TSしたらなんか相棒たちがいるんですけど・・・ 作:コジマ汚染患者
ではどうぞー(´・ω・`)ノ
翌日の朝。配信を夜から行うことにし、その旨をSNSで事前に通知していた時だった。
「・・・ん?」
メールのアイコンが点滅し、新着受信があることを示していた。
「どれどれ・・・って誰だろう。この人」
メール画面を開くと、見たことのないアドレスからの受信だった。
普段から配信を見た人や配信では時間がなくて語れなかった人などからメールを受けることがあるうみ。しかし最近は古参の視聴者からのメールが多かったため、見慣れないアドレスに首をかしげる。
「うーんと・・・相談ではないのか・・・って、え?」
そこに書かれていた内容は、ポケモン関連の相談というわけではなかった。しかしうみはその内容に驚愕する。
「配信者グループへのお誘いとコラボ・・・?」
そこには、うみですら知っているような知名度の高い配信者達が所属しているグループへのお誘いが書かれていた。
「詳しくは、折り返しのメールでの返事の後で説明します、返信お待ちしております・・・か。う、うーん・・・」
悩むうみ。配信者としての活動を続けてだいぶ時間が経ち、少しずつリスナーを増やしてきたことで、最近ようやく収入が僅かながら入り始めたうみ。ここでこのグループに参加することができれば、より円滑に活動できるだろう。
「でもなぁ・・・俺コラボとかしたことないしなぁ。色々と不安もあるというか・・・」
そう言って椅子の背もたれに顔を乗せ、くるくると回るうみ。
「・・・!そうだ、とりあえず返事は後にして、今日の配信で視聴者にも聞いてみよう!」
とにかく今は配信の用意!と気分を切り替え、リュックへと荷物を詰めていくのだった。
「はいどーも、うみです。今日は、ネットで有名な心霊スポットへとやって来ました」
『わこつ』『今日は相談室休みか』『なんかアクティビティで新鮮』『舞ってた』『そのまま舞ってろ』
配信を開始した直後に既に視聴者が100を超える。最近になって加速度的に配信の視聴者が増えておりホクホク顔だ。
「はい、今日は相談室ではなく、いわゆる肝試しってやつをやろうと思います」
『肝試しかー』『夏の終わりが近いからか、色々やるなぁ』『いいぞいいぞ、面白ければなんでも』
「はい、今私がいるのは、〇〇県で有名な幽霊が出ると噂の廃墟となった別荘にやってきました」
『あーあそこか』『え、怖・・・』『今日は見ない方がよさげな気がしてきた』『うみちゃんの悲鳴聞きたさでワイは残るで』
何人かの視聴者は怖さでみるのをやめておくようだ。そこでうみは、ニヤリと笑うと大げさにためいきをつく。
「そうですか・・・はーあぁ、残念です。皆さん男らしい度胸のある人たちだと思っていたのに、実はお化けや心霊が怖くてネット越しでも見ることすら出来ないような人たちだったなんて。ああ、気にしないでください。誰だって怖いものは怖いですよね。すいません、俺の配慮不足でしたー。・・・では今日の配信はやめにして俺だけでちょっと見てきますかねー」
明らかな棒読みのセリフだったが、その効果は絶大だった。
『別荘に・・・行こうぜ・・・ひさびさに・・・キレちまったよ・・・』『初めは今日も尊いとか思ってたけど、なんかだんだん腹たってきたわ』『いくらうみちゃんでも言っていいことと悪いことがある』『野郎オブクラッシャー!!』『こいよ亡霊、存在感なんて捨ててかかってこい!』『ここで燃えなきゃ男じゃねぇってなぁ!』
コメントが怒りとやる気に溢れる。一部冷静な人もいるようだが、大体の視聴者はうみのかけた発破でやる気MAXだ。
そんな視聴者を見てくすりと笑ううみ。
「・・・流石です!さぁいきましょう!幽霊を見るために!」
『ところでうみちゃん、本当の目的って何なの?』
「ん?」
しばらく歩いたところで、コメント欄にそんな書き込みがでる。
「・・・何のことでしょう?警察ニキ?」
その相手、警察ニキことタケシのコメントに笑みを絶やさず答えるうみ。
『なんだなんだ?』『警察ニキ?』『どーいうことだ?』『いや、やっぱ何でもないや』
「・・・!」
と、突然スマホに着信が来る。配信中であるため一度お花摘みに行ってくると言い、連れてきたライにカメラを渡し離れるうみ。
「はいもしもし」
『何が目的なんだうみちゃん』
電話に出ると、開口一番質問するタケシ。いつものおちゃらけた声ではなく、真剣な声だ。
「ただの肝試しですよ?別に警察のお世話になるようなことはしないのでだいじょう・・・」
『そこで人が二人、行方不明になっていることを分かって言ってるのか?』
「・・・」
『図星か』
そう、現在うみがやってきている別荘はごく最近、行方不明事件が発生した廃墟なのだった。タケシは少し怒りの混じった声色でうみに問い詰める。
『もしうみちゃんも同じように行方不明になったらどうするんだ?ライがいるから安全か?
