なんか、ハマーン拾っちまった。   作:ローファイト

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閑話 合コン再び その4

様々な思いが犇めくこの合コン。

男女共にお互いの自己紹介を終えたのだが、やはり場の空気が少々重い。

但し、ジュドーの目の前のオードリーとバナージだけは別だが……。

 

「ジュドーさん、ご質問よろしいでしょうか?」

「何オードリー?畏まって?」

オードリーが女性陣の自己紹介を終えると同時にジュドーに質問を投げかける。

 

「この懇親会は所謂合コンだとお聞きしていましたが、今回は随分と少人数なのですね」

「ん?合コンって普通はこんなもんじゃない?あんまり多いと唯の宴会みたいになっちゃうし」

「そうなのですか?その学生時代は何時も大人数で、50人以上は……」

「え?何?オードリー、どういう事?」

オードリーとジュドーはお互いの認識に首を傾げていた。

確かにジュドーの言う通り、合コンは大人数過ぎると男女間の纏まった話になりにくく、唯の宴会の様相になりやすい。それか明確な目的をもって開催する婚活パーティならまた別の話なのだが……。

 

「久々にオードリーの天然発言でたわ」

「ジュドーさんすみません。オードリーとクェスが大学時代に行った合コンなるものは、大概、オードリーとクェス二人に、それ以外の男性連中が50人以上集まって来るんです。その時は俺も介入して、オードリーとクェスと話すのは一人30秒とかルールを決めたりして、男達の暴走を抑えるのが大変でした」

「何それ?それ合コンじゃないよね。どこのアイドルの握手会よ?」

クェスはオードリーの発言に苦笑し、バナージがその説明をジュドーに行う。

学生時代、オードリーとクェスが合コンに参加するとなると、女子達は自然と参加を辞退し、男共が有象無象に湧き集まり、こんな事になってしまうのだ。

ジュドーのアイドルの握手会という表現はあながち間違いではなかった。

 

ギュネイとハサウェイはこの話を耳を大にして、恨めしそうに聞いていた。

 

そんな中、ホールスタッフが前菜をテーブルに並べて行き、各グラスにワインが注がれる。

「今日は存分に料理を堪能して頂き、楽しい一時をお過ごしください」

渋い中年の料理長らしき人物がそう言って、お辞儀をし、個室から静々と退出する。

 

「あーっ、一応言っておくけど今の人、ヴィンセントさんといってうちの会社の会長の息子さんだから、ここで騒ぎを起こしたら不味いぞ。特にアンジェロとギュネイ。しかもあの人、一年戦争時も特殊部隊出身の凄腕パイロットで、元ネオ・ジオンの佐官だったらしいから、お前たちの大先輩だからな」

ジュドーは退室際の料理長に軽くお辞儀をしてから、アンジェロやギュネイに向かって忠告する。

 

「「………」」

アンジェロとギュネイはさして興味が無いのか返事もせずに沈黙したままだった。

 

「ヴィンセントおじさんは、いい人よね。優し気でパパとも仲がいいし」

「そうですね。奥様のクロエさんもとても優しい方です」

「クロエさんも昔は凄腕のパイロットだったと聞いたことがある」

「とてもそうには見えないがそうらしいな。クロエさんはアンネローゼ社長とローザ姉さんとも仲がいい。たまに一緒に食事に誘われる事があるが、独特の雰囲気があるお方だ」

クェスとオードリー、バナージとマリーダはヴィンセントとクロエの話題で話が広がりだし、さらにリィナとチェーミンもこの話に加わり、女子陣+バナージだけで身内話で盛り上がり始める。

 

 

「はははっ、うーん。まずいな……そんじゃ、とりあえず定番の好きな事とか得意な事や趣味は何かある?男性陣からバナージはもういいかな、アンジェロ!おっと、ビームライフルとかファンネルとかそう言うのはいいからな」

ジュドーもこの雰囲気は合コンとしてはかなり不味いと理解し、流れを変えるために話題を振る事にする。

ジュドーがバナージをとばしたのは、バナージの話題で身内連中がそれに乗っかり、また身内だけで盛り上がる可能性があるからだ。

それと、ニュータイプの勘なのか、得意な事で兵器群を名指しにすることは非常に不味いと感じ、禁止した。

 

「ない」

アンジェロは素っ気なく一言で答える。

 

「無いってことは無いじゃん。植物とか育ててるんだろ、花とか?ルーが薔薇の花を貰ったと言ってたぞ」

 

