TSしたらなんか相棒たちがいるんですけど・・・   作:コジマ汚染患者

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どーも、34話です。
弟よ、兄はポケモン剣を買ってこいと言ったんだ。
パッケージの画像まで見せて頼んだだろう。
なぜ貴様はウルトラサンを買ってきた。(´・ω・`)

どうやら自分が新作をプレイするのはまだ先になりそうです。

ってなわけでドゾー( ̄д ̄;)ノ


第34話

「デオキシス!」

 

うみの叫びで一気に加速するデオキシス。空の上からは原因は不明なれど襲ってくるレックウザ。

デオキシスに必死にしがみつきながら、うみはレックウザについて考える。

 

(なんだ・・・!?なにが原因だ!?レックウザの縄張りに入ったのか!?)

 

そんなうみとデオキシスに向けて、レックウザの『はかいこうせん』が襲いかかる。

 

「くっ・・・!デオキシス、海だ!海上を行ってくれ!」

 

はかいこうせんをギリギリで交わしたタイミングで、前方に見えた海を指差すうみ。デオキシスはうみの指差す先を見て、一気に、しかしうみに負担がかからないよう加速する。

そんな2人を追いかけ、レックウザもスピードを上げていく。

 

「グルルァァァァァ!!」

 

「ああもう、しつこい!デオキシス、急いでくれ!」

 

「ーーー」

 

海上へと出て、水面スレスレを飛ぶデオキシス。レックウザがなおもはかいこうせん連射を行うが、うみ達には当たらず水面に水柱を乱立させるばかりである。

 

「グルルァァァァァ!!」

 

「くそぅ、どこまで追ってくるんだよあいつ・・・!」

 

段々とはかいこうせんの着弾地点が近くなってくるのをみて冷や汗を流すうみ。レックウザの口内にエネルギーが溜まり、うみが絶体絶命となった時だった。

 

「・・・!」

 

「な、なんだ・・・?」

 

突然レックウザが立ち止まり、口内のエネルギーも少しずつ小さくなり、やがて消える。

 

「止まった?・・・なんにせよチャンスだ、行けデオキシス!」

 

うみ達をじっと見つめるだけとなったレックウザを不思議に思いながらも、これ幸いと最大全速で逃げるのだった。

 

 

 

 

「グルルルル・・・」

 

一方のレックウザは、逃げていくうみ達を知覚しながらも、見逃していた。その視線が見据えるのは、先ほどまでうみ達のいた海面。

そのさらに奥の深海から感じる前回と同じ重圧に気づき、レックウザは止まったのだった。

 

「・・・」

 

ここで頭の冷えたレックウザは、しばらく思考する。デオキシスに対しての害意でうみ達を追いかけていたが、その過程で例の『3匹』と再度戦うことになれば、自身はタダではすまない。何より、縄張りを侵した「かもしれない」というだけのデオキシスを倒すのに、例の3匹を相手取るというのはーーー割に合わない。

 

「・・・グルゥ」

 

そこまでを数秒考え、レックウザは縄張りである成層圏へ登って行き、深海からの重圧も奥底へと戻って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ああびっくりした・・・」

 

レックウザから逃げ出したうみは、やっとのことで自宅付近へと戻り、デオキシスを労ってからライと一緒に散歩しつつ帰路についていた。

 

「なんでレックウザが追いかけてきたんだろう?・・・なにもしてないけどなぁ」

 

「ライ・・・」

 

横をついて歩くライと共に首を傾げるうみ。しばらくそうしてから、伝説ポケモンの思考なんて考えるだけ無駄か、と結論づけるのだった。

 

「よっし、ライ、家まで走ろっか!」

 

「ライ!」

 

嬉しそうに答えるライと共にうみは家へ向かって走るのだった。

 

「・・・目標を確認しタ。アあ、引き続き観察を続けル・・・」

 

その背後についてくる男に気づかず。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「これでラスト・・・!『りゅうのいぶき』!」

 

「フゥ!」

 

「ゴアァァ!」

 

時は遡り、うみがレックウザに追いかけ回されている頃。琵琶湖にて大量発生したギャラドスを相手取っていたワタルは、最後の1匹を倒したところだった。

 

「ふぅ・・・お疲れハクリュー。ミロもありがとうな」

 

「フゥ」

 

