なんか、ハマーン拾っちまった。   作:ローファイト

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感想ありがとうございます。
徐々に返事を返していければと……
誤字脱字報告ありがとうございます。
いつも助かります。

この番外を入れようよか入れまいか、悩みました。
賛否両論が有ろうかと思いますが、入れることにしました。
しかも長い、普段の3~4倍のボリューム。

で次回が最終回。



㊺番外編:ハマーン再び戦場に

ローザは嘗ての思い人であり、新生ネオ・ジオンの総帥として現れたシャア・アズナブルを自らの敵とみなし、シャアの暴挙を止めるべくハマーンに戻り、義兄エドに見送られ新サイド6、15番コロニーを出発する。

エドがハマーンを地球で過ごす妹のセラーナに会わせるべく用意した方法、農業用貨物船経由で月に降り立つことが出来た。

降り立った先は月面都市グラナダ。

 

一年戦争時はキシリア・ザビが拠点としていた月面都市で、ザビ家とは関りが深い場所でもあった。

 

ハマーンは既に嘗ての権威も力も持っていなかった。

伝手も既に消滅してるだろう事も……

ネオ・ジオンの生き残っているだろう元部下も、現在のシャアと自分を天秤にかけた場合、シャアに付くのは火を見るよりも明らかだ。

 

だが、シャアを止める事は、何としてもやり遂げなくてはならなかった。

ネオ・ジオンの事実上のトップとして、数々の大罪を犯してきた自分が唯一、罪滅ぼしが出来る事だと。

シャアを止めなければ、地球へ隕石落としを実行するだろう。

地球で幸せに暮らすセラーナを守るためにも、かけがえのない存在となったエドやリゼ、そして平和に過ごす人々を守るためにも……

 

今のハマーンが実行可能なシャアを止める方法の選択肢は少なかった。

もはや、自分の話等聞く耳を持たないだろう事は分かっている。

話し合いなどは無意味な相手だと。

そんな事で止まるような男であれば、こんな大それた事を仕出かすハズが無い。

シャアを止めるという事は、シャアを亡き者にする。

殺害するしかないのだ。

だが、今のシャアは新生ネオ・ジオンの総帥であり、率いる軍隊のトップである。

真面に正面切って倒すには、それ相応の軍事力が必要となる。

そうかと言って、MS戦や艦隊戦を仕掛けるための軍事力どころか、モビルスーツ一つ持っていない。今の何もないハマーンには、出来ようがなかった。

 

ネオ・ジオン時代に使用していないモビルスーツや試作機などがどこかに残っているだろうが、シャアに接収されているだろう事は明らかだ。

なまじ、MS一機手に入れたところで、一人で新生ネオ・ジオンの勢力に太刀打ち出来るものでもない。

シャアにたどり着けることすら、かなわない可能性もある。

ハマーンに残された選択肢は、その身を使い隙を突いての暗殺、または自爆のみだった。

4年前に死んだハズの身だ。もはやこの身がどうなろうと、躊躇などはなかった。

しかし、エドとの別れ際に言われた「死ぬな」「生きて帰ってこい」という言葉がどうしても耳から離れない。

ハマーンは首を振り、その言葉を振り切ろうとする。

 

シャアを討つ。

 

ハマーンはその前に、やらなくてはならない事があった。

ミネバ・ラオ・ザビの奪還だった。

嘗てハマーンはミネバを丁重には扱っていたが、帝王学を始め数々の教育を施し、自由を与えていなかった。

その事が、ミネバを大人、特にハマーンの顔色を伺い、自分で物事を決められない少女として育ってしまったのだった。

その事を、エドの家族として過ごしたこの4年間、後悔し、心残りだったのだ。

シャアが自分に対して、行った事と同じような事をミネバに強いていたのではないかと。

それに、今のシャアの元に居ては、いい様に利用されるだけだと………そして、用が済めば自分のように捨てられる。

 

ミネバに対して行った行為の懺悔と、今のミネバを昔の自分と重ね、ミネバを解放しなければという思いが強かったのだ。

 

