TSしたらなんか相棒たちがいるんですけど・・・   作:コジマ汚染患者

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どーも、25話です。
えー、残念(?)なお知らせ。
廃墟編(仮)、まだ終わりませんでした。
長げぇ(確信)
明日の更新ではちゃんと終わるから許して許して・・・
(´・ω・`)


第25話

「うみちゃんはあの日記を読んでいて何か気づかなかったか?」

 

操られた男達に警戒しつつ廊下を歩くキョウとうみ。ふと、キョウが尋ねるとうみは首を横に振る。

 

「いえ・・・なんで日記の筆者が変わっていると?」

 

前方を歩くヒトモシを見つつ、キョウが説明する。

 

「・・・あの日記、最初の記録からあの少女、ゆかという子は一人称が『私』であることはわかった。だが、あるタイミングで一人称表記が『わたし』となっていたんだ」

 

「でもそれは・・・途中でメイドが代筆している様でしたし、一人称くらいなら変わるのでは・・・?」

 

「その可能性はまぁある。だが、一つ、俺が読んだから分かってると思うが、発狂文の前の記録を見てみなさい」

 

「・・・?キョウさん、最後に読んだ文、『みんないる』って・・・どこに書かれてるんですか?」

 

『〇〇月〇〇日

今度は声が出なくなった。その次に指先の感覚が消えたらしい。もうみんなからのこえも言葉も聞こえない。暗いところに行ってしまい、わたしから話しかけることしかできない。唯一出来るのは、まだそばにいるか確認することだけ。』

 

うみが読み返していると、この文で違和感を持つ。キョウが読み上げていた時の最後の一文が見当たらない。

日記を見返しているうみの上から、キョウがページの一番下をなぞる。

 

「ここをなぞってみろ」

 

「・・・?あっ!」

 

そこには、意味ありげな間隔でザラついた汚れがあった。よく見ると、汚れではなく、裏から何か鉛筆のようなものでつついたように盛り上がっている。

 

「聞いたことくらいあるだろう?点字だよ」

 

「これが・・・?」

 

「普通に読んでいればただの汚れやしわと同じようにスルーされるだろうが・・・恐らくだがその前の日記でも言っていたように、弟や母親は点字を使えたんだろう。あえて普通の人ならば点字だとも思わないよう端に書いているところからして、秘密の暗号のような何かかも知れん。ひょっとしたら、これを書いた弟が何か伝えようとしていたのかも知れない」

 

「でもなんでわざわざ日記に・・・?姉の視力がないなら日常的に日記に触る可能性は低いと思いんですが・・・」

 

「よく文を読んでみてくれ。前のページでは自分の体のことに関しては「なった」と断定的に話していたが、この文からは声という他者でも判断できるものは断定的だが、なぜか感覚に関しては「らしい」と書かれている。

・・・自分の体のことなのになぜ断定できない?」

 

「・・・姉本人ではなかった?」

 

「おそらくそうだろう。弟が見た目だけで様子を書き留めておいたんだろう」

 

「で、でも、じゃあなんで弟の部屋を探すんですか?母親という線も・・・」

 

「じゃあ最後。最も俺が弟だと断定した証拠・・・とも言えないが、一つある。

日記の最後の方3ページ、これまで出てきた弟が一度も出ないのはなぜだ?両親は出てきたというのに。それと、その3ページだけ、必ず同じ人間の筆跡だった。メイドの代筆ではそれぞれがバラバラな筆跡だったというのに」

 

「あ・・・」

 

驚くうみをちらりと見て、廊下の先、一つのドアの前に立つ。ヒトモシはキョウの肩に乗り、ここで到着だと言うように指差している。

 

「何故か変わっている一人称。点字で書かれた謎のメッセージ。日記から消えた弟。そして・・・先ほどのベッドに積み上げられていた白骨死体の山。そこにあった骨の中に、頭蓋骨は少女のものを除いて『二つだった』。何故あれだけ家族思いの存在がいたのに弟はいない?

 

何があっても『みんなで守る』というその決意、少しやりすぎなんじゃないか?

