なんか、ハマーン拾っちまった。   作:ローファイト

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⑦リハビリ開始

宇宙世紀0089年10月中旬

 

ハマーンは漸く体を起こせるぐらいに回復する。

しかし、相変わらずツンケンした態度で、名前を名乗らない。

ワザとらしく俺がつけた仮名のローザって思いっきり呼んでやってる。

 

最初にリゼに会わせた時は、流石に目を丸くしていた。

やはり、リゼ…いや、クローン体であるリゼの母体となった人物を知っているようだ。

俺の妹の顔に見覚えでもあるのか?って言ってやったら。

「他人の空似だ」とそっけなく答えやがった。

 

リゼには着替えや体を拭く等を身の回りの世話をやらせているが、大きなトラブルはなかった。

まあ、ハマーンは体がまともに動かせないからな。

 

リゼから様子を聞くと。

リゼの言う事は素直に従うようだが、声を上げて話すことは無い様だ。

頷くぐらいの事のようだ。

まったく、愛想が無い事で…、ちょっとは礼やら褒めたりしろよな。

それでもリゼは、ちゃんとハマーンの世話を焼いている。

 

一応リゼにはそんなハマーンの事を、まだ自分の事をちゃんと思い出せないようだから、根気よく見てあげてくれと頼んだ。

リゼは笑顔で了承してくれた。いい子だ。

 

最近はポツリポツリとだが、ハマーンからリゼに質問をする事がある様だ。

態度はツンケンしてるようだがな。

今は何年何月だとか、ここはどこだとか。

あたりさわりのない情報収集だろうな。

生き残ったハマーンの部下なりが、ここを探し当てて迎えに来ないのをいぶかしく思っているのだろうか?

 

残念ながら、ネオ・ジオン本体は壊滅状態だ。

サイド3も元通り連邦の管理下に戻り、ネオ・ジオンの本拠地だった資源衛星アクシズも連邦に接収されている。

残党は各地に散らばってるようだがな。

そんな状態で、この場所までたどり着くのは無理だろう。

連邦施設に秘密裏に幽閉されてるなんてのは、結構真実味があるかもしれんが。まさか新サイド6の片田舎のここに居るなんて、予想外もいい所だろう。

しかも、既に世間では大々的に死んだことになってる。

あれから10カ月経ってるからな、ハマーンの死を信じず探してる部下もそろそろ諦める頃だろうし、残党兵の中から新たに指導者の椅子にすわった奴がいるだろう。

既に暫定的に代替わりを終わらせているはずだ。

逆に言うと、今更ハマーンが生きて見つかったなんて事になったら、新たな指導者はどう思うだろうか?

ハマーンの事は邪魔でしかないと思うだろう。

よっぽどのハマーン信奉者じゃなけりゃ、普通はそうだ。

逆に生きて見つかったと知れると、暗殺されかねない。

 

一応、ハマーンの事は一年戦争で死んだハズの下の妹が見つかって、看病しているという設定を考えていた。だから下の妹の名前をつけてやった。まあ、結構躊躇はしたんだがな。

悪人に死んだ妹の名前なんてよ。

今の所、わざわざそれを周りに知らせていない。

ハマーン自身、病室から出る事もままならないし。今の所大人しくしている。

 

 

「よお、ローザ!調子はどうだ」

 

「………」

ベッドに上半身を起こし、窓の外の風景を見ているハマーン。

ここから見える風景なんて、農地しかないがな。

挨拶しても相変わらず返事もしないし、目を合わせもしない。

はあ、いい加減ちょっとは、軟化してもいいんじゃないか?

一応俺、あんたを治療してる医者だぜ。

そういう態度を取っているが、俺の治療やリハビリにはちゃんと従うんだよな。

飯も昼食はリゼが学校に行ってるから、俺が口に運んでやってるが、ちゃんと食うしな。

この態度がこいつの素なんだろう。

一体どんな教育を受けたらこうなる?

表情もこう、なんていうか、氷の彫刻みたいに堅いしな。

前途多難だな。

 

「今日もリハビリだ。手の平と足の裏の末端の神経に刺激を与え筋肉を直接ほぐすぞ。全身の電気治療はリゼに帰ってからやってもらう、もうちょっとで自分で飯ぐらい食えるようになる」

 

「………」

 

俺は何時ものように、ハマーンの左手を取り手の平を揉みほぐす。

 

「くっ……」

俺が最初に左手を取ると、ハマーンは俺を睨みつける。

何時もの事だ。いい加減慣れてくれ。

 

「なあ、あんた。身内はいるのか?あんたの帰りを待ってる人ぐらい居るだろう」

俺はハマーンの手の平を揉み解しながら、ワザとこんな質問をする。

素性の分からない患者や記憶があやふやな患者に対してであれば、普通の行為なのだが……俺は既にこいつの素性を知っていてこんな質問をしたのだ。

 

「………」

 

「また、だんまりかよ。……記憶喪失ってわけじゃないんだろ?あんたの態度を見ていればわかる」

 

「貴様には関係ない」

漸く口を開いたらこれだ。

 

「まあ、そうなんだろうが、こちとら医者なんでね、患者の心のケアも仕事の一つなんだよ」

この態度は微妙なんだよな。待ってる身内が本当に居ないかもしれん……だが誰か居てほしいと思ってる?いやそう言う願望だろうか?カウセリングは結構得意な方だが。わかりづらいな。

 

「………」

 

「音楽はこれでいいか?モーツァルトのままで」

かすかに病室に流しているバックミュージックの選曲について聞く。

 

「…ああ」

どうやらモーツァルトが気に入ったようだ。

いや、もっとこうベートーヴェンとかそんな感じのを聞くイメージがあったのだが。

 

「そうか」

そう言えば、ネオ・ジオンについてとか、世界情勢とか一切聞いてこないな。

軍人や軍の上層部だとバレないようにしているのか?

ハマーンってバレてないと思っているのだろうか?

その可能性があるな、意外と俺らのような民間人については疎そうだしな。

お嬢様育ちって感じはする。

その態度は改めろとは今更言わんが、何にしろ、もうちょっとこうあるだろ?

 

「ふっ……」

何故か俺はちょっと笑ってしまった。

 

「何が可笑しい」

ハマーンはやはり俺を睨んでくる。

 

「ちょっとな、なんでもねーよ」

いや、なんていうかな。

あのカリスマの塊みたいな女が、ちょっと抜けてる所があるんじゃないかと思うとな。

俺はそう言いながら、次にハマーンの右手の平をほぐしていく。

 


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