誤字脱字報告ありがとうございます。
今回は繋ぎ回です。
宇宙世紀0093年3月10日未明
ミネバを預かり受けたその深夜の内に、トラヴィスのおっさんに連絡を付ける。
ミネバの事もそうだが、やはりローザの事でだ。
俺にミネバ・ザビを託したローザが、2日前にはスイートウォーターに居た事が分かっている。
ローザはスイートウォーターで半軟禁状態だったミネバを奪還し、ここに送り届けたからだ。
「おっさん。二日前だが、ローザの足取りが分かった」
『どういうことだエド。二日前ってのは?ローザちゃんから直接連絡があったわけじゃなさそうだな』
「ああ、実はだ。ミネバ・ザビが俺の家に今いる」
『はぁ?ミネバ・ザビだと!?』
珍しくおっさんが素っ頓狂な声を上げていた。
「おっさん、声が大きいぞ。ローザの奴だ。ローザがシャアの元で軟禁状態のミネバを奪還し、ついさっき使いの者だろう男が俺の所に送り届けた」
『……そ、そうか。ローザちゃんが。それならばあり得るか』
トラヴィスのおっさんは落ち着きを取り戻す。
「ああ、ミネバの話だと、ミネバの護衛の連中をローザが説得したらしいぜ。確かジンネマンとか言ったか」
『スベロア・ジンネマンか?そうか、あのジンネマンをか……』
「知ってるのか?」
どうやらおっさんは、ジンネマンという人物を知ってるらしい。
『ジオン残党の一派だ。……シャアとは、思想はあわないだろうとは思うがな。……ふぅ、とりあえずだ。ローザちゃんのお陰で俺のレイスとしての仕事は半分完了だ』
「……どういうことだ?」
『俺の取引相手の依頼は、シャアの元にミネバ・ザビが存在するかの確認、居たのならば奪還だ。……ふぅ、という事はだ。後はシャアの艦隊か本拠地のスイートウォーターに適当に攻撃してかく乱して、ローザちゃんを探して、連れ帰って来るだけか。一気に難易度が下がったな』
トラヴィスのおっさんから、やれやれと言った感じで俺の問いに答える。
おっさんが受けた依頼の一つは、どうやらミネバ・ザビのシャアの元からの奪還だったようだ。
しかし、俺はそれに違和感を覚える。依頼主が何故、今更シャアの元からミネバを離そうとするのかだ。
シャアがキャスバル・ダイクンを名乗った段階で、ミネバの価値は相当下がったと言っていいだろう。
自分こそが、正当なるジオンの後継者であると宣言したに等しいからだ。
スペースノイドにとって、ザビ家の忘れ形見のミネバとジオン・ダイクンの長子であるシャアとどちらがより価値がある物に見えるか……。間違いなく後者のシャアだ。
シャアの宣言から、スペースノイドの間ではシャアを支持する人間が増え、スイートウォーターに続々と人が集まってる。その事からも明らかだ。
となると、もはやシャアにとって、ミネバは価値がなくなるだけでなく、邪魔者でしかない。
ジオンに二つの頭はいらないからな。
となると、おっさんに依頼した人間はなぜそんな依頼を?
ミネバがシャアの元にいるとまずいことがあるのか?
依頼内容はシャアとミネバを同じ場所にさえいなければ問題ないという感じだが……
いや、今はそんな事を考えても仕方がない。
ローザの事だ
「おっさん。ローザはスイートウォーターに居る。……シャアが襲われたとか倒れたという報道は今のところ聞かない。ローザはまだ事を起こしてないかもしれないな。……早まってくれるなよ」
『そうだな。俺やドリスの情報網でもシャアが襲われたって情報はなかった。それどころか奴はぴんぴんしてやがる。しかも奴は連邦と裏取引をして、アクシズを買い取りやがった』
「はぁ?なんでそうなる?連邦の上はアホばっかか?」
シャアにアクシズ渡したら何仕出かすか分かったもんじゃない。というか隕石落としに使われるだろ!何で危険人物に刃物を渡す様な真似をする?アホだろ連邦は。金に困ってるわけじゃねーだろ?
『連邦のお偉いさんは、その代わりに新生ネオ・ジオンの武装解除と停戦を要求し、それが通ったようだ。交渉が成功したと高官はさぞ鼻高々だろうな。ふぅ』
トラヴィスのおっさんは呆れたようにこういった。
「……とことんアホだな連邦は。和平交渉だけでなく、アクシズも渡すのかよ。武装解除に停戦って……素直に従うわけねーだろ!そんなもん律儀に守る奴だったら、5thルナなんてもんを地球に落とさねーよ!」
おっさんもそりゃ呆れるだろ。
連邦の上はご都合主義の妄想癖でもあるのか?
『それが今の連邦の半数以上の意思だ。まあ、それを危険視してる討伐派から追加依頼で、ロンド・ベルを補助するためにも、かく乱を行うことになったが。元々シャアの艦隊の尻を蹴っ飛ばすつもりだったから、その辺は問題はないんだがな。どちらかというと問題はローザちゃんの方だよな。スイートウォーターで大人しくしてくれれば、回収しやすいんだが……シャアの艦隊に乗り込んだりしたりして……』
「あ、ありえる」
おっさんは俺の懸念ズバリと言う。
『とりあえずだ。シャアと連邦の密約では、二日後の3月12日にルナツーに新生ネオ・ジオンの艦隊が向かい武装解除を行う。それと同時に、立会人の元アクシズを受けとる段どりらしいぞ』
「明後日じゃねーか」
『ローザちゃんはシャアを討つタイミングを見計らってる頃合いだろう。出撃のタイミングでシャアが倒れでもすれば、新生ネオ・ジオンの士気は一気に下がるだろうしな』
「……いや、既に捕まってる可能性も」
俺は嫌な想像をしてしまっていた。
あのローザの手紙からは焦りのような物を感じていた。
それに、ミネバを逃がしたとなれば、逃がした人物であるローザは追われる身である可能性が高い。護衛の人間を説得したからと言って、シャア自身を如何にかしたわけじゃないからな。下手をすると、大捕り物となってるかもしれねー。
『エド、きっと大丈夫だ。ローザちゃんはあのハマーン・カーンだぞ。そう簡単に如何にかなるもんじゃない。……俺達は今日の内に出発する。先行してスイートウォーターにドリスが夫婦で向かってる。難題だったミネバの件は既に解消されたから。後はエドの所の家出娘を拾って、シャアのケツ穴にビームぶち込んで帰って来るだけだ』
「……おっさん。ローザの事を頼む」
俺はおっさんに電話越しに頭を下げる。
『任せておけって』
おっさんは何時もの軽い感じで返事をくれた。
次こそはハマーン様回にしたい……