なんか、ハマーン拾っちまった。   作:ローファイト

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誤字脱字報告ありがとうございます。

遅くなりましたが続きをどうぞ。


閑話 ハマーンの忘れ物③

 

モウサに到着したカークランド・コーポレーションの調査隊一行は、宇宙港にモビルスーツロト3機と荷を降ろし、内部調査の準備を進めながら、宇宙港一帯の調査を同時進行で行っていた。

 

アムロは宇宙港の調査を一通り終えて、ローザに尋ねる。

「さすがに主電源は落ちているようだ。宇宙港の予備電源は再稼働できたが、エアコントロールシステムは生きていない。ローザ、エアコントロールシステムはこの予備電源とは別に独立した電源を確保しているのかい?」

「モウサには太陽光発電は無い、4基の原子炉で全ての電源を賄っていた。予備電源はそれぞれのブロックに独立した流体サイクル式の半固体バッテリーで蓄電していた物があるはずだが、必要最低限の稼働で最大1か月は持つよう設計されている。本来エアコントロールシステムも連動しているはずなのだが、それが稼働していないとなると相当ガタが来ていると見ていいだろう。それに既に電力供給が停止してから7年以上が経っている。予備電源もいつ落ちるか分かった物ではない」

「なるほど……、調査の結果、放射能漏れがない。ということはだ、原子炉自身は破損していないだろう。だが凍結状態にあればいいが、システム自身が破損している可能性が高いということか」

「ああ、そう言う事だ」

「それにしてもローザ、元摂政官とはいえ、よく細かい事までも知っているな」

「当然だ。モウサは祖父によって開発された元は資源衛星だ。それを祖父から父へ、そして私と引き継いできたのだ。誰よりも知っていて当然だ」

アムロはローザがモウサの全容を細部まで知っていたことに感心していた。

だが、ハマーンだったローザにとって、それはモウサやアクシズを管理してきた一族として当然の知識であった。

 

「そうか、ここは君の故郷でもあったな、……いや、すまない」

アムロは一度はそう言ったが、ローザにとって故郷である場所が、既に人が住める状態では無い状況に、少々デリカシーが無い発言だったと謝る。

 

「変な気を使わないでもらおうか、私自身はサイド3で生まれ育った。ただ単に一族が管理していたというだけに過ぎない」

ハマーンだったローザがモウサ及びアクシズで過ごした期間は12歳から21歳までの9年弱だ。

第二の故郷と言っても差支えの無い時間を過ごしてきていたが、ローザの人生にとって苦難の時期でもあり、あまりいい思い出が無い。

アクシズとモウサに移り住み、しばらくして父が死に、後ろ盾だと思っていたシャアが何かと理由を付けアクシズを出て行き、政争の最中、僅か15歳で摂政官に担ぎ出され、ジオン再興という大事業がその小さな双肩に圧し掛かかることとなったのだ。

ハマーンは、自分と言う感情を押し殺し全てをなげうって、アクシズを一大勢力まで押し上げてきた。いや、それ程の才覚があったからこそ、成しえたと言っていいだろう。

ある意味、シャアはハマーンの才能を見出していたと言える。

ただ、ハマーンが青春真っ盛りの少女である事を考慮せずに……。

あのハマーン・カーンの強硬な立ち振る舞いは、若輩者である自分を理解した上で、統制を図るため強者を演じ続けなくてはならない中から生まれてきたのだろう。

 

「……そうか」

ローザの心情を思い、アムロはこれ以上言葉にしない方がいいと判断する。

 

 

しばらくし、アムロはローザとコウを含む隊員達に今後の予定を伝える。

「第二プランで行く。今日は居住区及び中央政庁の探索、明日はこの宇宙港とは反対側にある原子炉周囲の調査だ」

宇宙港の状況からモウサの原子炉は生きているが凍結状態だということ、宇宙港ブロックの予備電源は稼働出来たが、エアコントロールシステムが稼働出来なかったため、ライフライン系のシステムはほぼ潰滅的だと予想がたった。