「ふん、薔薇や観葉植物は支部長室に置くためのものだ。お忙しいフロンタル支部長に一時でもリラックスしていただくためだ。趣味というわけではない。ルー隊長に渡したものは新しい品種の出来栄えを聞くためだ。他者の意見も時には必要だからな、特に香りは重要だ」

 

「……アンジェロ、品種改良って趣味の域超えてない?どんだけその支部長崇拝してるんだよ」

ジュドーはアンジェロに掘り下げて聞いたのは失敗だったと後悔する。

ジュドーは引きつった顔をするがクェス以外はそれ程引いてはいなかった。

今のところは……

 

「ふう、イーノは最後にして、ギュネイは趣味とかなんかある?」

ジュドーは真面な言動をするだろうイーノを最後に取っておくために、他の期待できない連中に先に話題を振る。

 

「そんなものは無い」

ギュネイもアンジェロ同じく、素っ気なく答える。

 

「好きな物ぐらいあるだろ?ハマってるものとかさ、普段からルーチンになってる事とか、何でもいいんだけど。あれ?あるのか?なんかなんにも無さそうだなギュネイ」

ジュドーは掘り下げようとするが、残念な物を見るような目でギュネイを見つめる。

ジュドーはギュネイと知り合ってから6年以上たつが、ギュネイが仕事以外で趣味や何か打ち込んでるような姿を見た事も聞いた事も無かった。

 

「バカにしてるのか?ふん、趣味とまではいかないが最近散歩に行く機会が多い」

 

「へ~、ギュネイが散歩ね、意外だな。ウインドウショッピング?それとも健康のためとか?16番コロニーの運動公園あたり?」

 

「休日はもっぱら15番コロニーへの散歩だ。丁度街外れの農業区域との境目辺りがベストだな」

 

「………それエドさん家の診療所近くじゃん」

どうやらギュネイは休日の度に、エドの診療所周辺をうろついているようだ。

勿論、クェス目的である事はジュドーも今日のギュネイの言動から理解する。

それにしても、よく今迄ハサウェイと出くわすことなく過ごせたものだ。

 

「一時通院していたからな、たまたま偶然風景が気に入っただけだ。たまたま偶然だ。特に意図はない」

ギュネイは平然と断言する。

クェスはやはり目茶苦茶引いていた。

 

「………もういいや、これ以上聞いたら、軍警にお世話にならないといけない気がするから……次、ハサウェイよろしく」

ジュドーは背中に冷たい物を少々感じながら、次にハサウェイに話題を振る。

 

 

「僕は、クェスの笑顔を見る事かな?」

ハサウェイはストレートにそう言って、クェスに笑顔を向けた後、隣のギュネイにはどや顔を見せる。

 

「くっ、こ、こいつ!俺だって!」

「まあまあ」

ギュネイは拳を戦慄かせ、席を立ちハサウェイを掴みかかる勢いだったが、隣のイーノが微笑みながらギュネイの肩にポンと手を乗せると、ハサウェイを睨みつけながらではあるがギュネイは席に座る。

流石はイーノ、あの癖のあるガンダムチームを影から支えて来ただけのことはある。

この手の扱いは手慣れたものだ。

 

「はぁ~、あんたね。いつも思うんだけどよく恥ずかしげもなくそう言う事言えるわね」

クェスはクェスでハサウェイに呆れる。

ハサウェイは誰の目を憚ることなく、だいたい何時もこんな感じでクェスに接しているのだ。

その辺は、さすが元マフティーのカリスマと言ったところだろう。

ギュネイとハサウェイはクェスへの攻め方は似ているが内容は全く異なっていた。

二人共、本人にストレートに好意を言葉にする事は同じだが、ギュネイは愚直に本人に告白の一辺倒、ハサウェイはあの手この手でエドの家族の前でもクェスへの好意を口にし、外堀まで埋めようとする作戦を実施しているのだ。

クェスと同じ屋根の下に住むバナージに対しても腹に一物を抱えるが、顔を合わせれば表向きはフレンドリーに接している。まあ、隠しきれてはいないが……。

 

ギュネイはハサウェイを睨み、ハサウェイは笑顔で返すが目は笑ってない。

 

「………兄さん」

そんな兄の姿にチェーミンは気恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。

あの兄が、まさか外ではこんな感じだったとは……。

 

