なんか、ハマーン拾っちまった。   作:ローファイト

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マリーダ編のその2です。


マリーダ編②マリーダが進む道

ラプラスの箱をめぐる抗争の後、私はドクター・エドワードの元で、調整…治療を受ける事となった。

ドクター・エドワードは私に丁寧に私の体に現在起こっている症状を説明してくれる。

その際、私の横にはマスター、いや父が付き添ってくれた。

 

私が今迄調整無しでは暴走してきた主な原因は二つ、一つは精神への刷り込み、人為的な依存対象の調整と、ニュータイプ能力の強制的に発現をさせるための精神調整だそうだ。

ただ、精神的刷り込みによる人為的依存対象の調整については、私が父スロベア・ジンネマンと親子関係を築いたことにより、刷り込みは薄まっている状態なのだそうだ。

更に私達プルシリーズはデザインチャイルド、要するに意図的な遺伝子設計操作によって人為的に作られた人間だそうだ。

サイコミュシステム搭載モビルスーツを操縦させるために……

そのため、各種内臓器官や神経系が強化されただけでなく、通常の人間には無い組織も存在するとの事だ。その代償が本来通常の人間であれば十分に生成できるはずの酵素やホルモン物質などが減少し、生命維持に耐えられなくなり、薬によって補っていたと。

私の寿命が短命なのも同じ経緯らしい。

リゼはドクター・エドワードの治療により、それらをすべてクリアし、今は普通の人間と同じように生きている。

ただ、私の場合、それだけではなく、後天的にも強化処置を施された形跡があり、それが複雑に絡み合い困難な状況を招いているとの事だ。

一つ一つはめ間違えたパズルのピースを元に戻していくような作業が必要だと。

私の治療には最低でも2年の歳月がかかるのだそうだ。

 

 

 

宇宙世紀0096年4月初旬

ミネバ様とクェスとバナージは地元の高等学校に通い始めた。

私はというと、リゼと共にヘイガー家の洗濯物を屋上のテラスに干していた。

午前中はドクター・エドワードが診療所で外来診療を行っているため、私はリゼと家事の手伝いをしながら過ごしていることが多い。

 

「このクマちゃんパンツはオードリーの、ウサちゃんパンツは私ので、星の水色縞パンツはクェスの、パンダちゃんパンツはリタさんの、ローザお姉ちゃんはレースパンツ白とピンク、グレーの普通のはマリーダっと」

リゼはそう言いながら、私から受け取ったパンツを干していく。

 

「……なぜ、こうも動物のマスコットが多いのだ?」

私の認識では、こういう物は若年層が履く物だと思うのだが、ミネバ様まで。

私の常識がおかしいのか?巷ではこれが一般的なのだろうか?それともこの15番コロニーの流行りという物なのだろうか?

 

「可愛いし、皆好きなんだよ。ローザお姉ちゃんも2年前まではクマちゃんパンツだったし」

 

「………そうか」

うむ、流石にそれは厳しいのではないか?

 

「バナージはトランクス、お兄ちゃんはボクサーパンツっと」

リゼは次に男性陣の下着を干しだす。

 

「ドクター・エドワードは動物マスコットパンツの事は何も言わないのか?」

私はやはり納得がいかずリゼに聞く。

 

「お兄ちゃん?うーん。普通のも持っておけって、買ってきてくれるんだけど」

 

「そうか……」

リゼの返答を聞いて、どこかホッとする。

私がおかしいのかと思ったのだが、ドクター・エドワードもどうやら私と同じ認識の様だ。

 

「ねえ、マリーダ。そのドクター・エドワードって言うのやめようよ」

 

「では何と呼べばいいのだ?」

 

「お兄ちゃんって呼べばいいよ」

 

「………いや、ドクター・エドワードとは兄妹でも家族でもない」

そう、私とドクター・エドワードは医者と患者の関係だ。

 

「家族だよ。マリーダは私の姉妹だよね。だからエドお兄ちゃんは私のお兄ちゃんなんだから、マリーダのお兄ちゃんにもなるのよ」

確かに遺伝子的には私とリゼは姉妹だろう。

だが、流石にその理論は強引過ぎではないだろうか?

