なんか、ハマーン拾っちまった。   作:ローファイト

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ご無沙汰しております。
閑話です。
昨年に①は完成していたのですが、ようやく公開に踏ん切りがつきました。
時代背景は、(Twilight AXIS)がベースとなっております。


閑話 ハマーンの忘れ物①

 

宇宙世紀0096年7月中頃

 

カークランド・コーポレーション所属の小型輸送艦は任務のため、とある小惑星に向け航行していた。

 

小型輸送艦の名はガランシェール。

ほんの数か月前まではネオ・ジオン残党組織「袖付き」の麾下にあり、モビルスーツを三機搭載可能な特殊作戦遂行のための偽装輸送艦であった。

だが、3月に起きたラプラス事変後、艦長スベロア・ジンネマン以下乗組員は全員艦船ごとカークランド・コーポレーションへ所属することとなった。

 

 

現在航行中のガランシェールにはゲストが乗っていた。

 

艦長のジンネマンは艦の第二ブリッジに設置したゲスト用シートに座る妙齢の女性に声を掛ける。

 

「ローザ殿、マリーダの容態はどうですか?」

「ジンネマン、それ程気になるのなら病室に顔を出せばいい」

「父親失格なのかもしれませんが……あの子が辛い思いをしている姿を見るのはしのびなく……足が遠のいてしまい」

「術後は良好だ。エドが手術を施したのだ当然だ」

「そうですか、マリーダは皆さんと、その…上手くやってますか?」

「マリーダから毎日のようにメールが送られているのではないのか?」

「そうなんですが、お恥ずかしい話、親子というよりも上司と部下のやり取りが抜けず、内容が淡々とした軍務報告書調でして」

「ふむ、そうか。現状、特に問題はない。リゼもいるのだ。マリーダが暴走するような事はない」

「そうですか……この任務を終えた後、休暇を取り、ヘイガー診療所にお伺いすることにします」

「そうするがいい」

そう、ローザがこの艦に乗っていたのだ。

ジンネマンはローザに、義理の娘となり、現在エドの元で強化処置の後遺症治療のため長期入院し、7月初旬に1回目の手術を受けたばかりのマリーダ・クルスの様子について聞いていたのだ。

 

しかしなぜ、ローザがこの艦に乗っているのか?

 

 

話は1週間前に遡る。

エドの家に、トラヴィス・カークランドが訪ねて来る。

しかし、いつもと少々様子が異なっていた。

このトラヴィスがエドの家に来ること自体は珍しい事もなんともない。

エドとトラヴィスは古くからの友人関係であり、しょっちゅうエドを訪ねて遊びにつれまわしていたのだ。

だが、この日のトラヴィスはエドでは無くローザを訪ねて来たのだ。

カークランド・コーポレーションの社長兼スレイブ・レイスの頭領として。

 

ヘイガー家のリビングで、トラヴィスは神妙な面持ちで対面のソファーに座るエドとローザの夫婦にこう話しを切り出した。

「ローザちゃん、エドも聞いてくれ、実は小惑星モウサが見つかった」

 

「……まさか」

「何だそのモウサって?」

その名を聞いてローザは少々驚いた顔をし、エドは全く聞き憶えがない様子だった。

 

「……モウサは嘗てアクシズに接合していた小惑星であり、アクシズの居住区であった」

ローザは疑問顔のエドに簡潔に述べる。

 

「って、おい、それってお前が育った場所ってことか?」

 

「そうだ。だが……グレミーとの最終決戦でモウサはアクシズから切り離され、当時の我々の拠点であったコア3(コロニー)にぶつけられ、双方破壊されたはずだ」

ローザは少々考え込むような表情でエドの質問に答える。

第一次ネオ・ジオン紛争時、ネオ・ジオンはハマーン派とグレミー派は内部抗争に発展し、血で血を洗う泥沼の戦いへと転じていた。

その最終決戦時に、グレミー派はアクシズの居住区であるモウサを、有ろうことかサイド3のコア3というハマーン派の拠点であるコロニーに直接ぶつけ、破壊するという暴挙にでたのだ。

 

「いや、破壊されたのはコア3だけだったようだ。モウサはどうやらその破壊の衝撃でサイド3宙域を離脱し、この新サイド6があるL5宙域の外延付近に彷徨っていた。破壊の衝撃の影響で表面が一部削り取られているような姿となりはて、今までモウサと確定出来なかった」

 

「ほう。おっさん、そのモウサって小惑星は機能しているのか?」

エドは興味深そうにトラヴィスに相づちを打つ。

 

「外部からの観測では機能は停止状態だそうだ。人の出入りも見られないとある」

 

「ん?まだ、調査隊を派遣してないのか?……という事はだ」

 

「そうだ。ローザちゃんに調査を手伝ってもらいたくてな。これ程アクシズに詳しい人物はいないだろ?」

 

「……はぁ、そう言う事かよ。だからローザか……。調査隊の水先案内人ってことか、これってアレか?連邦関連の依頼か?」

 

「そう言う事になる。依頼者は連邦関連ではあるがその辺は少々ややこしい事になっててな。今回は俺の会社が主体となって調査を行うつもりだ」

 

「おっさんの会社で調査するっていう事ならあまり問題無いか、ローザはどうする?」

エドはトラヴィスに相づちを打ちながら、隣に座るローザに聞く。

 

「…………」

だが、ローザは難しい顔をし黙ったままだった。

 

「ん?なんだ。お前の故郷みたいなもんだろ?帰りたくないのか?」

 

「そうではないのだが……」

 

