なんか、ハマーン拾っちまった。   作:ローファイト

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感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

タイトル通りです。
元々、2話分だったのですが、区切る事が出来ず。
1話にまとめました。


㊵新生ネオ・ジオン。そして兄と妹

宇宙世紀0093年2月27日

ローザが俺の元に来て、4年が経ったこの日、事件が起こった。

 

診療所の昼休憩中に昼食がてらテレビ番組を見ていたのだが……

「………シャア」

ローザはテレビ番組のインタビューを受けるある男を見て、持っていたフォークを床に落とす。

その目の色には動揺の色が濃い。

 

この男はテレビ番組中に地球連邦に対して、事実上の宣戦布告を行ったのだ。

普通であれば、冗談か何かと、笑い飛ばせばいいだろう。

だが、この男が言えばシャレにならん。

こいつは一年戦争のジオン側のエースパイロット、シャア・アズナブル。

グリプス戦役では、クワトロ・バジーナを名乗り、エゥーゴの実質のナンバー2だった男だ。

その実は、宇宙移民の独立運動の祖と呼ばれるジオン・ダイクンの遺児、キャスバル・ダイクンだ。

今、新生ネオ・ジオン総帥を名乗り、連邦軍いや、全世界に対し強烈なメッセージを送ったのだ。

冗談じゃすまされない。

……クワトロ・バジーナはグリプス戦役での死亡説が有力だったのだが、生きてやがったか。

 

「この男が、どの面下げてネオ・ジオンを率いるってんだ。冗談にも程がある」

これが俺の率直な感想だ。

しかもだ。地球連邦に宣戦布告だぞ。この男、まだ戦争がしたりないのかよ。

ふざけんじゃねーぞ。

戦争やりたきゃ、一人でやっておけ!

俺はテレビの向こうのシャアを睨んでいた。

 

「………」

ローザはそれ以降、一言もしゃべらなかった。

午後の診察時も心どこかあらずという感じだ。

 

ハマーンとシャアの間に何かあったのは間違いないだろう。

あいつのこんな動揺っぷりは今迄見た事が無かった。

それ程ショックがデカかったのだろう。

 

暫くはそっとしておいた方が良いか。

 

 

その日の夜、トラヴィスのおっさんとヴィンセントとクロエが家に来る。

だが、ローザは自室から出てきていない。

「やはりシャアだったか。……去年の年末にサイド1のスイート・ウォーターをジオンの残党が占拠したって情報は手に入れていたが……」

どうやら、トラヴィスのおっさんはある程度の情報を持っていたようだ。

まあ、俺達には不安がらせないように話してなかったのだろう。

 

「あの統率力は凄まじいものがある。ロー……ハマーンが亡くなった後、ネオ・ジオンの残党をあっという間にまとめていた。末端には自らの存在すら隠してだ」

ヴィンセントはハマーンが戦死したとされた後の事を語る。

 

「でも、私から言わせてもらえば、今更なのよ。エゥーゴについて、ネオ・ジオンと戦ったんでしょ?でも、カリスマ性は凄いわ。私はあの時、別のジオン残党に身を寄せていたのだけど、残党の長は、シャアがジオンを名乗ったのなら、合流していたって言ってたわよ」

アンネローゼは、シャアに否定的な意見だが、シャアの存在はジオン残党にとって大きな意義があるようだ。

 

「なあ、トラヴィスのおっさん。奴は本気で戦争を起こす気なのか?」

 

「……わからん。だが、アナハイムとグラナダの動きがおかしい。明らかに連邦が発注するモビルスーツ以上の過剰な資材供給を行ってる。モビルスーツやら兵器やらを作らせてるのは間違いない。それでも、物量差は明らかだ」

流石はおっさんだ。そんな情報も手に入れてるとは……。

やっぱ、おっさんは連邦軍の中枢にいるべきだったよ。

そうすれば、シャアに好き勝手にこんな事をさせる事は無かっただろう。

 

「威嚇か?弱腰な連邦軍を見越して、戦力をチラつかせ、サイド3を取り戻しに来たか?」

 

「流石はエド、元軍医で士官候補生上がりだな。普通に考えればそれが妥当だろう。だが……俺の勘では嫌な予感がする……いや、その線は……」

おっさんは勘とか言ってるが、緻密に情報を精査していつも答えを導きだしてる。

不安要素が大きすぎるのだろう。

 

「エド先生。ローザ姉さんは?」

 

「少々ふさぎ込んでるな、ありゃ。……ヴィンセント。シャアは一年戦争後はアクシズに居たのか?」

 

「アクシズに居た。権力闘争の渦中に居たが、しばらくして出て行った。その後に……年端も行かないハマーンが実質の指導者に。噂によれば、それすらもシャアが仕組んだとも」

 

「くそったれだな。シャアって奴は」

年端もいかねー少女(ハマーン)を頭に置いておいて、自分はおさらばってか?

