TSしたらなんか相棒たちがいるんですけど・・・ 作:コジマ汚染患者
新年初の投稿は閑話って事になりました。
念願のポケモン剣とSwitchを購入し、2日でチャンピオンへと至ったコジマ汚染患者です。
現在ライを作るためにピチュー探しの真っ最中。厳選なんてしません、なんか心にダメージ入るんで。
あ、ではどうぞ(´・ω・)ノ
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ゾロア・ゾロアーク
『まぁ、起きろ!朝だゾ!』
「・・・グルゥ」
『うん!おはようだゾ!』
朝日がすっかり昇りきった頃、ゾロアークはゾロアの元気な鳴き声を目覚ましに起き上がる。寝ぼけつつも、最愛の息子の嬉しそうな姿にホッコリしながら朝の挨拶をする。
ゾロアも母親から頭を撫でられ嬉しそうに尻尾をブンブンと振っている。
「あ、2人ともおはよう、よく寝れたか?」
完全に眠気が飛んだところで、寝床としている木に開けた大穴(スピアー軍団製作)から這い出すと、ちょうど洗濯物を干しているうみとその横で手伝いについて回っているライに会う。にこりと笑いながら挨拶をするうみに、テトテトとゾロアが近づいていく。
『おはようだゾ!うみ、オイラ腹が減った!』
「分かってる、分かってる。待ってないま持ってくるから」
キャンキャンと吠えるゾロアをなだめながら家へと戻るうみ。ふと、そんな2人を見守りながら微笑むゾロアークを見ると、複雑な表情で「グルゥ」と朝の挨拶をしている。
「おはよう・・・お前も少しは慣れてきたか?」
「・・・」
ふい、と明後日の方を向いてしまうゾロアークに苦笑しつつ、家へと戻るうみ。台所で皿に朝ごはんを用意しながらゾロア達がやってきた時を思い出す。
「まぁ、少しは心を開いてくれたのかな・・・」
「うみちゃん、大丈夫なのか?」
暴れるゾロアークにゾロアを会わせることでどうにか事態を収めたうみ達。一件落着、と言いたいところであったが、一つの問題が残った。それが、ゾロアとゾロアークをどこに保護するか、であった。
ゾロアを抱きしめて泣いていたゾロアークだが、その目の中は人間への警戒心が渦巻いており、うみやキョウ達を睨み毛を逆立てている。
「大丈夫です。・・・と言えればよかったんですがねぇ。警戒されまくってるし、どうすれば・・・」
ゾロアークになかなか近づけずうーんと唸るうみ。そんな主人を見上げ尻尾を揺らしていたライは、何を思ったのかトテトテとゾロアークへと歩いていく。
「ライ?」
「お、おい・・・」
ライの突然の行動にきょとんとするうみと刺激してしまうのではと若干焦るキョウ。
そんな人間達を意に介さずズンズンと距離を詰めるライ。ゾロアークもライの突然の接近にどう動くべきなのか戸惑っているようだった。
「・・・ライ!」
「グ、グルゥ・・・?」
「よっ」と言うように気さくに手をあげて笑うライに一層戸惑うゾロアーク。ゾロアも母親の警戒心が少し収まったのを感じてそっと顔を上げる。
「ライ、ライライライ!ライ、ラ〜イライ、チュゥ!」
「グルゥ、グラァ。グラゥガァ」
「何やってんだあいつら・・・」
身振り手振りを使いながら何やら力説するライ。それに対してゾロアークも何やら答えているようだったが、何一つうみ達には理解できていない。
『あのポケモンは、なんかうみの家で一緒に暮らそうって言ってるゾ!まぁの方は人間の世話になる気はないって言ってるゾ!』
「うぉ、喋った!?」
「ああそっか、ゾロアなら分かるんだよな。できれば通訳・・・ええと、何話してるか教えてもらえないか?」
『オッケーだゾ!』
いつのまにかうみのそばまで来ていたゾロアが2匹の会話を翻訳する。
ライ「うみの家は楽しいよ?ご飯もあるし!」
ゾロアーク「・・・それでも人間はあまり信用できない」
ライ「?うみは悪い奴じゃないよ?」
