TSしたらなんか相棒たちがいるんですけど・・・ 作:コジマ汚染患者
日も暮れ,夜道を走る車の中で、キョウは思案していた。テレビ局へと向かっていた際に乗せていた他の者はおらず、その表情は後悔するような、切羽詰まっているかのような渋面だった。
(さて、ここからどうしたものか・・・)
・・・・・・・・・・
時はうみとともに生放送に出演するためテレビ局へと向かっていたところまでさかのぼる。うみ一人でテレビに出演というのも難しく、付き添いとして警察からはキョウとタケシが、一般人のポケモントレーナー代表としてワタルがついていた。
『うみちゃん、緊張してないか?』
『いやいやワタルくん、うみちゃんは曲がりなりにも配信者だよ?今更大勢に見られるくらい・・・』
『だ、だだだ大丈夫ですますっ、拙者はぜんじぇんよゆーだじぇ!』
『『かけらも余裕がねぇ!?』』
心配して声をかけたワタルに対して、笑い飛ばしていたタケシ。しかし当のうみ本人はというと、それはもうガッチガチだった。顔は引きつった笑い顔で固まり、携帯のバイブのように小刻みに震えていた。助手席に座っているタケシからは感じられなかったが、隣のワタルには尻から振動が伝わるほどの震えで二人ともうみを見てぎょっとする。
『い、いえね?俺はそもそもコミュ障極めてる人間でして、配信は見たい人しか来ないしポケモンについての相談所的感覚でやれたんで問題ないんですけどテレビという大型メディアともなると緊張感が段違いたたた胃が痛い』
『ええ・・・』
まさかのガチビビりに戸惑うワタルとタケシ。運転しつつバックミラーをちらりと見て、キョウが苦笑する。
『まぁ、今のうちに緊張できるだけしといたほうがいいんじゃないか?案外本番だと緊張が収まるかもしれんぞ』
『うう・・・』
ppppp… ppppp…
するとその時、タケシのスマホから着信音が鳴り響く。うんうん唸っているうみに苦笑しつつ出たタケシだが、話していくうちにその表情は真剣なものへと変わる。
『それは本当ですか?・・・そうですか。ありがとうございます。では』
電話を切ったタケシは、剣呑な表情で車内の全員へと内容を話した。
『・・・とのことです。後はもう犯人を捕まえないと詳しいことは分かんないですね』
『・・・なんとも胸糞の悪い話だな』
話し終えるとともにキョウがそう吐き捨てる。ワタルも、表情は無そのものだが固く握りしめられたこぶしがその内情を表している。
『・・・へぇ、そーですかぁ』
『・・・?うみちゃん?』
タケシの話を静かに聞いていたうみの様子にワタルは違和感を覚えた。俯き、目元は見えないが口元は薄い笑みを浮かべている。この日のためにとアンズにまた着せ替え人形にされながら仕立てたワンピースの膝部分に置かれた手はいつの間にかぎゅっと握りしめられ、服をしわくちゃにしていた。
なにより、先ほどまであった震えも、困ったような唸り声も鳴りを潜めている。
『・・・うみちゃん。ついたぞ』
そんな重苦しい空気の中、四人を乗せた車は目的のテレビ局へと到着した。キョウが静かにうみへと促すが、うみはすぐには下りず、ワタルの方へと紙を差し出した。
『うみちゃん?』
『ごめんなさい、ワタルさん。俺行かなきゃ。テレビの方、おまかせできませんか?』
『はぁ!?』
『ちょっ、うみちゃん!?』
まさかのお願いにワタルだけでなくタケシもおどろきのこえをあげる。はいカンペ、と押し付けられた紙を握りしめ呆然とするワタルをよそに、うみはドアを開けて車を降りる。
それまで驚きつつも静観していたキョウがさすがに様子が変だと運転席を慌てて降りる。
『うみちゃん!?何をする気だ!これから重要な生放送だぞ!?』
キョウの声に立ち止まったうみは、先ほどまでの気弱な姿はなんだったのかといいたくなる可憐な笑みを浮かべて、くるり。と振り返る。ちょうどその後ろに月が浮かんでおり、振り返った際の動きでふわりとはだけた銀の髪を照らす。まるで月明かりをその髪に蓄え彼女自身が光り輝いているかのようにも見えた。
幻想的なその姿に一瞬呆けたキョウだったが、すぐに現実へと戻りうみへと語りかける。
『うみちゃん。さっきの話は、確かに許せるものじゃないんだとは俺にもわかる。けど、この生放送だって同じくらい重要で、それに君でなくてはできないということも分かっているはずだ。違うかい?』