もし何か危険が起きたとして、それをライや他のうみちゃんの持つポケモンで全て対処できると?そもそも廃墟への侵入なんてもってのほかだ。今すぐやめて、家に帰りなさ』
「その行方不明事件が、ポケモンの仕業の可能性があるとしても、ですか?」
『・・・何だと?』
驚くタケシに、今度はうみがまくし立てる。
「ネットでこの廃墟については調べました。病気の子供を持つ富豪が住んでいた別荘で、子供が死去した後は手入れもされず、土地の相続権も曖昧になっていること。なぜかこの土地を買い取った人が皆原因不明の事故で大怪我をしていること。それらを調べたうえでの行動です」
『だとしても危険だ、せめてこちらとの連携を・・・』
「・・・まだ対策課の方にも言ったことのない話ですが、ゴーストタイプのポケモンに共通するものって何か分かりますか?」
『・・・いや』
「簡単に人を殺せるということです。・・・一応言いますと、能力や技といった話ではなく、殺害に対して躊躇しないポケモンが多い、ということです」
『・・・!?』
これはゲームでも図鑑で示唆されていた話である。初期の頃からいたゴーストタイプポケモンに、「ゲンガー」がいる。図鑑によると、「突然寒気に襲われたらゲンガーに狙われた証拠。逃げる術はないので諦めろ」「実は人の成れの果てで、道連れを作るために人を襲う」と言った記述がある。
これが意味するのは、すなわちゲンガーは人を当然のように襲い、尚且つ殺してしまうということだ。
「そういったポケモンの存在を秘匿するのは、むしろ危険です。隠してしまったことで被害が拡大しては後の祭りです。早期発見と迅速な対応が大事なんです・・・もしこれがただの遭難だったり事故で意識を失っているとか、ポケモン以外の要因ならそれはそれで良いことです。ですが、もしこれがポケモンによる事件だったら?もしそのポケモンが都市部へと移動してしまったら?」
『・・・』
うみの言葉に黙り込みタケシ。そんなタケシに、うみはダメ押しの言葉を告げる。
「何より、・・・あまり言いたくないですが、警察ニキや釣り師ニキは、まだポケモンバトルの面で弱い」
『・・・っ!』
携帯越しに息を飲む気配がする。実際のところ、ゾロアーク相手に時間稼ぎができたといっても、所詮それはあくまで時間稼ぎであり、勝利するのは不可能だった。
「なら俺が対応できる範囲にいるタイミングでどうにか捕獲、最低でも撃退からの説得くらいするべきでしょう?」
『・・・』
うみの言葉に、黙ったままのタケシ。内心ではうみに危険を冒して欲しくないし、できることなら直ぐにでも向かいたいところだが、タケシにも自分の仕事がある。
『・・・なら配信でそれを視聴者に見せる理由は?』
「最近リスナーのポケモン探しがエスカレートしてるんです。ポケモンだけじゃない、むやみに森だったり廃墟だったり危険な場所に行くような人が増えるのは、純粋に危険です。それに、『ポケモンにはこういった危険な面もある』ということをしっかりと理解してもらういい機会だと思いまして」
うみの主張に何も言わないタケシ。と、ため息とともにゆっくりと喋り出す。
『・・・ゴーストタイプポケモンについての話はまたゆっくりと聞かせてもらうよ。・・・一応こっちで配信を見ておくから、何かあったらすぐに向かう。それと・・・気をつけてな』
「・・・はい!」
タケシとの通話を切り、ライの元へと戻るうみ。パソコンを受け取ると、配信が終わってないことを確認する。
「すいません皆さん、遅くなりました」
『おっ、放送事故終了?』『帰ってきたー!』『大丈夫?』『ちくわ大明神』『気分悪かったらやめてもいいんだぞ?』『おい誰だ今の』
視聴者も若干減っているものの、残った人達の心配の声を聞きつつ、うみは微笑む。
「それでは行きましょうか」
「中は思ったより綺麗ですね」
廃墟となった別荘へと入ったうみ。どうやら本格的に壊れていたのは玄関までだったようで、中はとても廃墟とは思えないくらい綺麗だった。
『おい、もう帰ろうぜ』『なんだよ、ビビってんのか?』『いやそういうわけじゃねーけどよ』『おばけ嫌いマンか!?』
「俺は幽霊やおばけはあまり信じないですけどねぇ。いるかもわからないものに怯えることないですよ」
『いまだに存在が不思議すぎるポケモンの第一人者がなんか言ってるよ』
コメントと会話しつつ周囲を見渡していると、玄関正面の廊下の奥から、何かの割れるような音がする。
『!?』『なんか居るのか!?』『やっぱ帰ろうやうみちゃん。なんかやばいって』
「・・・いえ、行きます」
まじか、とかやめたほうが、というコメントを無視し、突き進むうみ。ライは廃墟に入った時からなにやら戦闘態勢になっている。
(・・・ここ、本当に廃墟か?)
