誤字脱字報告ありがとうございます。
それでは続き。
「男共はもうちょっとましな自己紹介できない?イーノくらいかな。こんなに女性陣は美女ぞろいってめったにないのにさ。うーん、まあいっか。そんじゃ女性陣はオードリーから自己紹介よろしく」
男性陣の自己紹介を終えた段階で和気あいあいとした合コンの様そうは期待できそうもない雰囲気だった。
ジュドーはそれでもそのまま女性陣の自己紹介へと移す。
「はい、わたくしはオードリー・バーンと申します。現在25歳。マリーダ姉様とクェスとは家族で、クェスとは双子の姉妹のように過ごしてきました。現在は大学院で政治の研究を行いながらここ15番コロニーにて法律事務所を開いております。……それと、その……バナージとは恋人の関係です」
オードリーは何時もと変わらない清楚なブラウスとスカートを着込んでいた。今日のコーデは市販品ではあるがオードリーが着こなすと何故か高級感を漂わせる。
そのオードリーは凛とした声色と仕草で自己紹介を行うが、最後の方は頬を少々赤らめ気恥しそうにバナージとの恋人関係を語る。また、その仕草が絵になる。
「なにこれ、甘いとかさ初々しさとかさ、マジで羨ましいんだけど。ふう……次、クェスよろしく」
ジュドーはオードリーとバナージの仲睦まじい雰囲気にあてられ、一度深呼吸をし、クェスに自己紹介を促す。
「私はクェス・ヘイガー、25歳。ヘイガー診療所の医師エドワード・ヘイガーの長女よ。さっきオードリーが言ったようにマリーダ姉とオードリーと、そうねバナージも家族よ。今はオードリーの法律事務所で秘書をやってるわ」
素っ気ない自己紹介を行うクェスは何時ものジーパンにシャツ姿だった。
そんな軽い感じのコーデなのだがスタイルもいい美女のクェスが着ると何故か映える。
ギュネイとハサウェイは言うまでもなくそんなクェスに見とれていたが、クェスがバナージを家族呼びすると同時にこの二人はバナージへ鋭い視線を向ける。
「クェス、それだけ?もっとこうあるじゃん。歌もうまいし、モビルスーツも乗れるでしょ?」
「それは趣味みたいなものよ。特に言いふらすようなものじゃないわ」
ジュドーはそんなクェスに注文を付けるが、クェスは相変わらずである。
「うーん、まあいっか、後でその辺の話もしてもらうとして、そんじゃ次はマリーダで」
ジュドーは盛り上げようとしたのだが、クェスのノリがいまいち悪いため、早々に切り替え、次のマリーダに自己紹介を促す。
「私か……、私はマリーダ・クルス。28歳だ。先ほどオードリーやクェスが話した通り、バナージ共々家族だ。カークランド・コーポレーション中距離輸送部門、ガランシェール編隊所属、有事の際はバナージと同じくスレイブ・レイス第三ユニットの隊員だ。……私はこのような場に慣れてなくてな、何を話せばいいのかわからない。お手柔らかに頼む」
少々戸惑い気味のマリーダは、姉のリゼがデザインした動きやすさと清楚さを兼ね備えた外行用のシックなパンツスーツを着用している。
この合コンはマリーダの為にセッティングされたものだった。
マリーダは過去の出来事で未だに男性との接触を避ける傾向があり、男性との付き合いは家族とガランシェール隊とだけの狭い間で完結してしまっていたのだ。
それに見かねたトラヴィスやアンネローゼは、少しでも男性慣れをさせておきたいと、お節介を承知でこんな席を、ジュドーを巻き込んで設けたのだった。
エドは男女の関係等この辺のことはどうも鈍感で、そのうち何とかなるだろうと特に問題視していなかった。
そこでジュドーが対マリーダ対策として用意したのがイーノだったのだ。
全年齢の女性に好感度が高いイーノであれば、マリーダの男性に対する嫌悪感を少しでも緩和できるのではないかと、イーノにもある程度事情を説明していた。
それを聞いたイーノはイーノで、あのプルの姉妹の生き残りであるマリーダに対して、何とかしてあげたいという純粋な思いがあった。
「マリーダには、そっくりな双子の姉さんがいるんだけどね。姉さんの方はかなり社交的で、今年結婚するんだ。でも、マリーダはこういう場に慣れなくてね、男共はほんとお手柔らかに。さあ、次はリィナ」
ジュドーはマリーダについて捕捉し、次にリィナに自己紹介を促す。
「リィナ・アーシタ、28歳です。そこのひょうきんな人の妹です。今はカークランド・コーポレーション総務部門所属で本社受付を行ってます。今年の秋にサイド1に戻って、カークランド・コーポレーションシャングリア支店の支店長として着任する予定です。マリーダとは前からの友達で、最近はチェーミンとも友達になりました。一応彼氏募集中です。お兄ちゃんみたいなガサツじゃなくて真面目な人が好みです」