「・・・キュゥ」

 

ワタルが額の汗を拭い、やや疲れた様子のハクリューと平然としているミロへ声をかける。

琵琶湖の湖岸は、ミロとハクリューによって倒されたギャラドスが死屍累々(死んでない)と浮かんでいた。

 

「とりあえずこれで全部だろうけど・・・こいつらはどうするんだろうか。とりあえずキョウさんに聞いてみるか」

 

疲労で頭の回らないワタルは、ブツブツと思考を口に出しながらスマホをタップする。そんなワタルを見つつちょっと休憩ととぐろを巻くハクリュー。ミロは、早くうみの元へと帰りたいのかそわそわしている。

 

『もしもし?ワタル君か』

 

「はい。こっちはとりあえずなんとかなりました。そちらはどうですか?」

 

『こっちも終わったよ。今、そっちの県警の友人に頼んでボールを持っていってもらってる。もう少しそこを警戒していてくれ』

 

「了解です。でも、こいつら・・・ギャラドスは結構な数いるんですが、全部捕まえるんですか?」

 

ちらりと目を回しているギャラドス達を見つつ言うワタル。しばらく考えた後にキョウが答える。

 

『・・・とりあえず捕まえられるだけ捕まえておこう。残りは、あまりやりたくはないが放すしかないだろう』

 

「放していいんすかね?これ」

 

『いいわけがないだろう?だが、こちらの件の1匹保護するのすら大変なんだ。何処にも受け皿がない、それに俺たちで所持するにしても』

 

「法律やら刑法やらを整理しないといけないとかの諸々の問題がある・・・ですか。あぁあもう!もっと色々と準備ができてからこう・・・だめだ、もう頭まわんないです」

 

頭をガシガシと掻きながら項垂れるワタル。そんなワタルの声色に苦笑しながら、キョウが続ける。

 

『そうだな、取り敢えずこれが終わったら君とうみちゃんに何か奢ろう。今回のおつかれ会みたいなもんだ。もう少しだけ、頑張ってくれ「キョウさーん!?俺にはー?」お前は呼ばんぞ。「ちょっ!?」・・・それじゃあ、また明日、報告の時に』

 

途中電話越しに聞こえたタケシの声にクスリと笑いながら、それじゃあ、と通話を切るワタル。

 

「悪い、もう少しだけここにいることになるわ。ミロとハクリューはボールの中で休んでるか?」

 

「フゥ」

 

「キュウ」

 

了承を得てミロ達をボールに入れると、県警の人間を待つことにしたワタル。すると、そこへサイレンを鳴らしながらパトカーがやってくる。

 

「おーい、君がキョウの奴が言ってたワタル君か?」

 

パトカーから降りてきた警官が、手を振りつつワタルへと近づく。

 

「おれはシバ。キョウのやつに頼まれてきたもんだ。よろしく頼む」

 

やってきたのは、スーツの上からでも分かるほどガタイの良い男だった。キョウと似た強者のオーラを纏う男に、ワタルは思わず背筋を伸ばす。そんなワタルを見てシバはズンズンと近づく。

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「そう固くならなくていい、気楽に行こう気楽に」

 

そう言ってシバは緊張しているワタルの肩を叩きニヤリと笑う。その後ろからは、追加でパトカーが続々とやってきてバリケードを用意したり壊れたベンチなどを確認し始める。

シバの持っているスーツケースを一つワタルが持ち、倒れているギャラドスへと近づく。シバは初めて間近でみたポケモンに目を見開いた。

 

「ほぅ、これが例のバケモンか。・・・でかいな」

 

「ポケモン」

 

「ん?」

 

「ポケモンです。バケモンではないです」

 

感心しているシバにワタルが言うと、シバはクスリと笑う。

 

「ああそうそう、それだ。なんかそー言う種なんだっけ?・・・で、これはどうすればいいんだ?」

 

「持ってきてくださったボールで捕獲します。今は全匹きぜつしてるんで捕獲は容易だとは思いますけど、警戒はするようお願いします」

 

「オッケー、了解だ。聞いたな?お前ら!それじゃあ始めろ!」

 

シバが叫ぶと、警官たちが了解、と言いつつボールをそれぞれ手に持ち、ギャラドスへと投げる。

ギャラドスが当たるとともに一瞬でボールに入れられていく様子におぉ、とざわめきが起こる中、シバはワタルに事情聴取をするのだった。

 

