なんか、ハマーン拾っちまった。   作:ローファイト

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感想ありがとうございます。

今迄が序盤で、ここからが本編です。


⑥目覚め

 

名無しの彼女、ハマーンが8月中旬頃から覚醒の兆しを見せていた。

呻き声を時々上げるようになったが、まだ目が覚めない。

脳波チェックをしているが、夢を見ている状態と同じだ。

その呻き声は苦しそうであり、表情もつらそうであった。

まったく、どんな夢を見ているのやら……。見るからにいい夢じゃないな。

 

宇宙世紀0089年9月初旬。

外来診療を終え、夕食前にハマーンの定時検診を行いに病室に入る。

ハマーンの病室には癒し系のクラシックを流している。

リラックス効果と覚醒を促す作用がある。

 

顔を覗き込むと、うっすらと目をあけていたのだ。

「おい俺の声が聞こえるか?」

 

ハマーンは小さく口を動かしていたが聞こえない。

俺は口に耳を近づけると……擦れ声を漏らしていた。

「……お前は誰だ」

 

「俺は医者だ。あんた、名前を言えるか?」

 

「………」

俺はハマーンの口元に再び耳を近づけ、発する声を聞こうとするが、返事が返ってこない。

 

「ふう、まあいい。あんたにはまず伝えないといけない事がある。聞いているだけでいい」

 

「………」

ハマーンの唇は僅かに震えていたが声が出ていなかった。

 

「重症状態のあんたを俺の診療所に運んで治療を施した。治療は上手く行ったが意識が戻らなかった。あんたは眠り続けていたんだ」

 

「………」

意識はまだ朦朧としているようだが、ハマーンのうっすらと開いた双眸は、俺の言葉を理解しているような感じがした。

俺は続きを話す。

 

「あんたの体は直ぐには動かない。リハビリが必要だ。リハビリさえちゃんと行えば元通りに体を動かせる。今からも幾つかの検診を行う。まあ、拒否されてもやるがな」

 

「………」

ハマーンは俺の言葉を聞き、目をゆっくりと閉じた。

まるで好きにしろと言わんばかりにだ。

 

ハマーンの口に湿らす程度に少しばかりの白湯を含ませてやってから、何時もの検診を行う。

心電図や脈拍、脳波などは常時確認しているため、眼球の動きなどの簡単なチェックだけだ。

 

「安心しろ。異常無しだ。だが、記憶の混濁などが起きてる可能性がある。自分が誰なのか、過去の記憶を探って、じっくり思い出せばいい。しばらくしたらまた様子を見に来る」

俺は病室を出て静かに扉を閉める。

 

眠り姫のお目覚めってか?こっからどうするかな。

幸いハマーンは体が動かない。俺達に危害を加えようがない。

本来ある程度の筋量維持のリハビリを寝ている状態でも出来るのだが、それをやらなかった。仮にも彼女は軍人だ。しかも俺がとびっきりの悪人認定してる奴だ。

俺らにいきなり危害を加えない保証はどこにも無いからだ。

拘束具で拘束すればいいだろうと思われるが一応彼女にも人権がある。

というか、俺がそれをしたくなかっただけなんだがな。

 

ゆっくりリハビリをして、時間をかけて自身がやって来た事を振り返る時間を与えたかったという思いがあった。

俺は裁判官でも警察でも軍人でも何でもない。俺に彼女を裁く権利などない。

だが、俺は医者だ。俺なりのやり方で出来る事がこれだった。

この考えも、ただの俺の一人よがりもいい所の最低のやり方だ。

ハマーンが過去を振り返り、自身の過ちに気が付き、懺悔の一つでもさせればいいとな。

その後の事はまだ、考えていない。

脳みその奥底まで腐ってやがったら別の話だ。そのまま連邦軍に突き出せばいい話だ。

軍事裁判なり待っているだろう。

 

ハマーンの覚醒する時間は極わずかだ。一日一時間もない。

脳波データがそれを物語ってる。

そんな感じな状態が1週間続く。

 

宇宙世紀0089年9月中旬

 

ハマーンの意識は随分としっかりとし出していた。

だが、体を起こすこともままならない状態だ。

「私はなぜ生きている」

弱弱しくだが、俺の顔を睨みつけるように目を向ける。

 

「最初に言っただろ?重症のお前さんを俺の診療所に運んで治療したって」

 

「………」

 

「結構酷い状態だったぞ」

 

「……ここはどこだ?」

 

「俺の診療所だって……そうじゃないよな。ここは新サイド6の田舎コロニーだ。おっと自己紹介もまだだったな。俺はエドワード・ヘイガー、しがない町医者であんたの治療を行う者だ」

 

「………」

彼女の視線は俺から天井に移る。

その目からは安堵したかのような印象を受ける。

まあ、大方ここが連邦軍の病院じゃない事が分かったからだろうが……

 

「俺からの質問をするぞ。あんた名前は?」

俺はワザとこの質問をする。

 

「………」

 

「思い出せないか?それとも言えない理由があるのか?」

 

「………」

ハマーンは黙ったままだ。

 

「名前が無いと不便だな。あんたをなんて呼んだらいい」

 

「……好きに呼べ」

 

「じゃあ、ローザってのはどうだ?」

 

「………」

意外と賢い女だ。

今の自分の立場を理解してる。

権力者にありがちな、怒鳴り散らして従わせるような真似はしない。

俺からちょっとづつだが、違和感ない程度に情報を引き出そうともして来る。

 

 

「まあいいか、一応ローザって事で。今日は調子が良さそうだし、いつもとは異なるちょっとした検診を行う。ちょっと手を触るぞ」

俺はそう言ってシーツを半分捲り、彼女の手を取ろうとする。

 

「わ…私に触るな」

 

「おいおい、触るなはないだろ?俺は医者で治療しなきゃならないんだぞ。というかそんなの今更だぞ。あんたを手術したし、検診を今迄だってしてたんだ。今更だぞ?」

 

「くっ……」

ハマーンは思いっきり睨みつけてきた。

少々顔を赤らめていたのは印象的だ。

 

「すまん。わるかった。俺の配慮が足りなかった。年若い女性にいう言葉じゃなかったな。だが検診はさせてくれ。治療やリハビリが出来ない。それと普段の着替えやあんたの体を拭いたり、下の世話は家の妹にやらせていたから安心してくれ、というか妹に会ったら礼でも言ってやってくれ。きっと喜ぶ」

 

「お…お前は……」

更に睨んでくるハマーン。

どうやら、俺は余計な事を言ってしまったようだ。下の世話とかがまずかったか?

だが、この事で分かった事は、年頃の女性並みの羞恥心はあるようだ。

まあ、睨んでくるのはどうかと思うぞ、その辺はお嬢様育ちなのだろう。

 

「悪かったって、そう睨むな。だが、あんたの治療には必要なんだわかってくれ」

 

「………くっ」

ハマーンは目を逸らす。

 

それを了承と取って、彼女の左手を取り、問診を行いながら痛覚などの感覚のチェックを行う。

その後は足の指などにも実施する。

どうやら神経系は大丈夫なようだ。これならばリハビリ次第で元のように戻れるだろう。

だが右足には若干の違和感を覚えているようだ。

そりゃそうだ。神経が完全に切れてたからな。

右足については少々時間が掛かるかもしれない。

 

今の所、素直じゃないがこちらのルールに従っている。

体が言う事を聞かないから仕方がない事だが……

生まれながらのエリートによくある高慢ちきに喚いたりしない。

今の自分の立場を理解し、現状での最善を選んでいるのだろう。

やはり賢い女だ。

 

 

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