TSしたらなんか相棒たちがいるんですけど・・・   作:コジマ汚染患者

46 / 55
あまりにも長くなったのでぶった斬りました。後、話の都合上ちょっと難しいことを調べすぎて頭痛い(´・ω・)


第43話

「状況は?」

 

暗い部屋の中、低い男の声が響く。その言葉に一度深呼吸をし、報告のために自身の口を必死に動かす。

 

「・・・日本国内へ潜入させた部隊はそのすべてが音信不通。第一目標である『資料』については奪取に成功、現在ここへと移送中です。ただ、第二目標の『少女』に関しては失敗、回収できなかったとのことです。最後の通信記録はここに」

 

そういって差し出したレコーダーを受け取るや否や目の前の人物はスイッチを入れる。数秒のノイズ音ののち、定期報告であげられていた通信が再生される。

 

『・・・こちら第一部隊!目標を発見、「交戦」に入りました!繰り返す、交戦に入りました!対話での連行は不可能と判断。これより実力行使による回収に移ります・・・!アウト』

 

短い言葉ののち、レコーダーが停止し再度静寂が訪れる。そんな中、不意に笑い声が響いた。

 

「フ、フフフ、おやおや、君たちの部隊はこんなお使いすらできないのか?私が命じたのは、『二つのモノ』と研究者一人の回収だぞ?君たちならば、と期待を込めて送り出したのに、全く残念だよ」

 

その言葉に、言いようのない怒りがこみ上げる。常日頃精神を落ち着け、冷静に思考することこそが重要だと部下へ言い続けているが、普段であれば抑え込み謝罪を述べていたであろう私の口からは怒りのままに目の前の暫定的な上司への非難が吐露された。

 

「我々の本分は、国と国民を守る盾となり、また時には仇なすものを刈り取る矛となること。このような非合法かつ人道的でない作戦のための訓練などしておりませんでした。・・・博士の指示も、少々曖昧だったのでは?」

 

「非合法手段が出来ない部隊など、どこの国にもないだろう。軍とは、兵とはそういう『モノ』だ。そんなくだらないことを聞きたくて君を呼んだわけではないんだよ?私は事実のみを求めているんだ」

 

「・・・ならば、我々ではなくそちらの者を動かせばよろしかったのでは?得意でしょう、ああいう任務は」

 

そう言って背後へと目を向ける。唸り声をあげる巨大なナニカが、こちらへと威嚇するように睨みつける。すると、その横に立っていた人影がそっとナニカの頭を撫で、落ち着かせる。

 

「フフ、いやぁ、彼らはまだ『調整中』でね。それでも多少はやれるだろうが、あれを相手取るにはまだ早い。その点、君達ならあれだ、今回のような事態になっても問題ないじゃないか」

 

その男の言葉に頭の中へカッと血が昇るのを感じる。問題ない?部下たちを捨て駒にすることがか?握りしめた拳からわずかに血が滲む。そんな私の様子をにやけながら見ていた男は、最後に一つため息をこぼし立ち上がる。

 

「まぁいい。今回はある程度成果は得たことだし、次は恐らくあちらから来るだろう。日本に残存する部隊は戻したまえ」

 

「・・・はっ」

 

男は座っていた椅子にかけていた白衣を羽織り、敬礼をした私の横を通り過ぎる。背後にいた人影とナニカはいつの間にか居なくなっていた。一人、部屋に残された私の胸中にはこんなことに加担せねばならないことへのやるせなさだけが残ったのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「どいてくれ!俺だ!」

 

車を飛ばし、うみちゃんの持っていた携帯のGPSを辿ってついた港には、既に他の課の警察がやってきており、パトカーのランプの赤い光が彩っていた。

 

「ん?あ、お、お疲れ様です!」

 

「うみちゃ・・・例の協力者の少女は?」

 

「それでしたら、あちらに」

 

こっちを見た警察官の一人に手帳を見せ、うみちゃんの居場所を聞く。相手の警官は一瞬驚き、その後パトカーの横にしゃがんでいるうみちゃんを指さした。

 

「ありがとう。ところで、被害はどうなっている?」

 

「はい、外国籍の男が10名ほど。一部の者は気絶はしてますが全員外傷は軽微です。・・・ただ、よほどショックなことがあったのか、短期記憶に障害が見られます」

 