「それで、ポケモンとかいうのはなんなんだ?キョウのやつから資料は送られてきたが、よく分からん。というか、理解できん」

 

単刀直入にそう言うシバに、少し考えたのちワタルが答える。

 

「・・・正直、俺自身うまく説明できないです」

 

「そうか・・・」

 

「ただ・・・」

 

少し残念そうにしたシバに、ワタルが続けて言う。

 

「うみちゃん。彼女なら、シバさんの質問に答えられるはずです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というか、君、その腕折れてないか?」

 

「ん?・・・あ、いだだだだ!?再認識したら痛みが!?」

 

「お、おう、とにかく病院だな」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ただいまー!」

 

「ライライー!」

 

「おお、うみちゃんお疲れさん。キョウさんらのやつも一件落着やで」

 

うみは、走ったことで上がった息を整えつつライと共に元気に家のドアを開けた。その音を聞いて、マサキが安心した様子でリビングから出てくるのだった。

 

「本当ですか!よかったです!」

 

「いやー、一時はどーなるか思うとったけどなぁ。それもこれも、うみちゃんのおかげやな!」

 

「いやぁ、俺は別に・・・あ、そうだ。システムの調子はどうですか?」

 

マサキの直接的な褒め言葉に照れるうみ。ふと、ポケモンの引き出しシステムの状況が気になり話題を逸らす。

 

「それなら問題ないで。今も少しづつ順長に調整しとる。せやけど問題はこっちやな・・・」

 

「?なにが・・・」

 

神妙な顔でパソコンに向かうマサキを見て、首を傾げながらディスプレイを覗くうみ。そこには、様々な掲示板が先ほどの事件についてのスレで炎上している様子が映し出されていた。

 

 

 

 

 

【緊急】ポケモン情報交換所【事態】

 

このスレはポケモンに関する情報をスレ民で共有する為の掲示板です。

 

123:名無し

 

いやほんまに、あれはポケモンって言う生き物なんだって

 

124:名無し

 

その根拠は?そもそもポケモンってなんだよ?それはどの研究所、どの生物学の権威が発表した事実だ?ソースも貼らずに嘘情報流すんじゃねぇよROMってろカス

 

125:名無し

 

だからさっきURL貼ったろうが。お前の方がカスだろ情弱。

 

126:名無し

 

アホみたいな妄言垂れ流すガキの動画なんぞが信頼できるか。少しは考えろ。

 

127:名無し

 

屋上へ行こうぜ・・・久々に、キレちまったよ・・・

 

128:名無し

 

てめーは俺を怒らせた。

 

129:名無し

 

俺らのことはともかくうみちゃんを貶すとか、こいつはめちゃ許せんよなぁ〜?

 

130:名無し

 

でも実際この動画の投稿者がなんの役に立つの?

 

131:名無し

 

うるせぇ、信じてない奴はこの動画見ろ。in広島

 

URL

 

132:名無し

 

なんだこれ、鹿?

 

 

133:名無し

 

にしては随分とでかいな

 

134:名無し

 

というか車がひっくり返されてんじゃねーか!

 

135:名無し

 

これがポケモンだ。現在このポケモンの情報は映像だけだが、少なくともポケモンの中にはこいつ以上にヤベーのも確認されてる。

 

136:名無し

 

は?どうせCGだろうが、ここまでくると流石に清々しいなオタクども。

 

137:名無し

 

はいはい構ってちゃん構ってちゃん。ちなCGじゃないぞ、実際に見に行った。まじでこのまんまだった。

 

138:名無し

 

おい、少女が飛んできたぞ!?

