なんか、ハマーン拾っちまった。   作:ローファイト

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漸くシリアス展開へと……


閑話 ハマーンの忘れ物⑤

 

ネオ・ジオンの闇に触れた調査隊一行は、アムロの叱咤により改めて気を引き締め、官邸の3階へと向かうのだった。

 

「ローザ、資料では3階は執務室と謁見の間とあるが、4階についての詳細な記載は無い。どういうことだろうか?」

「ああ、3階の半分を占めている謁見の間は4階へと吹き抜けとなっているがためだ」

「なるほど。だが、謁見の間の吹き抜け以外のスペースもあるのだろう?何がある?」

「貴賓室にミネバ様の控室、それと私の私室だ。いわばプライベート空間だ。公にできるはずもない」

「合点がいった。外観図ではこの4階の渡り廊下で隣の高台の別邸へと続いているようだが、別邸とはミネバの宮廷と言う事だろうか?」

「そうだ。宮廷と言うには仰々しすぎるが、元々カーン家のモウサにおける屋敷であった。サイド3にあったカーン家の屋敷に比べれば手狭ではある」

「……ローザ、君は屋敷では無く官邸に住んでいたのか?」

「ああ、姫君であるミネバ様と同じ場所に住むわけにはいかなかったという事も有るが、摂政として官邸で過ごした方が何かと便利だったのでな……」

ローザは1人で住むにはあの屋敷は広すぎると心の中で言葉を続けていた。

ミネバとミネバの母ゼナがアクシズに来た当初は、カーン家のこの屋敷の3階に迎え、カーン家総出でもてなしていた。

しばらくし、ゼナが亡くなり、次にハマーンの父マハラジャ・カーンが亡くなり、更にシャアが去り、更に妹のセラーナ・カーンを地球に逃した後、ハマーンは自分の私室を官邸の4階へと移したのだ。

それは、ジオン再興に身を捧げるという決意でもあった。

さらに、主であるミネバと同じ屋根の下で過ごすわけにも行かないという理由もあった。

だが、それよりもハマーンの感傷的な理由が大きかった。

当時のハマーンはまだ15歳の少女に過ぎなかった。

ミネバや家人が居ようとも、既に父や妹がいないこの屋敷は自分一人が残り、過ごして行くには寂しすぎたのだ。

 

「……アムロ、3階の調査を任せていいか、私は一足先に4階の私室に行きたい、恐らくグレミー一派に荒らされているだろうが………」

「3階の調査はそこそこ時間がかかるだろう、私用が終われば無線で知らせてくれ……」

本来なら、安全の為にも一緒について行くべきだろうが、アムロはローザの心情を慮り、ローザの私的な行動を許可する。

 

「うむ、3階の摂政官の執務室は直接階段で4階の私の私室へと繋がっている。執務室までは調査を行っても構わん。その前にシャアの執務室がある。そこを念入りに調査でも何でもしてくれ」

アムロだったら許可してくれるだろうとは思ってはいたが、アムロのその言葉にローザは内心ホッとする。

ついでにアムロが興味を持つだろうシャアの執務室について触れた。

 

「それは楽しみだ。しかしローザ、シャアはアクシズを随分前に出て行ったのではないのか?何故、出て行った後も部屋を残していた……、すまん。少々野暮だったようだ」

アムロはシャアの執務室の話に興味を持つが、何故、アクシズを出て行きエゥーゴに参加し、対立までしていたシャアの執務室を残していたのかという疑問を持つが、グリプス戦役でのハマーンとクワトロと名乗っていたシャアとの関係性について、ブライトからこの二人の間にはプライベートでも何かしらの因縁があったのではないかと聞いており、ここに来て、もしかすると当時のハマーンとシャアの間には、何かしらの男女の関係があったのではないかという思いに至った。

 

「勘違いしてもらっては困るな。奴はアレでもジオンの家臣を名乗っていたのだ。しかも当時のミネバ様も大層気にかけておられた。ただ、それだけのことだ」

そんなアムロの反応に、ローザは憮然とした声色でそう答える。

確かに当時のハマーンはシャアに憧れ、恋焦がれていた。

シャアが自分の元を離れていたとしても、必ず自分の元に戻ってくれるものだと思っていたのだ。

だから、シャアの執務室を何時までも残していたのだ。

だが、当のシャアの心はハマーンにはまるで向いていなかった。

ただ、アクシズの運営とミネバの事をハマーンに任せるため、いや、押し付けるために、都合のいいようにハマーンを懐柔していたにすぎなかったのだ。

エドに拾われローザとなった今は、その事を理解し、嫌悪を持ってレッドマンとなったシャアと接している。

それはある意味、愛憎の裏返しなのかもしれない。

 

「そうか、だが、何か問題があれば直ぐに知らせてくれ」

 

こうしてローザは調査隊から離れ先行し、足早に自らの私室へ向かう。

実はその私室から地下へと通じる隠し通路があった。

元々ハマーンの私室も貴賓室であった。

王侯貴族等の貴賓の為に、何かあった時用に地下へと続く脱出通路と地下に大小7つの核シェルターが設けられていたのだ。

ハマーンは当時、確かに私室を官邸の4階に設けていたが、付き人も何人もおり、完全なプライベート空間とはなり得なかった。

そこで、この脱出通路の先にある地下の核シェルターの一つを隠し部屋とし、誰にも入られる事がない自分だけのプライベート空間として利用していたのだ。

核シェルターだけあり、防音防弾、機密性も保たれえており、何よりもそこで数か月過ごせるだけの設備が整っていたため、都合がよかったのだ。

この事は付き人や官邸の管理官の極一部の人間だけしか知られていない。

軍関係者だけでなく高官にも誰一人として知られていなかったのだ。

そして、そこには誰にも見られたくない様なものが多数あった。

母や父、姉の遺品や、公的に全て処分させたはずの妹セラーナとの写真。

子供のころから使っていた抱き枕や、クマちゃんのぬいぐるみなど、結構少女趣味なものが多い。

その中でも絶対見られたくない物……、

それがあの写真と、シャアとの数々の思い出の品だった。

 