・・・なぁ?弟さんよぉ」

 

そう言ってドアを蹴破るキョウ。入った先は、必要最低限の物しか置かれていない簡素な部屋。大きな窓から月明かりが差し込むその先に、それはいた。

独特なシルエットに、紫の体。血走ったような赤い目に不快にニヤつく笑みを浮かべた口元。

うみはそれを見て息を飲む。ゴース・ゴーストを見た時からいるのではと想定していたそのポケモンを警戒しながら睨む。

 

「・・・ゲンガー」

 

「ゲッゲッゲッゲッゲッゲ!!」

 

うみのつぶやきに反応したのか、不気味に笑い出すゲンガー。思わずキョウの後ろに隠れ、キョウもうみをかばうようにしてゲンガーを睨む。するとゲンガーの背後に突如人影が見える。その人影は痩せ型のやつれた男性の姿で、足は透けて先がなく浮いているようになっていた。その表情は憤怒に染まり、こちらを睨みつけている。

 

「あれは・・・弟の霊か?」

 

キョウが睨みつけながらボソリと呟くと、幽霊がゆらりと揺れる。

 

『・・・いけ・・・でていけ・・・姉様もみんなも・・・守る・・・出て行け・・・

 

シネ』

 

幽霊がそう呟くとともに、ゲンガーが襲いかかる。ライが迎撃のために飛び出すと、『10まんボルト』を放つ。すると突然横から何かが飛んできて、電撃にぶつかり軌道をそらす。

 

「ライ!?」

 

「キュィィィィ・・・」

 

ライが脅迫しつつ襲いかかるゲンガーの攻撃を避けると、今度は足元から手が伸び、ライを捕まえる。うみとキョウから離すようにそのまま放り投げると、壁を突き抜け隣の部屋へと飛ばされるライ。床から現れたのは、先ほども見た紫の幽霊。そして家具が飛んできた方を見ると、これまた見たことのある球体。

 

「ゴースト・・・!それにゴースまで!ライ!大丈夫!?」

 

隣の部屋から元気な声がし、ほっとするうみ。するとゴーストとゴースがライのいる部屋へと突撃する。隣の部屋からドタドタと戦う音と雷鳴が聞こえる中、ゆらりとゲンガーがこちらを向く。

 

「!来るぞ、ヒトモシ!」

 

「ッ!」

 

ヒトモシがファイティングポーズを構え、迎撃体制に移る。すると、それを見たゲンガーがゆびをくるくると回す。

 

「なにを・・・!?」

 

すると今度は背後に操られた男二人が現れ、うみに襲いかかる。

 

「しまっ・・・!?」

 

「うみちゃん!」

 

咄嗟にキョウがうみを庇うと、男の一人が持っていた割れたビンで殴りかかる。

 

「グッ!」

 

「キョウさん!」

 

うみの代わりに殴られ、片腕の肉がえぐれる不快な音がする。キョウのうめき声を聞き慌てるうみを突きとばし、キョウは男二人を抱え部屋の外へと放り出す。

 

「うみちゃん!すまないが、俺はこいつらを相手する!そのポケモンを頼む!」

 

「!はい!」

 

キョウの言葉に気合を入れ直したうみは、真剣な表情でゲンガーと向き合う。

そんなうみを見つつ、ゲンガーは笑い背後の亡霊は睨みつける。

 

「・・・ごめんけど、力を貸してくれ」

 

「・・・!」

 

ライ以外のポケモンを置いてきてしまっているため、ヒトモシだけが頼りだ。幸いにもヒトモシは気合十分なようで、ゲンガーを睨みつけている。

 

「ゲッゲッゲッ」

 

「覚悟しろよ・・・!お前にこれ以上いいようにさせるかってんだ!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ライ!」

 

一方、ゴース・ゴーストのコンビを相手しているライは、戦いながら一階のエントランスへと戦いの場を移していた。 天井に吊り下げられたシャンデリアの上に飛び乗ったライへ向けて、二匹のゴーストポケモンが禍々しい色をした球状のエネルギー弾、『シャドーボール』を放つ。

即座に飛びのくライ。シャドーボールはシャンデリアに直撃し、天井から落ちてくるシャンデリアにゴースト達が慌てる中、壁を走り高速で接近するライ。

 

「ライ!」

 

「!?」

 

「ーー!」

 

 

その勢いのまま、壁を蹴りゴースト達に飛びかかるライ。ゴースは驚愕して硬直するが、ゴーストはいち早くそれに気づき、『シャドーパンチ』で応戦する。ライの尻尾の一撃と、おどろおどろしいゴーストの拳がぶつかる。

衝撃波が周囲に広がり、窓ガラスや、花瓶などが割れ散らばる。しかしゴーストは一歩も退かず、拳を振り抜く。空中で一回転し地面へと降り立つ。

 

