レッドシュガー・デッドバレット   作:八つ手

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・今回の登場人物

【五十嵐もみじ(いがらしもみじ)】
 主人公。星輪女学院一学年。
 レイガスト二刀流を操る変態。得意技はムッムッホァイ。
 物語序盤にして早速落ち込んでいる。

【小南桐絵(こなみきりえ)】
 ボーダー玉狛支部の部隊、A級・玉狛第一(木崎隊)の隊員。星輪女学院一学年。
 組織としてのボーダーが設立される以前からトリガーに触れ続けていた歴戦のトリガー使いだが、思春期の少女特有の気恥ずかしさから、学内では自らをオペレーターと詐称している。
 ボーダー外では猫をかぶって暮らしているがその生態は実際に猫であり、あどけない噂に釣られて騙されては痛い目を見て帰ってくる。
 古くからのもみじを知る一人であり、同学校同学年も相まって、女子では月見と並んで最も付き合いがいい。

【那須玲(なすれい)】
 ボーダーB級隊・那須隊の隊長。星輪女学院一学年。小南とクラスメイト。
 病弱な体質から、一学年内で密かに『那須玲を華()に守り隊』が結成されているが、実際にはもみじ、小南、朝霧の三人が無意識に彼女のナイトになっている。
 守り隊は彼女たちに敵意を抱いているが、那須含めた四人が全員美女のため光量の違いで近寄れず、コンタクトが取れていない。
 そのため那須はこの謎の組織の名前一文字すら認識していないうえ、他三人もこのことを言わないのが暗黙の了解になりつつある。

【朝霧あすか(あさぎりあすか)】
 星輪女学院一学年。もみじのクラスメイト。ボーダー基地中央オペレーター。
 真剣に運動をやって、必ず大地に天災を引き起こすと謳われる破壊神。
 経歴から異常に鍛えられた異常に平気へっちゃらな肉体から、プールを漏水させ、教室のドアを畳返し、クラスマッチではブーストチャージで対戦相手を4m先の大地に沈めた。
 以降クラスマッチでは出禁となったが、当人的にはよくあることなのであまり気にしていない。
 心臓も鋼のように鍛え抜かれている。
 一応運動以外は相当できるらしいが、戦うものでないためか戦術性だけは微妙。



前年度:冬
五十嵐もみじ①


「はぁー……」

 

 セピアめいた風情を引き立たせる校舎の中庭。

 整った植林に、片手で伸ばした親指と人差指程度の長さで顔を出す草の広がり。

 その広がりが無いところには黒土の床が整い、公園のように椅子と机がいくつも敷設されている。

 

 その大気に滲んだ墨色の雰囲気と違和感なく溶け合うように、青春の風に擦れた虚しい心地が、彼女の背筋を沿って、言の葉となって口から飛び出していた。

 

「……つらい……」

 

 中央の額から分かれるように左右に伸ばされた前髪。

 鎖骨程度まで伸ばされた横髪に、後ろ髪はショートにまとめられている。

 総じてボーイッシュな黒髪の持ち主は、黒地のセーラー服と、その上に紫色のカーディガンを着用して、机に上半身を預け、うなだれている。

 

 五十嵐もみじ、16歳。

 星輪女学院高等学校、一学年。

 

 控えめに言って、彼女は傷心していた。

 

 

 

 

 星輪女学院高等学校。

 ここ三門市ではお嬢様学校として有名で、それなりに整った勉才や、経済的に余裕のある家柄の女子生徒が集っている。

 校舎には年代の経過に伴って部分的に修復こそ加えられているが、古くに建設されたゴシック風の様式が味として残されており、非常に趣が深い。

 茶色を主軸に絡め、建造物を淡く染めた統一多色配色(ドミナントカラー)の色合いは相応の歴史の重みを感じさせ、年代層を問わずに多くの人々から人気がある。

 

 五十嵐もみじの勉才は校内でも平均ほどだったが、幾つかの理由からか、経済的には比較的余裕がある部類だった。

 彼女は現在ボーダーから提供される給料と、他のバイトを掛け持ちして金銭を稼いでいるが……本来であれば、金銭で焦る必要性は全くないほどに。

 

