アインはぼんやりと空を見上げる。
レーラズの街並みを沿うように作られた防壁から覗く空はムカつくくらい青く澄み渡って綺麗で、今日は気温もちょうど良く風も心地よい。
何事もなければピクニックでも行くには最適な日和だろう。
しかしアインの気分はどんよりとした曇り空だ。
もう少しすると大雨が降るかもしれない。
なぜなら大口の仕事先で虹石が盗まれてドロボウ扱いされたのだ。
虹石は飛空艇や機械のエネルギー源にもなる貴重品だ。それがなくなるのは一大事な事件。しかも結構な有名どころの依頼人だったの余計に不味かった。
何度も盗んでいないと声を荒げて反論したが、日雇いで身なりもみずぼらしい若造の言う事など誰も聞く耳を持たない。
その際に賠償として、アインが小さい頃からコツコツと創り上げた愛車を取り上げられ、悔しく殴りかかろうとしたが、その拳は届かずに工場の外へと放り投げられ閉め出された。
それでもアインは納得はいかずにドアを必死に叩き、せめて愛車は返してくれと言ったが、向こう側の答えは冷たく解雇を告げられたのみに終わった。
それから街をあてもなくさまよい歩いて今に至る。
アインは青い三つ編みを弄りながらグルグルと思考巡らす。泥棒という噂が広まれば誰も雇ってはくれなくなるだろう。この街では信用が物を言う。
街から出ていくにしても街の外には『遺骸』という化け物がウヨウヨと這いずり回っていて、アインひとりだけでは別の街に辿り着くなんて用心棒なしには到底ムリな話だ。鉄道や飛空艇もあるがアレは金持ちの乗り物なので論外。
結局のところ日雇いで食い繋いでいたアインには用心棒を雇う金も鉄道に乗る金もないのだ。
せめて愛車があったら状況が変わったかもしれないなと未だ愛車を諦めきれない己にアインは苦笑した。
「あれ?アイン君じゃないか」
聞き慣れた声に振り返ると行きつけの喫茶店のマスターがいた。掃除中だったらしくホウキで店の入口を掃いていた。
気づけば、真上にいた太陽もオレンジ色に輝いている。ふらふらと考えている間に喫茶店のある裏路地のほうまで来てしまっていたようだ。
「あっどうも……アモンさん」
「どうしたんだい?」
カラス頭の彼は気の無い返事をしたアインの様子がいつもと違うことに気づいたらしい。
「ええっと色々とありまして……へへっ…はぁ……」
迷惑はかけたくなくて笑って済ませようと試みるけれど顔が引き攣りブサイクな笑いかたになってしまった。
誤魔化せそうにない。
店主はそんなアインをしばらく怪訝そうな顔で見つめて、何か思い付いたのか楽しげに頷くとアインの手を掴んで店の方向へと引きずっていく。
「ふむ。今から店のみんなで夕飯を食べるんだが、一緒にどうだい?なぁーに!1人2人増えたって変わらないさ」
「いや、それはちょっと!」
アインは慌てて手を振り解こうするが、如何せん店主のほうが力が強い。
「まあまあ、お腹いっぱいになれば良いことが思い浮かぶかもしれんだろ?」
「へっ?」
いたずらぽく片目を閉じるカラス頭に、呆気にとられたアインはそのまま喫茶店のドアの内に放り込まれるのだった。