誤字脱字報告ありがとうございます。
今回は閑話なのに、落ちが無い。
話のきっかけの話みたいな感じです。
話はラプラス事変後、アムロ、レッドマンの修羅場のちょっと後の0096年7月末です。
宇宙世紀0096年7月末
とあるコロニーではいつものように平和な日常風景が見られた。
「よお、レッドマン来たぞ。ってアムロも来てたのか」
「来てくれたかエド」
「エド、休日に珍しい」
エドは家族で夕食を過ごした後、レッドマンが店長をしているバー茨の園に飲みに来たのだが、既にアムロがカウンターで酒を片手に過ごしていた。
因みに、エドはレッドマンをプライベートや事情を知る友人連中の前ではキャスバルと本名で呼ぶが、公共の場や他の客がいる場ではさすがに本名で呼ぶのはいろいろとまずいため、皆と同じくレッドマンと呼んでいた。
そんなエドの後ろから年若い女性が顔を出す。
「エドがこの店に女性同伴とは珍しいな、ローザがよく許してくれたな」
アムロの言う通り、エドはローザ以外の女性を同伴させてこの店に訪れたのだ。
「ローザも一緒に来たがってたんだが、あいつ酒飲めねーだろ?」
そう、ローザは酒にめっぽう弱い、表面上は変わらないがワインを一口飲んだだけで思考がめちゃくちゃになる。
ワインをコップ一杯飲もうものならその場で即寝込んでしまう始末。
ローザは女子会に顔を出しても一切酒類は飲まないし、友人連中はそれをわかってるため、酒類をローザに近づけさせない。
そもそも、ローザはとことん毛嫌いしているレッドマンの店に近づかないのだが……。
「だがエド、さすがに未成年は酒を振る舞うこの店にはふさわしくないが…」
レッドマンはその同伴女性の姿を見てこんなことをエドに言う。
レッドマンのいう通り、その女性は見た目16歳前後の少女に見える。
バー等の酒類を専門に出す夜の店に同伴させるには相応しくないだろう。
「レッドマンは直接会った事無かったか?まあ、無理もないか、こう見えてリタは成人してるから安心しろ、それに今日はリタのためにここに来たんだ。酒を飲んだことが無いっていうから、どうせ初めて飲むんなら本格的なところが良いだろうと思ってな、それにお前の所だったら安心だしな」
「こんばんは」
そう、エドはリタ・ベルナルを連れて来たのだ。
彼女はトラヴィスから預かっていた患者だ。
ユニコーンガンダム3号機に精神が捕らわれ、ずっと眠りについたままだったが、4か月前のラプラス事変でレッドマンが問題のユニコーンガンダム3号機に乗り込んだおかげで、リタは長い眠りから覚めた。
その後は、強化処置を施された影響の軽い副作用の治療のため入院していたが、今はいつでも退院できる状態であった。
リタは元連邦軍のニュータイプパイロットであったがトラヴィスとの話し合いで連邦に戻すことはせず、本人の希望で、ここで生活することを決め、取り敢えず今もエドの家で過ごしている。
リタは何故かエドの事をお兄ちゃんと呼び慕い懐いており、エドと結婚して2年目に突入したローザ(29歳)はそんなリタ(24歳)の懐き方と自分よりも5歳も若く自分にはない可愛らしい容姿や仕草に警戒していたのだ。
ローザはリタとエドと二人きりになる状況を避けたくて、バーについて来ようとしたが、なぜかエドの妹たちに止められたのだった。
ただ、そのローザの警戒は全くの杞憂にすぎない。
妹扱いをしている相手にエドがどうこうなる事は無い、それはローザも実感として知っているはずなのだが……。
それは、未だに乙女心全開なローザの勇み足といったところだろう。
「いや、顔を合わせたことはあるが、……それは失礼した。この通りだ」
「そういや、紹介していなかったか?」
それは致し方が無いだろう。
リタは最近まで入院していたため、なかなか紹介するタイミングが無かったのだ。
