なんか、ハマーン拾っちまった。   作:ローファイト

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感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回はストーリー編です。


㉔若者達の一歩

宇宙世紀0090年8月上旬

クロエとアンネローゼが入院して2か月が経った。

 

クロエは集中治療室に入ってから2日後に目を覚ます。

記憶の混濁は多少あったが、1年戦争後のヴィンセントと過ごした10年間の記憶は残っていた。

2週間後には一般病室、2階の個室病室に移す事ができたが、今も入院を余儀なくなされている。

クロエが退院できるには、まだ時間が掛かりそうだ。

 

クロエの遺伝子情報や使用していた薬剤を調べ、さらにトラヴィスのおっさんがその昔連邦軍基地からガメてきた資料も参照した。

クロエはオーガスタ研究所で強化処置を施された、初期の強化人間だった。

色々の実験的試みも施され、いろんな薬剤を投与されていた事が、トラヴィスのおっさんが持っていた資料からもわかる。

そこで、オーガスタ研究所をちょちょいと伝手で調べてみれば、出るわ出るわ悪徳の限りを尽くした数々の所業がよ。胸糞悪すぎだろ。

オーガスタ研究所は連邦軍の北米基地オーガスタ基地内部に併設された最古参のニュータイプ研究所だった。

ニュータイプの研究すると同時に、ニュータイプ用のモビルスーツなんてものも独自に開発したり、設計協力もしていたらしい。

更にだ。そのとんでもモビルスーツに適応できる兵士を人工的に作る実験もしていたのだ。

戦災孤児を使った人体実験。

どうやら金で孤児を引き取って、薬物や精神、遺伝子改造など何でもありだ。

オーガスタ研究所はグリプス戦役後、ティターンズに協力していたとあって解体されたが、その実は、今も軍事兵器会社アナハイムエレクトロニクスに接収され、地球支部の研究所として存続している。

見かけ上は研究施設はなくなったが、軍事兵器会社に引き取らせ、やらせてる事は今も変わらないだろう。まじ、くそったれだ。

地球連邦軍はオーガスタを始めとするこの辺の研究所も同じことをやっていたようだ。

 

そして、クロエも一年戦争戦災孤児で、初期の人体実験の被検者だった。

モルモットのように数々の薬物投与を受けてきた戦災孤児の中で生き残ったのがクロエだった。

 

マジでろくでもねー。

ちょっと殴り込みに行きたい気分だ。

 

まあ、そんなろくでもねー資料を基に、クロエの体を修復させるための処置方法を俺は独自に構想を練っていた。

リゼの時に構築した治療のガイドラインが役に立つ、それを元に凡そのプランを練る。

しかし、クロエは25歳、立派な成人女性だ。

リゼはまだ体が未発達とあって、修復スピードが速かったり、遺伝子治療が上手く行きやすかったりしたが、クロエはそううまくはいかないだろう。

 

根気よくやって行くしかねーな。

幸い、資金については、トラヴィスのおっさんが湯水のように渡してくれる。

あのおっさん。一年戦争時に上司が隠していた莫大な金塊やらをパクッていたらしい。

勿論、その上司はそれ以外にも黒黒とした罪状がたんまりあるもんだから、連邦軍内部の別派閥勢力に密告して戦争のどさくさに紛れて殺(やっ)ちゃったみたいだが。

 

あのおっさん。こういう渡り上手というか、場の空気を読む能力というかそう言うのが異様に長けてるんだよな。

未だに、今も連邦の上層部に君臨するお偉いさん方の失脚するぐらいの弱みも握ってるし。

それにZⅡを裏側から入手できるぐらいだ。まじで何でもありだ。

 

 

ちなみにアンネローゼは退院させた。

もっと、時間がかかるのかと思ったが思いのほか良好だった。

もう自暴自棄になったりすることは無いだろう。

だが……

 

「ローザ姉さま、お手伝いすることはありますか?」

 

「ええい邪魔だ。必要ない」

 