キョウの言葉に、笑みを少し悲しげなものへと変えうみは首を横に振る。そして、海のように深い青のワンピースの腰回りにあつらえた、モンスターボールの付いたベルトからボールを一つ取り外す。
『それは違いますよ、キョウさん。確かに生放送は大事だ。それに、今回の件は農家ニキたちに任せると言ったのも俺です』
そこまで言ってから、うみは手にしたボールを宙に放る。ボールから光が出て、空へとポケモンを形作ってゆく。紫のボディは、夜の更けてきた空へと完全に溶け込んでおり、その不気味な眼の光と、四つに分かれた翼のはためきだけが耳に響く。ポケモンはうみの肩のあたりに器用にホバリングしながら、嬉しそうにほおずりする。それにうみも嬉し気に手を差し伸べながら頬ずりし返すことで応える。
『おーい、うみちゃん忘れ物!』
『え、待ってください、俺マジでこれやるんですか!?』
キョウに遅れて車からタケシ達二人が出てきた。ワタルはいまだよく状況が呑み込めておらず、自分が変わるの?え?まじで?と慌てふためいており、タケシは車の中に残されていたうみのカバンを放る。うみはそれを片手で受け取ると、浮かべていた笑みを引っ込め、無表情になる。
『ありがとうございますタケシさん。ワタルさん、こんなことになってごめんなさい。でも、俺だって何もないのにあなたを選んだんじゃないんです。あなたのポケモンへの情熱と愛情、それを認めているからこそなんです。どうか、お願いします・・・』
『うみちゃん・・・』
真剣な表情で頭を深く下げるうみに、何も言えなくなるワタル。手に持ったカンペへと視線を下ろし、数秒思考する。
『・・・ああ、わかった。俺が行くよ』
『!ありがとうございます!』
苦笑いを浮かべながらそう言うワタルに、花の咲いたような笑顔でうみが礼を言う。ペコペコと頭を下げるうみへ、渋い表情のままキョウが声をかけた。
『うみちゃん。何をする気なのか、あえて聞きはしない。けど、無茶だけはしないでくれよ・・・』
すると、うみは一瞬キョトンとした顔をして、すぐにまた笑う。
『大丈夫ですよ、キョウさん。だってーーーー』
ーーー少し、ふざけた奴らに分からせてくるだけですから
そう言って笑ううみの目には、明らかな敵意と、ほんのわずかに覗く怒りの炎が燃えているようにキョウの目には映ったのだった。
・・・・・・・・・・
「・・・急ぐか」
キョウは無意識に呟きつつ、目的地へとアクセルを踏み込む。手遅れになる前に、と・・・
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「・・・で?何か言い訳は?」
「ないですはい」
(・・・なんで俺ここに入れられたの?)
一方その頃、生放送が行われていたテレビ局。その楽屋では、冷や汗を流しつつしょんぼりと正座するアカネと、般若の形相で仁王立ちするアカネのマネージャー。そして、何故か普通に同じ楽屋にぶちこまれたワタルがいた。さすがに出演者同士の暴力沙汰を放映するわけにもいかず、CMに入った時点で番組を中断している。そのため、不本意ではあるが自分の、正確にはうみに割り当てられる予定だった楽屋へと向かっていたところを、スタッフに「あ、こちらです」と言って連れていかれた結果がいまの光景であった。
「いい!?アカネの型破りなとこは強みだと私も思うわ、けどねぇ!今回のあれはどう考えてもあかんでしょぉ!何を出演者、それも学者なんて面倒な奴らをぶん殴ってんのあんたぁ!これまで積み上げてきたファンや局、芸能人との関係をパアにするつもりか!」
「・・・面目次第もないわ。つい、カッとなってな?こう、あるやん?コバっちゃんもそーいう時」
「あ り ま せ ん!!!」
正座し、反省したようにしょぼんとしているが、たまにごめんね?と拝むように手を合わせるアカネ。それに対しコバっちゃんと呼ばれるマネージャーはいまだに収まらない怒りでウガー!と叫びつつ頭を掻きむしる。ワタルは、マネージャーさんの今日スタジオで初めて出会った時の知的なメガネのお姉さんという印象が吹き飛び、その不憫さも相まってなんとも言えない表情で座って見ているしかない。
「ひーん、釣り師ニキ助けてーなー。もうウチお説教嫌やわぁ」