また、ミネバ奪還はシャアに対してダメージを与えるだけでなく。

シャアとの接触の機会を得られる可能性が広がるとも考えていた。

 

だが、肝心のミネバの居場所が分からない。

ハマーンはグリプス戦役終結後にミネバを勉学目的で地球に送っている。

その頃、アクシズに居たミネバは影武者だった。

ハマーンが倒れた後のミネバの消息は掴めていないが、恐らくシャアによって宇宙に引き戻されているだろう事は容易に想像がつく。

ハマーンはシャアの思考を読み解こうとする。

恐らく現在新生ネオ・ジオンの拠点にしているサイド1のスイートウォーターだろうと。

あの男がザビ家派を取り込むための重要人物であるミネバを外に置くとは考えにくい。

万が一外に置くとすれば、サイド3の元ジオンの隠れアジトかと。

 

ハマーンはスイートウォーターに行く事を決意する。

エドに別れ際に渡されたデータには、エドの知り合いで協力してくれそうな人物の名と住所、さらにコロニー間の移動に使える農作物用の貨物船がピックアップされていた。

ハマーンはなるべくエドに迷惑をかけたくない思いが強く、エドの知り合いには協力を仰がなかった。

単独で、何とか農作物用貨物船に同乗し、サイド1ロンデニオンに到着していた。

ロンド・ベルの本拠地ではあるが基地以外は連邦の影響力は弱い。

サイド1は宇宙移民開始時の最初のコロニー群であり、宇宙移民を蔑ろにする政策を打ち出す連邦政府への信頼は薄い。

 

シャアは大々的にサイド1スイートウォーターにて宇宙市民に向け、演説を行い、打倒地球連邦軍を宣言したのだ。

ハマーンはそれを街頭に乱立する空間投影モニターで見ていた。

『……しかしその結果、地球連邦政府は増長し、連邦軍の内部は腐敗し、ティターンズのような反連邦政府運動を生み、ザビ家の残党を騙るハマーンの跳梁ともなった』

その中ではハマーンを否定する内容も含まれていた。

 

以前のハマーンであれば激高していただろう。

だが、今のハマーンは苦笑するにとどまっていた。

演説するシャアが道化に見えていた。

 

この時、シャアは堂々とジオン・ダイクンの息子を名乗る。

ジオン軍の赤い彗星のシャアではなく、宇宙移民独立運動の祖、ジオン・ダイクンの息子、キャスバル・ダイクンとして、壇上に上がったのだ。

 

ハマーンは焦る。

程なくして、シャアは動くと……、キャスバル・ダイクンとして壇上に上がった今、ザビ家の忘れ形見であるミネバの価値は相当下がったと言っていいだろう。

ミネバの身に危機が迫る可能性があると……

 

ハマーンはサイド1のロンデニオンからスイートウォーターコロニーへ、すんなり入る事が出来た。

食料供給を外部から多量に調達せざるを得ない、多くの難民を抱えるコロニーであったため、農業用貨物船内の農作物に対しては随時定期便が何便もある。農業用貨物船についてはチェックもそれほど厳しくはなかった。

ハマーンはノーマルスーツを着込んで、農作物内に紛れ込み潜入に成功したのだった。

 

スイートウォーターで2日間程、情報収集をし、遂にミネバの居場所だろう場所を特定する。

郊外から離れた小さなホテル。そこにはスベロア・ジンネマンの顔が在ったからだ。

ジンネマンはジオン残党の一派の長で、ハマーンが摂政時代のネオ・ジオンには合流こそしてはいなかったが接触はあった。

扱いにくそうな男であったが、筋を通す律義さを持っていた事を覚えていた。

ジンネマンは反連邦の意志が強いが、ザビ家のどの派閥にも属しておらず、ダイクン派でもない。ジオン残党には珍しく、どの派閥にも所属していない稀有な存在だった。

何処の派閥にもしがらみが無いため、ミネバの護衛を任せるならば、これ程適任な人物はいない。

シャアならば、間違いなくこの男をミネバの護衛に付けるはずだと。

ホテルからは客の出入りが無いところを見ると、占拠しているのだろう。

小さなホテルにしては、私服姿だが護衛と思われる人間が入口などに待機している。

 