何故かローザに付きまとっているのだ。

しかも、アンネローゼの方が3歳年上なのに、ローザを姉呼ばわりして、妹分気取りだ。

さらに、何故か個室病室にそのまま居座っている。

一応、部屋代は払ってくれてるのだがな。

 

今は、この診療所から通って、近所の花屋でバイトをしている。

アンネローゼもかなりの美人でスタイル抜群だから、客も増え売り上げも上がったとか。

花屋の奥さんも喜んでいたがな。

アンネローゼの実家は元々サイド3の裕福な家庭の出身だったらしいが、今はその家は無いらしい。詳しい事は聞いてないが、トラヴィスのおっさんの話だと、サイド3内の政治抗争で失脚して、その後一族は全員亡くなったようだ。

そんな事もあって、一年戦争の部隊が家族のような存在に思っていたようだ。

その部隊も全滅……それで精神に影を落とすことに。

 

「エド先生も何かお手伝いする事ありますか?」

アンネローゼは次に笑顔で俺にも聞いてくる。

 

「アンネローゼ、今日はバイトが休みなんだろ?ゆっくり休め。バイトをやり始めて間もないだろ?休むことも重要だ」

「アンネローゼ、エドにかまうな」

 

まあ、元気になったのは良かったが、これはこれで大変そうだな。

誰かに依存したいという心は人は誰しも持っている。

アンネローゼは少女時代に家族を亡くし、さらに戦場で家族同然の部隊の仲間も亡くした。

その心に闇を落としたまま、今まで戦争の中で生きて来たのだ。

しかも、今は天涯孤独の身だ。トラヴィスのおっさんが後見人になると言っていたがな。

今はこんな感じで依存の対象がローザになっている。

精神的に随分安定してるから、まあいいけどな。

いずれ良い男でも出来ればこれも解決するだろう。

 

何でローザなのかは、多分、入院中の世話はローザが主にやってたし、同じニュータイプだからか?それにローザは基本、年上体質というか女王様気質だから、依存先としてはもってこいだったのかもしれん。

 

 

ヴィンセントは、診療所近くのアパートを借り、クロエの様子を毎日見に来ている。

それと、この街のパン屋とイタリアレストランを掛け持ちでバイトをしている。何でも、将来レストランを開きたいらしい。

母親……要するにトラヴィスのおっさんの良い関係になった人だが、サイド3で食堂をやっていたらしい。笑顔が絶えない地元でも人気店だったとか。

だが、その母親は一年戦争後、しばらくして病気でなくなったとのことだ。

ヴィンセントはその母親の食堂のような温かなレストランにしたいそうだ。

勿論、大切な人(クロエ)と一緒にな。

まじ、切り替えが早いな。

元兵士でこれだけ切り替えが早い人間は多くは無い。

この図太い神経は流石トラヴィスのおっさんの息子といった所か。

因みに、ヴィンセントは同名の戸籍を裏ルートで入手、流石に苗字は異なるがな、それは仕方が無いだろう。

 

トラヴィスのおっさんは16番コロニーでジャンク屋を再開。

週に2、3回この診療所に現れ、アンネローゼやクロエ、ヴィンセントの様子を見にきていた。

そのうち、おっさんもこの15番コロニーに移住しそうだな。

 

この10年間、一年戦争を引きずって来た若者3人は、ようやく平和への道へと進み始めた。

まあ、とりあえず一件落着という事でいいだろう。

 

 

 

 

しかし……、戦争の火種は絶えない事も知った。

ジオンの残党をまとめる新たな指導者か……。

ローザ、いやハマーンは誰かの顔を浮かべ、死んだハズだとそれを否定していた……。

ハマーンが思い浮かべていた人物じゃないようだが、あの話ぶりからすると、なかなかの人物が率いていそうだ。

 

連邦のやり方には俺も腹を据えかねる事がいくつもあるが……、戦争は皆を不幸にする。

今を生きる人間にとって無用な長物だと……。

ローザとなった今のハマーンだったら、それを理解しているだろう。

 

人が人である以上争いや諍いはどうしても起きる。

だが、戦争以外の解決方法はない物だろうか?

 


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