なんか、ハマーン拾っちまった。   作:ローファイト

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感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

初のローザ視点のお話です。
まあ、その甘々です。







ローザ編②ローザの思い。

ラプラスの箱を巡る戦いの後、私はエドに予てから心に秘めていた思いを言葉にした。

 

「……子供が欲しい」

私が、この言葉を発するのにどれだけ緊張したものか、ラプラスの箱での戦いなど児戯に等しい程に問題にならない。

これ程緊張した事は、エドに結婚申し込み、告白したあの時以来だ。

普段エドと話すのに何も遠慮も気兼ねもいらないのだが、こればかりはどうしてもだ。

 

私はエドワード・ヘイガーに懸想をしている。

それは疑いようがない。

 

今思い起こせば、エドと出会った当初は唯の医者と患者の関係だった。

死ぬはずだったこの身をエドに救われ生き延びることとなった時だ。

当時の私はエドを最大限に警戒していた。

私はネオ・ジオンの摂政官ハマーン・カーン、ジオン再興のためにすべてを捧げて来た人間だ。軍を動かし地球連邦に対し宣誓布告を行い、世界中に戦争という死をまき散らした極悪人でもある。

私を生きながらえさせた理由など、地球連邦に売り渡すか、ネオ・ジオンに身代金でも要求するか、アナハイムや軍事財閥や他のジオン残党との交渉に利用するためだと決まっていると思っていた。何にしろ、あの男(シャア)のように私を利用するに違いないとな。

そして、私はジオン再興に身を捧げた時から女を捨てたのだが、残念ながらこの身は女だ。

辱めを受けるのではないかとも思っていた。

 

だが、全く違っていた。

 

エドは本当に私に説教するだけだった。

その言葉は、私の心中に深く突き刺さったがな。

それ以外は粛々と医者として、重症人の私の治療を施す。

 

その時エドに抱いた印象は変わった医者だという程度だった。

 

エドは私がハマーン・カーンであることなど、全く歯牙にもかけず、唯の患者…一人の人間として接して来るのだ。

私にそのような振舞いを見せたのは、今迄の人生の中でジュドー・アーシタぐらいしか記憶に無い。

 

悪い気分ではなかった。

 

エドと生活するにつれ……私の凍り付いた心が温かな何かに包まれて行く。

私はエドとの生活に心が満たされ、さらに楽しみと喜びという感情まで現れる。

さらに私に安らぎを与え、安心感を与えてくれた。

エドは私を無理矢理妹にしたが、異論はなかった。ここで過ごすにはその立場が実に有効に働いたからだ。

私自身このままこの生活を送れるのであれば、妹扱いだろうが特に問題は無かった。

エドとの生活は居心地が良かったのだ。

始めはそれだけでいいと思っていた。

妹として、エドの近くに居られればそれでいいと。

だが、時が経ち、クロエの結婚を見、それ以上の繋がりが欲しくなった。

 

しかし、その選択はエドにとっては良いものでは無い事は、私には分かっていた。

私はハマーン・カーンであり、大罪人であり、大手を振って表に歩くことも出来ない日蔭者だ。

私はあきらめるしかなかった。

これ以上この思いが大きくならない内に、心の奥底に深く沈めたのだ。

 

だが、第2次ネオ・ジオン抗争時にシャアに囚われた時だ。

私は一時は死を意識した。

そして生還しエドに抱きしめられると、奥底に留めていた思いが溢れ、もはや私自身でも制御が出来なくなったのだ。

エドと寄り添いたい。

エドを独占したい。

エドに抱きしめてもらいたい。

エドと確かな繋がりが欲しい。

私はエドと結婚したいのだと。

 

私なりに、エドをあの手この手で振り向かせようとしたが、すべて失敗に終わる。

色恋沙汰などという感情は数年前に捨てきったと思っていたのだ。

今更、私に何が出来ようか?それに私には今更町娘のような振舞もできようもない。

だが、トラヴィスや周囲の人間の協力により、私は漸くエドに結婚を申し込むことが出来た。

しかし、その時のエドの困惑顔と言えばどうだ。

私のアピールには全く気が付いていなかったのだ。

それも致し方があるまい。

エドにとって私は飽くまでも妹なのだ。

私を女として全く見ていなかったという事だ。

エドには下心という物が無いのだ。欠落してると言っていい。

今でこそ多少でもそう言う目で私を見てほしいと思うのだが、出会った頃にそうであれば、私はここまでエドに信頼を置いていなかっただろう。

エドワード・ヘイガーとはそう言う男だ。

今更ながら厄介な相手に懸想したものだ。

 

エドとの結婚への道のりは長かった。

この時点でようやくスタート地点というところだ。

エドは私が告白すると、しばらく待ってくれと……。

 

