誤字脱字報告ありがとうございます。
では、また急展開なんで。
とんでもねーおっさんだ、トラヴィスのおっさんは。
ジャンク屋の倉庫に現役で動くモビルスーツをタンマリため込んでやがった。
ニュータイプ用モビルアーマーまで有りやがる。
しかも、ヴィンセントとアンネローゼ、ドリスまで居やがった。
こいつら、シャアの艦隊にちょっかい出しに行くつもりだ。
シャアが気に食わないとかいろいろ言っていたが、ローザのために……
いやいやいや、おかしいだろ?
どうしたらそんな思考になるんだ?
普通、あのカリスマにケンカ売るか?
「ちょっと待てよ、おっさん!いくら何でもめちゃくちゃだぞ!こんなん連邦にバレたらおっさん達が犯罪者扱いで討伐されるぞ!」
「まあ、その辺は大丈夫だって、連邦にはちょっとの間目を瞑って貰える手はずだ」
……このおっさんならあり得る。おっさんは連邦にも元ジオンにもパイプがある。
おっさんになら、貸し借り無しで協力する奴がわんさかいる。
「いや、そう言う事じゃなくてだな。ローザのためにか?いくら何でも」
「いや、ローザの嬢ちゃんのためってよりも、俺はエドの為なんだがな。お前……一人で行くつもりだっただろう。大方、軍医の徴用か、医師派遣団に入って」
「わ、悪いかよ。俺の妹の事だ。兄の俺が何とかするのが筋だ」
おっさんにはバレバレかよ。
「まあ、それもあるが……、いい加減俺も静かに暮らしたいんでね。もうそろそろ孫の顔も拝めそうだし。俺、もう54よ?……俺もシャアの奴には怒りを感じるが、お偉いさんの中にも同じ考えの奴がいるってこった。……レイスとしての役目もこれで終わりだ」
「おっさん……」
そう言う事かよおっさん。スレイブ・レイスとは一年戦争時、連邦内部の粛清を行うための裏の部隊だった。
そのレイスの役目ということは……今もレイスとして、何らかの活動をしていたのかもしれない。おっさん程の男がこんな片田舎に引きこもってること自体がおかしいとは思っていた。
確かに行方不明のヴィンセントを探すのが第一の目的だったであろう事は間違いない。
だが、それと同時に連邦上層部の誰かから密命を受け、モビルスーツを使った荒事を請け負っていたのかもしれない。いや、おっさんの事だ。対等な取引だろう。自分の目的のために、同調する取引の相手を見つけていたか、または目的のついでに土産ができるような物を材料にし、相手と取引していたのかもしれん。
だが、おっさんとの取引の相手は、直接連邦軍じゃないかもな。おっさんは連邦軍の中でも異端だったからな。連邦政府の政治屋かそれに連なる財団か…、何れにしろバックに大きな何かがおっさんについてる可能性が高い。
そうじゃなきゃ、このモビルスーツが整備出来る倉庫を改造した格納庫なんてものが、コロニー公社にバレないはずが無い。
「エド、まあ、そういうこった」
首をすくめるおっさん。
俺の考えを察して、そう言ったのだろう。
「食えねーな。おっさんはよ。今も昔も」
俺は苦笑するしかない。
「で、エドは大方俺にリゼちゃんを任せるってここに来たんだろ?……エド、お前は残るべきだ。お前は荒事に向いていない。ローザを探しに行ったところで、逆に彼女の足を引っ張るだけになる。彼女の事は俺に任せろ。いいな」
おっさんは、また俺に真剣な眼差しでこう力強く言う。
「……だが」
「エド……お前に何かあったら、リゼちゃんはどうする?ローザの嬢ちゃんだって、帰って来てお前がいなくなっていたら、それこそどうだ?……大人しくまってろよ。たまには年上の友人の忠告を聞くもんだぞ」
「……おっさん、わかった。でもいいのか?ヴィンセントとアンネローゼ巻き込んで」
確かにそうだ。俺がローザを探しまくる事で、逆にローザを窮地に立たせる可能性もある。
それに、俺がもし、ローザの敵に捕まれば……。ここは、おっさんの言う通りだ。
「いやー、こいつ等がどうしてもって、聞かなくてな」
「エド先生、クロエを頼む。それに俺は早々、クロエを未亡人にするつもりもないし、生まれてくる子供の顔を拝むまでは死にはしないさ」
ヴィンセントはそう言って俺の肩を軽く叩く。
クロエは妊娠5か月だ。発覚してから3カ月が経つ。おっさんとヴィンセントの喜びようはおかしかったがな。
「クロエの事は任せてくれ……すまんヴィンセント……ローザを頼む」
「エド先生の家って、住みやすいし良いのよね。だから皆で帰って来るからご飯でも作ってまっててよ」
アンネローゼも俺の前まで歩いてきて、こんなことを言ってくる。
「アンネローゼ、お前はとっとといい男見つけて、結婚して、出て行きやがれ」
「結婚しても、エド先生の家に住もうかな?それともエド先生と結婚する?」
今のアンネローゼには余裕がある。こんな時でも軽口を叩けるほどな。
「バカ言ってんじゃねー、……アンネローゼ、生きて帰って来いよ。ローザを頼む」
「任されました」
俺はその後、プレハブ事務所でパソコンをいじってるドリスに声をかける。
「ドリス……何で、お前まで」
「はぁ?シャアが地球に隕石落とそうとしてんのよ!せっかく旦那との愛の巣が出来たってのに!ふざけんじゃないわよ!」
「そ、そりゃそうだよな。お前だったらこうするだろうな」
俺はドリスの迫力に身じろぎしていた。
た、確かにそうだ。この女、自分の邪魔をする奴にはとことん容赦ないからな。怖い女だ。
その後、皆と少々話し、15番コロニーの自宅へと戻る。
トラヴィスのおっさん達はシャアの動向を探りつつ、近日中に出発するらしい。
握った情報は、ロンド・ベルにも流すそうだ。
シャアとロンド・ベルは何としても直接対決させなきゃならないという事だ。
おっさん曰く、シャアの新生ネオ・ジオン艦隊に真正面から対峙できるのはブライト・ノアだけだと。
優秀な艦長とか指揮官は、一年戦争やグリプス戦役で殆ど戦死しちまったからな、残ってる指揮官級の連中は政治屋軍人だけって感じだ。
そんで、シャアとロンド・ベルが激突してる間に、こそっと裏から、スイートウォーターかシャアの艦隊に近づき、ローザを助けに行くそうだ。
おっさんにはもう一つ、役目があるそうだ。それが、おっさんが受けた取引か依頼だろう。
一応、民間の大型輸送船で偽装し、モビルアーマーとモビルスーツを戦場近くまで運ぶんだと。
パイロットメンバーは、トラヴィスのおっさんとヴィンセント、アンネローゼの他に、元スレイブ・レイスが1人に、なんと元ジオン軍エース部隊のキマイラ隊の隊員夫婦が参加するとか……おっさん。どんな伝手を使えば、そんなとんでもない奴とつながりが出来るんだ?
