TSしたらなんか相棒たちがいるんですけど・・・   作:コジマ汚染患者

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ひっっっっっっっっさしぶりに連日投稿。


第47話

「到着しました!」

 

「遅い!」

 

現場である大学へ到着したシロナとナナカマド教授に、大柄な男性が叫ぶ。大学の入り口にはバリケードテープが張られ、警察が大勢で封鎖を行っていた。

締め出されたのかちょうど来たところで入れなかったのか、大学に所属する生徒や教員、その他職員がテープの外で野次馬をしている。スマホを取り出し大学構内を撮影しようとする者、どこかへと連絡を取る者などがごった返す中を強引にかき分けてシロナはテープをくぐる。その後ろにはナナカマド教授がついてきている。

 

「警部、お久しぶりです」

 

「フン、もう顔を合わせなくて済む方が俺としてはありがたかったんだがな」

 

人ごみを抜けたことで一息つき、挨拶をするシロナへ大柄な男性―――現場を担当している警部がふてぶてしく答える。その表情や態度からは、現状がよろしくないことを察することができる。

 

「ですが、これが私の仕事ですので」

 

「分かっている。上の決めたことに逆らう気はない。お前のパートナーはあっちだ」

 

「ありがとうございます」

 

鬱陶しそうに警部が指した先には、逮捕者を護送するための大型の警察車両が停まっている。それを見て一瞬だけ顔をしかめたが、すぐに取り繕いシロナはお辞儀をして歩いて行った。

後にはナナカマド教授と警部だけが残った。手持無沙汰になったナナカマド教授は、咳ばらいを一つして、イラついているように足をコツコツ鳴らしている警部の横に立つ。

 

「相変わらず彼女とはそりが合わないですか。警部殿」

 

「当たり前だ」

 

簡潔に、吐き捨てるようにケビン警部が答える。即答ですか、とナナカマド教授が苦笑した。シロナが()()をするようになってからずっと現場で顔を合わせてきたこの警部は、シロナという存在が現場にいることに常に不満を持っているのだ。

 

「上もどうかしている。民間の、それも他国の人間を使うなぞ」

 

「ふむ、しかし彼女も私も、今はここの国籍を持っているのだがね」

 

「そういう問題じゃない!」

 

ナナカマド教授に苛立ち、そう吐き捨てると、警部は車両のそばに待機していた警官と話をするシロナを見て目を細める。

 

「こんなクソみたいな問題の最前線に、俺たち警察ではなく()()()()()()()()()()()()()()()。上の見解も彼女の持つ利点も、理解はしているが納得などできるか」

 

「……そういう君だからこそ、シロナ君も安心して仕事に取り組めているんだと思うがね」

 

「なら精々嫌われるように努力する」

 

一般人を巻き込むこと、それを懸念し、思案し、憂慮している生粋のおまわりさん(市民の味方)な警部に、ナナカマド教授は相変わらずだな、と心の中で呟くのだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「お疲れ様です!」

 

「!来たか!すでに準備はできている!IDはあるな?」

 

「はい!」

 

警部とナナカマド教授に見送られ、案内された車両の前へとやって来たシロナ。管理を担当していた警官との挨拶もそこそこに、颯爽と車両内に入りこむ。そこには、前回の仕事から変わらぬ姿の頼もしい相棒が透明な防弾ガラス製のボックスに載って待っていた。

 

「ガブァ!」

 

「ええ……久しぶりね。元気?ガバイト」

 

「ガブガブ!」

 

鮫のような鰭のついた尻尾に背中、小型の恐竜を思わせるフォルムでありながら頭部はシュモクザメを想起させる。太腿の前側についた鋭い突起なや一本の大きな爪のついて両手は、これまた鮫のような鰭に似た形状をしていた。

全体的に、総評するなら『鮫と恐竜を足して二で割った』、といった風体のポケモン、ガバイト。彼が、シロナの相棒であった。

 

シロナがIDカードをボックスについている機械へとかざす。電子音が鳴るとともに、ボックスの一面がゆっくりと開き、我慢できないとばかりにガバイトが飛び出してきた。

二度三度、体を震わせたガバイトは、その強面な表情を破顔させ、シロナへとドスドスとすり寄っていく。

 

「ガブルルルゥ」

 

「よしよし。どこも悪いところは無い?」

 

「ガブ!」

 