さらに、ハマーンのニュータイプとしての勘がここにミネバが必ずいると訴えかけていた。

……ハマーンはホテルの入口にジンネマンが顔を出した頃を見測り、堂々とホテルへと歩み寄る。

 

「ミネバ・ラオ・ザビ様にお目通り願いたい」

 

「……シャア総帥の使いの方か?」

 

「私はハマーン・カーン。かつてネオ・ジオンの摂政を務め、ミネバ様の後見人を務めたものだ」

ハマーンはジンネマンに堂々とそう言い放ったのだ。

 

「バカな。ハマーン・カーンは死んだハズだ」

 

「よもや、この顔を忘れたか?スベロア・ジンネマン」

 

「!?……本物なのか?なぜここに来た」

 

「ミネバ様をお迎えに来た」

 

「シャア総帥は知っての事か?」

どうやら、ジンネマンはハマーンをシャアの使いでここに来たと勘違いしたようだ。

 

「シャアにミネバ様を任せてはおけぬ。ミネバ様を奴の傀儡には決してさせん。ミネバ様は……いや、彼女には自由に生きてほしい」

 

「な!?」

ジンネマンは困惑の顔を隠せなかった。

ハマーンはそんなジンネマンを説得にかかり、ミネバと謁見する許可を得る。

 

ミネバは最初にハマーンを見たときには誰だかわからなかったようだった。

ハマーンは確かに髪は伸ばし、色を染め外観は多少の変化があったが、そうではない。

ミネバが嘗てのハマーンに感じた黒く濁ったような感覚を全く感じなかったのだ。

ミネバはハマーンが自らの素直な心情を語るにつれ、目の前の女性がハマーンではあるが、嘗てのハマーンではない事を知る。

 

その様子を見ていたジンネマンは葛藤する。

ジンネマン自身、シャアと接するにつれ、信頼置ける人物に見えなくなっていたのだ。

5thルナの隕石落としが決定的だった。

無差別に一般人を巻き込む所業に……

ハマーンはジンネマンにとある取引を持ち掛ける。

ミネバを逃亡させる代わりに自分をシャアに差し出せと。ミネバを逃亡させた犯人として……。

ハマーンはその時含みを持たせていた。

そして、ミネバをエドの元に送った。

 

 

 

宇宙世紀0093年3月12日

この日、連邦政府との取引で新生ネオ・ジオンはルナツーで艦隊の武装解除を約束していた。

その見返りとして、アクシズを買い取るとして……

 

シャアはスイートウォーターの新生ネオ・ジオンの将兵たちに檄を飛ばす演説を行う。

『アクシズを地球に落とす。これが作戦の真の目的である。

これによって、地球圏の戦争の源である、地球に居続ける人々を粛清する。

諸君!自らの道を拓く為、難民のための政治を手に入れる為に、あと一息、諸君らの力を私に貸していただきたい。

そして私は、父ジオンのもとに召されるであろう』

そう、シャアは武装解除等するつもりはサラサラなかったのだ。

ハマーンやトラヴィスが予想した通り、隕石落としを続行するつもりなのだ。

 

シャアは演説後直ぐに、発進準備を進める旗艦レウルーラに乗り込み、此処でも将兵をねぎらっていた。

行先はアクシズ。

ルナツーには戦艦数機に数合わせの偽装バルーンを進ませ、目くらましをさせる。

 

シャアがブリッジで、とある報告を受ける。

ミネバを誘拐した犯人が見つかり、捕えたと……。

シャアはミネバが誘拐されたことを数日前に報告を受け、ミネバの身辺警備を任せていたジンネマンに必ず奪還し汚名をそそげと命令を下していた。

 