ゾロアーク「それは・・・」
ライ「ご飯は美味しいし、遊び相手もいるよ!楽しいから一緒に住もうよ!ご飯も美味しいし!」
ゾロアーク「・・・しかし、それでも私たちを受け入れるのか?お前のパートナーは」
ライ「大丈夫!うみはいい子だもん!俺たちにも優しいよ?きっと君達も受け入れてくれるって!うみのご飯は美味しいんだよ!」
「・・・なんか俺のするべき説得をライが全てやってくれてるな」
「というか、飯のことばっかだな」
『言ってることは全部間違ってないゾ?』
大きな身振り手振りでアピールするライを見ながら複雑な表情で見守るうみとキョウ。ゾロアはいつのまにかうみに抱かれてモフられながらも通訳を続ける。
その後もライとゾロアークの話は続き、数分後。
「・・・グルゥ」
「・・・あ、終わった?」
「ア゛!?」
うみの前へ行きやや不安げに鳴くゾロアーク。一方のうみはもはやライが説得をしていたためゾロアをモフるのに集中しており流石にゾロアークがキレる。ポカポカとゾロアを抱いているため弱めに叩いてくるゾロアークにうみが謝る。
「ご、ごめんごめん・・・取り敢えず、俺ん家に行こうか。キョウさん、すいませんがお願いします」
「おう、もう時間もない。さっさと行こう」
うみとともにキョウの車に乗りこんだゾロアークとゾロアは、猛スピードで進む外の景色を見ている。ゾロアは目をキラキラさせて外の様子を見ており、ゾロアークはゾロアを抱きながらうみをじっと見つめる。
「ねぇゾロアーク、ちょっといいかな」
「・・・」
そんなゾロア達を微笑ましいものを見る目で見ていたうみだが、ふとゾロアークに質問する。うみの言葉に、なんだ、というようにフンと鼻を鳴らすゾロアーク。ゾロアはそんな母親を見上げながら「通訳いるか?」と目でうみに訴える。そっと頷くうみにフンと鼻息で返事するゾロアーク。
「ゾロアークは、人間を恨んでたりする?」
「・・・!」
『まぁ・・・』
うみの質問に一瞬目を見開いたゾロアークは、黙り込んでしまう。そんなゾロアークを見上げるゾロアは不安げな表情を浮かべる。運転手のキョウはあえて気配をできるだけ消してゾロアークが話しやすいようにする。うみの横にはいつの間にかボールから出て来たライがおり、うみとゾロアークをじっと見つめていた。
「・・・グゥ。グルァ」
『!まぁは、別に人間自体はそこまで恨んでないって言ってるゾ!ただコウダイって奴がいたらぶっ飛ばすって言ってるゾ』
「ああ、うん・・・」
ゾロアークの言葉を通訳したゾロアは嬉しそうに尻尾を振っており、うみもゾロアークが人を恨んではいないことにホッとした。ゾロアークの先程までの反応を考え最悪の場合を想定しての質問だったが、問題ないと判断する。
キョウの方は「コウダイって誰だ・・・」と呟いていたが、そこはうみが気にしていないのでまぁいいか、とした。
「それじゃあ、とりあえず俺の家に行くにあたって気をつけて欲しい事とかをいろいろ言っておこうと思うから。まず、庭のでかい木はスピアーの巣があるから気をつけて・・・」
そうして、うみ個人が気にしていたことが解決したためゾロアーク達に家での注意事項を教えていくのだった。
「あれから人間に対して警戒はしても威嚇したりは抑えてくれるようになったし、こうして俺の指示も聞いてくれるし。仲良くなれてよかったな・・・イタズラは止まらないけど」
うみがはぁとため息をつきながら用意した朝食を持って歩き出す。
「チュウゥゥゥ!!」
「ガァァァ!!」
「わぁぁぁぁ!?」
朝食を準備しつつノンビリと回想していたうみだったが、突如外から聞こえたライとバンギラスの叫び声と爆発音に飛び上がる。
「な、何やってんだ!?」
慌てて庭へと飛び出したうみの目に飛び込んできたのは、いつもの日課となったバトルをするバンギラスとライ。しかし、これまでと違い互いの殺意が高すぎて一切加減がきいていない。
