誤字脱字報告ありがとうございます。
続きですね。
エドの過去を知る女、ドリス・ブラントがエドの家に訪れる。
ドリスはローザをハマーン・カーンだと知っていた。
エドはドリスにハマーン・カーンについての情報収集や情報操作を頼んでいたのだ。
始めはリゼを守るために、そして自分の妹となったハマーン……ローザが普通の生活が出来るようにと。
エドがドリスに信頼をよせていた証だ。
ドリスはエドの妹ローザとなったハマーンと二人きりで会うために、ハマーンが1人で家にいるタイミングを狙ってエドの家に訪れたのだ。
それはハマーンがエドに害する人物であるかを見極めるために、そしてもう一つの目的は……
ドリスはハマーンに語る。
しばらくして、リゼとアンネローゼが帰宅し、クロエにヴィンセント……最後にトラヴィスが現れる。
「ドリス、なんで連絡もよこさないんだ?」
「隊長(トラヴィス)、久しぶりね。ちょっと老けた?」
「ドリスは……あんまり変わんねーな。何?生き血でも吸ってるのか?」
「ふふふふふっ、若い子のね」
そう言って、ドリスはヴィンセントを妖艶な笑みで見やる。
ヴィンセントは身震いし、クロエは眉を顰めヴィンセントの腕を抱きよせる。
「あんま、俺の息子と未来の嫁さんをビビらせないでくれ。しゃれにならない」
「あの隊長がすっかりお父さんやってるなんて」
丁度、ローザとアンネローゼが夕飯の支度を終え、ダイニングテーブルに広げる。
自然と何時もの席に、ドリスは不在のエドの席に座り、食事が始まる。
「ドリスのお姉ちゃん、お兄ちゃんって昔はどんなだった?」
「お姉ちゃんか、リゼちゃんはいい子ね。そうね。特別に教えちゃう」
「おいおい、ドリス。本人がいないのに、いいのかよ」
「いいじゃない。減る物じゃないし」
リゼがドリスにエドの事を聞こうとし、話始めるドリスをトラヴィスが止めようとしたが、ドリスはウインクを返し、お構いなしに話始める。
ローザは澄ました顔で食事をしていたが、他の皆はドリスの話に興味深々だった。
「最初にお姉さんがエドと会ったのは一年戦争中で、エドは20歳だったかな。さっき話した通りトラヴィス隊長の下でオペレーターをやってた頃よ。あの時のエドは可愛かったわ。性格はあのまんまだけど、もうちょっと尖ってたかしら?」
ドリスはエドと出会った頃の事を皆に語りだす。
トラヴィスはドリスの話を聞きながら、昔のエドの事を思い起こしていた。
当時の俺はエドとの1年ぶりの再会だった。最初に会ったときの印象とは随分変わっていた。
俺がエドと最初にあったのはドリスがエドと会う1年ちょっと前、まだ1年戦争が始まる前、宇宙では戦争の機運が高まりつつあったが、地球では宇宙とは裏腹に緩い空気が流れていた。
俺は当時北米のとある基地の基地航空隊の隊長を務めていた。
そんな中、基地を挙げてコロニー内での戦闘を想定した統合訓練を大々的に行った。
これは独立運動を行うジオンに対しての威圧も兼ねていた。
そんな時だ、エドはその訓練に医療サポートスタッフとして連邦軍大学医学部から出向していた。この時エドはたしか19歳だったな。
俺は息子と同じ年頃の真面目そうな青年に何となく声をかけた。
エドが軍大学には珍しくコロニー出身者と知って、余計に親近感がわく。
俺は事あるごとにこの息子と同年代のエドと話をするようになった。
この時、エドは夢に向かって突き進む好青年という感じで、真面目で、人をあまり疑うような事も無い素直過ぎて危なっかしい印象も受けたな。
エドが医者を目指したのは、幼馴染の彼女の難病を治すためだという。
コロニー出身者が地球の、しかも軍大学に入るのは相当難しい。
成績優秀であることもさることながら、それ以外の要素も必要だ。
特にコロニー出身者に対して、軍大学は排他的な組織だ。
一応、平等をアピールするために、各サイドから数人の受け入れをしているが、内部で色々な圧力を受けやめて行く奴も多い。
医学だけを学ぶのであれば、コロニーにも多数医療系大学がある。そこで学んだ方が良いはずだ。精神的にもまだましなはずだ。
その事をエドに聞くと「軍大学は給料も出るし、何よりも最先端の医療を学ぶことが出来る」と、エドはサイド4でも比較的貧しいコロニー出身だったそうだ。
両親は共働きで、妹二人の面倒を見ながら勉学に励んだと……。
エドは周りの圧力に負けずに真剣に勉学に打ち込み、大学在籍2年で既に4回生だ。
かなりの苦労をして来たのだろう。
こんなに真面目に勉学に励む奴が今の軍大学にどれほどいるだろうか?