「・・・チュゥ」

 

「ケケケケケ!」

 

苛立つように唸るライに、不快な笑いで煽るゴースト。再度飛びかかろうとしたライだったが、突如視界が歪む。

 

「!?・・・!?」

 

「ケケッ」

 

一体何が、と周囲を見渡したライは、若干離れた位置にいたゴースを見つける。そして即座に、自身が『こんらん』の状態異常であることを認識する。

 

「ケケ、ケケケケケケケケケケ!!」

 

「・・・っ、っ、っ」

 

ここぞとばかりに『シャドーボール』や『シャドーパンチ』、はては『あくのはどう』などさまざまなわざで滅多打ちにする。

時折ゴースが遠隔で『あやしいひかり』を放ち常時こんらんハメをしてゲラゲラと笑っている。

 

「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲ!!」

 

「キュィィィィ!」

 

ゴースやゴーストの笑い声を聞きながら、ライはひたすらに嬲られた。そんな中、朦朧とする意識の中でライはそんな自分を他人事のように感じていた。

 

ーーーなんだこれ。なんでこんなことになってるんだっけーーー

 

ーーー痛い。頭グワングワンするーーー

 

ーーー〇〇は・・・どこだろうここーーー

 

ーーーさっきから痛ってぇなぁ。なんだこいつらーーー

 

ーーーこいつらか・・・?こいつらが〇〇をどっかへやってしまったのか?ーーー

 

ーーーコロスーーー

 

「・・・!?!?!?」

 

ひたすらに攻撃していたゴーストが、突如固まり距離をとる。

 

ーーーお前かーーー

 

どこからか聞こえる・・・いや、感じる声に恐怖するゴースト。ゴースも、本能から危機を感じる。ゆらり、とライが立ち上がる。ゴーストが散々殴り倒したはずなのに、まるで効いてないかのように首をコキコキ曲げる。

 

『なんで!?あれだけ殴ったのに!?』

 

『なんで!?こんらんしてるはずなのに!?』

 

あまりに異質な光景に戸惑うゴースト達。そんな二匹を、ライはハイライトの消えた目で睨む。

 

ーーーお前らが、俺の邪魔するのかーーー

 

聞こえてくる謎の声。幻聴だと、おばけみてぇなことしてんじゃねぇと心で叫ぶゴースト達。

・・・いや、おばけはお前らやろ。

 

ーーー〇〇して〇〇〇〇にして二度と〇〇〇〇たりできないようにしてやるーーー

 

「「〜〜〜〜!?」」

 

ライの背後に揺れる殺意を幻視したゴースト達は、その後どうなったのかは誰も知らない。

そして、二度とその姿を見たものはいない。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「っと・・・随分と派手に壊すなお前ら」

 

二階の廊下にて、男達と対峙していたキョウ。

男達は、普通の人間ではありえないパワーを発揮し、壁を拳で突き抜き、握撃は近くにあった花瓶や甲冑を砕く。

 

「催眠状態と同じってことか。リミッターが外れてるから常時火事場の馬鹿力を発揮し続けてるってとこか」

 

キョウは襲いくる男達をさばきながら、そう呟く。男達はそれでもなお愚直にキョウに襲いかかる。

 

「グェアァァァ!」

 

「やれやれ。銃を持ってくるべきだったかな」

 

キョウの背後にまわった男が襲いかかり、前からは別の男が手近にあった箒をもって殴りかかる。

 

「甘い。そんなもんで俺をどうこうできると思うなよ?」

 

後方を確認せず襲いかかる男の顔面をアイアンクローで鷲掴みにする。

 

「!?」

 

操られて意識はないはずの男が「えっ?」というような表情を浮かべる。

 

「そらぁぁ!!」

 

「「グェェェェェ!?」」

 

そのまま驚愕する男を、腕力のみで持ち上げ前方で箒を振りかぶっていた男へとそのまま振り下ろす。まさかの事態に固まってしまった男は、そのまま頭部へと人間凶器と化した片割れをぶち込まれ廊下に倒れる。

完全に意識が飛びぶっ倒れた男達を見下ろし、軽く腕を回すキョウ。

 

「ふん・・・おまわりさんをなめんなよ?」

 

いやあんたのようなおまわりさんはおかしい。

 

「さてと、うみちゃんを助けにいかねぇとな」

 