「・・・そうか、ありがとう。もういいよ、仕事中すまない」

 

答えてくれた警官へ礼を言い、うみちゃんへと近づく。うみは今日のために用意されたワンピースが汚れるのも構わず、地面へと直に体操座りした膝へと顔を埋めている。

横では6つのモンスターボールがベルトと一緒に乱雑に置かれ、唯一ライだけがボールから出てきており心配げにうみを見上げている。

 

「ライくん。うみちゃんと話がしたいんだ。いいかな?」

 

「!ライ・・・ライライ」

 

声をかけると、ライくんは俺を見上げ、次いでうみちゃんへと手を上げ悲しげに何かを訴えかけている。

すると、うみちゃんはゆっくりと顔を上げこちらを見た。

 

「・・・きょうさん、ですかぁ?」

 

「・・・!?!?!?」

 

あまりの驚きに返事が出なかった。

うみちゃんの顔には、表情がなかった。いや、実際にはうみちゃんは笑っていた。だがそれは、笑った顔の仮面を被っているような、と感じるほどに不気味なものだった。この表情を見て、本当に笑っていると思う者はいない、そんな笑顔だった。不自然に作られた笑顔と、目元にくっきりと残った涙の後。そして最も印象的なのは、暗く深い、どこまでも落ちていく深海のような凪いだ瞳だ。そこにあるのは笑顔とは真逆の暗い感情のみだった。

 

「あぁ、すみません。かってにでていってしまって。でももうだいじょうぶです」

 

「・・・うみちゃん」

 

「のうかにきたちもがんばってくれたみたいですし、はやくてれびきょくにもどりましょう」

 

「うみちゃん!」

 

思わずサッとしゃがみ、肩を掴んでいた。突然肩を掴まれたことに驚き、うみちゃんはキョトンとしていた。しかしすぐにまた先程のエガオに戻ってしまう。

 

「・・・だいじょうぶですよ?おれ、がんばれますよ?たしかにてれびにでるのなんてはいしんいじょうにこわいですけど、きょうはほら、まだまだげんきd」

 

「うみちゃん・・・もういい、もういいんだ。よく・・・頑張った」

 

もう聞いていられず、そっと抱きしめる。顔は見えないが、一瞬跳ねた肩から力が抜けていく。

 

「キョウ・・・さん・・・?」

 

「何があったかは今は聞かない。でも、頼む。君が何を背負っているにしろ、俺たちを・・・大人も頼ってくれ」

 

「・・・!」

 

息を呑む音が聞こえた。そして、今度は徐々に大きくなる嗚咽と、肩には湿った感触が伝わる。

 

「・・・キョウ、さん・・・俺、お゛れ゛ぇ・・・!」

 

「・・・大丈夫、今は誰も、俺も見てない。大丈夫だ。あんな緊張してるとか、怒っているような演技なんてしなくても良い」

 

今日、車に乗った時から気付いてはいた。明らかに無理をしている彼女の態度。恐らくは車に乗っていた男達は皆気づいていた、うみちゃんの余裕がなくなっていたことに。

だがそれでも、うみちゃんにしか出来ないからと、うみちゃんだから大丈夫だと、勝手に思い込んだ。何を考えていたのだ、この子はまだ子どもだというのに。そして、うみのその演技は、車の中でかかってきた電話の内容を聞いてからより顕著になっていた。

 

「おれ・・・!話を、聞いて・・・!車で聞いて真っ先に、『ころす』って、思っちゃったんです。しかも、ポケモンを・・・家族を使ってそれをしようとしたんです・・・!ほんとうにころす直前になって、ライが声をかけてくれて、それではっとなって、その時には、周りに沢山のポケモンが転がってて、人も、ひどい感電とか、気絶とかしてる人もいて・・・!」

 

「うん、そうだな。びっくりしたんだよな」

 

泣きながら、吃りながら喋るうみちゃんの話を静かに、相槌を打ちながら聞く。恐れていた通り、彼女は他者を傷つけたことへの罪悪感と、ポケモンの家族をそれに加担させようとしたことへの罪悪感でいっぱいだった。

彼女が車を飛び出して行った時にもうわかっていた。ポケモンを使う相手にはポケモンを。毒をもって毒を制すことしか手立てがない現状、必ずこうしてうみちゃんが人と悪意を持って出会うことは想像がついていた。それでも、うみちゃんを行かせてしまった。やらせてしまったのは誰だ?・・・俺だ。

 

「ゔ、ぅぅう・・・!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

 

(情けない・・・本当に情けない・・・!)

