは再度俺に頭を下げる。
「いや、これからだ。まだ治療も始まっていないし、治療方法もまだ分からないからな。手探りで進めていくしかない。正直、治療に何時までかかるか見当も付かない。当分入院生活は余儀なくされる事は間違いない」
「……そうか」
「そうですか」
「何とかしてやるから、そんな顔するなって」
俺はおっさんと項垂れるヴィンセントに励ますつもりでそう声を掛けた。
そんな親子二人の横で、やはり複雑そうな顔をするアンネローゼに声を掛ける。
「それとだ。アンネローゼさんもしばらく入院だ」
「え?わたし?私もですか?」
アンネローゼは意外そうな顔を俺に向ける。
「ああ、あんたは戦いで疲れ切ってる。体も精神もな。しばらく療養が必要だ。歴戦の戦士でも、戦争が終わった途端、精神のバランスを崩して、コテンとあの世行きってこともある。あんたはちょっとその気配がある。しばらくここで入院だ」
戦争が終わった後、生き残った兵士も、精神の異常を起こしたり、体調不良が続き職に就けない人間を何人も見て来た。自殺したり、原因不明の死を遂げたりした奴もいた。
戦争という非日常から日常生活に戻れない人間はかなり多い。
戦いをやり合ってる最中は問題がなくとも、知らず知らずに心に傷を負っているものだ。
それを消化できるか出来ないかは、戦時の経験やそいつの精神力や性格にもよるが、アンネローゼは憎しみを原動力でいままで戦って来た。しかも16歳という多感な少女時代後半からな。憎しみは怒りや悲しみという負の感情の集合体だ。きっと、そんな感情に振り回され毎日を過ごしてきたのだろう。精神の消耗は相当なものだと。
立場は違えどもハマーンもそうだ。僅か16歳ぐらいの小娘がアクシズの摂政として実質トップに立ち、ジオン再興という重荷を背負わされて今まで戦って来た。
そのジオン再興のためと、数々の悪行を成してきたのだ。
心に闇が落ちないわけが無い。
「え?ええ?」
アンネローゼは困惑してるようだ。まあ、自覚は全くないようだしな。
「安心しろ。治療費やらなんやらはぜーーーんぶ、トラヴィスのおっさんが払ってくれる」
俺はワザとこんな言い方をして説得する。
精神的に病んでいるにもかかわらず自覚が無い手合いには正論(病状)をクドクドと説くよりも、全く別のアプローチから攻めた方が説得しやすい。
入院させりゃ、こっちのものだ。
まあ、やってる事は詐欺師まがいだが、これも本人のためだ。
「エドは手厳しいな。まあ、そう言うことだ。金の心配はいらない。アンネローゼ。この先生は若いが信用できる。ここに来るまでに話した通り、俺が知る医者の中で腕はピカ一だ。口は悪いけどな」
トラヴィスのおっさんは俺の話に乗ってきてくれた。
「口が悪りーのはお互い様だおっさん。というわけでアンネローゼさんよろしく」
俺はアンネローゼの手を強引に取り握手をする。
「え?…その…よろしくお願いします」
とりあえず、説得に成功だな。
精神的な病は自覚症状がないケースが結構ある。
クドクド病状を説明しても納得しないだろう。自分は違うと……
まあ、少々強引だが大丈夫だろう。
さてと、次のステップなんだが……これが一番の問題だ。
いわゆるハマーン問題。
元部下のヴィンセントに、同じジオン系だが敵対勢力だったアンネローゼ。
ハマーンが生きてここに居ると知ったらこの二人はどういう態度をとるか……、俺も予想がつかない。
だが、これは避けては通れない。
次こそが二人との邂逅です。
連続投稿です。