「……おっさん、俺も一緒に行っていいか?」

エドは、そんなローザの様子を見てこんな事を言いだす。

もしかすると、破壊された故郷を見るのは辛いのかもしれないと思い、ならば自分も一緒に行く事で、ローザの精神的負担を軽減させようと考えたのだ。

 

「エドがか?」

トラヴィスはエドが同行することを考えてなかったようだ。

 

「俺もローザの育った故郷を見て見たいと思ってな、一緒にな」

 

「エド……、エドがそう言ってくれるのは私も嬉しいが……、今回は私一人で同行しよう」

ローザは本来ならば、嬉々としてそのエドの申し出を受けるだろうが、何故かこの時は断りを入れる。

 

「ん?なんでだ?」

 

「行ったとて何があるわけでもない。それに危険を伴うかもしれん。私なら自分の庭のような場所だ。目を瞑っても進めるだろうが……」

 

「ローザちゃんの言う通りだな。今回は初回調査だ。不測の事態もあり得る。安全を確保しながらとなるだろう、エドは足手まといになる。すまんが今回は遠慮してくれないか」

トラヴィスもローザの意見と同じくし、エドの同行をはっきりと拒否する。

 

「おいおい、別に戦闘になる事はないんだろ?俺だって元軍人だぜ。一年戦争だって、デラーズの反乱も乗り切ってきた」

 

「エド、お前ははっきり言って荒事に向いてないんだよ」

 

「はぁ?大丈夫だろ。おっさん所の調査隊も一緒なんだろ?」

 

「まあ、そうなんだけどよ。俺の会社からアムロと数人、連邦からも立会人も含め少数精鋭での行動となる」

 

「おいおい、連邦軍の連中も来るのかよ。ローザとアムロが行ってもいいのかよ。連邦にバレたりしないのか?そっちの方が心配なんだが」

 

「大丈夫だ。そこは抜かりない。だってよ連邦からの立会人はウラキだし」

トラヴィスはそこで意外な人物の名を出す。

エドの古くからの友人であり連邦軍モビルスーツパイロットのコウ・ウラキである。

確かにウラキはローザが嘗てのハマーンであり、アムロが今も生きている事情も知っている数少ない連邦軍人だ。

 

「まじか?……おっさん。こんどはどんな裏技を使ったんだ?」

 

「ウラキの件は正直たまたまだ。依頼人の連邦のお偉いさんの麾下にウラキの部隊があったから俺が指名しただけだぜ」

 

「そういえば、コウの奴、サナリィとかいうモビルスーツ研究所で臨時教官をやりながらテストパイロットやってるって聞いてたが……。それと関係あるのか?」

エドは友人であるウラキとは定期的に連絡を今も取り合ってる。

 

「エド、なかなか鋭いな。関係大ありだ。連邦内部の勢力争いがサナリー内でも起こってる。サナリィはアナハイム・エレクトロニクスや今迄のニュータイプ研究所とは全く別のコンセプトの組織だ。正式名は海軍戦略研究所、要するに戦争の戦術や戦略を研究する目的で作られた組織だが、モビルスーツについても独自に設計開発を行い始めている。コンセプトもいいところを突いている。中々面白そうなところだ。だが、そのサナリーを利用して一儲けや派閥争いをやろうっていう政治屋将校らが手を出すタイミングを虎視眈々と狙ってる」

サナリィは元々は戦略研究所であったが、第二次ネオ・ジオン抗争以降、モビルスーツの独自開発にも力を入れていた、

 

「おっさんがわざわざその政治闘争に足を突っ込むって事は、なんかあるな?」

 

「まあ、そんな所だ。だが、今回の俺んところの依頼者はその中でも随分とマシな考えを持ってる奴だからその辺は安心してくれていい」

 

「おっさんは相変わらずだな……足をすくわれるなよ」

 

「はっ?そう簡単にすくわれるかよ」

トラヴィスはエドの忠告に不敵な笑みを浮かべる。

 

「それは置いといてだ。ウラキが来るんだったら尚更俺も行きたいぞ」

 

「エドを危険な目に遭わせたくない。私の身一つであれば何とでもなるが……エド今回は」

ローザはエドに懇願するかのようにこう言って説得する。

 

「モウサの安全性が確実視すれば、次の機会にでもエドとローザちゃんを必ず招待するからよ。今回はローザちゃんだけで勘弁してくれ」

 

「はぁ、わーったよ」

ローザやトラヴィスにこうも言われてしまえば、エドも引かざるを得なかった。

 

こうして、ローザは小惑星モウサの調査隊に同行する事となったのだった。

 

 

 

 

話を戻す。

 

「ふぅ」

ローザはガランシェールが進む先のモウサがあるだろう宙域を見据えながら深い溜息を吐いていた。

なぜローザがこれ程までにエドと一緒に行きたがらなかったのか?

それは、ただ単に危険だからという問題では無かった。

 

ローザはトラヴィスから小惑星モウサが現存している事に、明らかに驚き困惑していた。

 

実はローザはハマーン時代にモウサのとある隠し部屋の机の引き出しに、エドには決して見られたくない物を入れていたのだ。

 

ローザはモウサがもう破壊され跡形もなく消し飛んだと思い安心していたのだが、モウサが現存しているという事は、そのエドに見られたくない物も残っている可能性が非常に高い事を示していた。

ローザは気が気で仕方がなかった。

もし、それが誰かの手に渡り、公表でもされ、それがエドに見られでもしたらと思うとゾッとすると……。

ローザは宇宙(ソラ)を眺めながら、アムロやウラキ、調査隊にも気付かれずに、その隠していた物を確保しこの世から消し去ろうと決意していた。

 

 

エドに決して見られてたくない物、ローザがハマーン時代に隠し持っていたものとは何なのか?

 





②も週末にはアップ予定。

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