 

心の中に今回の相手と、何もしてやれない自分への怒りが生まれる。今の俺には何がある。警察なのに、対策課の中でも上位の地位にいるのに、ポケモンも持っているのに、こうしてうみちゃんを、少女を助けることすらできない。

 

(いる・・・力がいる・・・!この国を、市民を。何よりも、この少女を護れるだけの、力が・・・!何をしても・・・!)

 

未だ泣きじゃくるうみちゃんを抱きながら、心の中には黒い、それでいて確固たる決意が形成されていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「・・・分かりました。はい、了解です」

 

「ど、どうだったっすか?」

 

電話を切った農家ニキへと、恐る恐るチャラ男ニキが話しかける。携帯をしまい、一度深呼吸をしてから振り返った農家ニキは、満面の笑みを浮かべていた。

 

「作戦終了!全部解決だそうです!皆さん、お疲れ様でした!」

 

「・・・おぉ〜!」

 

「「「「っしゃぁ!!」」」」

 

その言葉につられて、集まっていた面々が皆歓声をあげる。近くのものと肩を組む者、一人連れているポケモンを愛でながら喜びを分かち合う者。それぞれに喜びを体で表していた。

 

「じゃあ、今日は本当にありがとう。皆さんのおかげでどうにかなりました」

 

「詳細は追ってスレか配信でお伝えするっす」

 

「いやー!大成功!よかったよかった!」

 

「にしてもやっぱポケモンすげーな!これで俺たちもポケモン持ちかー」

 

「わかってるとは思うが、悪いことすんなよ〜?」

 

「うっせ!んな事するかよ!」

 

「農家ニキ達も、お疲れ様だな!」

 

「お先ー!また今度会おう、お二人さん!」

 

お辞儀をした農家ニキとチャラ男ニキへと労いの言葉をかけつつ、視聴者はそれぞれに帰っていく。そうして農家ニキとチャラ男ニキだけが残った。人の気配がなくなった瞬間、慌てながらチャラ男ニキが農家ニキへと食ってかかる。

 

「・・・で!実際はどうなんすか!うみちゃん無事なんですか!?」

 

「・・・落ち着いて。うみちゃんは無事だよ。ただ・・・」

 

「・・・なんすか」

 

「ちょっとやりすぎたそうだ。今はキョウさんが見てくれてるが、心に傷を負ったかもしれない、らしい」

 

「・・・くっそが!」

 

それを聞いたチャラ男ニキは近くにあった箱を蹴り飛ばす。両者の間に静寂が流れる中、突如二人以外の声が響く。

 

「それで、どうなの?うみちゃんって今どうしてるんですか?」

 

「「!?」」

 

慌ててボールを取り出した二人の前に、物陰からヒョコッと白髪少女・・・ホミカが現れる。

 

「な、君なんで・・・!」

 

「いや、ちょっとお二人の様子が気になったので帰ったふりして隠れてました。それより心が傷ついたって聞こえましたけど」

 

「それを君にいう必要があるかい?」

 

「今回の助力は助かったけど、今はお前に話してる暇ねぇんだよ」

 

「チャラ男ニキ、なんかキャラ変わってません・・・?というか、アタシとしてはうみちゃんに話があるっていうか・・・」

 

警戒心が強い二人を見ながら頰をかくホミカ。どうするかなー、と考えていたところへ背後から声がかかる。

 

「まー、その辺は今から聞くし良いんじゃない?」

 

「・・・タケシさん?」

 

「やっ、ども」

 

片手をヨッと上げながら、上着だけ脱いだスーツ姿のタケシが現れる。背後に立たれたホミカはびっくりした〜、と言いつつ横へと退け道を開ける。

 

「話を聞く・・・ですか?」

 

「うん、キョウさんからさっきメール来てた。ポケモン持ちの他の人らには監視をつけるだけけど、あからさまに持ってる情報量が多そうなこの娘さんは残ってもらえって」

 

そう言って疲れたー、と伸びをするタケシ。少々不満げな様子の農家ニキ達をチラリと見つつ、ホミカはふーんと人差し指を顎に当てにやけながら声をかける。

 

