TSしたらなんか相棒たちがいるんですけど・・・ 作:コジマ汚染患者
配信でポケモン相談室と銘うった活動を始めて3日が経過した。
「うーん・・・。情報は集まるんだけどなぁ・・・」
配信という形での視聴者からの情報獲得は、なかなかにはかどっていた。しかし、不特定多数の人間からの情報ということもあり、情報の信頼性という課題が浮き彫りとなっていた。
「・・・青いたぬきに赤いきつね。俺の知らないだけで本当にそんなポケモンがいるのかもしれないけど、明らかにふざけてると思うんだよなぁ・・・」
配信から得た情報を一通りまとめて、パソコンを閉じる。うーん、と一つ伸びをしてから一階へと降り、そのまま家の裏手に回る。家の裏には、面よりさらに広い庭が広がっている。さらに奥には森があり、少し前に探索してみた結果、かなり広い範囲が敷地として柵で区切られていることがわかっていた。
「2人とも、どんな感じか・・・うわぁ!?」
そこで遊んでいたはずのバンギラスとライを呼びに行くと、突然土煙が舞う。
一体何事か、と急いで庭に出ると、
「ガァ!」
「ライ!」
ライとバンギラスがバトルを行なっていた。バンギラスが「きりさく」で襲いかかると、ライが「かげぶんしん」や持ち前のすばやさでもってかわす。この応酬があまりに早すぎるため、2匹の周りだけ地面が抉れたりたまたまあった木がなぎ倒されていたりと、かなり無残な光景が出来ていた。
「2人ともー!ご飯だよー!」
「!ライッ!」
「・・・」
先に反応したライがものすごいスピードでとんできて、俺の前でちょんと座る。呆れながらライを持ち上げると、その後ろからバンギラスもドスドスと戻ってくる。
「どう?少しは収まったか?」
「・・・グルゥ」
こちらをみないが、返事はしてくれるバンギラス。
こいつはどうやら、時折暴れないとフラストレーションが溜まるようで、危うく家を壊しそうになったことがあった。そのため、今ではライが時たまこうして相手をすることで発散させるようにしている。
「んじゃ、ご飯にしようか」
そう言って庭に面した縁側に座り、ペットフードを皿に盛って出す。すると2匹ともものすごい勢いでがっつく。
「うんうん、いい食べっぷり。2人とも元気でよろしい」
こうして2匹の世話をしていると、なんだか父親にでもなった気分になる。
「・・・まあ、見た目的には母親なんだろうけどなぁ・・・」
自身の体のことを思い出し、少ししょんぼりするうみ。そんな主人の様子を、よくわからないという目で見る2匹であった。
「とりあえず、確実にポケモンだと言える事例は2件だけ、か」
2匹に食事を与えた後、再度部屋に戻りまとめた情報から2件だけをピックアップする。一件は相談室創立のきっかけとなった放送で得た釣り師ニキからの情報。そしてもう一件は、〇〇県の農家の息子から寄せられた情報だった。
「2日前、実家の農園にて収穫の際に発見。黒い翼に、帽子のような頭。そして送られた画像・・・」
画像には、撮影者の近くの木から林檎を咥え飛び去る鳥のような姿が捉えられていた。
「頭の形状とサイズから考えて、こいつは多分ヤミカラスだろうなぁ。釣り師ニキのは話からしてハリーセン。出来れば実際に話を聞きに行きたいけど・・・」
そこでうみはため息をつく。釣り師ニキも農家の情報元も、どちらもうみのいる地域からはかなり遠いところにあった。
「流石におじいちゃんをおいてはいけないしなぁ・・・。仕方ない、一旦諦めるか」
そう言ってうみは、まずは今重要なことから、とおじいちゃんのお見舞いに行く準備をするのだった。
「おじいちゃん、来たよー」
「おお、こっちじゃ」
うみが病院に着くと、ガンテツは無事な方の手を使って本を読んでいた。うみの姿を見ると笑いかけながら本を閉じ、手招きする。
「おお、ガンテツさんとこのうみちゃんじゃなかか。飴ちゃんいるかい?」
「わぁ、ありがとうございます!」
「うみちゃんや、怪我はしとらんかい?」