 

139:名無し

 

あれがうみちゃん。現状日本で、いや間違いなく世界で一番ポケモンについて詳しい人物

 

140:名無し

 

あいたたた、さすがキモオタ、設定厨がすぎるわ

 

141:名無し

 

流石にこんな子供がそこまで・・・

 

142:名無し

 

アンチはROMってろ。ちなこれは別に誇張表現でもなんでもない。まじでこの子が一番詳しいから。上のリンクからとんで過去動画見てきた方がいい。今後現れるかもしれないポケモンについてめっちゃ教えてくれるから

 

143:名無し

 

え、今後も出るのか・・・なんか怖いな

 

144:名無し

 

〇〇テレビの生放送見た?あんなのがこれからも出てくると考えるとちょっと怖いな。

 

145:名無し

 

お前ら揃いも揃ってバカか?あんなのどうせ番組のやらせとかそれこそCGだろ。こんな茶番に付き合うとか人生の貴重な時間を無駄にしてんぞ

 

146:名無し

 

早口で一気に言ってそう。

 

147:名無し

 

アンチは消えとけ。そして今後のポケモン化社会に適応できず震えて眠れ。

 

148:名無し

 

wwwポケモン化社会wwwお前ら頭大丈夫か?

 

149:名無し

 

お前らよりはマシだよ。

 

150:名無し

 

あ ほ く さ

 

151:名無し

 

もちつけおまいら、ここのスレの題名読め。ここはポケモンの情報交換の場であって喧嘩の場じゃねーんだよ。

 

152:名無し

 

というかそんなに言うならうみちゃんの放送聞けばいいんじゃ?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「荒れてますね」

 

「せや。他の掲示板も似たような状況やで。どこもかしこも『あの生き物はなんだー』『この映像はなんだー』やら大騒ぎしとる」

 

うみが難しい顔でパソコンを見る横で、スマホを使い別の掲示板を開いて見せるマサキ。その板も本物説を推す人とやらせやCGだと考える人の間での互いの主張の押し付け合いで炎上していた。

 

「んー・・・俺としてはどうにか本物って事を教えてあげたいとこなんですが」

 

「無理やな」

 

うみの言葉にバッサリと切って捨てるマサキ。うみよりもネットに詳しい故にその判断は早かった。

 

「ネットっちゅーのは案外隠し事よりも本音で喋る奴は多いんや、匿名性がある程度あるからな。せやから、歯に衣着せへん意見やらなんやらが飛び交っとる。特にこう言った掲示板は情報の確度よりも『面白い』『興味深い』事の方が信じられやすいんや。今ここでうみちゃんが書き込んでも特に相手にされへんか面白半分に誹謗中傷の的にされるだけやろう」

 

「じゃあどうしたら?」

 

うみが首を傾げながら聞くと、マサキはニヤリと笑いパソコンに何かを打ち込む。

 

「簡単には二つ。一つは、そいつらの目の前でおもっくそ叩きつけてやる事。そしてもう一つは・・・」

 

「?・・・あ!」

 

未だ疑問符を浮かべていたうみはマサキが机から拾った物を見て声を上げる。

 

「自分より社会的に地位のある人間を使う、やな」

 

そういってマサキがゆらゆらと揺らしたのは、うみ宛と言ってキョウの置いていった封筒の中にあった文書だった。

 

 

 

 

 

『〇〇省 〇〇大臣 井口』

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「どうも、みなさんこんばんは。うみです」

 

『キター!』『大丈夫だった?』『滅茶苦茶騒がれてるな、例の事件』『第一次ポケモン事件同時発生』『第一次?』『どうせまた起きるだろうし?』『なるほど』

 

その日の夜。いつもどおりに配信を始めたうみのチャンネルには、これまで以上の視聴者が来ていた。

 

「今日はたくさんの人が来てくれてるみたいですね」

 

『まーあれが何か知りたい奴多いだろうし?』『そして全員うみちゃんという沼にハマるんだヨォ!』『すいませんなんかもう首まで入ってるんですが』

 

いつも通りに流れていくコメントを見つつはじめの挨拶をしていたうみだったが、少しずついつもとは違うコメントが流れ始める。

 

『あの化け物はなんだ』『なにがわかるの?』『お前が犯人か?』『さっさと話してよ』

 

「・・・まず初見の方が多いと思うので基礎的なところから説明します。それと、一番理解してほしいこととして言いますが、今回様々な場所で現れたあれらの生き物はポケモンという生き物です。決して、話の通じない化け物ばかりというわけではないです。話し合い、接していけば心を通わせられるパートナーなんです」

 

うみのこれまでにない真剣な顔つきと話の内容のコメント欄が戸惑う。そんななか、うみが突然ガバッと頭を下げる。

 

「お願いします。俺にできる限りの説明はします。どうか、ポケモンを・・・彼らを恐れないでください。どうか、寄り添ってみて下さい。お願いします!」

 