「思ったより慎重なんだね。てっきりまずはうみちゃんが私に興味持つかと思ってたわ」

 

「あー、まああれだよ。あんな怪しい輩が日本に来るし、仲間も一人被害受けてて、さらにはうみちゃんの方も問題発生するしさぁ」

 

「?」

 

カチャリ、という音とともにホミカの額へと冷たい鉄が押しつけられる。ホミカはというと「あちゃー、これは接触の仕方ミスったかも」と心の中でつぶやいていた。

 

「こっちは既に余裕なくなるくらい怒り心頭なんだわ。ちょっと、お静かに、任意同行願おうか・・・?」

 

ホミカがそっと顔を上げると、そこには能面のような表情で普段は閉じているかの如く細められていた目を見開いたタケシが銃口を突きつけていた。

 

(いや、この人達凄い親バカじゃん・・・パパみたい)

 

流石に驚いたのか呆然とした農家ニキ達をよそに、ホミカは呑気にそう考えていたのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

一方、テレビ局。ドッタンバッタンしつつもどうにか放送再開ということになってはいたが、過激派側がこれ以上の出演を辞退、その後の内容は全て大和大臣からのポケモンに関する法的扱いなどを放送するということになった。

当然アカネは逃げんな、と再度修羅に入っていたが、放送直前にイイ笑顔のマネージャーが何かを耳打ちした瞬間真っ青になり再開時にはいつものぶりっ子キャラへと戻っていた。今更だが。

 

「つ、疲れた・・・」

 

放送の中でワタルの立ち位置は完全にポケモンの専門家、という位置であり、どうにか全ての質問に答えてはいたが最後の方にはもう喉がからっからになり何を言っているのか自分でもわからなかった。

番組終了後、即座に大和大臣と一緒に自販機コーナーへと走り、現在は缶を片手に重いため息をついているのだった。

 

「お疲れ様。うみちゃんが来ないと聞いた時には驚いたが、ワタルくん、だったかね。良い説明だったよ」

 

「あ、ど、どうも・・・でも俺はうみちゃんのカンペ通りに読んだだけなんで、別に・・・」

 

「ガブガブガブッ」

 

「フゥッ!フゥッ!」

 

「あだだだ!フカマルよせ!頭を齧るな!?ハクリューも、尻尾で背中を叩くのはやめろ!」

 

突然ボールから勝手に出てきたフカマルに頭を甘噛みされ暴れるワタル。続いてハクリューも出てきて尻尾での強烈なしばきが背中へと叩き込まれる。その様子に驚いて目を見開いていた大和大臣だが、少し様子を見てメガネをクイと押し上げて微笑む。

 

「その子達は、君も頑張ったんだと言いたいんじゃないか?」

 

「え?・・・そうなのか?」

 

「ガブッ」

 

「フゥ!」

 

コクコクと頷き、ふんすと鼻息を荒くするフカマルに心の底がじんわりと暖かくなるワタル。ありがとな、とフカマル達を撫でつつボールへと戻す。

 

「にしてもよくフカマルの考えていたことわかりましたね」

 

「いや、私も家ではペットを飼っていてね。なんとなく表情や仕草によっては色々わかるものだよ」

 

「いやー、にしても丸っこいサメやったな〜!それに綺麗でかっこいい龍みたいなんも!釣り師ニキは顔だけやなくてポケモンもかっこいいんやな!」

 

「いや、ポケモンと顔は関係ないでしょう」

 

「いやいや!実際ここに釣り師ニキという事例がおるわけやし!まー今後も色々と関係深まってくるやろし、よろしゅうな!」

 

「うーん、フカマルはかっこいいのは認めるが噛み癖がなー」

 

「「「・・・」」」

 

「「って!誰だ君(あんた)!?」」

 

「おお、ツッコミ上手いな!ええ感じやでお二人さん!」

 

のんびりと缶を傾けていたが突如会話に混ざっていた女性に驚くワタル達。女性はというとそんな二人を見つついたずらの成功した子どものような笑みでミルクセーキを飲んでいた。

 

「あ!さっきの面倒なアイドルの!」

 

「誰が面倒や!失礼やな釣り師ニキ!」

 