うみに禁止されている筈の「はかいこうせん」を躊躇いなくぶっ放しているバンギラスと、近くにミロの湖があるにもかかわらず電撃をぶっ放しているいつもよりキレたライ。
ライの手加減のない攻撃はレベル差にものを言わせてバンギラスを追い詰めているが、素の耐久力の高さで耐えつつはかいこうせんや鋭い爪でのきりさく攻撃でライへと迫るバンギラスも負けておらず、互いに盛大に暴れているため庭は酷い惨状となっていた。
ミロは朝の寝起きでライの電撃をくらい、湖にプカーと浮かび目を回していた。
「お、お前ら!こらー!やめろー!」
『う、うみ〜』
「ゾロア?どうしたんだこれ!?」
止めようと叫ぶうみだったが、互いに興奮しているのか声が届いていない。途方に暮れるうみの横へと目を回しながらゾロアがやってくる。
『な、なんかライの朝ごはんにバンギラスが吹っ飛んできてご飯が台無しになったからライが怒ってるんだゾ・・・』
「は!?じゃあなんでバンギラスも怒ってるんだ!?」
『バンギラスの方は、ライに突然突き飛ばされたって言って怒ってるゾ。訳がわからないけど、オイラ達じゃ止めらんないゾ・・・』
「ん??ど、どういうことだ?」
ゾロアの説明を聞いている間にも、庭は電撃でえぐれ、はかいこうせんでクレーターができ、酷い有様である。
『う、うみ〜。このままだとまずい気がするゾ・・・うみ?』
慌てふためくスピアー、家の中から聞こえるジラーチの泣き声、それと同時に窓から飛び出てきてどうにか被害を抑えようと洗濯物を避難させるゴース。阿鼻叫喚の地獄絵図といった状況にゾロアがうみのワンピースの裾を引っ張るが、うみからの反応がない。不思議に思い見上げたゾロアは「ピィッ!?」と悲鳴を上げる。
うみのハイライトの消えた目の見つめる先には、喧嘩という名の戦争をしているバンギラスとライを爆笑しながら見ているライチュウがいた。ライはバンギラスと戦っており、うみはほかにライチュウを持ってはいない。
「・・・そういうこと、か」
『う、うみ・・・なんだか怖いゾ・・・』
怯えるゾロアににこりと微笑み、一撫でしてからライ達の元へと歩き出すうみ。スピアー軍団やゴースがうみを止めようとするが、うみが睨むとビクリとしてそっと道を開ける。
怒りのままにバトルを続けるライ達のそばまでやってきたうみ。電撃やはかいこうせんのエネルギーが周囲に飛び交う危険地帯にもかかわらず、うみは一切臆さない。遠くで爆笑して見ていたライチュウがそんなうみの登場に驚き、慌てて駆け寄っていく。
「ラァァァイ、チュゥゥゥ!!」
「ガァァァ!!」
その時、うみの目の前でライとバンギラスが互いに自身の最強技をぶつけんと対峙する。電撃を周囲に撒き散らしながら怒りの表情で「ボルテッカー」を使おうとするライ。
一方のバンギラスも、怒りのままに最大威力のはかいこうせんを放つため口にエネルギーを貯める。両者の一撃がまさに放たれんとしたその時、スゥーっといきを吸い込み、うみが叫んだ。
「ステイッッ!!」
「「!!??」」
うみの声は先ほどよりも遥かに大きく、かつ彼女の鈴のような声とは違うドスの効いた声だった。その声を聞き、反射的にライとバンギラスが伏せの態勢になる。駆け寄ってきていたライチュウも、ハラハラしながら見ていたスピアー達やゾロアでさえも伏せの姿勢を取る。
『!?な、なんか体が勝手に動いたゾ!?』
「「「「「スピッ!?」」」」」
「ーーー!?」
戸惑いの声を上げるスピアー達外野と違い、ダラダラと冷や汗を流すライ・バンギラスペアと謎のライチュウ。
「・・・ねぇライ」
「!・・・ラ、ライ」
「バンギラス」
「・・・グルゥ」
「ゾロアーク」
「!・・・チュウ」
伏せから正座の体制へとシフトしたライ達と、すでにバレていたことに驚きつつ大人しく正座するライチュウ改めゾロアーク。
