TSしたらなんか相棒たちがいるんですけど・・・   作:コジマ汚染患者

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中途半端な時間に更新
1万字を久しぶりに超えました(´・ω・)


第38話

「マサキさん!」

 

バァーン、と病室の扉を開ける。走ってきたため息があがるが、それよりもマサキさんだ。

 

「おお、うみちゃんかいな。久しぶりやな」

 

「お怪我は!?大丈夫なんですか!?」

 

「大丈夫や、幸いにも臓器は傷ついてなかったみたいやし」

 

ベッドの上でヘラヘラと笑いながらそう言うマサキに、安堵と共にため息が溢れる。警察署でのバトルの後、キョウさんからの連絡でマサキさんが襲撃されたと聞いたときは肝を冷やした。

 

「・・・にしても、なんでマサキくんを狙ったんだろうな?言っちゃ悪いが彼はワタルくんと同じで一般人だし」

 

ついてきていたタケシさんが指を顎に当てそう呟く。隣でバトルの後からずっとどんよりとした空気を背負っていたワタルさんも道中で少しは気を持ち直したのか復活しみんなで考える。

 

「そのことなんやがな?ワイがうみちゃんから貰っていたポケモンの情報が載っている冊子を強奪されたんや」

 

「「!?」」

 

「そんな!大変じゃないですか!」

 

なんてこった、あれ作るの結構大変だったのに!コンビニで印刷するときに紙使いすぎて店員さんから物凄い睨まれながらも頑張って作った俺の努力の結晶が・・・!

 

「・・・妙だな」

 

「ええ、おかしいです」

 

「え?」

 

そんなことを考えていると、ワタルさんとタケシさんが表情を険しくする。

 

「うみちゃんのその冊子、うちでも厳重に保管はしてるけどまだ何処にも漏れるような情報じゃない。というか、存在そのものを知る人が限られてる筈だ」

 

「ですよね。俺やチャラ男、農家ニキだって安全の関係でさっきまで知らされなかったくらいなのに」

 

「えっと、どういう事ですか?」

 

よく話がわからず二人に聞く。すると二人とも、ばつが悪そうな顔で互いの視線を合わせていた。・・・まるで「お前言えよ」と互いに牽制しあっているようだ。

 

「監視されていた、って事だようみちゃん」

 

「キョウさん・・・?え、監視って?」

 

するとそこへキョウさんが扉を開けてやってくる。監視?誰を?

 

「つまり、その情報が出てくるずっと前から、俺たち関係者を・・・いや、はっきり言おう。うみちゃん、君がずっと何者かから監視されていたってことさ」

 

「・・・え?」

 

監視、俺を・・・つまり、いつからかは知らないけどずっと見られながら生活していたと・・・?それって俺の家も・・・っ!?!?

 

「っ!おい、どこ行くんだうみちゃん!?」

 

「おじいちゃん!監視されていたって事なら、おじいちゃんも襲われてるかも!行かないと!」

 

「落ち着け!大丈夫、ガンテツさんに関しては先程無事であることは確認したから!今は警察署まで同行してもらってる!いったん落ち着くんだ!」

 

「っ・・・すいません」

 

キョウに抑えられ一度冷静になるうみ。しかしそれでも不安げな表情は変わらない。うみの様子を心配げに見ていた一同だったが、ふとマサキがベッドの横に置いてある鞄へと手を伸ばす。

 

「そうや、うみちゃん。こいつのこと分からんか?」

 

「fふぉfksbぎ↓fんうぃghqkf」

 

「うわっ!?」

 

マサキが取り出したのはモンスターボール。軽く宙へと放ると中から光が漏れ、ポケモンを形作っていく。出てきたポケモンが言語化不可能な妙な鳴き声を上げた。

 

「なんだこいつ?」

 

「ゲームキャラみたいな奴だな」

 

