なんか、ハマーン拾っちまった。   作:ローファイト

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では、続きを。


㉙過去を知る女

 

宇宙世紀0091年6月中旬、夕方頃

ローザは3階のキッチンで夕飯の準備をしていた。

エドは医師会の会合と古い友人に会うために1番コロニーに出かけている。

今日は帰らないとローザやリゼ、アンネローゼにも伝えていた。

リゼはまだ学校から帰っていない。

アンネローゼも花屋のバイトだ。

それと、クロエとヴィンセント、夜にはトラヴィスも来ることになっているが、彼らが来るのはもう少し後だろう。

 

そんな時だ。

インターフォンのチャイムが鳴る。

クロエかヴィンセントが来るにしては早いとローザは思いつつインターフォンに出る。

しかし、インターフォンの映像に映っていたのはクロエとヴィンセントではなかった。

ローザが知らない人物だった

 

「今日は診療所は休みだ。急患か?」

 

「こんにちは。診療所に用があるわけじゃないわ。エドに会いに来たの」

片田舎には似つかわしくない胸元が開いた深紅のドレスを着た美女がインターフォンカメラ越しにそう答える。

 

「生憎エドは外出中だ」

 

「そう、なら待たせてくれる?」

 

「ふむ。エドからは客が来ることは聞いていない。それに私は貴方を知らない。出直してくれ」

ローザはエドからは、ローザが知らない人物が来た場合は、仮にエドの知り合いだと名乗っても家に入れるなと言われていた。

 

「ふーん。真面目ねあなた。エドの妹になったローザさん」

 

「なぜ私の名を知っている」

ローザの口調が鋭くなる。

 

「だってエドに聞いていたもの」

インターフォンカメラ越しの美女は妖艶な笑みを湛える。

 

「……名は?」

 

「ドリス・ブラントよ。エドに連絡して聞いてくれたらいいわ。なんならトラヴィスにもね」

 

「………わかった」

ローザはその場でエドに電話をした。

エドにローザが知らない女性の来訪者がエド宛に尋ねて来たのと、その女性のインターフォンカメラの画像と共にドリス・ブラントと名乗っていた事を伝える。

ドリスの名を聞いたエドは知らない人物だと言っていたが、珍しく慌てふためき、動揺していた事に訝しむ。

ローザはドリス・ブラントがエドは知り合いではあるが、エドにとって不都合な人物であると判断をする。

 

そこで、次にトラヴィスに連絡をする。

『ドリスが来てるって?ローザさん本当かい?』

 

「やはり知り合いか。インターフォンの画像を送る確認してくれ」

 

『ドリスだ。何でエドの所に?……ローザさん、エドには連絡したのかい?』

トラヴィスはその画像を見てドリス・ブラント本人だと確認する。

トラヴィスもエドが今日泊りで出かけている事を知っていたため、ローザにエドと連絡をしたのかと聞く。

 

「ああ、知らない人物だとしらばくれていたが、明らかに動揺していた。ドリスとはどういう関係の女なのだ?」

 

『まあ、俺の連邦軍時代の仲間だ。あーー、エドともその時に…うーん。まあ、知り合いというかだな、まあ、そのだ。深くは……うーん。お互い知った仲というかだな』

トラヴィスは奥歯に物が挟まったような物言いをする。

ドリス・ブラント現在35歳。

24歳当時トラヴィスが隊長を務めていた元連邦軍特殊部隊スレイブ・レイスの隊員で、オペレーターを行っていた。

ハッキングから文書偽造まで何でもできる情報操作のプロフェッショナル。

スレイブ・レイスに数々のモビルスーツを偽造文書などで送り届ける事が出来る腕前。

しかも、モビルスーツの操縦も出来、潜入捜査などもお手の物。対人格闘も得意としている。

しかも容姿は妖艶な美女である。

もはや一介の兵士のそれではない。

トラヴィス曰く、どこぞの超一流スパイに匹敵する能力を持っているとの事。

 

「どういう意味だ?知り合いなのは確かなようだが、エドに対して害意はあるのか?」

トラヴィスの言い様に疑問を持つローザ。

 

『害意は無い。今もエドとドリスは連絡を取り合っている仲なのは確かだ。俺も最近通信で話したが、来るような事は言っていなかった。そうだな、エドにとってはちょっとアレだが、ドリスにエドを害する意思は無い。それは俺も保証する」

 

「今も付き合いがあると。ふむ。ならば家に上げても問題ないか……」

 

『大丈夫だ。ただちょっとな…俺も直ぐにそっちに向かう』

 

ローザはトラヴィスの物言いが気になる。

間違いなくエドとトラヴィスの知り合いで、人物としては問題ないらしいが、どうもエドにとって少々不都合な事があるようだ。

 

ローザは思考を巡らせどうした物かと考えていたのだが……

 

インターフォン越しにドリスの声がする。

「ね、知り合いだったでしょ?エドとは11年前からの仲なんだから、昔のエドの事も知ってるわよ。ねぇローザさん。エドの昔の話って気にならない?どうせエドは貴方たちに何も話してないのでしょ?」