 苦学生と言い切れないような彼女が悩んでいる理由といえば、思い当たる理由はそれこそ――

 

「もみもみー、変な顔してるね」

「あ、あすか(アー)ちゃん」

 

 同じく星輪の冬制服で……薄灰色のカーディガンを着用した……たどたどしい足運びでもみじに声をかける女子。

 三編みをカチューシャにみたて後ろ髪をまとめて盛り上げた、シックな黒髪が印象的な彼女は、名前を朝霧あすかと言った。

 もみじのクラスメイトであり、付き合いの良い友人の一人でも有る。

 

「いっつも笑顔が眩しい君が珍しいね。昼飯もかっこんでないし。なにかあったの?」

「……三輪(ワー)君」

「また?」

 

 古めかしい文豪のように流したジト目でもみじを見つめる朝霧。

 すっかり慣れた話題なのか、他校の同学年の男子の名前を出されても、女子高生には一切の動揺が見受けられない。

 

「変なこと言われた?」

「この前模擬戦したら相打ちになっちゃって……一緒におかし食べよって言ってもお前とは食べないって」

「痴話喧嘩かよぐえっ」

 

 茶化しを入れた朝霧の首筋に、やる気のないもみじの手刀が飛ぶ。

 痛みを感じさせない緩やかな速度だったが、懸命な読者諸君なら相手を殺せるモーションであることが理解できるだろう、整った動作だった。

 

「違うの、ワー君はそういうのじゃないの。もっとこう、ひたむきで、一つの物事に向かうことに一途で……」

「うわ、スイッチ入った」

 

 サ○シに呆れ果てたピ○チュウのようなジト目でもみじを見つめる朝霧。

 これまーたどうにもならないやつだよ……と諸手を天に翻す彼女のもとに、偶然にも助け舟が届いた。

 

「あんたら、何やってんの?」

「二人共、今日も仲が良いわね」

 

 二人に声をかけた女子生徒は、どちらも非常に淡麗に上向いた容姿だった。

 

 ラフな口調の女子はクリームの髪色。

 前髪は中央で分けられ、長い後ろ髪の一部にはクセを残していた。

 制服は紅葉色のカーディガンをアクセントにして、自他に常に快活さを印象づけている。

 

 もうひとりの女子の髪色は前者よりも色が薄く、光源によっては淡いクリーム色から、銀髪にまで印象を左右されるようなものだった。

 整ったボブカットと鼻筋、翡翠の如き瞳は、まるで市街に変装して出てきた中世のお姫様のようである。

 髪色に合わせたグレーのカーディガンはモノトーンの調和を引き出しており、冷静に述べて多くの男女を魅了してやまないものと言っていい。

 彼女は体が弱いようなのか、快活な子に支えを頼んで、しがみついてこれに同行していた。

 

小南(ナー)ちゃん、(レー)ちゃん」

「おっ、いいとこに来た。コレが鉛弾(レッドバレット)化してて」

「あー、また秀次のこと?」

「もみじちゃん、いつも親戚みたいに彼のこと語るものね」

 

 小南桐絵。

 那須玲。

 もみじと同学年であり、詳細は違えど、同じくボーダーに所属する正隊員……仕事仲間でも有った。

 同じくこの話題で一切動じない朝霧も、ボーダーでは基地中央オペレーターの一人である。

 普段はもみじと朝霧、小南と那須の四人で昼食の会話グループが形成されており……星輪に入学して以降の七ヶ月間を落ち着かせていた。

 

「で、今度はなにやったのあんたら?」

「チェスかな……」

「へー、チェスね。ルールは知ってるわよ?相手の陣地で兵士が強いやつでしょ?」

「それは将棋だよ桐絵(キリキリ)。あと、なんでも鵜呑みにしないほうがいい」

「へっ?秀次と将棋したんでしょ?」

 

 朝霧の指摘に、聞くものが聞けば卒倒する絵面を文面に炸裂させる小南。

 ぷふっ、と茶目っ気を抑えられない笑みを溢れさせて、思わず那須は口を開いた。

 