シャアはミネバを誘拐した人物が、死んだと思われていたハマーンだと報告を受け驚きを隠せないでいた。

 

シャアは尋問室に捕らえられているハマーンの元へと行く。

その後ろにはナナイ・ミゲルが続いていた。

シャアは護衛の付き人二人と尋問室に自らが入り、手錠を後ろに拘束され、椅子に座るハマーンを見下げる。

「ひさしいなハマーン。まさか生きていたとはな」

 

「ふん。貴様こそ生きていたとはな。しぶとい奴め」

 

「あの程度の事で倒れるわけにはいかんのでな。私は父の名を継ぎ、この手で人類を導こうとしている身だ」

 

「戯言を」

 

「ハマーン。私の元にこい」

 

「ふっ、いつかの逆か……答えは決まっている。ふざけるな!どうして貴様の元に行かねばならん!」

 

「お前はもう少し賢い女だと思っていたが……、まあいい。ミネバをどこにやった」

 

「貴様がダイクンの名を継いだ時点で、ミネバ様の価値は無かろう。何故こだわる。それとも貴様の復讐とやらのためにミネバ様を害するつもりか?」

 

「くだらんな。私の復讐は既に終わっている。今の私は人類の未来のために立ち上がったのだ」

 

「何を仰々しい事を、人類の未来だと?貴様が引き起こすのは人類の破滅の道ではないか」

 

「連邦政府はこの13年間何も変わっていない。奴らこそ地球の養分を吸い尽くす地を這う虫けら同然だと……、そんな輩をシャア・アズナブルが粛清してやろうというのだ」

 

「貴様とて、その虫と変わらん」

 

「権力に溺れたお前と同じ轍は踏まんよ。……もう一度聞く、ミネバはどこだ?」

 

「地球連邦を滅ぼすと嘯く貴様が何故ミネバ様を欲する?」

 

「それこそお前には関係ない。ハマーン、ミネバはどこだ?お前の目的はなんだ?」

 

「知らんな。知っていても話すわけが無かろう」

 

「ラプラスの箱」

シャアは脈絡もなくハマーンにその一言を言う。

 

「ん………」

 

「やはり知らん様だな。少々痛い目に遭ってもらおう。……ナナイ、この女からミネバ様の居場所を吐かせろ…」

シャアはハマーンに興味が無くなったかのような態度を取り、尋問室の外にいるナナイに振り返り、そう伝える。

 

シャアが振り返った瞬間、ハマーンは手錠を外し、服に仕込んだ超小型の単発銃をシャアに向け発砲する。

そう、ハマーンはワザと捕まっていた。

ジンネマンを使い、身体検査を終わらせた風を装い、ここまでの仕込みを行っていた。

そして、囚われの身の自分の前に直接シャアが現れる事を予想し、このチャンスを待っていたのだ。

 

だが……

シャアはよろけ、壁に手を付いて、踏ん張っていた。

右頬に赤い筋が見えるが、銃弾はシャアには当たらなかったのだ。

護衛の動きが早かった。すぐさまシャアの盾になり、右手の平に弾丸を受け、弾は手を貫通したが、シャアの頭を狙った弾は逸れ、頬をかすめるにとどまった。

ナナイの悲鳴がこだまするが、シャアは手を挙げ無事をアピールし、落ち着かせる。

 

ハマーンはすぐ様護衛の2人に組み敷かれ取り押さえられる。

シャア暗殺の千載一遇のチャンスを逃してしまったのだ。

 

「ハマーン。貴様……」

 

「シャア!貴様は、何故人々の営みを踏み躙る!女一人も救えないお前に、人類を救えると思っているのか!!」

ハマーンは二人の護衛の男に組み敷かれながらシャアに向かって叫ぶ。

 

「ほう、貴様がそれを言うのか……アクシズと運命を共にさせてやりたいが………ナナイ、後のことは任せた」

シャアはハマーンを一瞥して、尋問室を出る。

 

「シャア!!」

 