 

「それは流石に無理がある。私はまだドクター・エドワードと出会って3週間だ」

 

「また、ドクター・エドワードって言った。お兄ちゃん。ほらお兄ちゃんって言ってみて、それに私とマリーダも出会って3週間よ」

 

「リゼと私とは生まれが一緒なのだ。他人とは思えないが……ドクターは」

私はリゼにはどうやら弱い。ここに来て3週間が経つが、言いくるめられることが殆どだ。

 

「またぁ、お兄ちゃんだよ。それと、オードリーの事はミネバ様じゃなくって、ちゃんとオードリーって呼んであげなくっちゃ」

 

「それこそ無理だ。私はジオンの兵士だ」

 

「元でしょ?……お父さんのジンネマンさんは、今はトラヴィスのおじさんの会社に就職したんだし、ジオンとか関係ないでしょ?」

 

「おかしいとは思わないのか?ミネバ様はジオンの姫君で真の君主なのだぞ」

そうだ。ここの家族は皆おかしい。どうしてミネバ様までが普通に家事洗濯を手伝い。

皆と同じように生活されているのだ?

正当なジオン公国の君主になるべきお人なのだぞ。

ローザ殿もローザ殿だ。義理とは言え姉なのだろう。

こんな暴挙を許していい物なのか?

 

「でも、そのオードリーが良いって言ってるし、オードリーはもうザビ家が継ぐジオンは無くなったって言ってたよ」

 

「ううう……なぜだ。なぜそう平然としてられる」

わからない。ここでは私の常識が通用しないのか?

 

「だって、オードリーは私にとって妹だし、私の事も姉様って、マリーダもオードリーって呼んであげたら、きっとオードリーはマリーダ姉様って呼んでくれるわ」

ミネバ様から姉と呼ばれる?そんな事は………。その、なんだ。なにかこそばゆい。

 

「あ、もうすぐお昼ね。お昼ご飯は何にしようかな。今日は私とマリーダの当番だしね。そういえば、マリーダはナイフを使ってジャガイモの皮を剥くのはうまいよね」

 

「ああ、ガランシェール隊は常に資金不足で困窮状態だったからな。皆で野菜を剥くのを手伝っていた」

 

「へー、そうなんだ。なんかいいね家族みたいで。でも料理の味付けは……これからだね」

 

「食べられれば何でもよかったのだ」

そう、兵士は栄養さえ取れればよかった。味は二の次だ。

家族という概念がどういう物かはわからないが……確かにガランシェールは、この家のように皆が役割分担をし作業をしていた。そこには父がいて、隊の仲間がいた。

この家とは、そういう意味では似ていたのかもしれない。

だが、違いもある。

 

「それじゃ、ヘイガー家のレシピを覚えなくっちゃね。そうだ。近所のシムスさんからとれたて卵のお裾分けを頂いたから、ヘイガー家の甘甘オムライスにしようかな」

リゼは私に笑顔を向ける。

 

リゼは何時も笑顔だ。

この家族は皆、表情は違うが笑顔で溢れている。

そう、この笑顔だ。

ガランシェール隊の皆も笑う事もあったが、どこか寂し気であった。皆、心中に何かを抱えていたような雰囲気であった。

このリゼや家族の笑顔は、私にとって余りにも眩しすぎるのだ。

だが、そう。

悪くはない。悪い気分ではないのだ。

……私もリゼのように何れそんな笑顔で笑えるのだろうか?

 

 

午後からは私の治療が始まる。

検査装置が取り付けられた重厚なベッドに横になり、点滴を受けるのがこの頃の日課だ。

詳しい事は分からないが遺伝子治療の一種らしい。

体に負担が掛からない程度に徐々に徐々に行うとの事だ。

ドクター・エドワードは治療の際、毎日口癖のように私に言う。

「必ず良くなる」と……

 

だが私は生まれてこの方この状態だ。

良くなるという状態がどういう状態なのかは正直わからない。

寿命が延びる事は確かに良くなることだろう。

父と過ごせる時間が多くなることは確かに素晴らしい事だと思う事は出来る。

調整が要らない体。

薬物を摂取しなくていい体。

だが、それらがどのような物なのか想像がつかないのだ。

それよりも、私はモビルスーツを操縦できなくなる事が怖い。

私の体を治療するという事は、そう言う事なのではないかと……

 

私はある時、ドクター・エドワードに恐る恐る訪ねた。

私の治療が完治した後でも、モビルスーツに今迄のように操縦できるのかを……

それはドクターにはっきりと言われた。私の想像通りだった。

サイコミュへの適応は減少する可能性が高い上に、肉体的な各種耐性も落ちるだろうと。

ならば、治療はいらないと私は抗議した。

戦う事だけが私の存在意義だ。モビルスーツが乗れない私には価値が無い。

きっと父も失望する。だから、このままでいいと。

 

すると、ドクター・エドワードは私にこう言った。

「お前の父親は、たかがモビルスーツに乗れない程度でお前を見捨てるような男か?俺にはとてもそんな男には見えなかったぞ」

 