「周りを見てみな。ねぇ、うちの庭ってこんな荒れてたっけ?」
「「「・・・」」」
「んん?ねぇ、俺は質問してるんだよ?黙れとは言ってないぞ?」
「「「・・・」」」
そのとき、ゾロア達は「プチッ」という音を幻聴した。
「お前らやりすぎなんだよ!ライ!お前は飯のことになると考えなく暴れすぎ!バンギラスも冷静に考えるっていう頭を持てや!ライが食事中にお前にちょっかい出すわけないだろ!お前ら2人は少し頭を使うってことを覚えやがれ!ゾロアーク!お前は一番アウトだよ!何少しホッとしてんだ!俺言ったよな!?初めて家に来たときに『イタズラはしない』ってゾロアと一緒に言い聞かせたよな!何を母親のテメーから破ってんだ!どうすんだこの庭!洗濯物も一部やり直しだし!戦犯はゾロアーク、次点でライとバンギラス!お前ら今日中に庭を直せ!休んでたら飯は抜くぞ!だいたいお前らは最近なぁ・・・!」
その後、喧嘩したライとバンギラス、原因となったゾロアークは怒りで顔を般若のようにしたうみからの説教を長いこと受けるのだった。
『・・・決めたゾ、うみが怒ることはしないようにするゾ』
怒られるまぁを見て、ゾロアは震えながらそう心に誓うのだった。
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ゴース
『・・・お前はいらない』
『・・・!』
『じゃあな』『ついてくるな!』『いらない』『イラナイ』『いらな・・・
『〜〜〜!!』
朝の日差しが差し込む中、ゴースははっと目を覚ました。睡眠をあまり取ることのなかったゴースだが、うみの家に来てからはうみや他のポケモンに合わせて行動することが多くなっており、睡眠もちゃんと取るようになっていた。
「・・・」
ゴースは基本うみの部屋の隅に用意された座布団の上で眠っている。目を開けたゴースは、うみの机の時計をチラリと見て、針が既にうみの起きる時間を過ぎていることに気づく。そっと浮かびベッドの上でスヤスヤと寝息を立てるうみへと向かう。
「・・・ぐぅ」
「ーーーーー」
「んぅ?・・・あれ、ゴース。おはよう」
ゴースが恐る恐るささやきかけると、うみはすぐに目を覚まし微笑みかける。そんなうみにゴースも嬉しそうに笑うと、未だ眠り続けるライを起こしにかかる。
「ーーー、ーーー」
「ラィ?・・・チャ〜」
ゴースがライを起こしている間にうみは下へと降り、早起きなスピアーとライ、ゴースの朝食を用意し始める。
ゴースはこうしてうみ家へとやってきてから、うみの家事炊事の手伝いを日課としていた。ライを起こすと、うみのいる台所を通り過ぎ、洗面所へと向かう。
洗濯機まで着くと、『サイコキネシス』で蓋を開け、そのまま中の洗濯物を全て取り出すと、器用に籠の中へと放り込み、頭の上でフワフワさせながらリビングへと戻る。
「あっ、ゴース。いつも悪いな」
「ーーーー」
リビングにはちょうど朝食を用意し終えたうみがおり、ゴースがカゴを置くとにっこり笑って礼を言う。ゴースも笑いかけながらそれに答え、2人で洗濯物を干せるよう準備していく。
「ふぅ、もう少しかな?」
庭へと出て、洗濯物を干しているうみとゴース。カゴを覗いてそう呟くと、うみはゴースを呼んでくる。
「おーい、ゴース?」
「ーーー?」
「もう洗濯物はいいよ、朝日は好きじゃないだろ?悪いけど、二階のジラーチがちゃんと寝れてるか確認してきてくれ。そのあとは中で寛いでいていいから」
「ーーー」
うみのお願いに頷くと、二階の窓の中へと透過して入っていくゴース。
「ーーー」
「・・・スヤァ」
出来るだけ音を出さず入るゴース。そんなゴースの侵入には気づかず、うみの机の上に作られた木製のゆりかご(スピアー軍団製作)の中で心地良さそうに寝息を立てているのは、ゴースとの件で保護する運びとなったジラーチだった。その安らかな寝顔には、何故か隈ができているが。