「こら、逃げない!だいたいあなた最近どっかの動画配信見るようになってから仕事の集中力がね・・・」
「ひー、オタスケ〜」
「いや俺に言われても・・・」
そろそろ足の方も限界のようで、さっきから上半身だけで謎の踊りをしているアカネ。だがマネージャーのお説教は文字通りお経を説くかのように止まらない。助けを求められたワタルとしても、どう助けるべきかも分からず苦笑いを返すしかないのだった。
「というか、なんで俺はあんたの楽屋に押し込まれてるんだ…?」
「ああ、それはウチがここに呼ぶよう頼んどいたねん」
ワタルのつぶやきを拾い、そう言うアカネに対し、マネージャーとワタルは同時に変な顔でにらむ。
「なんで無関係な人を楽屋に入れるのよ。・・・まさかこの人に一目ぼれとか!?」
「・・・え!?ち、ちっがぁぁう!もーコバっちゃん、そんな恥ずかしい勘違いせんといて!」
「そーやってごまかそうとするところがなお怪しいわ~。というかあんた、また勝手に局の人に迷惑かけたんかい!」
「うっわ藪蛇や!釣り師ニキ助けて~!」
「もうなんでもいいからここから出してくれ・・・」
ワタルの心からのつぶやきは、アカネとマネージャーの喧嘩の声にかさなり、むなしく消えていくのだった。
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夜の町中を、男が二人走ってゆく。二人ともジャケットにジーパンと、格好だけを見れば、その辺にいる一般人といえる。しかしその形相は必死で、何かから追われているかのようだった。道行く人々もかき分けながら走る二人をたまにぶつかる人が最初は怪訝そうに見送るも、やがて視界から消えるとともに何事もなかったように歩いてゆく。
しばらく走り、路地裏に入ったところで肩で息をしながら休憩する二人組。少しして息が整うと、今度は人目を気にしながら路地の奥へと歩いていく。
『どうなってるんだ!目標はテレビ局にいるんじゃなかったのか!?』
歩きながら、男の片方が声量を押さえつつ叫ぶ。その言葉は日本語ではなかったが、それでも誰かに聞かれてないかと周囲をせわしなく見渡している。するともう一人の方が眉をひそめながら答える。
『どこかで漏れた、それしかないだろう。すでに連絡のつかない奴らもいる。今はとにかく、体勢を立て直すしかないだろう。早く合流するぞ』
『くそっ!例の日本人は見当たらないし、よくわからない奴らに俺たちの存在がばれる、最悪の日だ!』
二人が悪態をつきながら路地裏を進んでいく。やがて開けた場所まで来ると、すでに仲間が何人か到着していた。ひとまず合流できたことにホッとし、声をかけようとしたところで背後から声がする。
「はい、案内ご苦労さん」
『なっ!?ぐぁ!』
『しまっ・・・!』
とっさに振り向いた二人のうち、一人が背後からの強打で気絶させられ、もう一人が慌てて飛び退く。集まっていた仲間も敵の出現に警戒態勢に入る。そこにいるのは、どこかの国の人間だろう見るからに屈強な男が少なくとも6人。
そんな相手に対して、背後からやってきた不届き物は二人だけであった。
「さぁて、おまわりさんだ。あんたら、任意同行でちょっとお話聞かせてもらおうか…?」
「いや、全然おまわりさんに聞こえないよ・・・?精々質の悪いヤクザじゃん」
警察の見せていい表情ではない男・・・タケシと、それに対してドン引きしつつも周囲への警戒を怠らない少女・・・ホミカ。二人を見て、というよりかはホミカを見てそっと腰のあたりへ手を伸ばす男たち。相手はまだ二人、それも一人は子ども。見られはしたがまだどうとでもできる・・・そう思った瞬間だった。
「いまだ!オニスズメ、『つつく』!」
「いけ、コラッタ!『かみつく』!」
『ぎゃぁ!?』
別の道の方からやってきていた何かに腕を噛まれ、男が一人悲鳴を上げる。それに驚いた男たちが思わず固まった瞬間、上空から大きなスズメのような何かが襲い掛かる。そして、指示を出しつつ配信の視聴者が二人、どこからともなく現れた。そこで男たちは気づき、舌打ちをする。
『しまった!』
『囲まれている!』
動揺しつつも、噛まれた男を助けようと拳銃らしきものを抜き放つ男たち。そこへ、最初にやってきたタケシとホミカが素早くボールを投げ指示を出す。