レッドマンはリタの名を聞き、その姿を見て少々驚いた顔をし、未成年扱いしたことに謝罪する。
因みにアムロは既にリタとユニコーンガンダム3号機関連で正式に顔を合わせていた。
「リタ・ベルナルです……初めまして、ではないかな」
リタは微笑みながら自己紹介をする。
「私はエドの親友で、このバーの店主であるデニス・レッドマンだ。そういうことか……君があの……」
レッドマンも自己紹介をするのだが、リタとはほとんど初顔合わせであるにも関わらず、なぜか懐かしい気分になった。
それと同時にユニコーンガンダム3号機に精神を捕らわれた女性であることに何故か納得する。
ラプラス事変の際、レッドマンはユニコーンガンダム3号機のコクピットに乗り込むと誰かに優しく包みこまれるような感覚を覚えたのは一度や二度ではない。
その感覚は目の前の少女に見える女性によるものであると、この瞬間感じ取ったのだ。
「俺はいつもの奴で、リタにはアルコール度数低めにして、飲みやすい感じなのを頼む」
「あ…ああ、任せてもらおうか」
エドはカウンター越しにレッドマンに注文してから、リタをカウンターに座るように促し、
エドはリタの隣り、アムロとリタとの間の席に座る。
レッドマンは注文を受け返事をするが、目はリタを追っていた。
エドはそんなレッドマンの様子など気にも留めず、隣のアムロに話しかける。
「それにしてもアムロ、家に帰らなくていいのかよ。ベルトーチカとチェーンがお前んちに居るんだろ?」
「……まあ、そのだ。まだここの方が落ち着く」
「いつまでグダグダやってるんだ?早くどっちかに決めちまって、楽になっちまえよ」
「それを言われると耳が痛いが、せめて酒の席ではその話題は無しにしてほしい」
アムロは疲れ切った表情でエドに懇願する。
ローザの裁定でアムロのマンションに居座っているベルトーチカとチェーンによって修羅場が毎日勃発し、家に帰りたくないアムロはここで時間をつぶしているようだ。
そもそも、その原因はアムロなのだから、自業自得ではある。
「待たせたな」
バーテン姿のレッドマンは、エドとリタにカクテルグラスをカウンター越しに出す。
エドのカクテルはエッグノック
ブランデーに牛乳と卵黄、砂糖をブレンドしたカクテルだ。
甘口で、意外と飲みやすいカクテルで、アルコール度数も12度前後と高くない。
「サンキューな」
エドは元々中辛が好みだったが、ローザと暮らすうちに酒も甘口に。
リタのカクテルはカシスソーダ。
リキュールにカシス果汁を加えソーダで割ったものだ。
見た目はワインやブドウジュースに見える。
日本の居酒屋でも定番で、アルコール度数も4~5度と低くかなり飲みやすいカクテルだ。
レッドマンの店ではチェリーをのせていた。
「綺麗、ありがとう」
「うむ、アルコール度数も低い、これなら飲みやすいだろう」
「さすがバーテン、いいチョイスじゃないか、リタの初アルコールにもってこいだな」
因みにカシスソーダのカクテル言葉は『あなたは魅力的』だ。
レッドマンがこのカクテルをチョイスしたのは意図的なのかはわからない。
「そんじゃリタ、初めての酒に乾杯だ」
エドは自分のグラスを持ってリタの方へ軽く突き出し、リタもそれを真似てエドの方に自分のグラスを向け、軽くグラスを合わせる。
エドは先にカクテルを一口のみ、グラスをカウンターに置く。
リタも続けてエドの真似をしゆっくりと酒を口にする。
「どうだ?初めての酒の味は?」
「甘くておいしい。喉がちょっとスッとする感じだけど大丈夫」
「そうか、甘いからって一気に飲むなよ。ゆっくりな、酒の味を感じるように飲んだ方がいい」
「お兄ちゃんのもおいしそう」
「これはまだリタに早い、もう少し酒になれてからだな」
「うん、そうするね」