その後は、エドと寝室を共にすることとなったが、エドは私には全く手を出そうとしないのだ。

私とて恥ずかしいのだ。アンネローゼに選んでもらった透けたネグリジェはほぼ裸同然だ。

その姿で毎晩ベッドに入りエドが来るのを待っていたのだ。

それなのにだ。エドは普段通り、自分のベッドに潜ると直ぐに寝てしまうのだ。

………流石に女としての自信が砕かれる思いがした。

 

だが、エドは毎週、空いてる時間に私を連れ出してくれ、食事や買い物、映画などを共にしてくれた。

これは世間一般で言うデートという物だという事は理解出来た。

改めて恋人同士が行うデートやらの所業を思うと何故か気恥しくて仕方がない。

普段医者と看護師という立場で共に仕事に従事している時とはまるで異なる。

エドの顔が近づくだけで、私は胸が高鳴るのだ。

だが、そんな後であろうと、夜は別々のベッドでそのまま就寝する。

私がこれ程、心揺らされる思いをしているのにだ。エドはいつも通りなのだ。

 

私はそんな毎日を過ごしてる内に……このままでも良いのではないかと思い出す。

私はエドの傍らにいるだけでいい。

エドの意思を蔑ろにし、無理に結婚するよりは、その方が良い。

私の気持ちを奥深く沈めてしまえば良いだけの話だ。

 

そして半年後のあの日。

 

エドに連れていかれ、あの貯水池の畔のベンチで……

「ローザ……俺と結婚してくれるか?」

まさか、エドから結婚を申し込まれるとは思っても見なかった。

その手には、指輪まで用意していたのだ。

 

「遅い……遅すぎるぞ。……だが許す」

私は思わずエドに抱きついていた。

人生の中でこれ程、よろこびという感情が私を支配したことは無かった。

 

「すまん……待たせたな」

エドはそう言って、私を優しく抱きしめてくれた。

 

アクシズに居た頃の私には考えられない事だ。

あの時は、漠然と体の中心に寒さを感じていた。

それが何だったのか、今ならはっきり理解できる。

今の私に有って、当時の私には無い物。

抱きしめてくれるエドから伝わる体温……、温かな日常、人との温かな絆。

エドは凍り付いた私の心を溶かし、そこに空いた穴に、すべて温かなもので埋めてくれたのだ。

 

 

晴れて夫婦となったのだが、今までとは大きくは変わらない。

ただ、エドのすべてが愛おしい様に思えてならないこと以外は……。

 

私はこれ以上の幸せという物はないと思っていた。

思っていたのだが、また、新たに欲が出る。

幸せを掴むという事は、次の幸せが欲しくなる事なのだろう。

 

クロエの2歳になる子供を抱き上げ、その愛らしさと命の鼓動を聞くと。

私もエドの子供が欲しくなったのだ。

 

ラプラスの事件を解決した後に、エドに子供が欲しいと告白。

 

「そうか、そりゃそうだよな。俺もだ。……俺もお前との子が欲しい」

エドは私が期待していた以上の言葉をくれる。

 

 

そして、1年と3カ月後にミーナが生まれる。

 

私が宇宙(そら)でエドに拾われてから8年半。

私は命を救われ、ミネバ様も救ってくれ、セラーナとも再会を果たさせてくれた。

私を伴侶と選んでくれ、子供まで……。

これ以上ない幸せが今目の前にある。

 

8年半前の私(ハマーン)には、今の私(ローザ)の姿が想像できただろうか?

いや、今の私(ローザ)の姿を見れば間違いなく嘲笑するだろう。

 

だが、それでいい。

8年半前の私(ハマーン)は何も知らない小娘同然だったのだ。

振り返れば、本気でジオン再興を成し遂げようとしていた私(ハマーン)は、肝心の人々の心情を蔑ろにし、武力だけで統治しようとした。その結果、内乱を招き、自滅したのだ。

今の私(ローザ)から見れば、当然の結果だろう。

 

もっと早くにエドに出会っていれば、あのような結果にならなかっただろう。

いや、あの過程があったからこそ、こうしてエドに出会い、結ばれる事が出来たのだ。

 

 

ふと思う事がある。

ベッドから目を覚ませば、あの8年半前の戦争の真っただ中に戻るのではないかと……今のこの生活は全て夢ではないかと。

 

それは今の私にとって何よりの恐怖だ。

 

私は、隣で寝息をたてるエドの寝顔を覗きこみ、エドの腕を抱きしめる。

エドの温もりと鼓動を感じれば、今が現実だと安堵する。

 

私はこの温かな日々が永遠に続く事を願わずにはいられないのだ。

 





次で一度終了いたします。

その後は、思いついたら書いちく予定です。
一応終了後に一話分だけ構想しております。

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