「ーーー」
「スヤァ」
( ˘ω˘ )状態のジラーチを確認し、ヨシ!と一つ頷くと、部屋を出ようとするゴース。
しかしその次の瞬間だった。
「ーーーー!?」
「スヤァ・・・ゥ〜ンン?」
突然家全体が地震のように揺れた。そして外からは轟音が鳴り響く。ゴースは何事か、と窓の外へと出ようとする。その時だった。ジラーチがうなされてそっと目を開く。
「・・・」
「・・・」
ジラーチはうみの机の上、の窓のそばで寝ていた。そしてゴースはその窓から出ようとしていた。つまりは、ジラーチの真上にゴースがいる状態である。
「・・・」
「( ゚д゚)」
こちらを口をアングリ開けて見つめるジラーチに、何を言っていいか戸惑うゴース。やがてそっとゴースは笑みを浮かべる。
「・・・ー、ーーー?」
どうしたの、とジラーチに話しかけるゴース。するとジワリ、とジラーチの目に涙が溜まっていく。それを確認したゴースは、あやっべ、と躊躇いなく窓からすりぬけて逃げ出した。
「ーーーー〜〜〜〜!!??」
次の瞬間、ジラーチの絶叫がうみの家に響き渡る。外へと飛び出したゴースは、庭で起こっている惨状に目をみはる。えぐれた大地、吹き荒れる衝撃波、感電し池で白目を剥いて浮かぶミロ。
あまりにもあんまりな光景にポカンとするゴース。ふと下を見ると、慌てふためくうみと衝撃波で揺れる洗濯物があった。
「ーーー!」
喧嘩するライとバンギラスを見て自分ではどうしようもないと判断したゴースは、被害を少しでも抑えるために急いで洗濯物を家の中へと移していく。
「ステイッ!!」
「!?」
途中うみのあまりにも威圧感のこもった言葉に固まってしまいながらも、結果ゴースが移動させたおかげで洗濯物への被害は抑えられたのだった。
ゾロアークによるライ・バンギラスの喧嘩事件が終わった頃。疲れた様子でリビングでソファに座るうみは、魂を口から吐きながら倒れ伏すライを撫でていた。
ちなみに外ではバンギラスがライと同じく魂を吐きつつサイドンと共に庭の整備を行っていた。湖への被害で怒ったミロからバシバシと尻尾で叩かれつつ地面をならしていくバンギラス。そのやや後方では、これまた魂が口から吐き出されながらもクレーターに土を入れ続けるゾロアークがいた。
するとうみの元へ、フヨフヨとゴースがやってくる。
「ーーー?」
「んん?ああ、大丈夫。もう怒ってないよ」
不安げな様子でやってきたゴースに一瞬首を傾げるうみ。しかしすぐに苦笑いしつつもう問題ないと告げる。
それを聞いてほっとしたゴースは、庭の整備を手伝おうとする。
「・・・ねぇ、ゴース?」
「?」
うみに呼ばれ、なにかな?と再びそばに寄るゴース。ゴースを見上げ、うみは心配げに尋ねる。
「無理してないか?なんか家に来てからずっと働いてるけど・・・」
そんなうみの言葉に、少し考えてからゴースはそっとうみのおでこに自分の額(にあたるところ)をくっつける。
「ゴース?」
『ありがとう』
「!」
ゴースの行動に戸惑ううみ。すると脳内に、少年のような声が響く。驚いて咄嗟に顔を上げると、にっこりと笑うゴースと目が合う。
『なにかを任せてもらえるから。そばに居させてもらえるから嬉しい』
「ゴース・・・」
ゴースから流れてくるそんなテレパシーにも似た感覚に、呆けるうみ。そしてそのままゴースに微笑みかける。
「・・・ありがとう。これからもよろしくな」
「ーーー」
その言葉を聞き、庭の整備を手伝いにいくゴース。
その顔は、長年欲しかった言葉を得た喜びに満ちていた。
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ジラーチ
ジラーチは激怒した。
必ずかの邪智暴虐の「すまぁとふぉん」を討ち果たさんと。
ジラーチには人間の家屋のことはわからぬ。
ジラーチは幻のポケモンである。