アムロはモウサの再起動は現状では不可能だろうと判断し、調査をメインにした行程プランを選択したのだ。

 

出発の準備を進める中、アムロはローザにこんな事を聞いた。

「しかし、嫌な感じがする。どう思うローザ?」

「ああ、私もモウサに入る前から違和感を感じていた」

「そうか、君もそう感じるか、何なのかは分からないが、十分な警戒が必要だな」

ノーマルスーツ姿のアムロとローザはニュータイプ能力でモウサに何かがあると感じていたのだ。

 

アムロの指示でロト三機編隊を組み、タンク形態で宇宙港から居住区へ縦一列に並び、ライトを照らしながら進む。

先頭の特殊工作用ロトはアムロが操縦し複座にローザ、続いて輸送用ロトにアムロの部下が操縦、コウと隊員3人が輸送ラックの簡易シートに座り揺られている。後方に災害活動用のロトと続く。

 

「………」

ローザは道中、暗闇の中、ロトのライトに照らされて荒地が広がってる様をみて、顔をしかめる。

そこはかつての農業畜産地区であり小麦畑等が広がり乳牛などの家畜がのんびりと過ごす光景が見られる場所だった。

 

「町は原型をとどめているようだ」

「人が住める有様ではないがな……」

居住区に到達すると、19世紀頃のヨーロッパの街並みを思い起こすような4.5階建ての集合住宅が建ち並んでいるのが見て取れるが、建物はそのほとんどが半壊し、人が住める状態にはとても見えなかった。

以前は、ロンドンを彷彿させる荘厳かつシックな街であった。

 

ローザにとって良い思い出が少ない場所ではあるが、自分の故郷と言ってもいいこの場所のこの有様に自然と伏目がちとなる。

 

暗闇の街並みの中をロトのサーチライトで照らしながらゆっくりとした速度で進む。

「やはり町にも電気や空気は来ていないようだな」

「システム自身が破損した可能性が高いという事だ」

「放射能漏れの兆候はない。予想通り原子炉は停止しているが生きている可能性は高いということだな」

「稼働の可能性は低いが、町の予備電源の制御盤はモウサの中央管制室と官邸にある……ここからだと目的地の官邸が近いだろう」

「案内を頼む」

 

更にサーチライトを照らしながら進むと、高台に石造りの西洋の城風のひと際大きな建物が見えてくる。

ただ、立派だっただろう面影は残ってはいるが、半分崩れかかっていた。

ローザはロトの補助席のディスプレイ越しにその姿を見て、目を細める。

「あれが、官邸だ」

 

「倒壊はしていないが……慎重に調査しなくてはな」

アムロはロトを半壊した官邸の前まで進める。

 

3機のロトを官邸の前で止め、官邸内の調査を始める。

コウと隊員の一人がロトで外側から損壊状況を確認し、アムロとローザ、他の隊員3名が官邸内に入り調査に向かう。

入口が瓦礫で塞がっていたため、壁が崩れ落ちた部屋から入って行く。

 

だが、その場所は……

「……ローザ、君は自分の肖像画を官邸に飾る趣味があったのか?」

アムロはその部屋の様子に苦笑気味にローザに聞く。

そこは、ハマーンの肖像画が壁から天井まで、至る所に薔薇と共に飾られていたからだ。

 

「ち、違う。私ではない……ここは、場所からすると騎士隊第二部隊の屯所であろう」

そうここは、ハマーンの騎士隊長の1人マシュマー・セロ率いる騎士隊2番隊の執務室だった。当然この奥の隊長室には壁一面にハマーンの特大肖像画が飾られていた。

マシュマー・セロはハマーンを過剰に崇拝し、女神の如く崇めていたのだ。

 

他の隊員達もこの部屋の様そうには流石に引いていた。

 

