11月初旬
個室病室のツンツン患者(ハマーン)はリハビリが進み、自分で飯を食えるぐらい回復した。
病室すぐ横のトイレには何とか手すりと松葉杖を使って行けるようにはなったが、足元はおぼつかない。
リゼがいるときは、トイレまでリゼに手伝ってもらってるが、俺には手伝えとは絶対言わない。
まあ、下の世話はリゼがずっとやってたから今更なのかもしれん。
リゼの提案で夕食だけ、ハマーンの病室で俺らもとる事にしてた。
「お姉ちゃん一人は可哀そうだから」ってリゼが言うもんだからな。本当にいい子だ。
ハマーンは嫌そうな顔をしていたが、リゼが懇願するかのようにお願いし「好きにしろ」という言葉を引き出し、今に至る。
相変わらずの氷の彫刻のような表情だが、皆で飯を食うと美味いからな、少しは表情も柔らかくなるだろうことを期待する。
それと俺はある決断をする。
一つは、近所や近しい知り合いには、ハマーンを一年戦争時に死んだと思っていた下の妹で、さらに重い病気だという設定で、伝えておく。
外に知られるリスクはあるが、ずっと部屋に閉じ込めておくわけには行かないし、リハビリが進めば歩けるようになる。そうなると何れ知られる。
何れ知られるぐらいならば、そう言う設定を浸透させておいた方が皆納得してくれる。
勘のいい連中は気が付くかもしれんが、多分告げ口するような奴は居ないと、信じたい。
はぁ、やっぱあの美人顔は直ぐバレるよな。変装させた方が良いか。
これは後程考えよう。
もう一つはハマーンの個室病室にテレビを置く事にした。
ニュースや報道番組で、現在の世界情勢、そしてネオ・ジオンが壊滅した事を知ることになるだろう。
そして、ハマーン自身が戦死した事になってることもだ。
否が応でも、現実を知る事になる。
新サイド6は一応連邦よりのサイドコロニーだから、テレビ番組も連邦の正義を讃え、一方的にネオ・ジオンが悪党扱いされる事が多い。
番組によっては、連邦軍の一部であったティターンズが行って来た悪行など始めから無かったのように、ジオンからネオ・ジオンの数々の悪行をこれ見よがしにアピールして来る。
偏った情報とは言え、テレビはハマーン自身が今置かれてる状況を理解するには十分だろう。
時間はたっぷりある。自身の過去を振り返り、自分が仕出かした所業について考える事が出来るかもしれん。
もしかすれば、今後の自分の身の振り方をも考える事もな。
夕飯時はリゼも居る事だし、テレビをつけないようにしてやらないとな。
ニュース番組なんか付けて、ネオ・ジオン特集なんてやっていたら、リゼや俺の居る前では、ハマーンも流石に気まずいだろう。
いや、俺が気まずいだけか。
それにだ。
リゼは賢い子だ。この病室でお姉ちゃんと呼んでる相手が、テレビで話題になってる死んだはずのネオ・ジオンの最高指導者ハマーン・カーンだと気が付いているかもしれない。
ただ、それを口にだしたらいけないと思っている可能性もある。
リゼには折見てちゃんと話し合った方が良いとは思っている。
宇宙世紀0089年11月中旬
テレビをハマーンの部屋に添えつけてから、一週間が経った午後2時頃だった。
日課の診断とリハビリに訪れた俺に、珍しくハマーンから声を掛けて来たのだ。
「なぜ私を生かした」
「あ~、医者だから?」
俺はワザととぼける。
「……何故だ?貴様は分かっているはずだ」
「おいおい、貴様って俺は一応あんたの先生だぜ。もう3か月だっつうのに、いいかげんツンケンすんなよな。ドクターエド、エド先生とかって敬意を払って呼んだらどうだ?町の連中はそう呼ばねーけどよ。エドでもいいぞ。あれだ。お兄ちゃんでもいいぜ」
俺はどこまでもおどけてみせる。
「ふざけるな!」
ハマーンは威嚇するかのように俺を睨みつける。