「ここで刃傷沙汰はやめて、お願いだから……もういいや。次、イーノ」

ジュドーは投げやり気味にイーノに振る。

 

「僕はケーキを焼く事かな。仕事が忙しくて中々家で出来ないから、ホテルの厨房を借りたりしてね。この頃はもっぱらパウンドケーキだね。手軽にできるしね」

イーノは爽やかな笑顔を女性陣に向けながらそう話す。

ジュドーは内心イーノにナイスと声を上げる。

イーノは昔から料理をするのが得意であった。

また、ガンダムチーム時代は、食事の用意はイーノの役割の一つでもあった。

 

イーノのこの話には、今迄たいした反応がなかった女性陣は「へ~」だの「ふむ」だの「素敵ですね」などと、興味を示す。

 

「そう言えば、マリーダもケーキとかお菓子を作るよね。チェーミンもミライさんとよく家でお菓子を作るとか」

ジュドーはここだと言わんばかりに、すかさず女性陣に話しを振る。

 

それに最初にマリーダが答え、それが切っ掛けに女性陣の会話が弾みだす。

「私は甘いものが好きだからな。5年前までお菓子料理の専門学校に通っていた」

「マリーダ姉様は家でもよくケーキやお菓子を焼いてくださいます」

「そうね。マリーダ姉は特にアイスが好きよね。あのバニラアイスは絶品ね。お店に出してもいいぐらいよ」

「マリーダと遊びに行くときは、ケーキやアイスで有名なお店をチョイスするわよね。お兄ちゃん、私もお菓子作るわ、クッキーが多いけど。そう言えばチェーミンもクッキーをよく焼いてくれるわ」

「はい、私はクッキーなどの焼き菓子をよく作ります。今はお父さんが開くレストラン用にパンケーキを練習してます」

 

「マリーダさんはバニラアイスが好きなのかな?僕の昔の知り合いにアイスが好きな子が居てね。とても美味しそうに食べるんだよ。懐かしいな」

イーノは微笑みながらマリーダの顔を眺め、何かと一緒に行動したり世話をしていたプルの顔を思い出していた。

 

「オードリーとクェスもお菓子とか料理とかするのかな?」

会話が盛り上がりだしたのを見て、すかさず会話を回すジュドー。

 

「何?私が出来ないとでも思ってるのかしら?失礼しちゃうわ。元々家は食事全般が当番制なのよ。妹達が生まれてからはローザ姉がメインだけど、手伝いは今も当番制よ。私はサンドイッチには自信があるわ。それに今は妹達の為にデザートのゼリーとかプリンとかも作るわよ。マリーダ姉のような凝った物は出来ないけどね」

「はい、学生時代からお弁当を作って来ましたので、わたくしも自然とサンドイッチが得意になりました。今はバナージが好きな煮込み料理をよく振舞ってます」

ジュドーに振られた話題にクェスとオードリーは興味を持って答える。

 

「そうなんだ。クェスって意外と家庭的なんだ。オードリーって完璧なのね。何か不得意な事ってないの?ここの女性ってみんな料理出来るんだね。羨ましい。ルーにもちょっとコツを教えてやってほしい……俺の為にって、頑張ってくれてるんだけど……。そりゃ嬉しいんだ。でもな~、アレだし、頑張ってるんだけどな……。……という事はバナージも?」

どうやら、ジュドーは新婚生活で深刻な問題を抱えているようだ。

 

「俺は元々母子家庭でしたから料理は出来ましたし、ここに来てからはエドおじさん直伝の簡単料理をよく教えて貰いました」

 

「そう言えばエドさんも料理するんだよな。前に何かの時に作って貰ったし……で、アンジェロはどうよ?」

ジュドーはこの会話に加わっていない男連中にも話題を振る。

 

「ふん。造作もない。激務でお忙しい身のフロンタル支部長の為に朝食から夜食の用意も完璧だ。支部長の体調管理の為に、厳選した無農薬素材にカロリーと栄養価計算、味はもちろん一時を優雅に過ごして頂くために見た目も大事だ。むしろ食事は一番手が抜けないところでもある」

アンジェロは腕を組み目を瞑りながら、当然だと言わんばかりの言い方だ。

 

「ぶ、ぶれないよなアンジェロは……理由は超引くけど、料理は出来るんだ。そんじゃギュネイとハサウェイは……」

ジュドーはアンジェロの言動に引き気味に、次にギュネイとハサウェイに話題を振る。

 