ジラーチは純粋な性格で、様々な良き人々の願いを叶えてきた。
けれども睡眠の質には人一倍、いやポケモン一うるさかった。
「よし、できたよジラーチ。ここなら好きに使ってもいいよ」
「ーーー!」
うみという少女?の家にやってきたジラーチは、久しぶりに得た居心地の良い寝床に大満足だった。
暖かく自身を包んでくれる布(※タオル)、頭の置き場として申し分ない枕(※タオルを畳んだもの)、極め付けは木でできたゆりかご型のベッド(※タオルがマットがわり)という、まるで全てを包み込んでくれているかのような安心感があった。(全てスピアー軍団作製)
「じゃあ、おやすみな」
「ーーー!」
『ありがとう』と書いた紙を見せながらベッドに横になるうみへと手を振るジラーチ。電気が消され、静かになったところでジラーチもゆりかごの中でタオルにくるまる。
圧倒的な居心地に、やはり来て良かった、と確信するジラーチだった。
うみ家へとやってきてしばらく経った。
しかしジラーチは、未だ完全に千年の眠りに入ることができないでいた。それどころか目元には隈ができており、普通に寝ることすらできていないのが一目瞭然だった。
「・・・ーーー!」
『なんでや!』というジラーチの心の叫びは、誰にも届かないのだった。
問題は、うみ家にやってきた次の日の朝からすでに起きていた。
「Pi Pi」
「・・・」
「Pi Pi Pi」
「・・・」
「Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi、、、」
「ーーー!!」
『うるさい!?』と叫びながら不本意ながらも飛び起きるジラーチ。音の出所を探すと、うみのベッドの横の板が目に入った。
「ーーー?」
見たことのないその板からひたすら流れる耳障りな騒音にぷんすかと怒りながら、フワフワと浮き上がり板の元へと向かう。
「ーーー!」
「んむぅ、朝ぁ〜」
「ムギュ!?」
止め方がわからないので、板を拾い上げ部屋の床へ放り投げようとするジラーチ。すると、スマホのアラームで若干起きたうみがジラーチを抱き寄せる。
突然のことに戸惑いの声を上げるジラーチだったが、次の瞬間には布団の中へと引き摺り込まれていた。
「〜〜〜!?」
「んにゃ、オフトゥン・・・」
寒くなってきた季節とはいえ、布団の中はジラーチにとって暖かいというより暑い場所であった。眠るどころの騒ぎでない状態に、抜け出そうとするジラーチだったが、うみの力が案外強く、抜け出せない。
「えへへぇ、ヘッショォ、ダブゥキルゥ・・・」
「・・・」
結局ジラーチは、うみが朝日がとっくに上り切った頃に起きるまで布団の熱気に耐えているのだった。
その後も、ジラーチは不幸が重なり眠ることが出来なかった。
時には、寝ぼけたうみにライと間違われ抱き枕にされ。
「ぐぅ」
「フギュッ!?」
時には、ここなら寝れるのでは?と隣の配信部屋へと移動し、うみの配信が夜までリスナーとの議論に発展し。
「ですから、電気タイプのポケモンと仲良くなればエネルギー面での利益がですね・・・いや機械のように酷使するんじゃなくてですね!」
「・・・」
またある時には、縁側で太陽の温もりと風を感じつつ眠ろうとして、ライ達の遊び()の衝撃波に吹っ飛ばされ。
「チュゥゥゥ!」
「ガァァァ!!」
「ーーーー〜〜!?」
そして今日もまた、ライ達のガチ喧嘩の騒音で叩き起こされたのだった。その際、たまたま真上にいたゴースに驚いて気絶してしまったが、ある意味少しでも寝れた事になるのだろう、とジラーチはポジティブに考えていた。
「ーーーーー!!」
枕がわりのタオルをバシバシと振り回しながら、ジラーチはリビングへとフラフラと降りていく。
「あれ?ジラーチ、おはよう」
時刻はすでに昼を過ぎており、今まであまり降りてこなかったジラーチがふらりと降りてきたのに首を傾げるうみ。一方のジラーチは、目を擦りつつソファへとボスンと着地する。