男達を縛り上げると、うみがいた部屋へと急ぐキョウ。ドアが閉まっていたその部屋へとたどり着き、蹴破り入るキョウ。

 

「うみちゃ・・・!?」

 

そこで見た光景に愕然とするキョウ。そこには、倒れ臥すうみと、その前でニヤニヤと笑いながらうみの頭を掴んだまま身動きしないゲンガーがいたのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ここはどこだろう。

うみが最初に思ったことはそれだった。体は若干透け、周囲は見たことのない・・・

 

「いや、ここは・・・廃墟?」

 

周囲を見渡し、見覚えのあるエントランスだと気づくうみ。すると、玄関から声が聞こえる。

 

『ただいま!』

 

『お帰りなさいませ、弟様』

 

振り向くと、そこには快活な少年と執事服の老人がいた。元気に挨拶をする少年に微笑みかける老人の後ろからじっと眺めていると、少年が写真に写っていた青年だと気づく。

 

「この子が・・・じゃああの亡霊は?」

 

先ほどの亡霊とは全くと行っていいほど雰囲気の違う少年に戸惑ううみ。すると、少年は手にいっぱいの花を持ち、二階へと上がって行く。

なんとなくそれについて行くうみ。すると例のピンクの扉の部屋へと行き着く。

 

『姉様!どうぞ、今朝咲いた花です!』

 

部屋のベッドでは、白骨死体ではない少女が本を読みながら座っていた。少女・・・ゆかは、弟へと微笑みかける。

 

『・・・ありがとう、いつも持ってこなくてもいいのに』

 

『いえ、外に出れない姉様にも見てもらいたいから!?』

 

そう言ってベッドのそばまでやってくる弟を撫でるゆか。

 

『そう・・・じゃあ、今度はこのお花をお願いしようかしら』

 

『!うん!明日はそれを持ってくるね!』

 

微笑ましい光景に思わず頰が緩むうみ。しかし、景色が早送りのように進み、次に止まった時には、ゆかはベッドで苦しそうに呻いていた。

 

『・・・』

 

『どうですか、先生!』

 

『・・・申し訳ありませんが、もう長くないかと』

 

『そんな・・・!』

 

医者の言葉に嘆きながら座り込む女性と、肩を支えている男性。写真と同じ顔から、ゆかの両親だと気づく。

泣き崩れる両親を、弟が無表情で見つめている。

 

『・・・』

 

『どうしたの?●●』

 

姉の元へと向かう弟だが、黙ったまま動かない。そんな弟を訝しむ姉に対し、いきなり手を取ると叫ぶ。

 

『姉様・・・姉様はわたしが、わたしが守ります!』

 

驚き目を見開いていたゆかだったが、すぐにふわりと笑う。

 

『・・・ありがとう』

 

その後の生活は目まぐるしく進んでいった。

片方づつ目が見えなくなり、絶望する姉に必死になって勉強した点字を弟が教え、やがて皮膚の感覚を失った姉は目を開くことはあれど何に対しても反応することがなくなる。

そんな姉の様子を、涙を流しながら日記に書き続ける弟。やがて姉は目を開くことすらしなくなり、世話をするメイドと弟以外は部屋にすらくることはなくなった。

 

『・・・姉様。わたしが、わたしが守ります。ずっと、ずっと・・・』

 

そう言って手を固く握りしめる弟。ゆかの手は、すでに冷たくなっていた。

 

『・・・!?』

 

するとそんな弟の背後に突如、ゴースが現れる。いきなり現れた幽霊のような存在に驚き立ち上がる弟。するとゴースは弟に対して『さいみんじゅつ』を使う。

 

『あ・・・あ・・・ねえ、さ・・・まも・・・る』

 

『キュィィィィ』

 

そこからの弟ははっきり言って異常の一言に尽きた。突如発狂したかと思うと、別荘に住む全ての人を、両親から使用人に至るまで全て殺害し、両親の骨をゆかの側に、使用人も庭に埋め、その後自分の部屋へと向かう。

 

『守るんだ・・・いつまでも・・・姉様を・・・家族を・・・』

 

そうして、自らの首を掻き切った弟も息をひきとる。そのそばで浮いているゴースは進化し、ゴーストへと変貌する。

 

「・・・」

 

