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宇宙世紀0092年6月中旬
俺は柄にもなくシックなカジュアルスーツを着ている。
そして、横には純白のウエディングドレスを纏ったクロエ、普段化粧をしていないがこの時ばかりは、化粧を施し口紅をしていた。
俺はほんのり顔を赤らめるクロエの腕を取り、小さな教会のバージンロードをエスコートする。
今日は結婚式だ。
俺とクロエのじゃねーぞ。
ヴィンセントとクロエのだ。
ヴィンセントとクロエがこの15番コロニーに来て丁度2年が経つ。
クロエは強化人間特有の後遺症に悩まされていたが、遺伝子治療が上手く行き、安定している。子供を作っても支障がないぐらいにな。
ヴィンセントも早くも念願のレストランを持つところまで漕ぎつけていた。
こうして、晴れて二人は結婚式を上げる事が出来たって事だ。
そんで俺は今日一日、クロエの父親代わりをして、こうしてクロエの腕を引いてる。
クロエには身内が居ない。
クロエの親しい年上の男と言えば、俺かトラヴィスのおっさんぐらいだ。
勿論トラヴィスのおっさんは今回は無しだ。ヴィンセントの親父だからな。
だから、俺がクロエの父親代わりとしてエスコートをする。
まさか、俺が父親の立場に立ってエスコートすることになるとはな。
参列者は極身内だけだ。
クロエ側には、シックなドレスにベージュのショールを羽織ったローザ、その横にはライトイエローのワンピース姿のリゼ。
ヴィンセント側には、ガチガチに緊張してるスーツ姿のトラヴィスのおっさん。その横にダークブルーのパンツスーツ姿のアンネローゼだ。
俺はクロエを祭壇の神父とヴィンセントの下へ連れて行き、席に戻る。
讃美歌が始まり、指輪交換、そして……誓いのキス。
何故かグッとくるものがある。
あのクロエがこうして立派に結婚式を上げられるとはな……。
ふと、横の着飾ったローザとリゼを見る。
リゼは何時ものように笑顔で、ローザの表情は珍しく穏やかだ。
この二人も何れ結婚する。その時は俺はこうしてまた、エスコートするのだろう。
俺は涙を見せずに、最後まで笑顔で2人を送る事ができるのだろうか?
俺はつい昔の事を思い出してしまった。
死んだ親父やお袋も、本当はこうして妹達を送り出したかったに違いないと。
死んだ妹達には純白のウエディングドレスを着せてやりたかったな。
手の平で思わず目を覆っていた。俺も年をとったという事か……もう枯れてしまったと思っていた涙が目頭に溜まりやがる。
ローザはそんな俺の様子に気が付いたのか、すっとハンカチをよこしてくれた。
この後、昼食を兼ねたプチ結婚パーティーをヴィンセントが働いていたレストランで開く。
その後は、案の定俺んちでいつもの感じでくつろぎタイムだ。
「クロエお姉ちゃん!凄く綺麗だったよ」
「ありがとうリゼ」
「いいな~、私も誰かいい人見つけないと」
「これが……結婚か」
「エド~!俺の息子が結婚だぜ!!すげーぞ!死んだあいつにも見せてやりたかった!」
「おっさん。飲み過ぎだっつーの」
「はははっ、死んだ母さんには何れ3人で報告に行こう父さん」
「ヴィンセント、とりあえずおめでとさん」
「ありがとうエド先生。これもエド先生のお陰だ」
「それはこの酔っ払いに言ってやれ」
「もちろん。父さんにも感謝してる」
リビングでは女連中が騒ぎ、ダイニングテーブルでは男連中だけで騒いでいた。
こうして夜更けまで騒ぎ、新婚夫婦は自宅アパートに帰り、おっさんはリビングのソファーで酔っぱらってそのまま寝やがった。
ダイニングテーブルでは俺とアンネローゼが余韻に浸り話していた。
「おっさんよっぽど嬉しかったんだろうな。こんなに酔っぱらったおっさんを見たのは久々だ」
「クロエとヴィンセントも幸せそうだったなー。いいなー、私も早く良い相手見つけて結婚したいな~」