「〜〜〜」
「・・・」
クッションへと顔を埋め足をばたつかせるジラーチ。そんなジラーチにゴースがそっと毛布をかけていく。ジラーチは顔を上げると、一つうなずく。
「ーーーーーー!(きょうこそはちゃんとねかせろっていうんだ!)」
そう決意し、いざ、と意思疎通用にと用意された小さなメモと鉛筆を手にうみの元へと向かうジラーチ。するとちょうどうみが台所から皿を持ってやってくる。
「おう、ちょっと遅いけどお昼作ったぞ。起きてるんなら晩ご飯食べるかもしれないし、少なめだけどな」
そう言ってジラーチの前に差し出された皿には、手製のサンドイッチが3つ乗せられていた。それを見たジラーチは一瞬固まり、そっとメモと鉛筆をしまうと皿を受け取り机の上に座る。
「どうだ?美味いか?」
黙々と食べるジラーチに、対面に座って頬杖をつくうみが尋ねる。
「・・・」
「そうか、よかった。もし欲しかったらまだ作れるから言うんだぞ?」
『おいしい、ありがとう』と書かれたメモをジラーチが見せると、嬉しそうに笑ううみ。
(・・・またこんどでいいかな)
ジラーチの頭を撫で、上機嫌で庭へと向かううみを見て、ジラーチはそう思うのだった。
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「どうだ、ポケモンは」
「いやぁ、もう驚きでいっぱいだよ。頭が追い付かん」
うみが家でいつもと変わらぬ日常を過ごしていた頃。キョウと、その友人でありギャラドスの騒動を担当していたシバは夜の琵琶湖を訪れていた。キョウの質問にシバは頭を掻きながら苦笑いする。
「で、いつになったらお前の姫に会わせてくれるんだ?」
「うみちゃんはそんなんじゃない。・・・もう数日待ってくれ。あの子も存外忙しいんだ」
「あいよ。別にそこまで急いじゃいねぇさ」
街灯のみが周囲に光をもたらす暗闇の中、気楽に話す2人。2人の腰には、光を受けて赤と白に輝くモンスターボールがぶら下げられている。
「お前結局あのポケモン・・・ギャラドスだったか、を持つ事にしたんだな」
シバのボールを見つつそう呟くキョウに、シバは無言で頷く。
「琵琶湖でのギャラドスのその後は?」
「一応ボールが足りなかった分のやつは、近くの水族館の職員やら海洋研究家やらに頼んで発信器だけつけて放流だ。今んとこ被害はねぇ」
そう言ってボールを手に持って眺めるシバ。
「こーんな妙な玉やら化け物みてぇな生物。全く、映画やらアニメの世界にでも入った気分だ」
「全くだ」
互いに苦笑いする2人は、どちらからともなく歩き出す。
しばらく無言での男2人の散歩が続いている中、徐にシバが喋りだす。
「・・・よかったのか」
「・・・何が?」
「『言わなくて』」
「・・・」
シバの言葉に立ち止まるキョウ。少し進んだところで振り返ったシバの顔は、真剣なものだった。
「あの子なら気づくかもな、お前の隠してる事」
「・・・」
「その時、お前はうみちゃんを切り捨てられるか?」
「・・・さぁな」
そう言ってタバコを咥えたキョウを見て、シバはそっとその場を後にする。
残されたキョウは、タバコを手にそっと顔を覆うのだった。
「・・・切り捨てられるわけないだろ。そう簡単に」
その呟きをさらうように吹いた風で、キョウの腰で「2つ」のボールがカタンと音を立てて揺れるのだった。
ゾロアーク
人間に対してはあまり怒ってない。ただ少し警戒心が強いだけ(ゾロアを守ろうとするから)。ゾロアと同じくらい悪戯好き。ただし今回の件で流石にこりた。
ゴース
過去の関係で頼られる事に喜びを見出している。後日うみに少し休めと言われた際、捨てられたと勘違いして一悶着あった。ある意味ミロ以上にヤバイ性格している。
ジラーチ
寝たい
次回は本編に戻ります。
次回、うみ無双 お楽しみに