そんな会話をしていたエドとリタの様子を見ていたアムロは……。
「ふっ、エド、端から見ると、本当の兄妹に見えるな、いや見ようによっては年の離れた恋人同士にみえるかもしれない、ローザが気が気でないんじゃないか?」
確かにエドとリタは仲睦まじく見えるだろう。
しかも本当の兄妹ではない上に、リタはこう見えてれっきとした成人女性だ。
ローザが気になるのも仕方がない。
「はぁ?何言ってんだアムロ。俺とリタが恋人同士?普通にアウトだろ。援助交際とかパパ活とかに見えちまうだろ?」
「ふっ、いや、前言撤回だ。恋人同士どころか、そうしてると親子にしか見えないな」
アムロはエドとリタが並んで座ってる姿を改めて見直し、笑いを漏らしながらこんなことを言う。
「まじか!?確かにリタはクェスと同じくらいの年に見えるしな。実際に俺はクェスの父親で、オードリーの父親代わりでもあるし。はぁ、俺も歳をとったってことか」
そんな会話をエドとアムロが交わしていた。
そんな会話に聞き耳を立てていたレッドマン。
「………」
何か思うところがあるようだ。
「リタ、俺たち親子に見えるらしいぞ…、って、おいリタ?」
エドがリタに話をふろうとするが……。
「……フニユ~」
リタはうつろな目をしフラフラと頭を揺らしていた。
リタのカクテルのグラスは空だった。
リタはどうやら酔っぱらっているようだ。
「げっ、いつの間に全部飲んだんだ?おいリタ大丈夫か?」
そんなリタに心配そうに声をかけるエド。
ピキーーーン!
フラフラしていたリタの頭はピタッと止まり、うつろな目をしたまま真正面を向く。
「見えます。……金ベルトと黒鎖が襲来、白の英雄は囚われその魂は永遠に縛られることでしょう」
預言めいたことを言いだす。
明らかにリタの様子がおかしい。
「お、おい?リタ、大丈夫か?」
そんなリタに声をかけるが……。
店の扉がバンと勢いよく開かれる。
「アムロ!此処にいるのはわかってるわ!さあ、私と帰りましょう!」
「帰りましょう!アムロが好きなシチューも用意してるわ!」
金髪美女と黒髪チャーミングが勢いよくアムロに迫り、片方ずつの腕を絡め取る。
「べ、ベルにチェーン!?」
そう、現れたのはベルトーチカとチェーンだった。
「さあ、帰りましょう!私たちの家に!」
「私と!アムロ!の家に帰りましょ!!」
二人は敵対心むき出しに顔を突き合わせながら、アムロを引っ張って店を出て行こうとする。
「助けてくれ、エド!レッドマン!」
引きずられるアムロは二人に助けを求めるが……。
「……普通に無理だろうこれ、あきらめて帰れ」
「早く帰れアムロ、また店が壊されたらたまらん」
エドは苦笑気味に、レッドマンは迷惑そうにそう言って帰らせようとする。
「では、失礼しました」
「ごきげんよう」
「……う、うう」
ベルトーチカとチェーンは挨拶を残し、諦めて項垂れるアムロを引っ張り店を出て行った。
「アムロがんばれよ。ってあっ!おいリタ、俺のカクテルも飲んだのか?」
アムロ達が出て行った店の扉を見やってから、リタに視線を戻すとリタはカウンターにうつ伏せになって、寝息を立てていた。
どうやらエドの飲みさしのカクテルも飲み干してしまったようだ。
「レッドマン、俺にちょっと強めの奴でなんか頼む。リタのさっきの奴はなんだったんだ?」
エドはレッドマンに酒のお代わりを要求しつつ、リタのさっきの様子と預言めいた言動について聞いた。
「うむ、未来視や予知か何かではないか?高レベルのニュータイプにはそういう能力がある」
「リタもニュータイプだしな、まあ、ただの酔っぱらいの戯言って線はないか?ローザも酒飲むと思考がめちゃくちゃになるしな」
レッドマンはカクテルをシェークしながら見解を話し、出来上がったカクテルをエドは口にしながら、それに答える。
ピキーーーーン!