シロナはそんな相棒を受け止め、久しぶりのスキンシップを楽しみながらガバイトの身体をチェックしていく。その際に、ふと目に入った首元のチョーカーに悲しい表情を浮かべるが、そんな暇はないと一度かぶりを振り、後ろで待っていた警官の方へと顔を向ける。

 

「……もう大丈夫です。いけます」

 

「よし。では、規定に則り、管理番号001。個体名ガバイトの施設外での活動を受諾。……後は頼む」

 

警官にしっかりと頷くと、シロナはガバイトと共に大学構内へと歩き出した。

 

「さぁ、ガバイト。行くわよ」

 

「ガブァ!」

 

2人を見送る警官は、大学の中へと進む二人に祈りながら手に持った端末を叩き、ガバイトの首輪を起動するのだった。

シロナとガバイトが、仕事の為に意を決して歩き出した頃。

 

「うぅ、お、重い……フィッシュアンドチップスってこんなに油っこいのか……!?」

 

シロナとのショッピングも大学への訪問も流れてしまったうみはというと、じっと教授の家で待っているというのも存外暇という考えから、観光半分・母親の手がかり探し半分で街へ出ていた。

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「うぷ……も、もう無理だ、ライあげる」

 

「ライ?ライ!」

 

食べきれないと判断し、背負っているリュックの中にいるライへとパスする。嬉しそうにがっつく音を感じながら、俺は胃もたれしかけている腹をさする。ライがスッポリと入り込む大きさのこのリュックは、キョウさんとワタルさんに頼んで用意してもらった特注の一点物だ。

ライを入れること前提のため、通気性抜群かつ丈夫で軽量な素材に、内側に施された防電処理によってライが背後でうっかり寝ぼけて電気が漏れても感電しない。肩に乗せて連れ歩くつもりだった俺だが、あまりにも貧弱なマイボディはライ1匹すら抱きかかえるのがやっとであると判明した故の措置だった。……いやごめん盛った、普通に抱っこもキツい。

 

「はぁ、にしても何だかなぁ」

 

気を落としても仕方ないので、改めて街並みや行き交う人々を見渡す。普通に車やら人やらが行き交っているのだが、よくよく見ればポケモンの影がチラついている。例えば、今俺の座っている噴水の上の方には、鳥ポケモンであるポッポやムックルが数匹乗っかっているし、路地裏の方ではコラッタかポチエナっぽいポケモンが俊敏に走っていくのがギリギリ見える。空を見れば虫ポケモンのバタフリーが1匹、ヒラヒラと飛んで行った。

 

(シロナさんの言っていた通り、この国もポケモンが大分浸透……いや、この場合は侵食なのかな?なんにせよ、あまり受け入れられているとは言えない状況なのかな)

 

見れば、車はともかく道を歩く人々は、路地から走り出してくるポケモンや噴水で休んでいるポケモン達を見て露骨に避けている。町の人々の表情を見ても、どこか怖い猛獣でも見ているような雰囲気を纏っている。

 

「さっき調べた感じで言っても、まんま猛獣とか害獣みたいな認識の人が多いらしいし……」

 

シロナさん達を見送った後、俺は洗濯などのお手伝いを済ませ、それの報酬代わりとして教授の家でパソコンを借りた。そこで調べたのは、この国でのポケモンの立ち位置について。法律とか憲法とか、その辺は難しい言葉も多くて分かんなかったけども、何となくこの国におけるポケモンへのスタンスは分かってきた。

 

(ざっくり言って『様子見』。積極的な駆除策を使うわけではないけど、寄り添っていこうとも思ってない、結構消極的な対応だったな。それでもポケモンに興味本位とかで近づく人がいたりモンスターボールとポケモンの有効利用について気付く人もいたんだろうけど)

 

ポケモン発生と同時に出現していたモンスターボール、現在この国の政府主導で買取りや捜索を進めているようだ。この動きは日本と変わらないけど、どうやら日本みたいに多くのボールが見つかるわけじゃないようで、公開されているだけの発見例だけ見ても日本とはダブルスコアで離れてる。そのため一時期は懸賞金すらかけられたみたいだった。

 

加えて、ポケモンの所持についても結構厳重に管理されている。IDの発行と聴取が義務付けられているらしく、しかも捕獲したボールもポケモンも全部没収、国が作った施設で調査・保護をしているらしい。