「君は・・・番組中にいた子だね。たしかマネージャーとADの人に連れて行かれてたと思ったが」

 

「ばっくれた!ウチ悪くないもん!」

 

「「子どもか!」」

 

「あ、でも穏健派の人らには悪い思ってるで?ウチのせいで色々と台無しやろし」

 

てへ、と舌を出しつつ謝ってくるアイドル・・・アカネを見つつ、二人はキャラ濃いなぁ・・・とため息をついていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「それで、今後はどうなるんです?」

 

「うん。それについてはこれから話そう」

 

それぞれに色々と思うところのある夜となった騒動の翌日、対策課が用意した会議室にはこれまでポケモンに関わってきた多くの人々が集まっていた。

イワークを捕獲し、前回の大捕物でも参加していた登山家の男や、過去に家でジグザグマを拾い飼い始めていた家族の代表である父親、生物学の権威である大木戸博士など、関係の大小に関わらず集められている。

そんな人々の中心にいるのは、髪をポニーテールに括り動きやすいズボンとシャツに青いジャケットを羽織ったうみだった。

余談だが前日のワンピース姿とは打って変わってスポーティな、それでいていつもの快活な姿とは違う憂いを帯びた表情で女の子らしく手鏡で髪をいじっていた様子に、最初に集まった際何人かの紳士が鼻血を噴いた。

 

「まず、前日の作戦に参加してくれた方には政府側の人間として改めて私の方から礼を言いたい。ありがとう・・・そして、今後についてだ」

 

政治家の井口と鈴木、そして大臣である大和が揃って頭を下げる。大物3人が頭を下げる姿に動揺が走るが、それはキョウが鎮め話が進む。

 

「まず、うみちゃんからの情報やこれまでの経緯を含めての国会での認識だが・・・ポケモンという存在については、一先ずは受け入れる、という方針になった」

 

「・・・一先ず、ですか?」

 

大和の説明にワタルから質問が出る。他の面々も、不安げに見守る中、大和大臣は頷く。

 

「ああ、ポケモンについては目に見えた被害も何度かあったから、国会においてもかなり難色を示されていた。だが最終的にどの件でも人への被害が『公には』確認されていないということと、対策課の対応の速さが評価され、納得してもらえた。

ただ提出した資料を読もうともせず偽造だの夢でも見てるのかだの頭がおかしいだのと人の足を引っ張るバカどもが多いせいで全く・・・」

 

「あー、大和くん?」

 

「!・・・失礼」

 

井口の呼びかけにゴホン、と咳払いをし続ける大和大臣。なんだか国会の闇を見た政府の人間以外の人々は苦笑いをしていた。

 

「とにかく、危険であることや無闇に近づかないことなど、基本的なことはまた番組やHPなどで少しずつ、でも手早く公開していくつもりだ。法改正や新法の成立、司法における事件への刑罰の設定も今急ピッチで進めている」

 

「それはわかったんすけど、結局俺らが集められたのはどういう理由っすか?それだけなら俺らじゃなくても警察側の人たちだけで報告でも変わらないと思うんすけど・・・」

 

「これシゲル、もっと言葉遣いをちゃんとせんか」

 

「えぇ、でも・・・ああはいわかった、分かりましたよじいちゃ・・・大木戸博士」

 

チャラ男ニキの発言に大和は眼鏡を押し上げニヤリと笑う。

 

「ああ、今から説明する。簡潔に言おう。今この場にいらっしゃる人々全てを、国立の新組織へと勧誘したいんだ。対ポケモン事件・ポケモン案件の専門家として」

 

「えっ・・・!?」

 

その発言に会議室が俄にざわつく。突然伝えられたまさかの内容に、驚きと戸惑いの声が大きくなる。

 

「それって、公務員ってこと、ですか?」

 

「ああ。将来的には警察・消防と同系列としての運用を経てそれらの組織との連携・合併も視野に入れている」

 

「つまり、ポケモンを使って問題を解決する警察官や消防士になるってことか!?」

 

「うっそだろ、俺たちが・・・?」

 

ざわめく面々を大和は静かに見守る。彼としては、最悪断る人については半数までは諦める気でいた。

 

「突然のことでみなさん混乱していらっしゃると思います。普段は自分たちの仕事をしている人もいらっしゃると思います。そこで、有事の際にはポケモン対策組織としての権限を持つ、資格を有する者としての在り方を求めたいのです」