ポケモンを見たタケシとワタルは首を傾げる。蛍光色のピンクっぽい赤と水色の体色、昔のゲームのキャラの様に角ばっているボディ。そんな中うみはというと、目を輝かせながらポケモンを撫で回していた。

 

「うわぁ、ポリゴンじゃないですか!割と珍しいポケモンですよこれ!どこで見つけたんですか!?」

 

「パソコンで作ってたAIが突然変化したっぽいんや。ワイが作ってたプログラムがパソコンからごっそり消えとったで」

 

「なるほど、マサキさんが作っていたプログラムを基に体を構成して出現した、ですか・・・興味深いなぁ」

 

マサキと話しながらポリゴンを撫で回すうみ。ポリゴンは気持ち良いのかやめて欲しいのか分からないが、感情の見えない目でただじっとうみを見上げ撫でまわされている。

 

「そいつは強いのかい?」

 

「うーん、弱いとは言いませんが・・・ある持ち物を持たせて使ったり、進化させたほうが強いですからね」

 

「ほぉ、進化するタイプなんかこいつ。残念やけど資料を盗られとったけんどうなるのか調べられへんかったわ」

 

そんなこんなでポリゴンを観察しながら話し合いを続ける。

 

「とにかく今は、ポケモンを手元に持っている人物を集めて保護する必要がある。今回狙われたのがマサキだったのは恐らく、ポケモンを持っていないこととポケモンについて知っていること、この二つが要因だろう。相手は攻撃の意思も持っていた、恐らく今後も手段は選ばない」

 

「よーするにうみちゃんのリスナー全員が狙われる可能性を持っとるっちゅうこっちゃな」

 

「そんなの全員保護とか無理ですよ。ただでさえどれだけの人がポケモンを持っているのか分からないのに。配信を見ていない人でも気づかずペットがポケモン化、なんてこともあるでしょうし・・・」

 

「それだけじゃない、今後はポケモンの情報を配信で流すのも考えないとな。このままだと被害が増加するかもしれないし・・・」

 

ああでもない、こうでもないと議論は止まない。しかしそんな中、うみがきょとんとした顔で発現する。

 

「・・・?いや、情報はこれからも配信しますよ?というか、言える限り全てを話すつもりです」

 

「なっ・・・!?」

 

その言葉に男性陣が驚愕する。キョウは目を見開き、タケシは口をアングリと開け、ワタルは思わず声を上げる。ただ一人、マサキだけは何かを考え込むように額に手を当てる。

 

「なんでだうみちゃん!?情報は貴重じゃ・・・それに、君は狙われているんだぞ!?」

 

「ええ。だからこそ、ばらまいておく必要があるんです」

 

その言葉に男性陣の頭に?がとぶ。そんな中、マサキがハッと顔を上げ手をポンと打つ。

 

「そうか!ポケモンの情報を制限するんやなくて、大勢に周知してもらうんやな!?」

 

「どういうことだマサキ。ポケモンの情報をそう簡単に謎の相手に渡してしまうのは・・・」

 

「いやおっさん、逆や。『話しとかんと大変なことになるんや』」

 

「・・・どういうことだ?」

 

キョウがマサキへと質問するが、いまいち要領を得てない。チラリとマサキがうみへと目配せをすると、ゆっくりとうみが語り出す。

 

「ポケモンの情報を制限すると、他国にポケモンがどんなものか理解してもらえないんです。日本なら俺や俺の配信を見てくれた人に知識として渡すことはできるでしょう。最悪マスコミでもなんでも使えるものを使えばいい。でも・・・」

 

そこで一旦区切り、うみは持ってきたリュックを下ろし中から世界地図を取り出す。

 

「もしポケモン発生が日本だけの問題じゃないとしたら?そして今まさに、こうしている間も増え続けていたとしたら?」

 

「「「!」」」

 

キョウ達が息を呑む。うみは黙って取り出した地図を広げ、一つ一つの国を指差していく。

 

