虹色の断片   作:石影

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始まり2

 

 店主にアインが店内へと突っ込まれた目線の先には3人の男女が会話している。

 

「はぁ〜!またぁ〜にんじんサラダかよぉ!ウサギじゃあるまいし!!」

 

白髪の若い男は夕飯のメニューが不服らしい。

運ばれた料理に嫌そうに顔をしかめて文句を言う。

「白くて小さいんだから似たようなもんだろう」

黒髪の男はテーブルに食器を並べながら、白い男を宥めるように言うが、言葉の端々にはからかいが含まれているように聞こえる。

「ちげぇよ、そこじゃねぇーよ!ツッコミどころは!」

「そぉ?ウサギもリスも可愛いじゃないの?」

会話に入ってきた彼女は料理を運ぶ。ふわりと優しそうに笑って、手を止めず料理をテキパキとテーブルに置いていく。

「ほら、ミスティもそう言ってるだろ?何に文句があるんだ?」

「文句あるわ!ハルヤ!お前のミスティ至上主義は大概にしろよ……ちがうわ!ここ最近は人参料理だらけだろう!」

 

 純白にウェーブのある毛先に紫が差した髪の綺麗な女性と白髪の若い男は、アインがランチ時によく見る面子だ。

確か女性のほうがミスティさんでもう一人はラタトクスさんといった気がする。

最後のハルヤと呼ばれた黒髪の男は会ったことはないが、2人と仲が良さそうに話すのを見るかぎり従業員のひとりだろうか。

その彼と目があったように思うが、すぐに目を逸らされてしまったので、3人に話しかけるタイミングを完全に見失なってアインは戸惑う。

頼みの綱の店主は裏口を閉めに行ってしまったようで残されたアインはただただ気まずい。

 

「あっ…その話か。アモンがシンプルな料理ほど燃えるって言ってたからな。しばらく続くんじゃないか」

「別にラタトは嫌いって訳じゃないから良いんじゃないの?」

 

顔を見合わせ小首をかしげる男女に、ラタトクスはウンザリしたように肩をすくめると隣の椅子に長い足を行儀悪く投げ出す。

 

「いーや、嫌いじゃないけど宿敵(ライバル)を思い出すんだよ……ん?誰?」

「あら、アインくんじゃない?どうしたの?」

「…………知り合い?」

 

 やっと気づいてくれたが、どう説明したものか。

一斉にアインに向けられた3人の不審そうな表情に動揺してうまく頭が回らない。

そうしてアインが言い訳を考えていると目の前の彼女が黒髪の男の肩にちょいちょいと指でつつき、男が彼女のほうに向く。2人で何か話しているが聞こえない。

ラタトクスは何か聞こえたのが眉をひそめた。

 とりあえず、店主に誘われて夕飯をいただきに来たとでも話せば良いのか……

いや、それだと、がめつい奴に思われてしまうのは嫌だ。

そ・れ・に、レーラズの街で他人に借りを作るのは後々よろしくない。よし、答えは!

 

「えっと……お邪魔しました!」

 

 やはり早々に退散するのが良いに決まってる。

アインは借りを作ってはならないとドアの方へと早足で向かおうとした――――

そのとき、黒髪の彼、ハルヤに呼び止められた。

 

「待て、こっちに来い。ご飯食べるんだろう?」

 

 ハルヤは有無を言わせない雰囲気を醸しだしアインに向かってニコニコと手招きする。

さっきは無視しやがったのに……クソッタレ!

 

「いや、あの違うんです!」

 

 アインはなんとか断る理由を探そうと頭をフル回転させる。

しかし良い案がなかなか浮かばない。

その様子を見ていたミスティさんが近づいて「遠慮しないで」とアインの頭の位置までかがんで手をとり、優しく微笑む。

「いいのよ、まずは手を洗わないとね。さあ、着いてきて」

「いや、オレは……その、ありがたくいただきます」

 アインがまだ諦めつかず手を払おうしたが、目があった彼女が悲しそうな顔をして罪悪感が増し、その後ろのハルヤの目が笑ってないのを確認すると悪寒がしてそれ以上は断りきれずに終わった。

彼女にキッチンの流し台を連れって行ってもらい大人しく手を洗う。

タダよりも怖いものないと言うが、アインは後で何を言われるのやら不安で仕方がなかった。

 

 

 

 

 手洗いから帰ってきたアインにラタトクスが同情するように声をかけた。

「少年、諦めろ。コイツら頑固だから飯食うまでうるさいぞ」

「そうなんですか……」

「そうなんだよ。断固、譲らねぇぞ」

 

 さて何処に座れば良いのか。

すでに3人は席に着いていた。アインはキョロキョロテーブルを見渡し端の席だろうかと思案する。そんなアインの様子を見てなのか。ハルヤがラタトクスに指示をする。

「ラタトクス、お前はその椅子から足をどけろ」

「はいはい。了解」

ラタトクスは隣の椅子から足を引き上げて座り直すと空いた席をぽんぽんと叩き、アインに座るように促す。

「ほれ、席は空いたぞ。さっさと座れ」

「はい」

「とり皿はコレね」

 向かい側のミスティさんがお皿を渡してくれる。

テーブルには大きな皿に乗せた肉団子のゴロゴロしたパスタ、野菜のポタージュ、にんじんサラダが並んでいる。

どれも美味しそうで忘れていた空腹が呼び起こされた。思わず、昼から何も食べてない腹の虫が鳴りそうなのをなんとかこらえていると表のドアベルが鳴った。

 

 ひょいと店の入口からカラス頭が入ってきた。

もう少し早く来てくれれば気まず思いはしなかったのにとアインは恨めしくげに見る。それに店主は気づいたのか誤魔化すように笑った。

「夕飯の準備は終わったかい?」

「アモン待ちだよ」

「そうかい!ちょっと片付けてくるよ!」

 ハルヤが返事すると店主は意気揚々と店の奥に掃除用具を片付け、足早にいわゆる誕生日席と呼ばれる席に着く。

「じゃあ、みんな、食べようか?アインくんも遠慮せずに食べるんだぞ。それから今日の夜はお店を閉めるから、皆、そのつもりでね?」

「「「了解」」」

 3人は返事するとおのおの好きに食べはじめ、アインと店主もそれに続く。

野菜のポタージュは優しい口当たりでにんじんサラダもニンニクが効いて美味しい。

「アインくん、パスタよそってあげようか?」

「えっと、じゃあおね……が」

ミスティに差し出したアインのとり皿は彼女の横から取り上げられる。

「俺がやるからミスティは食べてて良いよ」

「そお?じゃあ、お願いね」

ハルヤは優しくミスティに微笑み、アインには無表情で大盛りのパスタを渡す。

「はい、どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 そんな彼に苦笑いしながら大盛りのパスタを受けとると、露骨に嫌われてるなぁと思う。

 

 しかしパスタをひとくち食べるとそんな気分も吹き飛んだ。美味しい……そういえば誰かと一緒に食べるのは久々かもしれない。

 

アインはまたパスタをひとくち頬張った。

 

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