うみは廊下を進みつつある違和感を覚える。
調べて分かったことだが、この廃墟は少なくとも10年は貰い手がおらず、土地を持っている者も手をつけていない。にもかかわらず、廊下にはポツポツと小さな明かりを灯す蝋燭が光源として配置されており、埃や塵一つなく掃除の行き届いた廊下。
それらの不審な要素を鑑みて、うみは確信する。
(ここには「なにか」が住んでいる)
少し垂れてきた汗をぬぐい、うみは奥へ奥へと進んでいくのだった。
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「・・・誰からだ?」
「うみちゃんです」
スマホで動画を見ていたと思ったら真顔で部屋を出て行ったタケシ。戻ってくると、キョウに話しかけられる。
「なにがあった?」
「うみちゃんが現在、ポケモンがいると思われる廃墟へ単身乗り込んでます」
「・・・」
その言葉に険しい顔になりながら目元を押さえるキョウ。
「あの子は自分の立場ってものを理解しているのか?」
「少なくとも俺らの考えてることよりは考えてないでしょうね」
自分のデスクに顎を乗せ複雑な表情を浮かべるタケシ。先程許可を出したばかりであるが、すでに撤回して帰らせたいところである。
「今あの子に何かあれば、ポケモンとの共存どころか、ポケモンに滅ぼされるぞ」
そう言ってタバコを咥えるキョウ。現在ポケモンを持つ存在、つまりはポケモンへの対抗策と言える人物は数名いるが、うみはその中でもダントツの実力を誇る。更には他のどの人材、科学者でもわからないポケモンの生態に通じているのも彼女だけである。
「そんなあの子がいなくなったなんてことになったら、まじでこの先地獄っすねー」
そう言って傍らにやってきたズバットを撫でるタケシ。未だ険しい顔をしていたキョウだったが、スーツをひっ掴み立ち上がる。
「やはり危険だ、俺がうみちゃんを連れ戻してくる」
「・・・言って聞くような子でもないでしょう?」
「力づくで連れてくる」
ライという存在を加味してなおそう言い切るキョウにある種の尊敬の念を抱くタケシ。対策課を出て行くキョウを見送りつつ、パソコンを起動してうみの携帯の位置情報を調べ始めるのだった。
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「なんだこのふざけた報告は!?」
机をバンと叩きながら、男は怒りのままに絶叫した。その手に握られているのは、ゾロアークが暴れたことによる被害と現在の復旧状況、そして警察ーーー外来種対策課から送られてきたポケモンに関する報告書であった。
「警察はいつから妄想癖を患うようになった!?ポケモンだと?冗談にしても馬鹿馬鹿しい!それに関する取り締まり法案を検討してくれだと?ふざけるな!まずポケモンがなんなんだ!私はこのような報告書を読むためにここにいるのではない!」
もはやおこを通り越して激おこである。そんな男に、恐る恐る秘書が進言する。
「で、ですが・・・実際にこの報告書と、目撃されたという謎の外来種に関する情報は一致しております」
「だからなんだ!外来種が火を吹いたとか、その火が実は幻影だったとか、そんなタチの悪いSFじみた話が本当にあるとでもいうのか!」
「しかし、たしかに実際の火事被害と、確認されていた火の回っていた地帯との違いは明らかです。まるで最初から火なんて点いていなかったかのような・・・」
そんな秘書の言葉に黙り込み座り直す男。
「・・・だがどうしろというのだ。実際にそのような生物がいたとして。火を吹く怪物をどう取り締まる!どのように法案を作ればそれが出来る!いやそもそも、警察程度の装備でどうにかなるのか!」
そう言って頭を抱える男。すると秘書が一枚の報告書を取り出し読む。
「あ、その件に関する報告も上がっています。『検証の結果外来種、仮称ポケモンに対抗するには、警察の装備ではまず不可能である』」
「ダメじゃねぇかぁ!!」
もう頭を机にバンバン打ち付ける。そんな激おこぷんぷん丸な男にオロオロしつつ、何か朗報はないかと書類を漁る秘書。
と、ある報告書にそれらしき情報を発見する。