「俺が軽く調べただけですけど、アメリカ、イギリス、ブラジルに南アフリカ。ニュースになっているだけでもこれだけの地域でポケモンと思われる存在が発見されてます」

 

「もうそんなに・・・!?ほぼ全世界じゃないか!?」

 

驚愕する男性陣に、うみは真剣な表情で頷く。

 

「そうです。それに、これもまだ調べてる途中ですけど、多分俺と同じくらいポケモンを知り得ている存在は確認できませんでした。いるのなら対処する為に動くはずですし」

 

「・・・!そうか、他国にうみちゃんはいない!ポケモンへの対処が後手後手になって最悪崩壊するのか!」

 

合点がいった、と叫ぶタケシ。遅れて理解したワタルやキョウも息をのむ。ポケモンが大量発生している、そして凶暴なポケモンが街や人を攻撃し始める。にも関わらず対処ができない状況・・・。

 

「それだけじゃないだろうな。軍事力の高い国、特に米国とかだな。あのあたりの国なら平気でポケモンへ武器を向けるだろう」

 

「ただの小さな子犬ですら火を吹くような規格外なんだぞ?最初の何匹かは駆除できるんだろう、だがその後大量に発生したとしたら、多分携行火器程度じゃどうしようもない。それこそ核を使うなんてことになりかねん。そして使えばその地域は何十年も生物が住めない環境になる。核を使うなんてのは自国にはできず、行われるとしたらそれは他国。それが原因で戦争が始まり、ポケモンと戦争のダブルパンチでジ・エンド、世界的な大混乱ってことか・・・」

 

笑えないな、と呟き身震いするワタル。戦争は流石に大袈裟すぎた、と思いたいほどだった。ハクリューやフカマル、ギャラドスと言った強力なポケモンを持つワタルにはわかる。相手をしていても、一歩間違えれば簡単にこちらが殺されかねないのだ。ポケモンの機嫌を少し損ねた。それだけでも人は殺されてしまうのだと感じることは多々ある。そんな存在のことを全く知らない状況。それは何よりも恐ろしいことである。人は、「知らないもの」を極度に恐れる。そして恐れは身を竦ませ、凶行に走らせ、そして取り返しのつかない先へと進む。

 

(・・・まぁそれを踏まえて考えても、こいつらといることは絶対やめないんだがな)

 

「さすがに出せない情報もあるし吟味はしますが、概ね基礎的なところは配信でがっつり流す予定ですよ」

 

「まぁ情報については分かった。確かに、ことは日本だけで終わっていい話じゃないしな。その辺をまた大和大臣や井口さんにも伝えておこう」

 

「お願いします」

 

そんなこんなで話がひと段落し、マサキの体調を慮り病室を出ることとなった。

 

「ではマサキさん、お大事に!ポリゴンとしっかり触れ合ってあげてください!」

 

「あいよ。まぁ危険じゃない言うんやったら少しは安心や。ほな、またなー」

 

ベッドの上でヒラヒラと手を振るマサキと、その上でこちらをじーっと見つめているポリゴンを見ながら、病室を後にしたのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「さてと、準備しよう!」

 

家へと戻り、久しぶりに本格的な自由な時間を得たうみは、早速配信を行うことにした。配信する旨を早めにチャンネルから発信し、準備を始める。

 

「おっと、忘れるとこだった」

 

そう言って準備の片手間にリュックからボールを取り出す。

 

「出てこい、みんな!」

 

ボールを放ると、ライ、ミロ、つぼっち、デオキシスが出てくる。4匹はそこが配信部屋だとわかると、?と首を傾げる。

 

「今日はみんなこの部屋で好きに過ごしてていいよ。俺は配信するからあまり構ってやれないかもしれないけどな」

 

そう言うと作業を続ける。少しして後ろでポケモン達が動いている気配を感じつつ作業を続けていると、

 