「騎士隊…親衛部隊のことか……随分慕われていたようだ。これではまるでアイドルファンの展示場のようだな。ふっ」

アムロは思わず笑いが漏れる。

 

「な、なにが可笑しい。私もこのような事になっているとは思いもよらなかったのだ」

 

「ふっ、いやある意味君の親衛隊ということなのだろう。ぷふふっ!」

アムロは笑いを堪えるのが精いっぱいの様だ。

アムロはアイドルの私設ファンクラブを親衛隊と見立て、そう言っているのだ。

世事に疎い当時のハマーンであれば理解出来なかっただろうが、今のローザはアムロが言わんとしている事を十分理解している。

軍の親衛部隊がほぼアイドルの熱烈なファンクラブ親衛隊と同じ様相である事への違和感、いや変質的様相と言っていいだろう状況に……。

ただ、これはこれで当時のネオ・ジオンの騎士隊(親衛部隊)はハマーンに絶対的な忠誠を誓い良好に機能し、問題どころか士気はかなり高かったのだ。

 

隊員の1人が奥の隊長室の引き出しから丁寧に製本された重厚な本を見つけ出し、中身を確認し、口にする。

「『ハマーン様、ああ、ハマーン様、麗しのハマーン様、この美しき薔薇すらも貴方の彩る額縁に過ぎない』………ぷっ、なんだこれは?……アムロ隊長、重要書類ではなさそうですが、参考資料として持ち帰りますか?」

そのわけがわからない詩のような物が書かれた本を、隊員が資料として持ち帰るべきかアムロに確認してもらうために渡す。

 

手渡された資料をアムロは確認のため開く。

「『高貴なる薔薇の香り、ああ、ハマーン様、きっとあなた様もこの薔薇のような高貴な香りがするのでしょう』……ぷっ……『ああ、ハマーン様、凛としたあの声色で、無能な私に是非お叱りの言葉を頂き、美しきおみ足で私に高貴なる罰を与えて頂きたい』……ぷふっふふふ……」

アムロは笑いを堪えるのに精いっぱいだった。

表紙には『高貴なる愛の詩集』と題され、著者名にマシュマー・セロの名が刻まれていた。

そう、マシュマー・セロの300ページにも上るポエム集だった。

そのすべてが、ハマーンに関するポエムだった事は言うまでもない。

 

「アムロ!廃棄だ!廃棄に決まっている!」

ローザはヘルメット越しでもわかる位、顔を真っ赤にして、その羞恥集をアムロの手から奪おうとする。

 

「ぷっ……い、いや、その……これも当時の状況を知るための大切な資料だろう?持ち帰って詳細に調べるべきだ……ぷふっ」

アムロも別の意味で顔を真っ赤にし、こんな事を真顔でいい、また笑いが漏れる。

 

「そんな物、資料になるはずがなかろう!」

 

「ぷっ、……いやはや、当時のハマーン・カーンがどうやって兵士達を統率していたのか、よくわかる資料だ……ふはっ」

 

「くっ!こんなものはこうだ!」

ローザは笑いを堪えるアムロからポエム集を分捕り、投げ捨てる。

だが、この時のローザはまだ知らなかった。

そのポエム集には第二集と第三集もあったことを……。

 

「貴重な資料が……ぷくっ」

 

「アムロ……この事は絶対にエドに言うな。いいな、絶対だぞ」

ローザは顔を赤らめ、ノーマルスーツのヘルメット越しではあるが、切れ長の目を一層細め、アムロを睨みつけながら低い声で迫る。

今のローザにとって、この状況は流石に精神的に色々と厳しいだろう。

黒歴史の一つと言っても過言ではない。

エドにこんな事を知られ、笑われでもしたらと思うと、恥かしさのあまり、穴があったら入りたかった。

 

 

だが、これだけではない。

ローザは過去に向き合わなければならなかった。

 





ローザさんの苦難の道が……

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