「ゴルバット!『ちょうおんぱ』だ!」
「フッシ!『ねむりごな』!」
「ゴルァ!」
「ダネ!」
『うっ、しま・・・』
『くそっ!粉を吸うな、眠るぞ!』
『み、耳が・・・』
ゴルバットとフシギダネによる睡眠と超音波の妨害に、銃を撃つどころではなくなる男たち。その隙をついて、今度は別の道からうみの配信の視聴者がボールをもって現れる。その男は、以前山でポケモンをゲットしたと報告をあげた視聴者だった。
「いけ、イワーク!」
「ゴァー!」
『で、でかい!?』
『出口が!』
『銃が効かないぞ!?』
現れたのは、いわへびポケモンのイワーク。その巨体は路地裏で呼ぶにはあまりにも大きく、男たちは逃げ道をふさがれるようにしてイワークのとぐろの中へと閉じ込められる。
「よーし、うまくいったな。にしてもいい反応だなホミカちゃんも」
「タケシさん・・・だっけ?まぁ流石警察の人、って感じですね」
「あれ、俺なんか舐められてる・・・?」
そんな話をしつつ、イワークに囲まれた男たちにフッシがねむりごなを振りまき、ゴルバットのちょうおんぱで抵抗する力を削ぐ。身動きが取れないようにしたうえで安全に全員を捕縛するのだった。手伝いをしていた視聴者たちが、イワーク、コラッタ、そしてスズメのようなポケモンのオニスズメとそれぞれの手持ちを呼び戻しながら作戦通りに事が進んだことで嬉しそうにガッツポーズをとる。
「いよっし!うまくいったな!」
「俺たちでもポケモンを使えばとりあえずは役に立てるな!」
嬉しそうに話している視聴者たち。そこへタケシが微笑みながら近づく。
「ご協力、感謝します。・・・とまぁ言ったが、さすがにこれ以上は危険だから、こいつらのことは任せて農家ニキとチャラ男ニキのとこへ応援に行ってくれ」
「りょーかい。警察ニキの方も気をつけてな」
タケシに一声かけ、おふざけで敬礼をし連絡を取りつつ小走りで走っていく視聴者たちを見送りながら、タケシはふぅとため息をついた。
「・・・で、ホミカちゃんは何でまだいんの?」
「この人たち、普通に日本語以外でしゃべってたけど、おにーさん何語かわかる?」
「うん、まず今俺には君のそのスルー力が分かんない」
縛られ、眠らされている男たちをツンツンとつついている呑気な少女にがっくりと肩を落とすタケシ。そんなことは気にせずよっこいしょ、と立ち上がったホミカはスマホを取り出し顔をしかめる。
「・・・おにーさん、マズいことになったよ。ポケモン持ちが出たって」
「・・・そりゃマジでやばいな。農家ニキのとこ?」
「っぽいよ。いまチャラ男二キが向かってるって。ほら」
ホミカが見せてきたスマホを覗きタケシは舌打ちをする。そこには、農家ニキを囲む形で男たちがポケモンを繰り出している画像が映っていた。画像の手前側では険しい表情の農家ニキとコロがおり、それに相対するようにドーベルマンのような黒い体に特徴的な大きい角を持ったポケモンが3匹立ちはだかっていた。農家ニキの方にもポケモンを持っている人員はいたはずだったが、画像で見える範囲では既に他はやられているようだった。
「・・・まずいな」
「ですね」
二人して難しい顔になりながらスマホをにらむ。タケシは面倒そうな雰囲気を隠しもせず、ホミカは画像を見ながらまぁ、と独り言をつぶやいていた。
「なんにせよポケモンの相性的にも頭数的にもまずいですよねこれ。登山家ニキのイワークに行ってもらった方がいいんじゃないですか」
ホミカの提案に、ふむとタケシは考え事をしつつ縛った男たちを見る。そのまま数秒考えこんでいたタケシは、ホミカの怪訝な表情に気づきポンと手を打った。
「よし、ホミカちゃんだったっけ?君に農家ニキを援護に行ってもらいたい」
「え?いいけど、おにーさんは?」
「おれはほら、こいつらを同僚に届けないといけないしな。万が一を考えると農家ニキがやられるのは痛い。ホミカちゃんのポケモンなら相手のあのポケモン・・・ヘルガー達にも搦め手で援護くらいできるだろう?」
背後の男たちを指さしながらそう言ったタケシになるほど、と頷くホミカ。奇襲に備えだしっぱなしにしていたフッシをボールに戻すとにやりと笑って駆け出す。
「おにーさんも気を付けてね」
「あいよ。君も、補導とかで警察の方につかまるとかは勘弁な」
「それはアタシも勘弁」