父を思い浮かべてみれば、私がモビルスーツに乗れなくなったとしても、父はきっと私を許し、あの不器用な笑顔を私に向けてくれるだろう。

だが……。

「私が唯一出来る事はモビルスーツに乗って戦う事だ。それが出来なくなり、私自身父の役に立たなくなることが何よりも怖い」

私はモビルスーツを乗る事でしか父の役に立つ事が出来ない、恩返しすらできなくなる。

 

「じゃあ、お前あれか?アムロやレッドマンよりも強いつもりか?あいつ等だって初めからあの強さじゃなかったんだろ?まあ、あいつ等に限っては最初からとんでもなく強かったかもしれんが、今ほどじゃなかったはずだ。

まったく乗れなくなるわけじゃない。今迄の経験や技術はその体と心には残る。

あとな、強化人間ってのは、はじめっから強くするズルをする代わりに、いろんなリスクを産むんだ。もし、お前が前のように乗れなくなったとしてだ。その分寿命が延びたり、薬や調整が必要無くなったりするとさ、それにかけていた時間分強くなる練習ができるだろ?きっと寿命が延びたぶん今のお前より、治療が終わった未来のお前の方がきっと強くなるぜ。それにさ、お前さんはまだ若い。モビルスーツの操縦以外に親父さんの役に立つ事を見つけることだってできる。何もモビルスーツの操縦だけが親父さんの役に立つ方法じゃないだろ?」

 

「……戦う事以外を私は知らない」

 

「そうか?ジャガイモの皮むきとか野菜を切るのとか上手いじゃねーか」

 

「そんなものは誰だって出来る」

 

「……誰だってか。良いこと教えてやる。ローザな、あいつここに来た当初は、ジャガイモの剥き方も知らねーし、洗濯機の使い方も知らなったし、玉ねぎ切れば催涙ガスと勘違いするし、掃除をさせようとしたらよ、どうしたらそうなるか知らんが掃除機から火を吹かしていたぞ。あいつ何一つ家の事が出来なかったんだぞ」

 

「………ふっ」

私はつい口から空気がもれる。

あのローザ殿が慌てふためく姿を思い描くと、ついおかしくなる。ドクターの言い回しのせいだ。

 

「ちょっとは落ち着いたか?……出会ったばかりの彼奴もマリーダと同じような事を言っていた。でもな、あいつ一生懸命やってさ、全部覚えたんだぜ。今じゃ俺よりも料理や家事はずっと上手いぞ。誰だって最初は何もできないもんだよ。確かに上手い下手はあるが、自分が上手くできそうなものを見つければ良いって事だ」

 

…………

私は父の役に立たなくなる自分が怖かった。

そして、唯一の取り柄であるモビルスーツの操縦ができなくなり……何もできない私に戻る事が……父に助けられる前の私に……死ぬことも生きる事も自分で出来ず、ただただ絶望の中、すべてを奪われ続け、生かされてるだけの人形のような私に戻る事が……、何よりも怖かった。

 

「……私は戦う事以外で、何者かになれるのだろうか?」

 

「マリーダはマリーダだ。モビルスーツが乗れようが乗れなくてもな。俺はマリーダがやりたいことをやればいいと思うぞ。親父さんもそう願ってるはずだ」

 

ドクター・エドワードはそう言って、私の頭を軽くなでる。

私は男に触れられる事に極端に嫌悪感を感じていたが……ドクターのその手は嫌ではなかった。

 

私に戦う以外で何か出来る事があるのだろうか?

 

 

ヘイガー家でそういった日々を過ごし、1カ月半が過ぎた5月中頃。

リゼが私を遠方へと連れ出す。

ドクター・エドワードから6月に一回目の手術を施すと聞いている。

その前の息抜きだそうだ。

 

ミネバ様もクェス、バナージ、それにリタも同行することになった。

なんでもジェラートの美味しい喫茶店に行くのだとか。

ジェラート……アイスクリームに似た食べ物だという事は知っているが……。

甘いのだろうか?

 

このコロニーの人々は、自転車を交通手段として使用することが多い。

この人力で動かす乗り物は、電動スクーターや電動車に比べれば遅い上に、載せられる荷物も限られ、しかも体力をも消耗する。

はっきり言って非効率にも程がある。

なぜこの自転車とやらを、わざわざ移動手段として使用しているのか、首を傾げたくなる。

皆は言う。

健康維持と体力維持にもってこいだと……。

体力や健康維持ならば、本格的なトレーニングを行う方がよっぽど効率的だ。

リゼ曰く、自転車に乗ると楽しいのだそうだ。

ミネバ様もリゼと同意見で乗ってみればわかると仰っていた。

私も4月初旬にバナージと共にこの自転車という乗り物の手ほどきを、リゼとミネバ様に受けた。

成る程、確かに徒歩に比べれば早い……だが、それだけだ。

 