ドリスはインターフォン越しのローザを見透かしたような目と口調でこんな事を言って来た。

 

「…………いいだろう」

ローザは間をあけてそう答える。

エドの知り合いであることは確認できた。トラヴィスから家に上げても大丈夫な人物であることも確認済みだ。

エドの過去と聞いて、ローザは興味を示してしまっていた。

ローザやリゼはエドの過去については本人からある程度は聞いていた。

元サイド4出身で、両親と妹二人を一年戦争で故郷のコロニーごと亡くしたこと。

連邦軍大学医学部出身で、一年戦争時は戦場に派遣され、そこでトラヴィスと出会った事。

デラーズの反乱の際は軍医をやっていて軍艦に乗っていた事など、概略程度では聞いていた。

ドリスが言うエドの過去とは一年戦争時の事だろうと……エドにとって知られたくないなんらかの記憶……ドリスは過去のエドの何らかの事情を知っている人物だとローザは判断した。

 

 

ローザはドリスを3階のリビングに案内する。

 

「改めて、ドリス・ブラントよ。よろしく」

 

「ローザ・ヘイガーだ」

 

「ふーん。随分と綺麗にしてるわね。5年前に来た時には男の一人暮らしって感じだったけど」

リビングのソファーに腰を掛けるドリス。

 

キッチンでドリスにコーヒーの用意をするローザは無表情だったが、その言葉に一瞬動作が止まる。

 

「掃除は分担制だ」

ローザはホットコーヒーをドリスに差し出し、自らは自家製ミルクシェーキをテーブルに置きドリスの対面に座る。

 

「ありがと。ちゃんと妹やってるんだ。それにあの鉄の女ハマーン・カーンにコーヒーを入れて貰えるなんて光栄だわ」

 

「………私の名はローザだが?」

ローザは目を細めドリスを見据える。

 

「やっぱり。私の事を知らないという事はエドは何も言ってなかったのね。……私はエドに頼まれて、裏工作をしていたのよ。ハマーン・カーンが生きている可能性がある痕跡を消すためのね」

 

「どういうことだ」

 

「私、こう見えても凄腕ハッカーなんだから、まあ、若かりし頃一回失敗しちゃって、連邦に掴まって、無理矢理兵士やらされたけど。そのおかげでエドやトラヴィスに出会えたから良かったのかもしれないわね」

 

「………」

 

「エドは貴方がハマーン・カーンだと分かった段階で、私に相談したのよ。貴方をかくまう為にはどうすべきかとね。隊長(トラヴィス)には随分後になって知らせたようだけど、まあ、これは親愛の差かしら?」

 

「なぜ、それを知って協力した?」

 

「エドの頼みですもの断れないわ。あの子が初めて私に頭を下げて頼んだのよ。リゼちゃんの時も情報収集を頼まれたけど。貴方の時とは危険度が段違いですものね」

 

「そうか……」

 

「最初は、貴方のためというよりも、リゼちゃんをネオ・ジオンや連邦から守るためにそうしたのだけど、貴方が目覚めてからは、貴方が普通に生活できるようにとも相談されたわ。その時には連邦もジオン残党関係もあなたの死亡を確定させていたから、ちょちょっと情報を操作するだけで楽だったけど」

 

「……なぜ、私にその事を話した」

 

「エドに会いにも来たのだけど、貴方とこうやって二人で話したかったのよ。だからこのタイミングで来たの」

ドリスはワザとローザが1人になるこの日のこの時間帯を狙ってここに来たのだった。

 

「どういうことだ?」

 

「貴方がエドを害する人物かを見極めるためにね。でもこの分だったら大丈夫ね。今の貴方は間違いなくローザ・ヘイガーですもの。……それとエドが貴方とリゼちゃんを守るために、色々として来た事を知ってもらおうとね。エドは絶対言わないけど、特に貴方は知っておくべきよ。エドに拾われたのがどれだけ幸運だったことを」

 

「……言われなくとも分かっている。こう見えても元摂政官だ。今まで疑われる事なく過ごしてこれたのは奇跡だと言わざるを得ない。エドが何かをしていた事は分かっていた。もちろんトラヴィスもな」

 

「そう、なら私から何も言う事は無いわ」

 

この後お互い飲み物に手を付け、沈黙が訪れる。

ドリスは澄ました顔で、ローザは何やら考えに更けていた。

 

暫くして、ローザからドリスに声をかける。

「貴方はエドの何なのだ?エドからは信頼されているようだ」

 

「エドのお姉ちゃん?うーん元カノ?うーんこれも違う気がするわね。まあ、そう言う仲かな?エドは年上の私の事も妹扱いするけどね」

 

「……」

 

「ふふふふふっ、気になる?」

 

「義理とは言え兄の交友関係は妹として知っておくべきだからな」

 

「堅いわね。会ったばかりのエドに似てるわ」

 

この後、ドリスはエドと出会った時の事をローザに語る。

 


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