少々童顔気味のリィナは淡いベージュのブラウスにロングスカートと大人の女性を演出するコーデに身を包んでいた。
ジュドーはこの場にリィナを呼んだのは何もマリーダの為だけでは無かった。
ジュドーはリィナに好きな相手と幸せな未来を掴んで欲しいという思いが強い一方、リィナが何処とも知れない馬の骨と付き合うのは良しとはしなかった。
初めて大学生時代のリィナに彼氏を通信で紹介された時は、ジュドーはかなり不貞腐れていた。
そこでイーノだ。
イーノは対マリーダ対策だけでこの場に呼んだというわけではなかった。
出来ればリィナとくっ付いて欲しいという思いがあったのだ。
イーノならばリィナを預けても兄として安心できると。
「……リィナ…それはないでしょ、お兄ちゃんいじけちゃうんだけど。うちの妹はしっかりもので、兄の俺は全く頭が上がらない。彼氏になりたい奴は気をつけて、そんじゃ次はチェーミン」
ジュドーはワザとらしくいじけた顔をするが、直ぐに何時もの陽気な雰囲気でチェーミンに自己紹介を促す。
「わ、私はチェーミン・ノア23歳です。昨年大学を卒業して、今は料理の専門学校に通ってます。週に2回、アルフレッドという洋菓子店でお菓子作りのアルバイトをしてます。前に座る兄の妹です」
チェーミンは腰の右部分に大きなリボンをあしらった淡い水色のワンピースを着ていた。
こういう場に慣れてないチェーミンの為に、ミライが選んだ若々しさと可愛らしさをアピールするコーデだった。
どうやらチェーミンは緊張気味で、本当にこういう場は初めての様だ。
チェーミンはブライトがレストランを開く話を聞いて、父のレストラン開業の助けになろうと、料理専門学校に通い出したのだ。
元々、大学を卒業しロンデニオンのコロニー港湾局の事務方公務員として就職していた経緯があったが、180度の方向転換だった。
料理好きもあって、今は意気揚々と専門学校に通っている。
しかし、チェーミンは兄であるハサウェイとの関係に悩んでいた。
幼い頃は仲がよかったのだが、第二次ネオ・ジオン紛争以降、中高生時のハサウェイはふさぎ込んでおり、兄妹らしい会話は殆ど無かったようだ。
ハサウェイが大学入学以降は離れて暮らしており、兄との接点はほぼ皆無となった。
父ブライトは元々軍務に忙しく家に帰る事は少なく、実質母ミライと二人で暮らしていたと言っても過言では無かった。
今になり、ハサウェイは普段は住み込みで農場に働いてはいるが、週末には家に帰って来るようになり、ようやく接する機会が出来た所なのだ。
しかも、その実兄が世界を揺るがすテロリストのリーダー、マフティー・ナビーユ・エリンだった事実も未だに消化しきれていない。
だが、兄ハサウェイのせいで家庭が滅茶苦茶になったと恨んでもいいものの、チェーミンはハサウェイに対しそんなに負の感情を抱いてはいなかった。
ある意味、セイラとシャアの関係にも通じるところがあるが、母ミライのお陰でそこまでの激しい感情は生まれなかった。
それは母ミライが陰ながら、いろいろとチェーミンには不自由させない様にと気を使って来たからだった。
だからと言って、今まで接点が薄く、しかも世間を騒がせたテロリストだった兄と、仲睦まじくとは行くはずも無かった。
チェーミンとしては兄ハサウェイとどう接していいのか距離感がつかめない現状は、致し方が無いだろう。
実はジュドーはミライから、兄ハサウェイとの関係に悩むチェーミンの状況も聞いていた。
ミライはこの機会にハサウェイとの関係も少しでもいい方向に向かってくれればという思いもあったのだ。
だが、その肝心のハサウェイは、御覧の通りクェスの事で頭がいっぱいだ。
この合コン、名目はジュドーが部下と知り合いの顔合わせのための懇親会だが、実際はいろんな思惑が交差して実現しているのだ。
逆にアンジェロとギュネイは数合わせ程度のハズだったのだが、この二人からもジュドーの予想外な関係性や事情が現れる。
アンジェロはどうやらバナージと遺恨があり、下手をすると元ジオンの姫君であるオードリーにも何やら感情があるのかもしれない。
ギュネイに至ってはクェスに一辺倒で、明らかにハサウェイをライバル視し、家族と名乗りを上げてるバナージにも鋭い視線を向けていた。
元々無茶のある合コンが更にカオスと化する現状に、普通の幹事であれば胃のあたりがシクシクと痛み、額からは脂汗が流れるだろうが、肥大するニュータイプ能力にも取り込まれずどんな苦境にも並外れた精神力で打ち勝って来たジュドーは「まあいっか」と相変わらず軽い感じで何とかなるだろうとこの無茶な合コンをこのまま進めるのであった。
次回、遂にカオスな合コンの序章が終わり、遂に本格開始。