3カ月間の統合訓練を終え、エドと別れる。
そして……
宇宙世紀0079年1月3日
サイド3ジオン公国が地球連邦に宣戦布告。
ジオンの電撃先制攻撃により……サイド4は壊滅。
エドは故郷や家族、友人、医学を目指す原動力となっていた幼馴染の彼女……すべて失った。
俺はその頃、サイド3に残した彼女とその息子の行方を捜すために、奔走したが、それがバレ、スパイ容疑がかけられ、連邦軍の高官であるグレイヴの言いなりとなる。
秘匿懲罰部隊スレイブ・レイスの隊長に任命され……そして、味方であるはずの連邦軍内で汚職や不法行為を行う者たちの暗殺・捕縛、そしてグレイヴにとって邪魔者たちを排除してきた。
0079年7月18日
連邦にもモビルスーツが配備され始めた頃、俺はとある最前線に近い軍の補給キャンプに部隊を駐留させていた時にエドに再会した。
再会したエドは、あの生真面目そうな印象は無く、荒れている印象を持った。
何やら若造の連邦軍兵士と言い合いをし殴り合い。いや、片方は一方的に殴られていたか。
よく見ると、殴られている方がエドだった。あいつはまだ軍に残っていたのだ。
俺はこの瞬間、エドがここに居る理由を勝手に決めつけていた。
エドから全てを奪ったジオンへの復讐のため軍に入ったと……
しかし……
「うるせー!てめぇは、後回しだっていってんだ。そんな傷程度自分で治しやがれ!!こっちの怪我人が重症なんだよ!!
「そいつジオン兵じゃねーか!!そんな奴より、俺の怪我を見やがれ!!」
「ジオン?知らねーな!医者の前じゃ関係ねーんだよ!!」
「なんだてめぇ、連邦軍の軍医じゃないのかよ!!」
「俺は医者だ。てめぇら兵隊が人を殺すのが仕事かもしれねーが、俺は死人を作らねーのが仕事だ!!俺の仕事を邪魔するんじゃねー!!」
「なんだ小僧!!」
エドは数人に囲まれ殴られ、暴行を受けていた。
俺は一瞬頭の中が空になる。……あいつ、こんな時でも医者をやってるのか……。
口と目つきは大分変ったが、中身は変わってない。……こんな狂った戦争のなかでな。
俺は出遅れたが、暴行を行う奴らをやんわりと止め……
「よおエド、久しぶりだな」
「痛てててっ、あいつら本気で殴りやがって……ん?おっさん生きてたのか……そうか。後でな、重症人がいるんだ」
エドは俺を見て、一瞬目を丸くしていたが、口元が緩んでいた。
そして、医療テントに足早に消えて行った。
この時たしかエドは20歳だったか。
エドは一年戦争が始まった頃から臨時の軍医をやっていた。
しかも最前線を転々としてるらしい。
この後も何度も、軍キャンプでエドと会うことになる。
あいつは最前線で今のように、連邦兵ジオン兵関係なく治療を行っていた。
確かに南極条約の約定では負傷兵の扱いは、ジオン兵も関係なく治療を行う事にはなっている。だが、それがまともに実行されてる所なんてほとんど無い。
だが、エドはそれをやっている。
条約云々の話じゃない。あれはエドの信念だ。
ジオンを憎まないはずがない。エドは自分の身以外すべてをジオンに奪われたのにだ。
だがあいつは、連邦軍の中であってもジオン兵と連邦兵を分け隔てなく治療を施す。
医者としての信念というよりもエド自身の信念だろう。
ドリスはリゼやアンネローゼ、クロエ達に面白おかしく、エドの当時の話をしていた。
「……で、エドったら、ケンカが弱いくせに、ケンカを吹っかけるような事を言うから、だからしょっちゅうケンカしてボロボロにされていたわよ。そのたびにこのドリスお姉さんが助けてあげたってわけよ」
「お兄ちゃん、ケンカ弱いの?」
「体は鍛えてるんだけど、センスが壊滅的ね。ちょっと教えてあげようとしたんだけど全然ダメね。タコ踊りみたいになるんだから」
「そうなんだ。で、お姉ちゃんはお兄ちゃんの昔の彼女なの?」
リゼはこんな事をドリスに聞いた。
ローザはその言葉に進めていたフォークを一瞬止める。
アンネローゼは興味深々と言った感じだ。
「そう聞こえる?そうね。そうかも知れないわね」
ドリスはこんな返事をする。
当時のドリスとエドの関係は、今でいう恋人のような甘い関係では無いことを本人も自覚している。
「エドに後で怒られるぞ……」
トラヴィスはため息を吐きながら、エドの過去を話すドリスに忠告する。
「大丈夫よ。私とエドの仲なんだから」
ドリスもこの場では深い話はしていない。
ローザには先程、既に自分の思いを託し、ここに来た目的をほぼ達していた。
次は多分、ドリスとローザと二人っきりの時のお話が中心ですかね。