「うわっ・・・ライ?」

 

「ライ!」

 

ライが俺の膝の上へと飛び乗ってきた。驚きながらも覗き込むと、ライは嬉しそうに尻尾を振りながら鳴いてくる。・・・まるまってて、動く気はないらしい。

 

「フゥ!」

 

「うわ!お前もかよミロ」

 

「・・・」

 

「はは、ありがとなデオキシス」

 

後ろからは椅子越しにミロが緩く巻きついてきて、動けない俺の分までデオキシスが作業を手伝ってくれる。つぼっちはと後ろを見てみれば、部屋の隅ですやすやと寝ていた。

 

「・・・ああもう、分かったよ。皆で配信しよう」

 

 

 

 

 

「どーも皆さんお久しぶりです、うみでーす」

 

「ライラーイ!」

 

「フゥ」

 

「・・・」

 

『待ってた』『舞ってた』『キター!ってか出たー!』『ポケモンだらけやんけ!』『ム○ゴロウさん・・・?』『ミロちゃん俺だー!付き合ってくれー!』『すげーな、もふもふじゃねーか!』

 

配信開始とともに、ポケモン達と一緒に挨拶する。・・・今日は初見の人はまだ少ないな。

 

「いやー、色々とゴタついておりまして、ようやく配信の時間が取れました。ム○ゴロウさんみたいになるのはもっとポケモンが集まってからでしょうね。あ、ミロが欲しいというなら俺とタイマンですね。屋上へ」

 

『辛辣ゥッ!』『ほんと、前回からだいぶ時間経ったよな』『まー色々あったじゃん?』『むしろうみちゃんがまた配信してくれる気になったのがすごいと思うよ』『アンチのクソ共みてるかー?』

 

どうやらリスナーの人達も俺を待ってくれてたようだ。・・・最初期から見てくれた人も何人かいる。本当に、感謝しかない。

 

「今日は見ての通りポケモン達と一緒に配信していきますね。それと今回は相談室というより俺の方からいろんなことをお話ししたいと思います」

 

『おk』『相談室じゃなかったかー』『あれ、後ろになんか居ない?』『ほんとだ、赤い・・・岩?壺?』

 

「あ、そうだった。皆さんに新しい仲間を紹介しますね。ポケモン名ツボツボ、愛称はつぼっちです!」

 

そう言って寝ているつぼっちを引きずってくる。流石にこいつ重すぎて今の俺の少女体型では持ち上げることすら難しいのだ。

 

『重そう(小並感)』『あ、首でてきた』『なんかまたえらい不思議な生物だな・・・』『少し可愛・・・いいかな?』

 

「そうでしょうそうでしょう、この子は可愛いでしょう!この眠そうなダウナー気味な顔がまたキュートでしょう!」

 

『うーん、審議中』『にしてもこれまで見てきたうみちゃんのポケモンと比べるとなんだか弱そうだな』『弱そう(小並感)』

 

「何を言いますか、この子は今日訳あって釣り師ニキとバトルした際にニキのポケモンを1匹で全滅させた猛者ですよ?」

 

『マ!?』『釣り師ニキ負けたんか』『流石うみちゃんだぜ!』『あんなのに負けるとか、ハクリューちゃんがかわいそう』『釣り師ニキの株大暴落』『お前ら好き勝手言いやがるなおいこら』『あ、釣り師ニキだ』『ほっとけほっとけー』『所詮釣り師ニキは、ポケモンバトルの敗北者じゃけぇ!』『敗北者・・・?』『取り消すなよ、今の言葉ぁ!』『お前らぶっ飛ばすぞ!?』

 

「おや、釣り師ニキ。どーもこんばんは!ハクリュー達はもう大丈夫ですか?」

 

『こんばん。まぁ、もう傷は癒えたよ。ただ、負けた悔しさで結構不機嫌なんだが』『そこはほら、釣り師ニキのフォロー力を見せる時だよ!』

 