カウンターでうつ伏せて寝ていたリタが急に上半身を起こし、うつろな目のまま真正面を向き、また何やら預言めいたことを言いだした。
「ツンデレ乙女女帝は究極鈍感医師に不器用に甘えたい」
「何言ってんだ?リタ、大丈夫かよ」
すると、またしても店の扉がバンと大きな音を立てて開く。
「エド、私とて酒の相手などわけがないのだ」
ローザが現れ、いきなりエドに詰め寄りこんなことを言いだす。
「はぁ?ローザも何言ってんだ?」
「私が酒を飲めることを証明してみせればいいのだろう」
「おい、やめろって!」
エドが制止する間もなく、ローザはエドの少ししか飲んでいないカクテルのグラスに手を伸ばし一気に飲み干した。
「エドが悪いのだ!私を置いて出かけるなど、寂しいではないか!……私は私は………すぅ、すぅ」
ローザは顔を赤らめエドに詰め寄るが、そのままエドにしな垂れかかり、寝てしまった。
「だから言わんこっちゃない……レッドマンわりぃ、ローザ連れて帰るわ。リタ帰るぞって、寝てやがる。はぁ、レッドマン。自動タクシー呼んでくれねーか?」
エドの自宅からこのバー茨の園まで歩いて10分程の距離しかないが、さすがに寝ている二人をおぶって帰るわけにいかず、自動タクシーを呼ぶことにした。
「了解した、1分ほどで到着する」
レッドマンはタブレットを操作し、自動タクシーを呼ぶ。
「サンキューな」
エドはレッドマンに礼を言いながら、先にローザを自動タクシーに乗せるためにおぶって、店を出る。
ピキーーーーン!
その間またリタがスクッと起き上がり、うつろな目で真正面を向き、先ほどのように預言めいたことを言いだした。
「赤のダメンズ、妹を幸せにすれば、亡き母も許してくれるでしょう。家族や友人を大切にすれば明るい未来が待っています」
それを聞いたレッドマンは小さくつぶやくようにリタに問いかける。
「………私は許されるのだろうか?」
だが、リタからの返事はない。
またフラフラとしだし、今にも倒れそうだ。
そんなリタをレッドマンはカウンターを身軽に飛び越えて、優しく支える。
「………」
「リタ、帰るぞ……って、レッドマン、リタに何かあったか?」
「いや……、なにもない。倒れそうだったからな、支えたまでだ」
「助かる、そんじゃな、引き上げるわ」
「ああ……」
エドはカードで支払いを済ませ、リタをおぶって店を出ていく。
そのエドと入れ替わりにセイラが店に現れる。
「ここに来るなど、めずらしいな」
「兄さんの仕事ぶりを急に見てみたくて……」
「そこに座って見ていればいい」
セイラはレッドマンに促され、カウンターに座る。
「何を飲む?私の奢りだ遠慮はいらない」
「そう、ありがとう。そうね。兄さん…マスターにお任せするわ」
「かしこまりました」
レッドマンはセイラに対し客としての対応を取る。
セイラに出したカクテルはカルフォルニアレモネード。
ウイスキーをベースにレモンジュース、ライムジュース、グレナデンシロップ、砂糖とソーダをブレンドしたものだ。
カクテル言葉は永遠の感謝。
兄妹が交わす言葉は少なかったが、二人の間で穏やかな時間が過ぎて行った。
この話には分岐が3つあります。
そういう意図で書いてますw
アンケートよろしくお願いします。
今回の話には分岐があります。今後の展開は?
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