オペレート兼諜報担当はもちろんドリス、輸送艦とかのサポートメンバーに元連邦軍や元ジオンの残党の従業員を使うそうだ。
……なんか、どこかのスパイ集団かよ。
家に帰るとクロエが来ていた。
クロエはヴィンセントから状況を聞いていたようだ。
クロエも行きたかったそうだが、ヴィンセントに止められたそうだ。
そりゃそうだ。身重でモビルスーツ乗りまわして戦場行く奴がどこにいる。
ヴィンセントが帰って来るまで、俺の家で預かる事になっていた。
宇宙世紀0093年3月10日
トラヴィスのおっさんのジャンク屋に行ってから3日経った深夜。
俺の家に来訪者が来る。
最初はローザが諦めて帰って来てくれたと思ったのだが……。
扉の前には、黒服の男と外套を羽織った少女が立っていた。
黒服の男……見たことがあると思えば、リゼをここに連れてきてくれた元ネオ・ジオンの人間だった。生きていたのか……
そして、外套の少女は驚きの名を仰々しく名乗った。
「ミネバ・ラオ・ザビである」
おい……ジオンの忘れ形見の名じゃねーか。
何で俺ん家に?
目の前の年の頃12、3歳ぐらいに見える少女が名乗った名前は、ドズル・ザビの娘、ミネバ・ザビだった。
元、ハマーンの主であり、ネオ・ジオンの本当のトップだ。
本物か?
いや、このタイミングはやはり……。
黒服の男は俺に手紙を渡し、ミネバと名乗る少女を残し、暗闇に消えて行った。
とりあえず手紙の封を開けると、便せんに短い文章が書かれていた。
《エドすまない。ミネバ・ラオ・ザビ様をそっちに送った。もはや私が信頼し、ミネバ様を預ける事が出来る人物はエドしかいなかった。巻き込みたくはなかった。だが……エドならば、すまない》
やはり間違いない。ローザの字だ。
あいつ、シャアを倒す前にやる事があるとか言っていたが、この事か?
それに二回もあやまんなって、謝る位なら送り届けるなよ。
しかし、文章からは少々焦りをかんじるな、無茶してくれるなよ。
ミネバは確かに預かった、だからお前も早く帰ってこい。
俺はまだローザが無事だったことにホッと息を吐く。
ローザが俺の所に送り届けた少女、ミネバを取り合えず家に上げ、リビングのソファーに座らせる。俺はホットココアを入れ、テーブルに置いてやる。
「ミネバ、しばらくお前を預かるエドワード・ヘイガーだ」
「其方か?ハマーンにあれ程に良き風を与えたのは、私はハマーンが最初は誰だかわからなかった。別人のように良き風と温かみを感じた」
「良き風とか温かみとかわかんねーが、俺は一応彼奴の兄だ」
なんか不思議な子だな?
お姫様だからか?
まあ、最初の頃のハマーンと一緒で一般常識とか無さそうだな。
「そうか。確かに、ハマーンは今は兄がいると言っていた」
「ふぅ、その仰々しいしゃべり方を如何にかしなくっちゃならねーな、それとその名前だ。ミネバのままはヤバいよな。……なあ、ミネバここではその名前は危険だ。ここに居る時は別の名を名乗った方が良い。なんかあるか?なかったら俺が決めるが……」
「………」
「はぁ、急には無理か……お姫様の逃避行ってか?オードリーってのはどうだ?まあ、いいや、しばらく考えてくれ」
俺は昔の映画を思い出し、その名を口にしていた。
「オードリーで良い。しばらく世話になる」
俺は寝てるリゼを起こし、ミネバ…いや、オードリーの世話を頼む。
「わー、なんか目がクリっとしててかわいい。よろしくね。オードリーちゃん」
「……良しなに」
今はほぼ客間と成り果てた2階の病室に泊まってるクロエには明日伝えるとするか。
追っ手とかは……まあ、ローザの奴がその辺は配慮してるだろう。
おっさんにも伝えておいた方が無難だな。
次はローザにスポット当てた回になりそうです。
エンディングが近づいてきました。