その、ゆかの弟のものであろう記憶を見たうみは、なんとも言えない気持ちとなった。姉と家族を愛した弟が、ゴースと出会ってしまったが故の悲劇。記憶の旅を終え、暗い空間へとやってくるうみ。

 

「ゴースが悪い・・・とも言えるような状況、そもそもそんな昔からポケモンがいたなんて・・・」

 

少なくとも10年以上前から存在していたと思われるゴース。現在だけでなく、過去に遡って情報を得る必要があるな、と感じたうみは、そのまま意識を覚醒させて行く。

 

「・・・っ!?なん、だこれ・・・!?」

 

すると突如、強烈な頭痛がうみに襲いかかる。頭を押さえて悶えるうみの脳内に、覚えのない記憶がフラッシュバックしてくる。

 

『・・・なさい!どうして言うことが聞けないの!』

 

「ご、ごめんなさい・・・」

 

『早くしなさい!』

 

「これは・・・一体・・・!」

 

今度の記憶は、一人称視点の記憶だった。目の前にはなぜかは分からないが猛烈に怒っている女性。当然見覚えはない。

画面は変わり、段ボール箱の中へと至る。

 

『ここに居なさい。いいと言うまで出ないこと。いいわね!?』

 

「嫌だ!まって、置いてかないで!お母さん!お母さん!!」

 

喚くような聞き覚えのある声を無視して素早く閉じてしまう母親なのだろう女性。その後しばらくの間揺れる暗い視界とすすり泣く声、そして言いようのない不安と悲しみの感情がうみを襲う。

 

(これは、もしかして・・・)

 

しばらくして、振動が止まる。少しだけ不安の感情が薄れるが、次の瞬間に今度は先ほどの振動を超える荒々しい振動がやってきて、またしても恐怖がやってくる。

しかし今度はあまり長い間振動は続かず、どこかへと乱雑に落とされる感覚が来たのを最後に振動が止む。

 

「・・・お母さん?」

 

恐る恐る外へと出る。するとうみは見覚えがあるどころじゃない衝撃を受ける。

 

(ここって・・・!俺の家!?)

 

そこは現在うみの住んでいる家のリビングだった。幼女はゆっくりと段ボール箱から出ると、母を呼びながら家の中をさまよう。一階を探し、二階へと向かう。うみが自室として使っている部屋へとやってくると、立て鏡の前に立つ。

 

「お・・・れ?」

 

そこに立っていたのは、最初に目を覚ました時に来ていた白いワンピースを着た、今の俺にそっくりな幼女が、泣き腫らした顔で立っていた。しかしその髪と瞳は黒で、一般的な日本人らしい美少女で、今の俺とは身長や雰囲気が若干異なっていた。

 

「・・・ひっく、うぐ・・・お母さぁん・・・」

 

立て鏡を見ながらまた泣き始める幼女。それを見て戸惑ううみ。なんで自分と同じ顔立ちの幼女がいるのか、そしてなんで自分の家にいるのか。薄々気づいてはいても信じたくないと脳が理解を拒む。

 

「お母さん・・・置いてかないで・・・私、いい子にするから・・・」

 

そこからの光景は見るに耐えなかった。まだまだ家事どころか食事すら難しいであろう幼女だ。たった一人見知らぬ家に取り残され母親にすら見捨てられた。そんな状態で生きていけるはずもなく、最初は家の外へ出ようとしたり、リビングをうろついたりしていた幼女だが、やがて疲労と空腹で動くことすら困難になった幼女は、自室の床に倒れたまま過ごしていた。

 

「・・・お母さん・・・」

 

動けなくなった状態でも変わらず母を呼び続ける幼女。目を開けることすら出来なくなった幼女の心から、悲しみと恐怖、絶望の感情が流れてくる。うみはその感情に引っ張られ、涙が溢れてきて止まらなくなる。

 

(これ・・・やっぱり、俺・・・なんだな)

 

すると、すでに夜であり真っ暗なはずの部屋が光に包まれる。

 

(なん・・・)

 

光がある程度収まると、そこにはポケモンがいた。

 

『・・・人の子よ。何を求める』

 

「・・・」

 

『何を願う』

 

そのポケモンはなぜか俺の頭の中から情報が一切出てこない。分からないのではなく、「思い出せない」。まるで脳内にフィルターでもかかっているかのような靄があり、名前すら出てこない。

そんなポケモンの言葉に、絞り出すようにして出てきた言葉は、たった一つだった。

 

「・・・お、かあ・・・さん・・・」

 