「俺は大丈夫です。おじいさんこそ、腰大丈夫ですか?」
「おお、もうすっかり治っとるわい。もう直ぐ退院じゃなぁ」
ガンテツの元へ行く最中にも、同じ部屋の入院患者のおじいさんやおばさんから挨拶されるうみ。多くの人に愛されているうみを見るガンテツも心なしか嬉しそうにしている。
「おじいちゃん、具合はどう?」
「安静にしとるし、問題ないよ。うみちゃんこそ、ちゃんと生活できとるかい?はいしんとやらをして夜更かししてるんじゃなかろうな?」
「・・・デキテルヨ。チャントネテルシ」
ギギギ、と首をそらすうみに、ジト目を向けつつデコピンするガンテツ。
「あたっ」
「嘘が下手じゃのう。あんまり夜更かししたらあかんのやぞ?」
「うう・・・わかった」
デコピンされた額をさすりながら口を尖らすうみ。そんなうみを見て再び笑ったガンテツ。2人はしばらくの間、互いの近況を喋り合うのだった。
「・・・さて!今日もやっていきますか!」
ガンテツの見舞いから戻ってきたうみ。自室に戻りパソコンを起動する。ここ数日間、うみは大半の時間を配信部屋か自室のパソコンの前で過ごしていた。その原因は、
「・・・だぁぁ!やっぱダメだ、さっぱりわからない!」
そう言ってぐでーんと椅子の背もたれに思い切り寄りかかるうみ。パソコンの画面には、ポケモン預かりシステムがあった。
バンギラスと戦う前。なぜか頭に浮かんできた使い方でもちものを引き出したうみは、あれからどうにかポケモンも引き出せないか四苦八苦していた。しかし頭に入ってきた知識はもちもの関連のみであり、預かりシステムそのものは使いこなせていない。その為、こうして日々預かりシステムを使えるようにしようと、格闘しているのである。
「なんでもちものだけなんだよぅ・・・せめてポケモンを出すことくらいさせてくれたって・・・」
ぶつくさ言いつつキーボードをタッタカ叩くうみだったが、突如スマホからアラームがなる。
「あれ?もうだったのか・・・しょうがない」
アラームを止め、時計を見上げると少し焦るうみ。もう少しシステムの解析を進めたいが、もう直ぐ配信の予告した時間である。仕方ないとため息混じりに椅子から降りると、向かいの配信部屋へと向かう。
「よっと・・・なんか最近増えてるんだよなぁ出待ちしてる人」
配信用パソコンの前でそう呟くうみ。画面に移された配信準備画面には、視聴者数が既に30人ほどいた。そこまで多くはないが初回配信から考えるとうみ的にはかなりの快挙である。
「どーも、こんばんは。うみでございます。今日もポケモン相談室やっていきたいと思います」
『わこつ』『初見』『わこつー』『来たばっかだけどポケモンって何?』『外来種の情報集めてきたよー』
ヘッドホンをして、配信開始のボタンを押すとともにここ最近で定着してきた挨拶をする。相談室開始からそれなりに初見さんが来るようになっていた。
「どうも、初見の方はポケモンについては途中で説明します。情報集めてくれた方、ありがとうです」
『ポケモン?』『最近よくニュースになってる外来種騒ぎあるやろ?あれが外来種じゃなくてポケモンってやつかも知れんらしい』『ポケモンってのはうみちゃんがよく言ってる不思議生物のこと。ポケットモンスターの略らしいで』『ほーん』『なんだ妄想か』
優しい人が初見にポケモンのことを教えてくれている。・・・ただ未だに妄想扱いされているのはかなり悲しい。
「妄想じゃないですよ。本当にポケモンはいます。この雑談枠は、ポケモン相談室という枠で、皆さんからの情報を聞いて、それがポケモンかどうかを俺が確認し、ポケモンならばどうするべきかを教えていくという流れになります。・・・とりあえず、何か情報を持ってきてくれた方はお願いします」
『相談室か』『斬新・・・というわけではないけど、相談の内容が斬新やな』『説明しよう!ポケモン相談室とは、この配信の主であるうみちゃんに最近目撃した外来種についてや、珍事件についての情報を提供する事で、どう対処すべきかを教えてもらおうという枠である!』『有能。ちなみに情報が足りないとうみちゃんも分からなくなって慌てるから相談する奴は情報がしっかりしてることを前提でこいよ』