「…………」

「…………」

皆の注目の視線が集まる中、二人は沈黙を守ったままだ。

 

「なに?あんた達料理も出来ないの?結婚する奥さんが大変ね」

クェスは二人の沈黙の意図を察し、ため息交じりに呆れたように言う。

 

「…………ぐっ!」

「う……うう」

ギュネイとハサウェイはそのクェスの言葉のナイフが深く胸に突き刺さる。

 

「まあ、俺も得意じゃないんだけど、ここの女性陣やイーノやアンジェロが特殊だと思った方が良いし、ルーもやってくれるけど、アレだし」

ジュドーはそんな二人を見かねて慰めた。

 

そんな中、ハサウェイは正面のチェーミンに顔をよせ小声でこんな事をお願いする。

「チェ、チェーミン、今度家に帰った時でいいから料理教えてくれない?」

 

「え?うん、いいよ。お母さんにもお願いしておくね」

「ありがとうチェーミン」

チェーミンは兄ハサウェイの意外な申し出に驚いた顔をするが、微笑みながら了承する。

 

「貴様、抜け駆けとは卑怯だぞ!ぐっ」

ギュネイはそんなハサウェイのやり取りを聞き、ハサウェイを罵りながら、自分も何とかしなければと周りをキョロキョロと見渡す。

 

「あ~ギュネイ、ルーはダメだぞ。アンジェロにでも教えてもらえば?」

「断る」

「ぐっ、誰がお前なんかに!」

ジュドーがギュネイに助け舟を出すが、アンジェロは即断った。

 

 

だが、意外なところから助け舟がでる。

「ふむ、クェスはどうだ?」

マリーダだった。

 

「え?マリーダ姉、何言ってるの?」

「クェスの友人なのだろう?料理が出来ない辛さは、料理が出来るようになってからよくわかる」

どうやら、マリーダは今迄の会話で、ギュネイがクェスと仲のいい友人だと判断したようだ。

 

「違うから……はぁ、私がギュネイに料理を教えるとか。そうだ、マリーダ姉が教えれば?それだったら私も手伝ってあげるわ」

「私か?……私は……」

「だったらこの話は無し」

マリーダは逆にクェスに話しを振られるはめに。

マリーダはギュネイの顔をちらりと見て躊躇する。

やはり男性への嫌悪感から、返事をすることが出来ない。

そんなクェスとマリーダの会話に心の中で一喜一憂するギュネイは最後に撃沈する。

 

そこに更に助け船が現れる。

「私で良ければ料理教えますよ。会社の福利厚生棟のキッチンが借りれるし、そこで良かったら今度どうぞギュネイさん」

リィナだ。

リィナの面倒見のいい性格が、困ってるギュネイを見過ごせなかったようだ。

しかも兄の部下でまったくの他人とは言えない間柄だ。

 

「いいのか?」

「リィナ!?」

ギュネイの表情は明るくなる。

ジュドーはまさかのリィナの助け舟に驚いていた。

 

「お兄ちゃんがお世話になってますし、同じ会社に勤めてますし、私がサイド1に戻るまでですけど、やるからにはちゃんと料理覚えてくださいねギュネイさん。マリーダも時間があるときは手伝ってよね。言い出しっぺなんだから。それにクェスもそんなにすげなくしない。クェスもたまには来るように」

「う、うむ。そうだな」

「え~、私も?リィナさんがそう言うなら仕方が無いわ」

リィナはそう言って、結局マリーダとクェスも参加する様相でこの話をまとめたのだ。

 

ギュネイにとって渡りに船とはこの事だ。

「助かる。ありがとう」

ギュネイは自然と感謝を言葉にする。

リィナのお陰で料理を教えてもらえるだけでなく、クェスも一緒にと、リィナに感謝してもしきれないだろう。

 

隣りのハサウェイは言うまでもなくこの結末に焦りを覚える。

 

 

「……なにこれ?意外な展開なんだけど、ルーも混ぜてもらおうかな」

ジュドーはこの意外な展開に唖然とするのだが……。

軽い感じで始めるギュネイの為の料理レッスンだったのだが、カークランド・コーポレーション内で大きな波紋を投げかけることに。

 

 

直ぐに破綻するのではないかと思われたこの合コン、始めの頃に比べるとかなり軟化しつつあった。

あったのだが……後半へと続く。

 




次で合コン終わりですね。

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