くそっ、あいつの顔面殴ってやりてー。

 

「ふっ、エドの言葉はもっともだが、宇宙移民の中ではザビ家のシンパ。ジオン・ダイクンのシンパは今も多い。そして、シャア自身を崇拝してる奴もな」

 

「けっ、カリスマって奴か」

 

 

 

 

そんな話し合いをした三日後。

 

宇宙世紀0093年3月3日

シャア率いる新生ネオ・ジオンは資源惑星5thルナを占拠し、地球に落とした。

現地球連邦軍本部があるラサに向けてな。

高官どもは逃げ切れたらしいが、避難が間に合わなかった何も罪もない住民の命が消えた。

 

「くそったれ!!人の命を何だと思ってやがる!!くそが!!おっさんの予想的中かよ!!」

そのニュースを見て思わず俺はテーブルに拳を振り下ろしていた。

シャアって奴は人の命を何だと思ってやがる!!

権力者って奴は、人の命を単純な数でしか現さない!確かに戦略的にはそう捉えるのが正解だ!だがよ!お前が狙うべき相手は、連邦軍の上層部の軍人だろ!!一般人じゃねーだろ!!まさか、地球ごと滅ぼすつもりじゃないだろうな!!

おっさんはこの可能性を予想していたのだ。飽くまでも可能性の話だとは言っていたが。

 

 

「………」

ローザは黙って、テレビを注視していた。

この三日、口数は随分減っていたが、ようやく落ち着きは取り戻していた。

しかし、今は苦悶の表情で歪んでいた。

 

 

 

その晩の深夜、俺は自室のベッドの上で横になっていた。

また、戦争が起きる。それを考えると寝つけなかった。

俺の部屋にノックの音が鳴り響く。

ローザが訪ねて来たのだ。

 

「ん?お前も眠れないのか?」

 

「そうだな。……話がある」

 

「ああ良いぜ、俺も丁度眠れなかったからな」

俺は自室の作業机の椅子に座り、ローザにはベッドに腰掛けさせた。

 

「……やらなくてはならない事が出来た」

ローザは躊躇気味に言葉を発した。

 

「………」

俺は嫌な予感がしてならない。

シャアがネオ・ジオンの後釜に就き、連邦に宣戦布告した。

ローザは明らかに困惑していた。

俺はてっきり、何らかの感情を爆発させるのだろうと思っていたのだがな。

 

「明日、家を出る……」

やはりか……。

 

「どこに行くつもりだ?……俺が行かせないと言ったら?」

勝手に家を出ようと思えば出られるハズだが、俺にわざわざ話すのはなぜだ?

ネオ・ジオンに戻るとはとても思えない。

だが、シャアの存在は明らかに、こいつを困惑させてる。

 

「私は……シャアを止めなければならない」

 

「なぜだ。なぜお前がそれを?お前はネオジオンと手を切ったんだろ?後は政治屋と軍人の役目だ」

 

「シャアを…あの男を止められるのは私だけだ」

 

「お前、ネオ・ジオンではなくて、シャアか。話せよ」

 

「シャアは……あの男は地球から人間を排除するつもりだ。その手段は恐らく、隕石落とし。第2、第3の準備をしているだろう」

 

「馬鹿な!そんな事をすれば、人間が住めないどころじゃないぞ。生き物が死に絶え、自然は消滅してしまう。それこそ、元の環境に戻すには何百何千年もかかる」

 

「私は……あの男に13の頃に出会い、憧れていた。優しく接しられたことに舞い上がり、勝手に恋人の真似事までしてみせていた。だが、あの男にとって私は唯の駒に過ぎなかった。

ここに来て、それを痛烈に理解した。あの男は自分以外のものは道具にしか見えていない。人に勝手に理想を押し付け、そして、勝手に絶望する。そんな男だ。

大方、地球人類に絶望したのだろう。自分の思うようにいかなかったという理由でだ。

そして、ここに来るまでの私もあの男と同じだったことを……、あの男がネオ・ジオンを率い、堂々と地球連邦に宣戦布告したのを見て、吐き気がした。これが同族嫌悪というものなのだろう」

 

「………」

なんてこった。こいつが好きだった男とは、あの赤い彗星のシャアだったのか。

しかも、利用されていたのか。

という事はだ。こいつにアクシズを押し付け、立ち去った男というのも、ヴィンセントの話した通り、シャアだろう。

くそったれだな!

 

「だから、今の私はあの男の愚かな思考が読める。あの男は勝手に絶望し、地球上に残る人類を必ず抹殺する。その手立てを既に整えているだろう。行動力はずば抜けた男だ」

 

「……お前がそれを止めると」

 

「私の元を離れたあの男とグリプス戦役で再び出会った。当時の私は愛憎の感情が支配し、あの男を討ったはずだった。何とも後味が悪い感覚があったのだけは覚えている。今となってはあれでよかったと思っていた。あの男は、人として壊れていたが、ずば抜けた能力を持っていた。あの男が生きている限り、地球人類はあの男一人のために翻弄され続けるだろう。……だが、生きていた」

 

「そんな男を、お前は止められるのか!?どうやってだ!?」

シャアは化け物だ。

一説によると、一年戦争時に父親であるジオン・ダイクンを暗殺したとされるザビ家に復讐するために、名を変えシャアとして、ジオン軍を内部から切り崩したという俗説もある。

しかも、パイロットの腕も凄まじいと来た。ニュータイプだろうとも言われている。

さらに、エゥーゴのあの演説だ。そして今回のインタビューに応じるあの堂々とした態度はどうだ。カリスマ性の塊のような男だった。

そんな男が、ジオン残党を集め、地球上にいる人類を抹殺しようとしてる。

お前一人でどうやって止められる!?