そうして、時折釣り師ニキを弄りつつポケモンの知識を少しずつではあるが視聴者へと発信していった。

そして2時間ほど経過した頃。

 

「・・・っ!」

 

『まだんなこと言ってたのかよ。さっさとその辺な生き物殺せよ』『なんで化け物集めてんの?テロでもする気か?』『んなことよりこれ警察に通報すべきだろ。危険生物を飼ってるんだぞこのガキ』

 

『なんだ?』『これは、アンチか?』『おい警察ニキ、突破されてんじゃん!』『まずいですよ!』『すまないうみちゃん、物量で押し込まれた。直ぐにBANする』

 

「・・・いえ、BANはしなくていいです」

 

『!?』

 

どうやら警察ニキ・・・タケシさんが水面下でアンチを配信のコメント欄から排除していたようだが、多勢に無勢で突破されたようだ。申し訳なさそうにコメントしているが、2時間も保たせていただけでもすごいと思う。

 

『はよ通報』『運営はなんでこんな配信者を野放しにしてんだ?』『さっさとやめろクソガキ』

 

「・・・アンチの方。いや、視聴者の方々。聞いてください」

 

『?』『?』『なんだなんだ?』『うるせぇよ』『黙って配信やめろ』『そいつら駆除しろよ』『アンチ黙ってて!うみちゃんの声聞こえない!』

 

アンチコメントの嵐に少し息が詰まる感覚を覚えた。しかし心を落ち着かせようと、膝の上で心配げに見上げてくるライを撫でて精神を安定させながら話し始める。

 

(もう、押し付けるだけじゃない。まずは、知ってもらうんだ!)

 

「ポケモンは、人間の敵なんかじゃないです。俺の話を聞いて下さい・・・!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「・・・こうなることは、分かっていたんだろう?うみちゃん」

 

対策課。自身にあてがわれたデスクの上に広げられた複数のパソコンのディスプレイを見ながら、言いようのない苛立ちを覚えていた。

 

『ポケモンは、確かに危険な側面もあります。ですが・・・』

 

『ほらやっぱ危険なんじゃねぇか』『じゃあ何でそんなに危険なやつと一緒にいないといけないの?』

 

『・・・っ、ポケモンは、犬や猫、ペットのように、家族の一員として共に成長し支え合っていける存在なんです!例えばこの子とか・・・』

 

『火吹いたり、水流を吐くような化け物と一緒に暮らすとか頭おかしいんじゃねぇか?』『この配信者の家特定してあの化け物駆除しに行こうぜ』『通報した』『させるかよ!うみちゃんの話聞けよ』『うみちゃんはいいぞジョージィ』『誰がジョージィだよ』『お前ら全員気でも狂ってるのか?得体の知れない生き物を飼ってる上にそいつらは危険なんだぞ?駆除以外にあるかよ』『だからまず話を聞けよ!うみちゃんがそこんところさっきから話してるだろうが!というかウィキくらい見てからこいよ!』『お前は狂人と会話ができると思ってるんですか?』『じゃあ何のためにその狂人の配信に顔出したんですか?』『ちくわ大明神』『誰だ今の』

 

『お願いです・・・!話を聞いて下さい!お願いします!』

 

「・・・っ!」

 

握った拳から血が垂れる。画面の中には一番大きくうみちゃんの配信部屋が映っておりーーーーーーうみちゃんは必死に頭を下げていた。

ポケモン達が後ろの方でじっと主人を見ている。それでも膝の上に乗っているライを抱きながら何度も何度も、言葉を変え言い方を変え頭を下げ続けている。

しかし無情にも横に流れているコメント欄は、アンチによる罵詈雑言と擁護するリスナーで荒れに荒れていた。

 

「・・・タケシ」

 

「キョウさん。今話しかけないでください」

 

「・・・そうか」

 