 

「なるほど、普段はいつも通り生活していて、必要になった際行ける人がその権限でもって解決にあたると・・・」

 

「そうです。現在うみちゃんからの指導の下資格所得に必要な知識やポケモンを扱う技術に関する試験等の草案を製作中です。これの完成と共に、ポケモン対策組織「レンジャー」を設立することをここに報告します。・・・どうか、皆さんのお力をお借りしたい」

 

最後にそう締めて深々と頭を下げる大和大臣。静寂が周囲を包み込む中、真っ先にワタルの声が響いた。

 

「それ、年齢制限とかないですよね?俺はやりますよ」

 

「!」

 

「まぁ下にうみちゃんとかいるわけだしなぁ。だいぶ低いだろ。あ、俺も参加希望で」

 

「俺もだな。なんだか面白そうって好奇心でここまできたけど、こんな大事になってるし、こうなったらとことんまで付き合うしかないだろ!」

 

ワタルに続いて若い者から年配の者まで、次々に声を上げ参加を表明する。そんな人々に、大和はほっとため息をついた。ここで賛同を得られなければ、組織の設立は不可能に近くなる。それはつまり、ポケモンへの脅威を抑えるための力を日本が持てなくなるということだ。しかし今、こうして人とそのポケモン、両者が両者を守る為に立ち上がろうとしていた。

 

「皆さん、ありがt」

 

「ごめんなさい」

 

大和が礼を言おうとしたその瞬間、嫌に通る凛とした声がした。ざわめいていたはずの会議室がまた静寂に包まれ、声の主・・・これまで不気味なほど喋らなかったうみへと視線が集まる。

 

「うみさん・・・?」

 

「おい、うみちゃ」

 

「ごめんワタルくん。待ってやってくれ」

 

戸惑う大和へとうみは辛そうな笑顔を向ける。うみの後ろにいたワタルは何か嫌な予感がして手を伸ばすが、それをキョウが止める。

暫く迷うように俯き服を握りしめていたうみだったが、警察から受け取っていた権限を示す警察手帳を机に置く。そして泣きそうな顔で大和達を見渡した。

 

「ごめんなさい、俺は・・・

 

 

 

 

 

 

 

俺はその組織に入る資格ありません」

 

今日一番の驚愕の声が、会議室に響き渡った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

会議室で、うみが爆弾発言をしている頃。うみの家の2階にある私室で、誰も触っていないパソコンが起動した。パソコンはひとりでにファイルを開いていき、そしてポケモンの預かりシステムを起動する。カーソルが残った最後のボールへと向かい、そしてクリックされた。

 

piーーーーーーーーーBOM!!!

 

そして預かりシステムが誰もいない部屋へとボールを排出し、それはコロコロと床を転がる。

すると、またしてもひとりでにボールは開き、光と共にポケモンを解放した。

光はポケモンを形作り、やがて全てを出し切ったボールはカチリと音を立てて閉まり、仕事を終えたパソコンも完全にシステムを終了させてシャットダウンした。

出てきたポケモンは、妙な姿をしていた。ひび割れた石から、水色のモヤのような体と、紫の魂のような模様。凶悪な面相をしており、ここまで一切の鳴き声を発さないその様子は不気味そのもの。

やがてそのポケモンはそっと部屋の扉を開け、ピョンピョンと飛び上がりながら家の中を見て回る。

 

「・・・」

 

と、リビングの扉が開き、寝不足解消のためリビングで暖房をつけながら寝ていたジラーチが寝ぼけつつ出てくる。

 

「・・・」チラッ

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・?・・・!?!?!?」

 

そのままポケモンと出会ったジラーチは、寝ぼけていたため最初は夢かと通り過ぎたが、次の瞬間完璧な二度見をして全力で泣きながら二階へと逃げるのだった。

 

「・・・おんみょ〜ん」

 

後に残されたポケモンは、それを眺めどこか悲しそうな声をあげるのだった。




ゲームだと鳴き声は本当はユラー!だそうです。

悲しみを背負ってたり、苦しんでいる少女(フィクション限定)を見てると、胸が苦しくなると同時に口角が上がってくるのは何故だろう・・・

次回、「2年後にシャ●ンディ諸島で!」ドン!

次回もお楽しみに

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。