ハマーンとの言い合い、というか俺が一方的に喚き散らしてた気がする。
我ながら大人げない対応を取ってしまった。
その晩の夕食は、何となく気まずかった。
ハマーンは何時も、表情が硬いし無口だから、いつもと変わらんように見える。
だが、多感な年頃のリゼには何となく空気感でわかったようで、後で俺に「お姉ちゃんと喧嘩でもしたの?」といわれる始末。
はあ、12歳のリゼにもこんな事を言わせてる俺は、ダメな大人だ。
俺はその晩にハマーンに一言詫びでもいれようとしたが、何となく踏ん切りがつかずに診療所の外に出たり入ったりとうろうろしていた。
外からふとハマーンが寝ている病室を見上げると、部屋は真っ暗だったが窓が開いていた。
リゼが閉め忘れるはずが無い。だとしたらハマーン自身が開けたのだろう。まだ起きてるんじゃないか?
俺は意を決して診療所の2階のハマーンの病室にノックをする。
「ちょっといいか」
「………」
相変わらず返事が無いが、起きてる気配はする。
「入るぞ」
そう言って俺は扉を開ける。
「………」
ハマーンはベッドから窓の外、夜空を見上げていた。
この15番コロニーは農業や畜産生産目的で作られたコロニーなため、密閉型ではない。
円筒の3面は強化ガラスで覆われており、見上げれば宇宙が何時でも見える。
更に、夜になりコロニー内部の照明が切れると宇宙の星が近く感じられた。
「昼間は言い過ぎた。医者が言う言葉じゃなかった。すまない」
俺はハマーンに頭を下げる。
「……ふん。上に立つ者として悪評や罵詈雑言は覚悟の上だった……。だがな少々堪えた」
「弱ってる人間に言う言葉じゃない。本当はあんたが完治した後に言ってやろうと思っていたんだが、ついな」
「……結局お前は言うのだろう。悪人か……面と向かって言われたのは初めてだな」
「すまん」
「……私は悪人と言われるような所業を重ねて来た自覚はある。ただ戦争に勝利すれば、すべてが正義となると信じていた……だが敗者はただの悪党に成り下がる。私のようにな」
「まあ、歴史を振り返りゃそうかもしれんが、俺からすりゃ勝った連邦も悪党の巣窟だぞ」
「ふっ、お前はおかしな奴だ」
「そうか?普通だと思うぞ?」
「そうか、普通か」
「話を戻すが、俺は医者失格な発言をしてたんだよ。ちょっと感情的になっちまってな。医者は患者に対して悪人も善人もない。等しく患者の生命を救わないといけないんだよ。だから、すまない」
「お前の自論だと、医者とは皆、聖人君子でなくてはならないようだ。だが、私が知ってる医者という人種は全員私と同じく悪党だった」
「いやいや、全員っておい。まあ、そんな連中もいるが、ちゃんとしたまともな奴も結構いるぞ」
そうだな。医師会の理事長はあれは悪党、いや小悪党ってところか。
「……お前はおかしな奴だが悪党ではないようだ」
「そいつはありがとよ。褒められてる気はしないが」
「……ありがとうか……私はそんな単純な言葉でも人の裏を読もうとしてしまう。だがお前には悪意が無い」
「……多少皮肉ったつもりだったのだが」
「そうなのか?」
「……今日のあんたはよく話してくれる。いつもこうだと医者としても助かるんだが」
「今宵は、星が今迄になく澄んで見える。アステロイドベルトでは毎日見ていたのにだ」
「なんだ?星が綺麗に見えたら話してくれるのか?」
「そう言う事にしておけヤブ医者」
「なんで上から目線なんだよ。……まあ、ちゃんと体が動く様になるまで面倒見てやるさ」
「私は悪党なのだろ?いつ裏切るかわからんぞ」
「そん時は、心置きなく連邦軍に突き出してやる」
「……好きにしろ」
「安心しろ。俺の患者で居る限りは、あんたを誰にも引き渡さん」
「…………」
ハマーンは窓の外の星々に再び視線を移す。
「それにあんたは今、俺の死んだはずの妹、ローザってことになってる」
「………」
「夜分にすまなかったな。窓は閉めておく。コロニーとはいえ流石に11月のこの時期の設定温度は低い」
俺は病室の窓を閉め、部屋を出て行く。
翌日から、態度は軟化するものだと思ってたんだが、俺の考えは甘かった。
普段は相変わらず無口でツンケンしてやがる。
ただ、たまにこんな感じで会話をする時間が出来た。