 

「今の私であれば、止められる。あの男の考えが読める」

 

「嘘だな。……お前、刺し違えるつもりだろ」

 

「死にに行くつもりは無い。だが、あの男を何としても止めなければならない。地球は人々が住めない星になる。地球にはセラーナがいる。我が命を懸け奴を止めに行く十分な理由になる」

 

「今のお前に何ができる!……焦るのもわかる。悔しいかもしれん。だが今のお前はハマーン・カーンじゃねー!俺の妹のローザだ!」

 

「私はここでの日々を過ごしながらも考えていた。どうすれば私の罪は償えるのか………私は大罪人だ。世界に罪滅ぼしをしなければならない。お前もそう言ったはずだ。私が行って来た数々の罪を償うには今しかない。そして、今あの男を止めなければ………お前も、リゼも……苦しむことになる」

 

「なぜ、お前がやらなくっちゃならない!」

 

「私はかつて、ネオ・ジオン摂政をしていたハマーン・カーンだからだ。最後のけじめを付けさせてくれ」

 

「……行かせるかよ。お前は十分苦しんだじゃねーか!」

 

「……私はこの4年間、平和というものを知った。人々の幸せというものも知った。私の人生の中で、これ程穏やかに過ごしてきた日々は無い。………私には過ぎたるものだった」

 

「まだだ。まだ教えてねーことも、やってねーこともあるだろ!」

 

「エドワード・ヘイガー……貴方は確かに私の兄だった。最初は裏があると、……私を利用するものだと思っていた。また辱めを受けるとも……。だが違った。貴方は私を家族として、一人の人間として扱ってくれた。そして、守ってくれた。安心感をくれた。生きる希望をくれた。私という一人の人間に戻してくれた。十分すぎる物を貴方からもらった。今の私にはその大きすぎる恩を返すすべは持っていない。だが今度は私に返させてくれ」

ローザは穏やかに、時よりみせそうな苦悶の表情を隠そうとしながら、ゆっくりとした口調で俺にこう言った。

 

「恩とか言うな。俺がお前を勝手に妹にしただけだ。妹にしたからにはお前を守る義務がある。それが兄というものだ。俺は一度守れなかった。それをお前らに押し付けたに過ぎん」

 

「そうだとしても、私は幸せというもの感じた」

 

「………お前はどうしても行くのか?」

 

「行かせてくれ。兄さん」

 

「……お前、そこでそれはズルいぞ」

俺は右目から涙を滴らせていた。

初めてか、俺に面と向かって兄と呼んでくれたのは……

もはや、俺にローザの決意を止めれるだけの物を持ってなかった。

後は兄として、こいつを送り出すしかない。

 

「ふっ、私はズルい女だ。ハマーン・カーンなのだからな」

 

「言ってろ……一つ約束してくれ、あの男を、シャアを止める事が出来たら……いや、失敗してもいい。生きてここに戻ってこい」

 

「……約束はしよう。だが妹は兄との約束は忘れてしまうものだ」

 

「屁理屈を……ここは嘘でもはいって言っておけ。だがな、お前が居なくなる事で悲しむ奴が居る事を忘れるなよ。リゼだって、アンネローゼだってそうだ。だから戻ってこい」

 

「わかった」

 

俺はこの2時間後、ローザを宇宙港に送り出す。

前々から、セラーナに会わすためにローザを地球に降ろす方法を考えていたのが功を奏した。

サイドからサイドへの移動は可能だが、地球への降り方がまだだったが……。行先は月らしい。

貨物船舶を使う方法だが、流石にサイド1への直接移動は厳しい検問があるだろうからな。

 

 

別れ際、ローザから強く抱きしめられ、俺はそっと手を添える。

そして遠ざかるローザは、強い意志を目に宿したハマーン・カーンの顔になっていた。

 

 

これで良かったのだろうか?

無理矢理引き留める事も出来たかもしれん。

俺一人では無理だろうが、ヴィンセントやトラヴィスのおっさんに頼んで、軟禁することはできた。

だが、あいつの思いはどうなる。

罪を償いたいという思い。シャアと決着をつけたいという思い。平和を望む心。セラーナを守りたいという思い。俺やリゼ、此処の連中を守りたいという思い。

俺にどれも捨てさせることが出来るものではない。

 

俺はどうすればよかったのか?

 

 

 




次から次へと急展開予定。

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