 

だが……

自転車に乗り、皆と街中の喫茶店へと出かける。

自転車は飽くまでも移動手段だ。

ただ、それだけの行為のハズだ。

ゆっくりと農道を抜け、対岸の街中まで走る。

ただそれだけの事なのだが、何故か心が揺らめく。

顔や体に受けるゆるやかな風が気持ち良い。

植物や土の匂い、そして街の営みの匂い。

普段から浴びてるコロニーの光のはずなのだが、いつもより温かに感じる。

何なのだ。これは……

そして、隣にはリゼの笑顔が……周りには皆が居る。

それだけで、心が満たされる。

この感情をどう説明すれば良いのか分からない。

 

 

喫茶店に到着し、皆でジェラートを食べる。

私はブドウとメロンのジェラートを頼む。

想像していたよりも果実の甘味が濃厚だ。

食感はアイスとはまた異なるが、これはこれでうまい。

リゼからバニラとチョコレートのジェラートを分けてもらう。

甘い……私はこちらの方が良いかもしれない。

 

思い思いの味のジェラートを頬張る皆は笑顔だ。

ミネバ様もクェスもリタも、バナージでさえ……。

 

この感覚は喜び?楽しみ?よくわからんが心が満ちる。

心に空いた隙間に温かい何かが埋まって行くような感覚だ。

これが充実感?いや安心感というものなのだろうか?

 

 

その後はショッピングモールでの買い物だ。

服を見たり、アクセサリーを見たりとだ。

私には何が良いものか、何が似合うのかが分からない。

今私が着ている服は、リゼが作ってくれたものだ。

「マリーダは落ち着いた大人っぽい女性の服が似合うよね」とリゼはいい、一般の女性が着るような服を着ている。

リゼは服飾デザイナーを職業としている。

さらに、大学にもたまに顔を出している様だ。

戦いしか知らない私にとって、リゼは眩しく映る。

私もリゼのように…ドクターエドワードが言う様に、戦い以外に何時か何かできるのだろうか?

 

「マリーダ。手術が終わったら、水着を買いにこよう。8月には皆でプールに行こうよ」

「私は……」

私は躊躇する。私の体はあちらこちらと傷だらけだ。肌の露出は避けたい……いや、私は何を考えているのだ?……そんな思考は今迄なかったはずだ。

今迄、他人に傷だらけの体を見られたからといって、どうとも思わなかったはずだ。

しかし、私は今そう思ってしまった。

 

「大丈夫。お兄ちゃんが、6月の手術で傷を全部綺麗に治してくれるって」

「……そうなのか……だが」

リゼは私の思考を察したようだ。

 

「皆で遊びに行くと楽しいよ」

……私はまた、心の隙間に何かが埋まって行く感覚に。

 

 

この後、ジャパニーズレストランで夕食をとってから家に帰った。

…家か……

自分の心の中で発したこの言葉に改めて驚く。

私はいつの間にか診療所を兼ねたあの家を、帰るべき家と認識していたのか。

 

 

 

 

6月に入り、私は手術を受け、7月中頃までベッドの上での生活を余儀なくされた。

だが、皆が毎日顔を見せてくれ、優しい言葉をかけてくれる。

 

8月には、リゼに手術の術後祝いだとかで水着を買ってもらい、人生初のプールへと……。

泳ぎ方が分からないため、リゼとバナージに教えて貰った。

同じく泳げないミネバ様……いや、オードリーと共に。

 

9月には、リゼの大学の学祭とやらに連れて行ってもらい。

学内を色々と見回った。

 

10月上旬のとある日の午後、今日も日課の治療を受ける。

何時ものようにベッドの上で点滴を受けながら、ドクター・エドワードと会話をする。

「マリーダ、何かやりたいことが見つかったか?」

 

「……まだ」

私はこう返事はしたが、この頃試してみたいことは色々と出て来た。

 

「時間はたっぷりある。ゆっくり考えたらいい」

 

「だがモビルスーツにも乗れるようにはなっておきたい」

 

「親父さんの為か?」

 

「それもある。……だが、いざと言う時のために」

そう、私には守りたいものが増えてしまったから。

 

「そうか、……なら俺も頑張らねーとな。マリーダが復帰できるようにな」

そう言って私の頭を優しく撫でるドクター……いや。

 

「………その……ありがとうエド兄(にい)」

 

戦う以外に私に出来る事はまだ見つからない。

だが、私が生きる意味は見つかったように思う。

 




あれですね。
アムロとレッドマンの修羅場編の間の、皆のお出かけはこの時ですね。
こっちは、ほのぼの日常編ですがw

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