『・・・母か。いいだろう。ならば生きよ。生きて探して見せよ、その願いを』

 

そう言ったポケモンの背後に無数のプレートが浮かび上がる。その中から一枚のプレート、海のように深い青のプレートが幼女の中に吸い込まれるようにして入り込んでいった。

 

『・・・人よ、我にできるのはここまでだ。・・・あとは貴様たち次第だ』

 

(こっちを・・・)

 

そのポケモンは幼女ではなくうみの方を見てそう言った。それを最後に記憶は遠くへと消えて行き、光が体を引っ張って行く。記憶の向こうでは起き上がった幼女がこちらへと微笑んでいる。

 

「待ってくれ!お前はーーーーー」

 

ようやく声が出せるようになり、手を伸ばすうみ。そんなうみに幼女は、銀に変わってゆく髪をたなびかせながら、一筋の涙を流していた。

 

 

「・・・私の代わりに・・・お願い」

 

その言葉を最後に、うみの意識は現実へと戻ってゆくのだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「・・・みちゃん!うみちゃん!しっかりしろ!」

 

「・・・キョウさん?」

 

「良かった!起きたか!」

 

目を覚ましたうみは、走るキョウに背負われていた。意識を取り戻したうみを背負いつつ、キョウは全力で走っている。その横ではライが心配げにうみを見上げながら並走し、その背には目を回したヒトモシを背負っている。

 

「ここは・・・キョウさん、いった」

 

一体何が、とうみが尋ねようとした時だった。背後から大きな破砕音が響く。

 

「ゲギャギャギャギャギャギャギャギャ!!!」

 

「なっ!?」

 

背後を見ると、そこにはゲンガーがこちらを追ってきていた。しかしその様子はどこかおかしく、頭のつのや尻尾、腕などがより尖った形状で、より凶悪な姿となっていた。目からは理性が消え、完全の暴走状態となっているのだった。

 

「起きたばっかりですまないうみちゃん、あの化け物はなんなんだ!?」

 

「わ、分かりません・・・あれはゲンガーというポケモン・・・のはずなんですが・・・」

 

戸惑いつつ答えたうみだったが、容姿があまりに変わりすぎていて断定できない。ゲンガーはひたすらうみ達を追いかけ続けており、段々と廃墟が壊されてゆく。

 

「・・・どういう理由でこんなことになっているのかはわかりませんが、とにかく逃げましょ・・・!?」

 

突如固まるうみ。その視線の先では、涙目でこちらとふわふわ並走しているポケモンがいた。そのポケモンをみて怪訝な表情のキョウは、背後のゲンガーを見てああもう!と叫ぶと、そのポケモンをひっ掴み小脇に抱える。

 

「!?」

 

「大人しくしてろ!とにかく逃げるんだ!」

 

そう言って走り続けるキョウ。

キョウに抱えられジタバタする涙目のジラーチを見て呆れた表情のライ。

 

「・・・なんでこんな所にジラーチが!?」

 

廃墟の夜は、まだまだ続くのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

うみの家。ほかのポケモンが寝静まった家で、一つのモンスターボールがカタリと動いた。

 

POーーーーーーーーーN

 

ひとりでに動いたそのボールから、デオキシスが出てくる。出てくるや否や、うみのいる廃墟の方を見たデオキシス。おもむろにミロのボールを手に取ると、リビングで寝ていたミロをボールに入れる。

 

『・・・!?・・・!?』

 

いきなりの行動に驚いたミロがガタガタとボール内で揺れる。それを見たデオキシスは、体を変化させていき、スピードフォルムへと変わる。そして窓から飛び出し、超絶スピードでうみの元へと向かうのだった。

 

「・・・」

 

『〜〜〜〜!!』

 

ミロは結局訳がわからず、とりあえず帰ったらバンギラスしばく、と心に誓うのだった。




ライ(殺意のすがた)
ライが本気でキレた時のみに発言する姿。ぶっちゃけていうと本気を出しただけ。怠け者気質なため普段本気を出すことが少ないライが、なんらかの要因で本気を出した状態。全体的なスペックが爆上がりするうえ、でんきだまピカチュウを超える火力で相手を消し炭にする。見た目の変化としては、目からハイライトが消え、鳴き声を出さなくなり、常に余剰生産された電気が周囲を覆っている。

次回、うみちゃん+幻+本気のライ=???

次回もお楽しみに

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