ローザは先ずは私室に向かうため、当時の仕事部屋である摂政官室を通る。

執政官室は案の定、執務机や棚などが無造作に開かれたままになり、床のあちらこちらに物が散乱していた。

グレミー派がこのモウサを占拠した際に、物色した跡の様だ。

 

執政官室から螺旋階段を上り、私室へと入ると同じく物色された跡がありありとあった。

服や小物、ベッドのシーツなどが床に散乱し、小物入れや鏡台も開けっ放しであった。

「………ふん」

ローザはその様子に少々顔を顰めながら、隠し通路があるウォークインクローゼットへと向かう。

 

 

 

その頃アムロ達調査隊一行は、早速シャアの執務室へ向かう。

「奴の事だ。不都合な物は残してはいないだろうが……」

アムロはそう言いつつも、内心ではシャアの執務室に興味深々であった。

先ほどのネオ・ジオンの闇(黒歴史)と同じく、シャアの執務室にも何か面白げなものは無いかと……。

それをネタに帰ってからレッドマンに一言二言皮肉でも言ってやろうとも思っていた。

 

アムロはシャアの執務室の扉を開き中に入り、部屋内をゆっくり歩みながら見渡す。

所々壁や天井が剥がれ落ちていたが、特に荒らされた様子はない。

だが、アムロはある物が目に移り、思わず立ち止まってしまう。

壁にかけられていた大きな油絵の絵画だ。

アムロは目を大きく見開き、しばらく見入ってしまっていた。

その絵画は、湖畔を飛び立とうとする白鳥が描かれていたのだ。

その白鳥が何故か、1年戦争で出会った少女、ララァ・スンの姿と重なる。

「…………」

 

「隊長、素敵な絵画ですね。白鳥が飛び立つ姿がどこか儚げで、目がつい行ってしまいます」

絵画を見つめているアムロの後ろから女性隊員が声を掛ける。

 

「……ああ、そうだな」

シャアもこの絵を見て、ララァとこの儚げな白鳥と重ねていたのだろうと……。

シャアにとってもララァ・スンの存在は大きなものだったのだと、アムロは改めて思い知らされる。

先ほどまでのレッドマンをからかってやろうという思いは既に無く、逆に、たまには気遣ってやろうとまで思いだしていた。

 

 

そんな時だ。

官邸の外のロトで待機していた隊員からアムロに無線通信が届く。

『隊長!ガランシェールから緊急通信が来ました。隊長に繋ぎます』

隊員はロトに無線通信で宇宙港に停泊中のガランシェールから緊急通信が届いた事を告げ、ロトを中継に、ガランシェールからの通信を直接アムロのヘルメットに内蔵されている通信機に繋ぐ。

 

『ガランシェールだ。アムロ隊長、無人監視偵察機によるモウサの外観調査を行ったのだが、この宇宙港の反対に位置するモウサの非常用ドックが最近に開かれたような形跡を発見した。我々より先に何者かが潜入していた可能性がある』

ガランシェール艦長のスベロア・ジンネマンがアムロにそう報告する。

ジンネマンはモウサの宇宙港にガランシェールを停泊させたまま、モウサの外観調査のため、無人監視偵察機を数機飛ばしていたのだ。

無人監視偵察機が発見したものは、モウサに二つある宇宙港以外にある非常用ドックが最近になって開かれたような跡があったからだ。

そもそも非常用ドックは緊急時しか使用しないため、滅多に開かれる事がない。

その非常用ドックが最近人為的に開かれたような形跡を発見したのだ。

それは、この調査隊よりも先に、最近何者かがモウサ内に侵入した事を示していた。

 

「艦長、今も何者かの艦船が非常用ドックに停泊している可能性があるということか?」

 

『そういうことだ。無人監視偵察機を非常用ドックに潜り込ませる予定だが、もし艦船が今も停泊していた場合、こちらの事は恐らくバレているだろう。動きが無い所を見ると、既にもぬけの殻なのかもしれないが、息を潜めやり過ごすつもりなのかもしれない。こちらが何者かの動きを察知したとバレた場合、こんな場所に潜り込んでる連中だ。間違いなく荒事になるだろう。万が一、何者かが既にモウサ内にモビルスーツを潜り込ませていたのなら、そっちが危険だ。相手にこちらが勘づいているとバレる前に、隊長たちは戻った方がいいだろう』

 

「不味いな。了解した。直ちにこの場を撤収し、ガランシェールに戻る」

アムロはモウサに入った時、ニュータイプ能力で違和感を覚えたのはこの事だと理解し、恐らくジンネマンの言う通り、今も何者かがモウサに潜んでいる可能性が高いと判断したのだ。

 

『了解だ。隊長たちが戻るまで勘づかれないように無人監視偵察機は引いておく』

 

「そうしてくれ」

アムロは一度ここで通信を切り、撤収準備を進めるための段取りなどを考えていたのだが……。

 





シリアス展開にこのまま突入していいのだろうか?

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