背後からキョウさんに声をかけられるが、つっぱねる。デスクの上では、まるで自分のものでないような感覚で指がスルスルと動き、アンチコメントを打った視聴者を追跡し続けている。指の動きは滑らかだが、キーボードからは俺の内心が漏れているのか、カチャカチャガチャガチャと耳障りな音を立てている。

 

(最後の視聴者(アンチ)を捕捉・・・あとはこれを押すだけでアンチどもを一斉に退去させられる)

 

エンターキーへと指を乗せる。あとはただ、軽く力を入れれば配信に平穏が訪れる。

 

『お願いします!落ち着いて話を聞いて下さい!』

 

「・・・っ!」

 

しかし、押せない。それをうみちゃんは望んでいないからだ。彼女はよりにもよって、地獄の道へと当然のように進んでいる。アンチと通常の視聴者、分け隔てなくすべての人々へと情報を伝えようとしている。いや、これから来るであろう危機を知らせようとしている。それを思うと、思わずエンターキーからゆっくりと指が離れーーーーーー

 

「っくそがぁ!!」

 

そのまま握った拳を壁へと殴りつける。鈍い痛みと、凹んだ壁の感触と、突然の俺の奇行に驚いた他の職員の視線を感じつつ頭を回転させる。

 

(アンチにだって種類がある。ただアンチ行為をする事が目的の愉快犯、配信者が気に入らない私怨。そして今回のは、「自分達の不安を取り除くために脳死で排斥運動に入っている」んだろう)

 

拳を壁から離し、嫌々ながら画面へと目を向ける。相変わらず頭を下げつつも説明を開始しているうみ。しかし、アンチと思われる視聴者はひたすら「駆除を」の一点張りだ。

 

怖いのだ。「未知」が。故にこそ、それを排除しようとする。自分達の「普通」を守ろうと、「変化」を認めるのが怖いのだ。

 

(おそらくこの中にただ煽っているだけの愉快犯タイプの奴もいるんだろうが、多分大半はただ信じたくないから聞きたくないという連中だろう)

 

そういう手合いは、無視が一番楽で後腐れがない。互いに知らないフリをして、知らないで突き通せばいい。ネットでの関係などその程度なのだから。だが、

 

『ポケモンは、現在あらゆる場所で、あらゆる生物が変化して増えていってるんです!彼らを排除するのでは、我々人類はポケモンの波に飲み込まれます!そうなる前に、人とポケモン、二つの種の融和を!』

 

『化け物と一緒に暮らすってか?冗談』『お隣さんが化け物を飼っていて、いきなり攻撃してきたとかりしたら、警察沙汰だろ』

 

『ですからそうならないように、正しい知識をつけないと!ポケモンとの関係は今後の世界で重要になるんです!』

 

うみちゃんは、それをしない。アンチであろうと、必死に理解を得ようとしている。一切聞き入れてくれなくとも。全てを否定されたとしても。

 

『お願いです!日本の、世界の人々がポケモンと手を取り合わないといけないんです!』

 

「・・・無理だ、うみちゃん。一度配信を切るんだ・・・!」

 

思わず呟く。

この子はとても純粋だ。純粋にポケモンを愛していて、純粋に人との共存を叶えようと動いている。大人になり、汚れを知り汚さを知った俺には眩しいくらいに。

そんな彼女へと容赦のない口撃が突き刺さっている。

配信を見ている何人が気付いているだろうか。背後のポケモン達や膝の上のライが、段々と悲しげな表情になっていることに。そんなポケモン達の見ているうみが、泣いてはいないものの握られた小さな手が震えていることに。

 

『駆除は無理なんだって!説明してるじゃんか、既存の銃とか程度じゃあどうしようもないんだって!』『じゃあ戦車でもヘリでも良いから使えば良いんじゃんか。頭使えよ』『お前こそ頭を支え。自衛隊にどれだけの数そんな大型の兵器があると思ってるんだ?それを全国で動かす事がどれだけ難しいと思ってる?』『沖縄に米軍いるじゃん、そっからも協力してもらうとかで良いんじゃね?数いれば化け物駆除くらい簡単だろ』『その理論はポケモンにも当てはまるんだよなぁ』『ちくわ大納言』『誰だ今の』『なんだ今の』

 

(もうダメだ、これ以上は・・・!)