『つまり情報不足だとうみちゃんの慌てる姿を見ることができると!?』『またうみちゃんのテンパリが観れると聞いて!』『増えたのか変態。来い、今度はアウシュビッツだ』『収容場所が増えてる!?』
「説明してくれた方、ありがとうございます。・・・配信外でも、ポケモン関連の情報を送ってくださる方のみメールを受け取っていますので、よろしくです」
『おk』『そんなことより誰か今相談するやつとかいないのか?』『俺だ』『そのID・・・釣り師ニキ!?』『生きていたのか!』『殺すな』
「あ、釣り師ニキ、どうも。いつもありがとうございます」
『あ、はい』『くそう!うみちゃんからの信頼を勝ち取ってやがる!』『羨まC』『はぁぁぁ!私もうみちゃんと仲良くなりたい!』『おいなんか百合の花園から来たやついんぞ』
どうやら今回最初の相談者は釣り師ニキのようだ。釣り配信からかなりの頻度で見に来てくれる、もう常連と言っていい人だ。何より、情報が結構細かく言ってくれるから判断しやすい。
「釣り師ニキ、本日のご相談はどのような内容でしょう?」
『キャラ変わったな』『なんか相談の時はマジでカウンセラーっぽく行くらしい』『これはこれで可愛い』『メガネ・・・だと・・・!?』『あ・・・』『ふぅ・・・』『おい、何人かおかしいぞ』
俺は釣り師ニキのコメントを待ちつつ伊達眼鏡をかける。2回目の相談室配信の時にかけてから、結構このスタイルが気に入っている。
『また爺さんの漁について行ったんだが、今回はカメラ持って行ったんだよ。もしもポケモンにあったら撮影しようと思って。んで、今回マジで普通の生き物とは思えないやつに出くわしたうえに、撮影もできたからうみちゃんに聞いてみようかと思って』
「それは・・・わざわざありがとうございます」
俺のためにわざわざカメラを漁にまで持って行ってくれるとはとても嬉しいことだった。何より釣り師ニキはちゃんとポケモンって言ってくれるし。
『有能』『早く画像カモン(´Д` )』『まあまて、今うみちゃんに送ってるから』
「・・・はい、ありがとうございます。今出しますね・・・」
届いたメールに添付された画像を開く。
海の真っ只中、水面を魚が跳ね、海鳥がそれを襲っている。
『魚じゃなくて鳥なんだが、よく見てもらいたい』『?特になんも変なとこなくね?』『あ!なんか海鳥に混じってやたらでかいやつがおる!』『どこや?』『真ん中、一際集まってるとこ』
コメント欄の証言を見つつ真ん中付近の海鳥をよく見る。すると、確かにふつうの海鳥の中に、一羽かなりでかい鳥が紛れている。その鳥は全体的に白く、羽の先が青い。頭の頭頂部も青で、何より特徴的なのは口だ。その黄色いくちばしの下部分が異様に大きい。その下くちばしを使って海面の魚をすくっているようだった。
『ずっと漁船についてきて、魚が海面付近に来ると画像みたいにして魚をことごとく持ってくんだよ』『なんだこれ?』『マジでよー分からんやつやん』
コメント欄では話し合いが続く中、俺は心の底から嬉しさを爆発させる。
「釣り師ニキ、大手柄ですよ!これ間違いなくペリッパーです!」
『ペリ?』『なんだって?』『あ、またうみちゃんが変なスイッチ入った』『どゆこと?』『説明しよう!うみちゃんは、提供された情報の中のお目当ての情報があると、こうしてわかりやすくはしゃいでしまうのだ!因みに、大抵終わった後に恥ずかしさで顔真っ赤になるぞ!』『なにそれ可愛いかよ』
「ペリッパーはみずどりポケモン、タイプはみず・ひこうで、海辺の険しい崖に巣を作るんです!画像の通り特徴的なくちばしで餌をすくい取って食べたり、中にタマゴや他の小さいポケモンを入れて運んだりもできるんです!あのくちばしですくい取った餌は丸呑みにしたり、そのまま運んで子供にあげたりも出来るんですよ!タマゴは、くちばしに入れて守ってることが多いんです!でも大体は崖の近くにいるのでこういう場所にペリッパーが現れるのは珍しいです!釣り師ニキは運がいいですよ!小さいポケモンやタマゴを運ぶ姿から、そらのはこびやとも言われてるんです!・・・あ」