「アンネローゼは人当たりも良いし、美人だから、男の方から寄ってくるだろう?」
「エド先生、何サラッと恥ずかしい事言ってるのよ。そんなの無い無い。ヴィンセント隊長を見てたらね……いい男はいないのよね」
「なんだ?ヴィンセントの事が好きだったのか?」
「そうね昔は憧れ半分、ちょっといいなとは思ってたわよ。でもクロエとベタベタしてるの見るとね」
「千年の夢も冷めたってか?」
「そうじゃないけど。……エド先生。一層私と結婚しちゃう?」
「なに言ってんだバーカ。冗談でもやめておけ、こんなろくでなし」
「そうかな。結構いい男だよエド先生。口が超悪いけど」
「褒めても何も出ねーぞ」
「もう!」
「アンネローゼ、風呂が空いたぞ」
一緒に風呂に入っていたローザとリゼがリビングに戻って来る。
「はーい、エド先生、一緒に入る?」
「バーカ、さっさと行け」
「つまんないの」
「お前酔っぱらってんのか?」
「べーっだ」
「はぁ」
アンネローゼは、悪戯っぽい顔を向けて、リビングから出て行った。
「お兄ちゃんズルいんだ。私とは入らないのに、ローゼお姉ちゃんとはお風呂入るんだ!」
「うんなわけないだろリゼ。もう高校生だろ?もうちょっと察しろよな」
「お兄ちゃんの意地悪」
リゼは今年に入り高校生となったのだが、どうも子供っぽさがまだ抜けない。
体は順調に大人に成長して行ってるのにな。
「まあ、アレだ。今日の結婚式はよかった。リゼも将来結婚する時はああいうドレスがいいか?」
「うん!クロエお姉ちゃん凄く素敵だった」
「だな」
「あ!夜スタやってる時間だ」
リゼは話をそこそこに、今売り出し中のアイドルグループがやってる深夜番組を見に行った。
「で、ローザはどうだったか?」
自家製ミルクシェーキをコップに入れ、俺の対面に座るローザに質問した
「結婚式か……私には結婚に良いイメージがない。だが、今日の結婚式は良かったと思う」
「結婚にマイナスのイメージとかどんなんだ?」
「姉は18歳で政略結婚に行かされた。だが、相手は既に正妻を娶り、姉は愛人扱いだった……本人は幸せだと言っていたが……とてもそうには見えなかった」
まじか、こいつの人生暗雲だらけじゃね?
「政略結婚って、なんだそりゃ?いつの時代だ?旧世紀の中世でもあるまいし」
「……サイド3……ジオンはある意味縦割り社会だ。貴族社会とかわらん。結婚の自由などない。私もその時はそうなる運命だとな漠然と思ったものだ。とても許容できるものでは無かったがな」
まじでか、ジオン公国恐るべしだな。
「そ、そうなのか……。まあ、アレだ。ここではそんな事は無いぞ。好き合った同士が自由に結婚できる。お前も好きな相手でも見つけて、今日のクロエとヴィンセントのような結婚式を上げればいい」
「私が結婚か。想像できんな」
「お前、昔は好きな奴いたんじゃないのか?」
そういえば、大分前にそんな口ぶりをしていたような。
「ふん、あれは私の勘違いだった。憧れが恋愛感情と同様だと思っていたのだ。見事に裏切られたのだがな」
ローザは自嘲気味にこんな事を言う。
まじでお前、どんな人生を送って来たんだ?
お前、まだ25だろ?ここに来る前の21歳まで、どんな人生を歩んだんだ?
まあ、あの年でネオ・ジオンの摂政なんてやってたぐらいの女だ。
普通じゃない普通じゃないとは思っていたが、ここまでとはな。
「……過去の事はいいだろ?今のお前はローザで、この新サイド6、15番コロニーの住人だ」
「ふっ、確かにそうだったな。私は死ぬべき人間だったが、どこかの誰かのせいでこうして生きる羽目に……責任でもとってもらおうか?」
ローザは俺に不敵な笑みを浮かべる。
「はぁ、お前と相性が良さそうな奴探すのは難しいぞ。変な連中は無数に寄って来るが」
「ふん」
ローザの奴、なんか急に機嫌が悪くなったぞ。
まあ、いつもの事だ。
とりあえずは、おめでとさん。クロエにヴィンセント。
遂に逆シャアに……