穏やかな食事も終わり、一息ついて落ち着いたアインはコーヒーまでご馳走になっていた。
先程までアインの目の前では、ハルヤとラタトクスとミスティの3人による後片付けを誰がするかの真剣勝負が行なわれ、ジャンケンに負けてしまったミスティさんがキッチンの奥で皿洗いをしている。
「そういえば今朝、虹石泥棒が出たらしい」
カラス頭のマスターがくちばしで器用にコーヒーを飲みつつ、世間話をするように言った。
その言葉を聞いた途端にアインは身体が強張ったように感じる。
「へぇ〜そんで、ソイツは捕まったのか?」
ラタトクスが興味を持ったのかカラス頭に尋ねる。
「いいや、捕まってない。それどころか被害者が盗難届も出してないから警備隊も動けずにいるのさ」
おかしい……とアインは思う。アインが働いていた工場はレーラズにしてはちゃんとした職場だった。そして本社はあのプロメンガトにあるのだ。なぜ虹石を盗まれたのに警備隊に通報しないのだろう。
「ほうほう、お優しいことで。どっかの誰かさんとは大違いだ」
ラタトクスは皮肉を言って紅茶を啜る。彼はコーヒーは苦手らしい。そして黙って二人の会話を聞いていたハルヤは何か引っかかったのか片眉をあげる。
「ラタトクス、今月分の給料は何枚か軽くしてやろうか?その余剰分は俺が貰ってやるよ」
客が居ないことを良いことに窓際で煙草をふかし、ニコニコと機嫌が良さそうにラタトクスに笑いかけるハルヤの言葉でラタトクスは何に根を持ったのか勘づく。
「おまっ!ハルヤのことなんて言ってってねぇだろ?!つーか、お前の懐に入れば"煙草の灰"が増えるだけじゃねぇかよ!むしろもっとオレに金寄こせよ!」
「じゃあ私かな?ラタトクス、いい度胸だな」
「あぁくそ!お前らなぁ性格悪いぞ!!それよりも話の続きはどうしたよ!?ずいぶんとキナ臭そうな話じゃねぇか?」
今度はアモンが楽しげにケンカを買おうとするのに辟易したラタトクスは話をむりやりに戻す。
「ああ、そうだったな。実はもう虹石泥棒はね。此処にいるんだ」
「なるほどソイツを差し出せば仕事は終わりだな」
アモンはそう言ってアインのほうへ目を向け、ハルヤもさっきまで笑っていた表情を消す。
「まさか、そのガキって言わないよな……」
ラタトクスも二人の切り替わった気配を察したのかアインを気にかけるように見つめる。
3人に疑われ、咄嗟に弁解することも考えつかない追い込れたアインは思わず裏口に向かって走り出した。
しかしその腕はキッチンを近づいたところで引っ張られ、アインはバランスを崩し、派手に音をたてて倒れこむ。
「アイン君ごめんなさいね。今は逃がす訳にはいかないの」
申し訳さなそうに微笑む彼女の表情とは対称的にアインをつかむ華奢な手は力強く抜け出せそうない。
「おいおい、ガキをつきだすのかよ?」
ラタトクスが心配そうにミスティに取り押さえられたアインに近づく。
「お前でも良いんじゃないか?前科持ちだから騙しやすいだろ?そんなにソイツに情をかけるなら代わりは出来るよなぁ―――脱獄は十八番だろ?」
ハルヤもその後ろからヒョイっと顔を出してラタトクスにかったるそうに言いつつ、ミスティに縄を渡す。
「…………」
「ハルヤ、横着はいけないと思うの?それにアインくんはいい子よ?」
黙り込んだラタトクスを見かねたのかミスティは受とった縄でテキパキとアインを縛りあげながら、彼をたしなめた。
「……悪かった」
ミスティにダメと言われれば、しょげた犬のようにバツの悪そうにハルヤは謝る。
「大丈夫よ。さて、アイン君をどうするか決めましょう!」
謝られたミスティは気にしないというように微笑んで小柄なアインを軽々と持ちあげて、先程の食事をしたテーブルに向かう。ハルヤもそれに続く。
いい子と言われたアインは後ろ手にされた腕を動かそうする。しかし、ガチガチに固定されて動けそうになく諦めるように為されがまま身体の力を抜いた。もう、どうされようがやけっぱちだ。
「ミスティ嬢、おれのフォローはしないのね」
残されたラタトクスはやれやれと深く溜め息をついた。まあ、慣れてんだけどなぁといつもの席へと歩を進めた。