俺のボールやポケモン達も、見つかれば没収からの事情聴取とかになりそうだったので、反則技だし普通にバレたら犯罪になりそうでマズイんだけどデオキシスにこっそり運んでもらった。スピードフォルムと『こうそくいどう』を駆使しての入国だし、人間による目視ではまずバレない。……今朝見たネットニュースやテレビで空港付近で謎の飛翔体をレーダーが感知したとか報道されてた気もするけどあれは関係ない。ないったらない。

 

「……ライもみんなも、もうしばらく出さない方がいいみたい。ごめんな、狭いけど我慢してくれよ?」

 

「ライ!」

 

背中から聞こえてくるライ元気な声に励まされつつ立ち上がり、スマホを取り出し、100を超えて今なお増え続けているキョウさんやタケシさんからのメールと電話の着信履歴に冷や汗をかきながら、マップを開いて歩き出す。

 

「ええと、シロナさんが昨日言ってた名前は、と……」

 

マップの検索機能を立ち上げ、シロナさんが仕事とやらをしているはずの大学への道のりを調べる。一人でどうにか出来ないかと探し歩いてみたが、やっぱりこのまま手がかりもなく歩き続けてもダメだ。俺の方からシロナさんの問題へと手を貸すことはできないだろうけど、一度大学に行ってみるしかない。もうあの謎のメールしか俺の―――いや、うみちゃんのお母さんへの道は続いてない、気がする。

 

「っと、ご、ごめんなさい」

 

『―――?』

 

人ごみをどうにかすり抜けながら、大学へ向かって歩いていく。目的地へ近づくにつれて人が増えていき、色んな人や物にぶつかってしまう。

なんだか警官の数も増えてきてるみたいだし、このままじゃ動けなくなりそうだ……。

 

「!ライ!」

 

「?どうした?」

 

不意に背後から小さくライが声を上げる。人に聞かれては事だと黙らせようとしたが、その時急にどよめきが広がる。

 

『―――――!』

 

『―――――!?』

 

(なんだ?早口過ぎてわからない……!)

 

「……な!?」

 

周囲の人々が、上を見上げて口々に何かを叫んでいる。そのおかげでライの声は誰にも聞かれていないようだった。しかし、俺も何が起きたのかと周囲の人々と同じく上を見上げる。

 

そこには、黒い羽を羽ばたかせて大学らしき建物の上空を旋回する鳥ポケモンの群れがあった。数は分からない。数え切れないほどのポケモン達は、輪の形をとって群れで空を旋回しており、明らかに異常な動きを見せていた。

一瞬思考が停止するほどのたいりょうはっせいに面食らったが、不意に近くを飛んできた群れの1匹が街頭に留まった。黒い三角の特記が生えた帽子のような頭に、全身真っ黒で毛羽立った尾を持つそのポケモンは、夜に出会うとわざわいを呼ぶとも言われるポケモン。

 

「……『ヤミカラス』!」

 

『――――!』

 

俺がつぶやくと同時に、ヤミカラスは他の群れと合流し飛び立つ。大学の上空を舞う群れがそのまま降りていくのに合流したのを確認して走り出す。無理だ、シロナさんがどんなポケモンを連れているのかは不明だが、おそらく一匹しかてもちは無い。どんなに強力なポケモンを持ってても、一匹だけであんな数相手にするのは無理だ。海外だから、仕事の邪魔だから手を貸すのはマズいなんて言ってられる様子じゃない。人ごみをかき分けるのを諦め、横道に入り駆け出す。目指すのは、警官や野次馬のごった返してるのとは反対、大学のどこか別の入口を探す。

 

(なんでヤミカラスが人が沢山いる大学を根城に選んだのかはわかんないけど、ヤミカラスの群れだって言うなら当然、『アイツ』が群れのトップのはず……!)

 

「ライ、着いたらすぐ戦えるよう準備しといてくれ!」

 

「ライ!」

 

頼むシロナさん、早まらないで……!群れに手を出しちゃダメだ……!