『言われてるんです、って言われても知らんけどね』『ああ、今日は顔真っ赤見れるぞ』『めっちゃ喋ったなぁ』『あいつポケモンのことになると早口になるよな』『おいやめろ』
我に帰り、コメント欄を見て顔を真っ赤にして黙り込むうみ。あまりの嬉しさに舞い上がってしまったことを自覚し恥ずかしがる。
「・・・すいません、取り乱しちゃいました・・・」
『ボソボソ声もいいな』『変態か・・・?』『変態警察動き早いな!?』『なんか俺の話で喜んでくれて嬉しいような恥ずかしい思いさせて申し訳ないような』『釣り師ニキは・・・悪くないけどなぁ』『ああ、うみちゃんの恥ずかしがる顔は悪くない』『変態、次はどこの収容所がいい?』『ダウハで!』『選べるんかい!しかも収容所知ってんのかい!』
「あ、いえ、釣り師ニキは悪くないです。・・・自分がもっと自重しないといけませんから・・・」
『そうか・・・?じゃあとりあえず、こいつはどうすればいいんだ?』
釣り師ニキのコメントに、気を取り直して答える。
「基本的にひかえめやおくびょうといった性格の個体が多い種類です。もし今後も魚がとられるようだったら、少し大きめの音でびっくりさせるとかでいいと思います。あ、でもあまり刺激したら反撃するかもしれないので可能な限り不干渉がいいと思います」
『おk、ありがとう』
「いえいえ」
その後も、いくつか情報を持って相談してくる人はいたが、結局釣り師ニキ以外の情報はポケモンかどうか怪しい内容であった。
「それでは、今日もありがとうございました」
締めの言葉とともに配信を終えると、手を上にあげ大きく伸びをする。
「にしても、今日は収穫があってよかった」
釣り師ニキの情報は確定でポケモンだろうし、これから吟味していく必要はあるもののポケモンの可能性のある情報もいくつか得られた。
「・・・?メール?」
情報をまとめていると、画面端でメールのアイコンが点滅する。情報が届いたのか、と思いメールを開くと、
「・・・!」
『預かりシステムがアップグレードされました』
慌ててシステムを起動すると、今までクリックしても使えなかった『預かり・引き出し』の項目が光り、NEW!の文字が付いている。
「・・・っし!」
思わずガッツポーズを取るうみ。ウキウキ気分で早速他の相棒達を出そうとする。
「・・・あれ?」
どれだけクリックしても反応しない。故障かと思い慌てるうみ。と、メールに続きがあることに気づく。
『なお、「預かり・引き出し」機能に関しては、専用の機械が後日届くことになります』
「なんだよそれぇぇぇ・・・」
気の抜けた声とともに、うみは机の上に突っ伏すのだった。
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「らっしゃあーせー」
とあるコンビニ。気のない挨拶をしつつ商品の品出しをしている男がいた。そこへ店長がやってくる。
「君、次は飲み物の棚も頼むよ」
「えぇ?・・・はぁい」
さっきからずっと品出しやってんだけど、という不満を押し込み、ドリンクの冷蔵庫の裏へと回る。
「・・・あれ?なんだこれ?」
飲み物の箱を運び、品出しを終え店内に戻ろう、という時。男は積み上げられた段ボールの上に妙なものがおいてあるのに気づく。
それは上と下で紅白になっている謎のボールだった。
「先輩が置いてったのか・・・?ったく、片付けくらいしろっての・・・」
ズボラなバイトの先輩への愚痴をこぼしつつ、ボールをその辺に放り、店内へと戻る男。
残されたのは、『二つ』の紅白ボールと『青い』ボールだけだった。
TS銀髪蒼眼眼鏡っ娘配信者少女・・・属性の暴力すぎる・・・!