この後、ハマーンはナナイから短時間だが執拗に尋問を受ける。

それは拷問と言っていいほどに……。

だが、ハマーンは一切口を割らなかった。

 

そして、スイートウォーターから、レウルーラはアクシズに向け出撃を開始する。

すでにルナツーへの偽装艦隊は出撃しており、間もなくルナツーへ接触する。

 

ルナツーは偽装艦隊を見抜けず、さらに奇襲先制攻撃を受け、一時的に新生ネオ・ジオンに占拠される。

少数の艦隊に弱点を突かれたのだ。

油断もいい所だ。

 

これを口火にようやく連邦はシャアが約束を反故し、本気で地球連邦軍に戦争を仕掛けたことを認識したのだ。

連邦上層部は慌てて対応するが、時は既に遅し、アクシズは引き渡しのために既に軍を撤退した後だった。

アクシズは容易に占領され、ルナツーに連邦がため込んでいた、核兵器と燃料をアクシズに運び、アクシズを地球に落とす準備を進める。

 

ロンド・ベルは一歩遅れ、アクシズ宙域に到着。

此処でロンド・ベルはシャアの新生ネオ・ジオンの艦隊と正面衝突することになる。

 

シャアの艦隊はアクシズを稼働させ、アクシズから離れつつ、ロンド・ベルをけん制。

艦隊戦、モビルスーツ戦が入り乱れる乱戦模様が展開する。

 

 

そこに……。

「うわっ、アレに突っ込まないといけないのかよ」

「父さん。今更、怖気づいたのなら下がってくれ」

「ローザちゃんがアレに囚われてるんだよな。ドリスがそう言ってるんなら間違いないし」

「艦隊は撤退気味ね。その後ろから襲えばこちらが有利よ」

「アンネローゼの言う通りなんだけどよー。俺54よ。なんでコクピット乗ってんの?」

「隊長~、頑張って。主力はロンド・ベルが相手をしてるし、月からと周回軌道の連邦軍艦隊が出撃してるの、流石に敵さんも気が付いてるし、ローザさんが乗ってる艦隊の撤退ルートはこれしか無いハズよ。よっぽどの無能じゃない限りね。ちゃちゃっと済ませて、エドの家でパーティーよ」

「ドリス。簡単に言うなよ」

スイートウォーターで潜伏中のドリスと合流して、トラヴィスの偽装輸送船は今、アクシズに向かっていた。

ドリスのハッキングで街の監視カメラを確認し、ローザが新生ネオ・ジオンの艦船に乗らされるところまで確認していたのだ。

 

「まあ、行きますか。スレイブ・レイス!出撃!」

 

偽装輸送船から次々と宙域に灰色に塗装されたモビルスーツと大型コンテナからはモビルアーマーが宙域に放りだされ、そして、一気にレウルーラに向かい、幽鬼共が再び戦場に帰って行った。

 

 

シャアは戦場でアムロを探していた。

シャアの心の奥底ではこの戦争の一番の目的はアムロ・レイとの決着だったのだ。

 

漸く、アムロを見つけたのだが……

「何?レウルーラが襲われているだと?あの宙域に敵艦隊は無かったはずだ?どういうことだ?」

ミノフスキー粒子下では通信もままならないが、シャアのサザビーがレウルーラが何者かに襲われてる様を観測していた。

シャアは焦り、レウルーラに戻るかを一瞬迷う。

だが、クェスのα・アジールが艦隊に戻るのを確認し、再びアムロに意識を集中させたのだった。

 

 

 

 

一方トラヴィス率いる、スレイブ・レイスは……

「モビルスーツが殆ど残ってない艦隊はもろい。全部出しやがって、シャアも必死だったという事か?」

新生ネオ・ジオン艦隊を分断し、艦船のエンジンを吹き飛ばし行動不能にし、レウルーラと数機の艦船のブリッジにライフルを向け、脅しをかけていた。

 