「・・・あ!で、『ですが、現在対策課の設置に伴い、ポケモンに関する見識者との協力関係を結ぶことに成功している』、とのことです!」
「本当か!」
ガバリと起き上がる男。その道のプロがいるというなら、その話を元にどうすれば良いかを考えられる。一筋の光明を見出した男は、オーバーなくらいに嬉しそうにし、秘書から書類を受け取る。
「なになに、『見識者名:うみちゃん』・・・ちゃん?げ、『現在動画配信者として活動中の推定年齢13歳』」
そこで男は再度机に突っ伏したのだった。
その夜、男のいる事務所に怒りの叫びが響くのだった。
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『・・・はいそれでは、街を歩く若者に、現在起きている外来種事件について聞いてみましょう!あ!そこの男性の方ー!』
『・・・え?俺ですか?』
『はい!最近外来種による事件事故が多発しておりますが、そのことについてどう思います?』
『え、あ、えーとポケ・・・外来種の事件やら事故の被害者には申し訳ないですけど、外来種にだってきっと人と仲良く出来る奴がいると思いますよ?』
『なるほどー!おや、ずいぶんかわいいぬいぐるみですね!彼女へのプレゼントでしょうか!』
『い、いやー、自分がこういうの好きで。あ、あははは・・・』
『ほうほう、意外な一面。それではありがとうござい・・・え、なにこれ!動いてる!?』
『あっ、やっべ!ミニリュウ落ち着け!』
『な、なんですかそれ!おもちゃ!?』
『フゥ!』
『嘘!鳴いた!?』
『えーと、あ、あーもう!すいません失礼します!』
『あ!ちょっと!・・・さ、先程のあれは一体なんだったのでしょうか、彼を追ってみましょう!』
とあるニュース番組収録より
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森の中、うみが入っていった別荘の外。暗い夜の帳が下りたその中を、縦横無尽に飛び回るポケモンがいた。そのポケモンは、夜の森を楽しげにフワフワと飛び回る。
ふと、そのポケモンは別荘を見つけフラフラ入って行く。そのポケモンは、中に入ると姿を変えてゆく。
薄いピンク色だった小さな体は全体的に黄色くなり、長く細かった尻尾は根元が茶色で残りが黄色の稲妻のような形をした尻尾となる。耳も伸び、これまた黄色く、先の方だけ黒くなる。頰には赤い電気袋ができ、もはや元の姿の名残は透き通るような青色をした瞳だけだった。
「ピッカァ!」
嬉しそうに一声鳴くと、そのポケモンは奥へと進むのだった。
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時を同じくして、森の中から更にポケモンが別荘の前へとやってきていた。
全体的に緑色の体に、背中に生えた虫のような羽。ヒラヒラと飛ぶ姿は、まるで緑の妖精である。じっと別荘を見つめるその顔には、憂慮の表情が浮かぶ。
「レビィ!」
そのポケモンは、何かを感じたのか慌てて別荘の中へと入って行くのだった。
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そんな二匹のポケモンが別荘に入って行く姿を、そっと見ているポケモンがいた。
星のような黄色い頭に、青い短尺のようなものをひっつけ、振袖のような手をモジモジとさせながら別荘を見ている。
「〜〜〜!」
しばらく別荘の前をうろうろしていたポケモンだったが、ふと背後から騒音が近づいてくる。
「!?」
慌ててポケモンは木の陰に隠れる。やってきたのは、黒い車だった。車が停車すると、中から男が一人下りてくる。男は廃墟となり、不気味な雰囲気を醸し出している別荘を険しい顔で見上げると、やや早足で入って行く。
それを見送ったポケモンは、なおも躊躇い玄関でオロオロしていたが、やがて決心がついたのか、フワリと中に浮かび、別荘へと入って行くのだった。
ポケモンの闇深について知ってもらうためにゴーストタイプとかいうポケモン屈指のトラウマ案件を配信で見せようとしてるドS少女がいるらしい。
次回、寺生まれのUちゃん
次回もお楽しみに