「わかったよローザ……いや、ハマーン・カーン」
俺は真面目な顔でこう答えてやった。
こうなる事は予想していた。テレビをこの病室に置いた段階でな。
ハマーンは毎日、食い入るようにテレビを見ていた。
自分の置かれている状況も知り、一週間色々と考えたのだろう。
それで俺にこの質問だ。
「くっ……貴様、それを知っていて何故私を助けた!何が目的だ!」
「だから言っただろ?俺は医者だ。傷ついた奴を見れば助ける」
「茶番はいい!」
「たまたま、あんたの脱出ポッドが俺が操縦する医療船舶に突っ込んできて、虫の息だったから助けた。それが事実だ」
「………」
ハマーンはさらに俺を睨む。
「最初は、あんたが誰だか分からなかった。顔がパンパンに腫れてたからな。だがネオ・ジオンの兵士だという事だけは分かっていた。大きな病院に入れれば、あんたはまともな治療も受けられずに連邦の連中に引き渡され尋問されるだろう事は分かっていた。だから俺の診療所で治療したんだ」
「……貴様は……ジオンのゆかりの者なのか?」
「ちげーよ。ジオンは大っ嫌いだ。この旧サイド4を壊滅させ、俺の両親と妹達を殺した」
「ならば、なぜだ!私の事を分かった時点で連邦なりに引き渡さなかった!」
「俺は連邦も同じぐらい大っ嫌いなんだよ。あいつらのやり方もな。戦争する奴は全部嫌いなんだよ。戦争を長引かせたハマーン・カーンって悪人もな!」
「くっ……」
ハマーンの表情が歪んだ。
「言い過ぎた。……だがな俺の心情はそうだ」
「なぜ生かした!私はあの時に死ぬべきだった!」
「知らねーよ、そんな事。あんたがハマーンだろうが誰だろうが、助かる命を助けた。たまたま拾った命がハマーン・カーンだっただけだ」
「私を殺せ……」
「なんで医者が自分の患者を殺さなきゃならない。確かに医療には一つの命を助けるためにもう一つの命を諦めなくちゃいけない時もある。だがな今は究極の選択を迫られてる状況じゃねー。だからあんたは、俺の患者である限りは死なせねーよ」
「なぜだ?」
「俺にもわかんねーよ。ただ、あんたが生きて、自分のやって来た事を振り返る時間は作ってやろうとは思っただけだよ」
「くっ……」
ハマーンは苦悶の表情を浮かべていた。
「とりあえず、あんたが元気になるまでは俺の患者だ。誰にも引き渡すつもりも無いし、死なせやしねーよ。そんな事をしたらリゼが悲しむしな」
「………」
「どうしても気にくわねーってんなら、勝手にどこへなりとも行けばいい。もう少しすれば、ちょっとは歩けるようになる。だがな、リゼや俺にちょっとでも何らかの気持ちを持っていてくれるなら、リハビリを終えるまで大人しく俺の患者でいろ。いいな」
俺はそう言って病室を出て行った。
自分自身の心を落ち着かせるためにな。
俺自身、頭に血がのぼってるのは分かっていた。
殺せだとふざけやがって。その言葉が一番気にくわなかった。
少々落ち着いたところで気が付いたが、わけわからんねー事やら、キザったらしいことを言っちまった。
しかも、結構きつい事を言ったよな。我ながら大人げなかったか?
よく考えたら、ああ見えてハマーンはまだ22歳の小娘同然なんだよな。
大学卒業するかしないかの年だ。
はぁ、何であんなことを言っちまったんだ?ろくに歩くことも出来ない弱った人間にだ。
最低だろ。…マジで無理して出て行ったらどうしようか?
今から、やっぱりさっきの言った事は無しって、訂正したほうがいいか?
ああくそっ!俺もまだまだガキってことかよ!
遂にハマーンとエドが言い争いに……
ハマーンの感情は……弱ってる感じで……
エドの感情がちょっと支離滅裂でいっぱいいっぱいな感じで書けていたらいいなと。
自分の感情に翻弄されてる感じですかね。
連続投稿です。