現在レウルーラのブリッジはノイエジールⅡの有線式クローに捕まれてる状態だ。

『お宝を奪いに来た。大人しくしていろ。そうすれば命は助かる』

アンネローゼはレウルーラのブリッジにそう宣言する。

 

レウルーラのブリッジのナナイはこの状況に焦り、艦長に何とかするように強く要請するが……レウルーラの艦長は冷静に両手を上げ降伏のポーズを取っていた。

「……ここは大人しくしておいた方が良い。あれはレイスだ。連邦軍内部の粛清部隊にして数々の味方を討ち、さらに自らの主人さえ粛清した。だが、一年戦争時に敵である私の部隊も助けられた事がある。奴にとって連邦もジオンもない。奴は戦場を自由に操り、粛清という名の元、諸悪の根源を絶つ、まさに幽鬼だった」

艦長はナナイの罵りを受けながらもさらに続けてこう言う。

「現実を見たまえ、主力を全て出したとはいえ、この艦隊がこうも簡単に分断され、抑えられたのだ。たった数機でな。奴らは全員エースだ。キマイラ隊の信号と、マルコシアス隊の信号を確認した。幽鬼が幻獣と魔獣を引きつれ、戦場に戻ってきた……戦場を知らぬ貴公には無理からぬことかもしれんが、我々では抵抗するだけ無駄だろう」

艦長は手を上げたまま深く席に座り、艦内放送で抵抗するなと再度通達する。

 

 

 

ノイエジールⅡの広いコクピットの複座にはドリスが乗っていた。

「ローザさんみーつけた」

ドリスはレウルーラにハッキングをかけ、ローザの居場所を特定し、さらにドリスはレウルーラのコントロールを掌握していた。

ローザが囚われているブロックを完全封鎖した上で、アンネローゼがノイエジールⅡのもう片方の有線式クローで、ローザが囚われているブロックの気密が漏れない程度にレウルーラの装甲に穴をあける。

ドリスはノイエジールⅡから出て、その穴から侵入しローザを無事救出、ノイエジールⅡに戻って行く。

一連の流れは5分もかからなかった。

流石としか言いようがない。

 

 

「何故だ。何故こんな事を……」

ローザはもはや死を覚悟していたのだが、突然大きな揺れに襲われたと感じると、ドリスが目の前に現れ、あっという間に、救出されたのだ。

 

「勝手な行動したローザ姉さんを説教しようと思ってね」

「あららら、随分痛めつけられちゃって。まあ、無事でよかったわ。ちなみに私はエドの為よ。貴方に何かあったら、きっとエド泣いちゃうから」

複座にノーマルスーツを着せられたローザが座らされ、ドリスはその後ろの補助シートに座る。

ドリスがローザを助けた時には、ローザは顔を腫らせ、口や腕等からは血がにじみ出ていたのだ。

どうやら、ナナイから受けた拷問のような尋問を受けた際の怪我の様だ。体中熱を帯び、辛そうだ。

 

「……すまん」

「ここは、ありがとうよ」

頭を下げるローザにドリスはそう微笑み掛ける。

 

「呑気にやってる場合じゃないわね。なんか物凄いでっかいモビルアーマーが来たわ……離脱ってわけにはいかないか……隊長たちには先に撤退してもらって、此処で食い止めなくっちゃ」

アンネローゼはそう言いつつも、目をぎらつかせていた。

 

「アンネローゼ、これはノイエジールⅡだな。私にファンネルを任させろ」

ローザはこんな事をアンネローゼに提案する。

元々ノイエジールⅡは、グリプス戦役時にアクシズで完成させたモビルアーマーだ。

ハマーンだったローザが知っていて当然だ。

 

「でも姉さん、怪我してるでしょ?」

 

「操縦はアンネローゼに任せる。私はファンネルが得意なもんでな。誰にも負けん」

 

「ぷっ、……いいわ。任せる」

アンネローゼはいつかの合コンの事を思い出し、笑いを堪えていた。

 

「何が可笑しい」

 