 

後でうみちゃんから責められてもいいからと、ハッキングしての配信切断をしようとする。その時だった。

 

『ポケモンとやらについて聞きたい。質問良いだろうか』

 

『・・・っ!は、はい!なんでしょうか、なんでもどうぞ!』

 

『ん?』『ん?』『落ち着けお前ら。今は自重しろ』『私は国内の研究機関の者だ。同僚からここのことを聞いて過去にスレッドとやらに来たことのある者なのだが、覚えてくれているだろうか』

 

「・・・!」

 

『キター!』『研究者ニキ!?生きてたのか!』『勝手に殺さないでやれ』『このタイミングで来るってことは自演か?』『またそうすーぐ都合の良い解釈する』『どうせ研究者とか言っても偽物かマイナーな奴だろう?聞くだけ無駄』

 

『そうですか、スレの方にきたことのある方なんですね。それで、質問というのは・・・』

 

『あなたの言うポケモンを、私は信じようと思う』

 

『・・・え?』

 

「まじか!?」

 

思わずやってはいけないと分かっているがハッキングを試みる。ぬか喜びさせるだけの偽物かとも思ったが、そのコメント主を調べ驚愕する。

 

『偽物だろ?さっさと正体あらわせ』『なんでアンチってそう人を煽るの?馬鹿なの?死ね』『お前が死ね』『む、済まない。自分は〇〇大学で生物学の教授をしている大木戸という』『・・・ん?』『ファッ!?』

 

『え、〇〇大学って・・・確かすごい大きな国立大じゃあ?』

 

『ええええええええ!?』『キ、キター!!!』『騙されるな、なりすましだ』『こんなとこでそれする意味があると?』『落ち着け、まずは話を聞こう!』

 

コメント欄が大混乱する中、大木戸と名乗った研究者が段々とコメントを残す。

 

『実は私の孫がポケモンを連れていてね。話を聞いてこことうみちゃんの存在を知ったんだよ。それに、孫の協力を得てうみちゃんの話していた内容についても研究は始めている』『有能なんてもんじゃない、最強か?』『まじか、いつの間に!』

 

大木戸のコメントに視聴者が活気付く。呆気にとられた様でぽかんと口を開けていたうみちゃんへ、更にコメントが続く。

 

『うちの孫が、チャラ男がお世話になっている様で』

 

「『『『お前かチャラ男ぉぉぉぉ!?!?』』』」

 

『ふむ、そこまで驚いてくれるとは思わなかった』『ええええええ!?!?』『ちょっと待て、チャラ男の方も身バレしてね?』『

いやもうこれに関してはそれ以上にヤバすぎるだろ、人材的な意味で!』『最強の後ろ盾やないかい!』

 

『え、えっと・・・研究者ニキ・・・?博士?』

 

『大木戸でも博士でも良い。・・・ここまでの流れは見ていた』

 

戸惑ううみちゃんに、大木戸・・・博士がコメントする。自然と他のコメントが減っていき、静かな時間が流れる。

 

『正直自分としてはまだ完全には信じられない事もあるだが、調べていき、君の残している動画や情報サイトを見ればわかる。君の言っていたことは全て事実だ。少なくとも、今私が見て、接したポケモンに関しては事実だと嫌でも理解できたよ。そして、先程から君が言っている危機というのもなんとなく分かってきた』

 

『君は間違っていない。私は、君の行動を支持する。これからも頑張ってくれ、私も研究を続ける』

 

『・・・あり、がとう。ございます!』

 