「桐絵ちゃん、もみじちゃんはチェスも将棋も趣味じゃないわよ」

「へっ?」

「三輪くんも多分しないんじゃないかしら」

「へっ?」

「キリキリ。こいつは模擬戦で奴と相打った挙げ句、お菓子会出来なかったのがショックだったんだと」

「…………」

 

 何度かの指摘の果てに小南の表情は真顔から、涙を流しそうな憤怒に代わり、やがて真っ先に手が動いた。

 

「…………だーまーしーたーなー!!」

「ぅおぅおぅおぅおぅ~~」

 

 肩を捕まれ、頭が机に激突しない程度の力加減でもみじの上半身が揺さぶられた。

 ちなみに小南は普段学院内では多くの時間で猫をかぶっているため、他の生徒から陰ながらに怪訝の目で見られていたのだが……これを小南当人は一切知る由もない。

 

 

 

「はむっ、あむっ。へー、秀次のやつ、まぁまぁ強くなったわね」

「なんていうか……()()()()()()()()()()()()のかな?って。私、最近はラウンドワン(バイト)ばっかりで」

「何言ってんの、あんたその程度じゃ腕は変わんないでしょ。今でもあたしと普通に戦えるし。普通に単に不調なだけなんじゃない?」

「そうかな……そうかも」

 

 眼前には、己のものを含めた4つの風呂敷が広がっていた。

 四者一様の色合いの布の上には弁当が並べられ、それぞれのペースでおかずが減っていく。

 それと並行して話されるもみじの先日の一見。

 小南は辛口に相槌を打つが、そのやり取りには互いの信頼が見え隠れしていた。

 

「昔っからあんたはメンタルよメンタル。押しが足りないの、わかる?」

「押し……」

「ところでキリキリ。その言い方はまるで恋愛脳だね」

「桐絵ちゃん人付き合いが良いから、そこらへん熱そうよね」

「はぁっ!?何言ってんの!?」

 

 小南には横合いからの茶々を受け流す耐性がなかった。

 赤面して声を荒げ、今にも話題を逸らさんと口を開くが、270度ほどあさってに飛んでいきそうな勢いだ。

 流石に小南が普段被っている優等生の威厳を完全に損ねるのはあんまりと思ったため、那須がフォローに話の筋を戻していく。

 

「ただ、もみじちゃんの動きについていけた……いや、これは言い方が悪いわね。流石にもみじちゃんのような反射神経じゃなかったでしょ?」

「うん。ワー君は前よりも、()()がかなり進んでた。正直言って、してやられたって言っていい……のかな」

「……あいつ根暗だからそういうの得意よね。鉛弾(レッドバレット)も、元はと言えば太刀川にやられまくってたから作った対策だったはずだし」

「そうそう」

 

 根暗という言い方には語弊があるが、()()()()と言い換えれば分かりやすい。

 

 三輪秀次は、五十嵐もみじのような天性の運動センスは持っていない。

 運動が比較的得意では有るが、生身ではあくまで常人の粋を出ない。

 名前の上がった()()()()などをラインナップに飾る……超人的なセンスを持つN.O(ナンバー)アタッカーの最上位が相手では、当然ながら分が悪いのが事実である。

 しかし、それら相手に一定の勝率を残すために、彼は血のにじむような努力を重ねてきた。

 

 弾速が遅く、通常は接近しての戦闘を必須とする代わりに、相手に確実な不利益(デバフ)を発生させる鉛弾(レッドバレット)

 そして、近・中距離間の間合い間隔を制し、即座に発動トリガーを切り替えることの出来る、トリガーの高速運用能力。

 前者を使いこなす後者の腕前こそが、三輪隊の主軸たりうるA級隊員・三輪秀次の卓越した戦闘能力の裏付け。

 彼を彼たりうる、泥臭い鍛錬によって身につけた明確な()()だった。

 

鉛弾(レッドバレット)はぶつけ方次第でどんな相手にも刺さる。ワー君らしい良いトリガーだって、私いつも思ってるんだ」

 

 それは、負ける悔しさを彼から味わう頻度が少なくなくなってきたもみじの内から毎度浮かび上がる、同量の熱量の歓喜だった。

 

 自分が三輪隊を抜けての一年間、停滞した粘つく時を、彼は切り払い、踏みしだき、歩を進めていく。

 その事実を成果として刻み込まれるたび、大きな嬉しさを感じ……同時に虚しく、情けない気持ちが己に強まっていく。

 ――彼と仲直りしたいという一心も、その焦りと誤魔化しの気持ちから来る、己のエゴなのではないか?