「何でも無いわ。じゃあ行くわよローザ姉さん」

「まあいい。私の前に立ちはだかった事を後悔するがいい」

「私は見てるだけね。頑張って~」

ノイエジールⅡのコクピットの3人の女傑はそれぞれ言葉を発し、クェスが駆るα・アジールと戦闘状態に突入する。

 

 

 

「なんで、なんで?大佐の帰る所を守ろうとしてるのに、なんで邪魔をするの?」

「甘いな。その程度で私に挑むとは。愚か者め」

クェスのα・アジールの放つファンネルは、悉くノイエジールⅡのファンネルに撃墜されていき、クェスはその不快感をぶつけるように言葉に発し、ローザは余裕の笑みを零していた。

 

「……女か、いや子供だな」

ローザはα・アジールに乗るクェスの意思を感じ、相手が少女であることを悟る。

 

「え?誰?」

そんなローザにクェスも反応する。

 

「シャアに踊らされたか、魅了されたか……何れにしろ放っておくわけにはいかんか、アンネローゼ!」

「はいよっと」

アンネローゼが駆るノイエジールⅡの大型ビームサーベルがα・アジールの右肩から切り裂く。

α・アジールはノイエジールの後継機であり、出力値はノイエジールⅡを上回っていたが、パイロットの技量に明確な差があった。

 

「踊らされた?魅了された?こいつ何を言ってるの?あっ!……うううう……」

ローザの声を感じたクェスだったが、遂にはノイエジールⅡの有線式クローに頭部コクピットごと掴み引っこ抜かれα・アジールは行動不能に陥った。

 

 

 

「連邦軍の援軍がやっときたわね。早くとんずらしないとね。隊長からも撤退信号よ」

ドリスは携帯型の端末を見ながら、α・アジールとの戦闘を終了させた二人に伝える。

 

「まて、まだシャアを倒していない!」

 

「ローザ姉さん……撤退よ。私達の役目は終わり」

アンネローゼはそう言って、ノイエジールⅡの機体をコントロールし、撤退準備を始める。

 

「いや、シャアを……あいつを倒さなければ……アクシズが」

 

「ローザさん。悪いけどアクシズは半分に割れて、片方は地球に落ちるわ……もう止めようがない。それに連邦軍のこれだけの援軍よ。いくらシャアでもこれは逃げられないわ。シャアも今度こそ終わりね。ロンド・ベルの粘りがシャアの撤退を阻止したのよ。それに旗艦はこの通り、行動不能にしたし、撤退可能な敵さんの艦隊は3分の1もないわ。まあ、戦いに勝って、勝負に負けたってとこかしら……」

ドリスは淡々と状況を説明し、ローザを説得しようとする。

 

「くっ、地球にはセラーナが…」

 

「大丈夫、日本に落ちるコースじゃないわ。でも、地球の環境は激変するでしょうね。こっちも旦那を宇宙に上げといてよかったわ」

ドリスは眉を顰めながらも、ローザを諭す。

 

「………」

ローザは項垂れ、地球に落ち行くアクシズを目で追っていた。

 

「ローザ姉さん帰ろ、エド先生が待ってる」

アンネローゼはそう言って、ノイエジールⅡを戦闘宙域から離脱させた。

 

 

 

ノイエジールⅡが偽装輸送船に帰還したころ、地球に落ちかけたアクシズが急に地球から押し戻されるように軌道を変えたのだ。

そこには虹色の輝きが纏っていた。

 

「アクシズが……あの光は何だ……温かい……」

ローザが見た光景は、後世でアクシズ・ショックと呼ばれたサイコフレームによる共振で起こったサイコ・フィールドの光だった。

サイコ・フィールドがアクシズを地球の引力から引きはがしたのだった。

しばらく、この余波は宇宙に広がり続けた。

 




話の都合上、逆シャアの時系列や演説のタイミングやらを改変させてもらってます。

で、次回が最終回。
エドの元に戻って来るローザ。

しかし……エドの家は大変なことに。

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