『俺らもやるぞ!』『何ができるかは分からんけどな』『とりあえずアンチは全員ぶっ叩いてでも分からせよう』『分からせるなら私の出番だな』『分からせおじさん!帰って!』『なんでだ!?』『俺も一ポケモントレーナーとして出来る限り頑張る。うみちゃん、君は一人じゃないぞ』『釣り師ニキが言うとなんだか嫌だ』『なんでさ!?』

 

「・・・は、ははは・・・」

 

ゆっくりと椅子にもたれかかり、自然と笑いがこみ上げてくるのを感じた。思わぬ形ではあるが、うみちゃんの言葉は人を動かした。これ以上ないほど完璧な相手のだ。純粋な願いが折れることなく戦っている。それを感じた俺は思わず握っていた拳に更に力が入る。

すでに涙腺が崩壊しかかっているうみちゃんがベソをかきながらお礼を言い続けているのを見ながら、決意した。

 

(俺も、やらないとな・・・出来ることを。この国のため、市民のため・・・何よりうみちゃんのためにも)

 

そしてそっと、コメントを残した。

 

『俺を忘れるんじゃないぜ!当然俺だってうみちゃんのために幾らでも動くぜ!』『さす警』『さす警』『ちくわ大納言絵巻』『なんだ今の』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「どうなっている!?状況を報告しろ!」

 

『わ、分かりません!突然暴れ出し・・・ぎゃあっ!?』

 

「おい!おい返事しろ!・・・クソが!何が起きている!」

 

とある国の研究所。周囲を森に囲まれたそこでは、警報が鳴り響いていた。脱走した被験体を探し出そうと必死な研究者や警備員達。しかし、少しずつその数は減っていく。

 

「くそ、被験体番号1番め・・・!やってくれる!」

 

研究所の所長を務める男は、爪を噛みながらイラつきを抑えようと辺りを行ったり来たりしている。そんな中、所長室の扉が轟音とともに開く。

 

「!?おい、見張りは何をしている!?」

 

「む、無理です!もう持ち堪えらあぎゃ!?」

 

部屋の前を警備していた男が悲鳴を上げて転がり込んでくる。その顔は恐怖に歪み、そして向いてはいけない方を向いていた。

 

「ひ、ひぃぃ!?」

 

「・・・」

 

「い、1号!貴様、それ以上近づくな!」

 

部屋の中へと無言で入ってきた被験体1号は、無言で背中の砲台を所長へ向ける。恐怖からか発狂し、喚きながら逃げようとする所長だったが、被験体1号は素早く動き所長の腕を掴む。

 

「ぎゃあああ!?助けて、やめて!殺さないでくれぇ!」

 

「・・・Gi、gigigigi!」

 

命乞いをする所長に怒りを膨らませていく1号。エネルギーが収束していく砲台を乱暴に所長の頭部へと当てる。

 

 

ーーー仲間を平気で殺したくせに・・・!

 

「おごっ!?」

 

偶然か、所長の頭へと押し付けられた砲口は、口の中へと押し込まれる。所長は涙を流しながら、それをどこか他人事の様に感じ天井を見上げた。

 

「かひほ(神よ)・・・」

 

パァン、という弾けるような音とともに、所長の意識は永遠の眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

朝日の登る森の中を、ゆっくりと歩く被験体1号。血塗れの体を拭う事もせずゆっくりと当てどなく歩く彼は、どこか寂しげに空を見上げる。森の中は静かで動物の気配は無く、空にも鳥はいない。

 

「・・・」

 

1号は震えながら顔を覆うと、空へ向かい悲しみの咆哮を放つのだった。

 

 

「Gi、gigaaaaaaaaaa!!!!!!」




ライチュウ
ミロカロス
デオキシス
ツボツボ

と来てあと2匹。どの世代どのカセットから出そうか今からワクワクが止まりません。
次回もお楽しみに
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