街中へと駆けていくホミカを見送ったタケシ。ひらひらと振っていた手をおろすと、チッと舌打ちをした。その表情は、先ほどまでの飄々としたものではなく完全にキレていた。
「おい!おきろ、おい!」
『う、うぅ・・・』
眠っている男の一人、先ほどの状況で指示を出していた指揮官的位置と思われるその男の胸ぐらをつかみ、たたき起こす。
「さぁ、しゃべれ・・・!なんで『 』の人間がうみちゃんのことを狙うんだ!」
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『う、うわぁぁぁ!』
『に、逃げろ!』
農家ニキとタケシたちが男たちを捕縛しているころ。別の場所、人気もない夜の港にある建物の中で、悲鳴が上がっていた。そこには銃を持った男たちはおらず、代わりにポケモンを持ったもののみが集められていた。
男たちは基本的に銃を持つ者、ポケモンを持つ者をなるべく均等にチーム分けしていた。だが、このチームだけは、最高戦力としてポケモン持ちのみで固められていたのだ。
『嘘だろ!?おい、動けよこの役立たず!』
しかし、そんなある意味で精鋭に位置づけられていた男たちは今、たった一人の少女に追い込まれていた。
用意していた連携も、切り札としていた大型ポケモンでさえ、ほぼ一撃でつぶされた。そして今、最後の一人のポケモンがやられ、きぜつしてしまったのだ。
総勢10名。それだけの人数がいながら、ポケモンはすべて黄色いネズミのようなポケモンと巨大な蛇のような、それでいて魚のような優美なポケモンにやられ、念のために持っていた銃は夜の闇の中から飛んでくる蝙蝠のようなポケモンによって叩き落され、壊される。逃げようにも背を見せるとこれまた蝙蝠のようなポケモンにやられ気絶させられる。中には宇宙人のようなポケモンに連れ去られ、目を回して落ちてきた者もいた。最初の3人が逃亡を図り倒れたあたりで、ようやく男たちは動いたものから順に狙われていることに気づいた。
「マ、マて!マッテくだサイ!」
打つ手がなくなり、いつ襲われるかわからないという恐怖の中、一人が拙いながらも日本語で声を上げる。男たちはその男がしゃべりだすと同時に息をのみ、静かに相手の反応を待つ。
「ワタシたチ、コウさん!オトナシくする!話をきいてクレ!」
すると、雲に隠れていた月が顔を出し、淡い光が建物の屋根にある天窓から降り注ぐ。そして、男たちの目の前にいた少女を照らし出した。
「うーん、ヘルガーにベトベターにポチエナ、あとは大きいのだとリングマか。どれも個体ごとのレベルはそこまで高くないね。技についても知識は得たけど使いこなすための習熟は行わなかったんだね。レベルもタイプもばらばらだし、連携も最悪だ。トレーナーっていうよりも、ただその辺で捕まえて無理やり使ってるって感じかな。さっきから技を出すのに指示が『やれ』とか『追い込め』とか雑にもほどがあるし」
「?・・・ナ、なニを」
言っている、と言おうとしたところで男は息をのんだ。頬から電撃を放っているネズミのような黄色いポケモン。羽ばたいて飛んでいるにもかかわらずなぜか一切羽音を立てない蝙蝠のようなポケモン。見た目は美しく、だがその目つきが尋常じゃないレベルで悪いポケモン。そして、空に浮かぶ宇宙人のようなポケモンは、その無機質な眼を光らせ、腕の触手をくねらせていた。
それら異形の存在に囲まれ、守られるようにしながら、少女は淡々と自分なりの考察を続けていた。男たちの様子など一切気にしていない。
「・・・ああ、この子たちですか?うちの大事な家族です。すごいでしょ?」
ふと思い出したかのようにそういって自慢げに微笑む少女。だが男たちには、その笑みがまるで地獄の化け物の威嚇のように見えていた。
「そのポケモンたちとモンスターボールの出どころもそうですけど、そのポケモンたちの首につけてる悪趣味な
『ば、化け物か・・・!?』
恐怖に竦む男たちを見ながら、少女・・・うみはいっそ優しげに見えるくらいの笑みを浮かべていた。
「お前らは、別にもういらないかな」
うみちゃんは基本ポケモンに優しい人には懐き、ポケモンを害する人はぶっ●しに行くくらいにはポケモンキチです。
次回、うみのてもち勢ぞろいです。話も無駄に壮大になってきます。
次回もお楽しみに