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ガバイト!来たわよ!」

 

「ガブガブ!」

 

「カァァァ!!」

 

大学に入って10分位は経った。私とガバイトはなるべく慎重に移動することにしたため、出来うる限りの隠形を試みている。

その甲斐あってか、鳥ポケモンの群れとの戦闘を最小限に留めつつ巣があると思われる場所まであと少しのところまで来ていた。大学に入った瞬間から定期的に件の鳥ポケモンから襲撃を受けているけど、今のところはガバイトも私も問題は無い。群れとはいえあまり統率が取れてないのかしら、さっきから2、3匹程度のチームで襲撃されるくらいだし、1匹やられたら他は一目散に逃げていく。

 

「……ガバイト、まだやれるわよね?」

 

「ガァブ」

 

当然!っとばかりに腕を回して応えるガバイトに、思わず笑みがこぼれる。普段あまり一緒にいられないからなのか、こうして仕事の時に出会うと張り切って暴れるのだ、この子は。

施設での保護という名目で軟禁状態だからかしら、普段からフラストレーションは溜まっているだろうししょうがないのかもしれない。あとでまた思いっきり撫でてあげようかしら。

 

仕事終わりの楽しみに少しだけ気分を持ち直しながらも、警戒は怠らないようにして進む。すると、予定していた通りのタイミングで開けた場所に出た。目的地、鳥ポケモン達の巣があるとされる中庭だ。

 

(妙ね……襲撃が止まった。それに、彼らの気配もない。一体何が)

 

「!ガブ!ガブガブ!」

 

「!どうしたの!?」

 

考え事をしていると、前を歩いていたガバイトが声を上げる。咄嗟にガバイトの見ている方向へ顔を向け、私は絶句した。

 

「……」

 

「「‪……」」

 

「「「「「「「「「……」」」」」」」」」

 

「……これ、は……!?」

 

「グ、グルル……」

 

襲撃してこなくなった鳥ポケモン達。常に2、3匹で攻撃してきては、逃げていった彼らは、どこに行ったのか。

その答えが、私とガバイトの上空に広がっていた。

 

「カァ」

 

「カァ」「カァ」

 

「カァ」「カァ」「カァ」「カァ」「カァ」「カァ」「カァ」「カァ」

「カァ」「カァ」「カァ」「カァ」「カァ」「カァ」「カァ」「カァ」

「カァ」「カァ」「カァ」「カァ」

 

鳥ポケモン達は、逃げたのではなかった。蹴散らしたはずの彼らは、集まっていたのだ。襲撃者である私たちを、確実に倒すために。

 

「まさか、そんな……誘い込まれた、ってこと!?」

 

上空を埋めつくす鳥ポケモン達。黒い体色と相まって、まるでこの一帯が夜になってしまったと錯覚するほどの群れだった。

その圧倒的物量差に呆然としてしまった私とガバイト。思わず明確な敵地であるこの場に棒立ちという悪手をうってしまった。

次の瞬間。

 

「!ガァ!?」

 

「ガバイト!?」

 

背後から突然現れたポケモンが、ガバイトを蹴り飛ばした。

壁へと激突し呻くガバイトに近寄って助け起こしながら、下手人を睨む。

ソフト帽を髣髴させるような意匠を持つ頭部、もっさりとした白い胸毛が生えたその姿は、明らかに上空の鳥ポケモン達の進化系だった。

 

「……ガバイト、動けるかしら?」

 

「ガル」

 

短く応え、起き上がると同時に前に出て戦闘態勢をとるガバイト。先程のとっしんのダメージや対面しての威圧感を鑑みて、甘く見積っても相手はガバイトとほぼ互角。ただしこちらは一人、相手は群れ。これまでの仕事での経験は一対一、複数のターゲット相手の経験は1度きり。初の対物量戦、ガバイトもここまでの戦闘により疲労感を感じている。……まずいわね。

 

「さて、どうしたものかしら?」

 

「……カァ」

 

圧倒的不利な状況に、一周まわって笑みと、冷や汗がこぼれる。どう足掻いても、どう楽観的に考えても。

 

「……ピンチって、奴よね」

 

そうつぶやくと同時に、空から夜が猛り、襲いかかってきた。




おまけ(本編に出ないかもしれない補足)

ガバイト:フカマルだった頃にシロナと出会い、捕獲。ゆうかんなせいかくで、レベル的には進化したばかりくらい。シロナと『仕事』としてポケモン関連の荒事に駆り出されまくってるので、成長が早い。なお戦い方()

警部:海外編での胃痛ポジ。シロナと同年代の娘がいるので、余計な感情移入をしてしまいそうになるとか。シロナだけじゃなく、一般人上がりのポケモン持ちが現場に来させられると大体不機嫌。市民は守るもの

次回は、また22時……には投稿です、うん。

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