頭を下げた事で見えなくなった画面から流れてくるコメントの音をしばらく聞き、目を上げたうみはそのまま説明を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「・・・うみちゃん、もうええか?」

 

「ライ・・・」

 

うみが配信を始めて1時間後。配信が終わったにもかかわらず出てこないうみを心配して部屋のドアを叩くマサキ。その横では、同じく不安げな表情のライが耳を垂れてマサキの足にしがみついている。

 

「・・・入るで」

 

ノックしても話しかけても返事がなく、意を決してドアを開けるマサキ。部屋の中は真っ暗で、配信を終えて放置されたパソコンだけが鈍い光を放っている。

 

「うみちゃん・・・?」

 

「ライライ?」

 

「・・・」

 

うみはパソコンの光の溢れる机の反対方向、壁際のベッドの上で体育座りをしていた。顔を膝に埋めてじっとしており、顔色は窺えない。マサキが入ってきたのにも、ライが横までやってきたのにも無反応である。

 

「・・・うみちゃん。気にすることやない。あれは仕方ないんや」

 

「・・・」

 

「君はようやった。最後まで感情を抑えとったんは痛いほどわかった。せやけど、こればっかりはしょうがないんや」

 

「・・・しょうがない。しょうがないで、すませるんですか?」

 

励ましの言葉をかけるマサキの言葉にも反応を示さなかったうみだったが、ふと顔を上げる。

 

「・・・!」

 

「しょうがないから・・・しょうがないから、ライを、ミロを、ポケモンを蔑ろにしていいんですか?」

 

うみの顔には、なんの感情も浮かんでいなかった。全くの無、怒りも落胆も悲哀もなに一つ浮かんでいないその表情に怯んだマサキへと吐き捨てるようにうみが言う。

うみのパソコンには、配信が終わった今もなおコメントの履歴が表示されていた。

 

『嘘くさ』『どうせあれでしょ?突然変異とか』『というかこんな妄想をよく配信で吐けるよね』『実際に見たとか映像あるとか言うけど、なんかのイベントとかでしょ』

 

様々な形での、様々な言葉での否定。ポケモンという存在の否定がそこには溢れていた。うみからの基礎的な説明を受けた視聴者達の意見は、二つに分かれるだろうとうみは考えていた。ポケモンとの共存の、否定派と肯定派。しかし、うみの予想を超え新参の視聴者の意見は一つに絞られた。

 

『これもう駆除しかなくね?』

 

「!いえ、ポケモンは確かに接し方を間違えると危険ではありますが、決して共存できないわけではなく」

 

『でもテレビで見たやつとかめっちゃ水撃ってきてたけど』『というかそんな危険なやつが今後増えるとか嫌だわ』『これは駆除一択でしょ』

 

「・・・!?ま、待ってくださ・・・」

 

『あんなの以外にもいるんだろ?他の奴らも早く処分した方がいいじゃん』『じゃあこの配信者の持ってるとかいう奴らもさっさと処分でしょ』

『おまいらいい加減にしろ』『うみちゃんの話聞いてねーのか。というか過去動画見なかったのか』『ポケモンとの共存しかこの先の混乱を生きる術はねーんだって!』『はいはい、ポケモンポケモン』『お前らこそこんな与太話をよく信じてるな』『実際にポケモンいるだろうが、与太話な訳あるかよ』

 

うみの配信のリスナーや古参勢がコメントでの説得を試みるが、効果はなかった。その後も何度か心に傷を負いつつもうみと古参勢による説得が続いたが、相手にすらされなくなっていき、最終的には初見の視聴者は激減し、コメントも古参からうみへの激励の言葉ばかりとなったのだった。

 

 

 

「結局俺は、なにもできなかったんです・・・配信で、他の人にポケモンを知ってもらって。それで受け入れてもらえて、それで満足しちゃって」

 

ポツポツと、吐き出すように溢れる言葉には、諦観が宿っていた。

 

「俺の・・・俺のやってきたことって、無意味なんですかね・・・?」

 

「ライ!ライ!」

 

「・・・」

 

必死にうみの手にすり寄るライに、無理やり微笑んで手を伸ばすうみ。悲しげな表情のライを抱き抱えると、また体育座りになる。すると黙って話を聞いていたマサキが突然うみの座るベッドへと大股で近づくと、一気にうみの胸ぐらを掴み上げる。

 

「っ!?なにを・・・!?」

 

「ええ加減にせえよおどりゃぁ・・・!」

 

腹の底から響いてくるようなマサキの怒気のこもった声に、文句を言いかけていた口を閉じるうみ。うみの胸ぐらを掴み宙ぶらりんにしたまま、マサキが一気に捲し立てる。

 

「無意味やと・・・?んなことあるかボケェ!少なくともここにおるわ、自分のやってきたことで変わった奴が!」

 

そう言って自身の胸を叩きながら、マサキが真剣な顔で吠える。

 

「ワイだけやない、ワタルはんやタケシはん、チャラ男、農家ニキ!キョウのおっさんだって変わった!あんたと、ポケモンのおかげで変われたんや!それは決して無駄やないし、それでワイらは後悔しとらん!それを、変えた本人が間違っとるって言うなや!ワイらだけちゃう、

自分の配信に来とった古参共、あいつらがいつ自分の言うたことを無駄やゆうた!?たかが一度認められんかったくらいで、ウジウジ言うな!少しは周りを見ろや!」

 

そこまで捲し立てて、肩で息をするマサキ。あまりの勢いに完全に押されてポカンとするうみを下ろすと、目線を合わせてしゃがみこむ。

 

「・・・うみちゃんは結構しっかりしとるけど、たまにはワイらを頼ってくれや」

 

「・・・!」

 

「そりゃあ、ポケモンに関してはうみちゃんに頼るしかあらへんけど、ワイらはうみちゃんより長いこと生きとる分色々知っとるし伝手やコネも知識もある。・・・辛い時くらい、ワイらを頼りぃや」

 

「・・・ふっ、ぐぅっ・・・」

 

先程とは打って変わって優しげな表情になったマサキを見て、感情の堰き止めきれなくなったうみは嗚咽を漏らす。

 

「ライ・・・」

 

「ライ!」

 

「・・・マサキ、さん」

 

「おう」

 

うみの横にちょこんと座ったライが、うみに話しかけられると「俺もいるぞ!」と言うように元気に鳴く。ついでマサキの名を呼ぶと、ニヤリと笑って答える。

 

「俺・・・できると思ったんだよ・・・!配信で、せつめいして、それで、ポケモンのことしってもらって、それでみんなでなかよく・・・!」

 

「うんうん、せやな。みんなに知ってもらいたかったんやな」

 

「それでっ・・・!みんなにしってもらおうとおもってポケモンのえとかよういしてっ・・・こんなのもいるんだよって・・・!」

 

「・・・せやな。また見てもらおうな?」

 

「・・・ぐっ!・・・うぅっ!」

 

暗い部屋の中、下を向いて俯き、涙をこぼし嗚咽しながら夢を語るうみと、それを見上げるライ。うみの頭を撫でながらその夢を聞き続けるマサキの姿だけがパソコンの光に照らされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見苦しいところを見せちゃってすいません」

 

しばらくしてようやく落ち着いたうみは、恥ずかしそうにしつつマサキへとお礼を言う。その目はまだ赤く腫れており、耳も羞恥心で真っ赤である。

 

「かまへんて。それよりワイも柄にもなく説教なんかしてしもうたわ。なんかこっ恥ずかしいな」

 

「じゃあ、おあいこですね」

 

ふわりと笑ううみに一瞬見惚れ、マサキもつられて笑いつつそうやな、と言う。

 

「それで、今後はどーすんや?」

 

「はい。もう吹っ切れました。ここからは使えるものはなんでも使いましょう」

 

「じゃあ、あれ行くんやな?」

 

いつもの調子を取り戻し、ニヤリと笑ううみはスマホを取り出す。

 

「ええ。・・・会ってやりますよ。政府のお偉いさんだろうがなんだろうが、ポケモンとの共存のためならやってやります!」

 

気合十分にそう宣言したうみの心には、もう諦観はなかった。

 

「さぁ、始めよう!ポケモンとの共存への、最初の一歩だ!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 

 

 

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・コロス』




日本人って割と伝統とか、既存の概念を壊したり新しくすることに対して忌避感半端ないと思うんですよね(偏見

次回は閑話、
その次の本編はvsお偉いさんです。

次回もお楽しみに

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