 

 もみじは三輪を褒め称えるとき、特に笑顔が強くなる。

 長年の時を共に積み重ねてきた相手に見せるような、ささやかで一番に温かい笑みだということに、朝霧と那須はうっすらと気づき始めていた。

 

 しかし、小南はその裏で膨れ上がっている、彼女の虚無感も同時に看破していた。

 彼女はボーダー最古参の一人であり、同時に、もみじが三輪に持つような付き合いの長さを、もみじにも持っていたからである。

 

「反面、自分は何も出来てないとか言い出すの?」

「……」

「おぉう。キリキリ、君は親しい相手ほどなんか口が刺さるな」

「事実を言っただけよ。コイツ愛想笑いなんかしちゃって、そう言ってくださいって言ってるようなもんでしょ?」

 

 ジェスチャー。

 左手をパーに広げ、そこに右手でデコピンを撃ち込む。

 

「そーいうのを傲慢(ゴーマン)って言うの。別は別で、ちゃんと金稼ぐ仕事するって、アンタがこの一年間選んだことでしょ?しゃっきりしないとアイツも拗ねたままよ?」

 

 選択は選択だ。

 そこに付随する後悔もなにもかもは、全て後天的にラベルが貼られるような価値観でしか無い。

 当時を憐れむだけすることは、その箇所を起点に前へ動き出した別の人間にとって、同時に失礼なことでもある。

 

 悔やむなとは言わない。

 悲しむなとも言わない。

 ただ、憐憫は……やがて己の内にだけこそ収め、前へ進むものだと。

 小南桐絵の瞳は、雄弁にもみじに語りかけていた。

 

「……ナーちゃん、やっぱりすっごい強いね」

「あったりまえよ、あたしは正隊員じゃ一番強いんだから。これくらい言えて当然」

 

 長年の戦闘経験と、それに合わせて相応に膨れ上がった、負けず嫌いな闘争心。

 一見子猫のように生意気な彼女がその実獅子のたぐいであることは、もみじはよく知っている。

 

「あんたが場違いに明るくないと、あたしがこういう固いことわざわざ言わなきゃいけなくなるでしょ?あんまあたしらしくないんだけど」

「ふふっ、ごめんね。ありがと!」

「……まぁ?さっきよりはマシな顔するようになったじゃない」

 

 首を横にひねってもみじから目を背け、赤面を隠す小南。

 お礼を言われればすぐさま照れ隠しに移行する辺りがなんというか、()()()というか。

 

 女子学生特有の大雑把さと戦士としての強さの両方を兼ね備える小南には、もみじは何度も世話になっている。

 それこそボーダーの開設初期、()()()()()()からだ。

 こういった面では、ある意味で彼女にあこがれていると言っても正しかった。

 

「……しゃっきりはできそう、かな。でも」

 

 ――()()を払うために、もう少し考えてみる。

 

 もみじははっきりと、己の現状を口にした。

 今のやり方が、同じ場所で自分が足踏みを重ねていることは変わらない。

 元々もみじは、三輪隊を抜けた後に逃げるようにA級扱いを固辞し、空いた時間を別のバイトで埋めた。

 ……そう、逃避なのだと、少なくとも彼女は彼女自身で考えている。

 

 壁にぶち当たっている現状の己の心境を打破するには、このままでは不足だ。

 三輪に模擬戦で不意を撃たれ、小南からの叱責を経ることで、それは彼女の中ではっきりした部分だった。

 

「ま、そのために何するかまではあたしは知ったこっちゃ無いけどね」

「嘘だよ。懇願されたら絶対昼夜付き合って世話するよ。あ、この前ありがとね備品修理の手伝い」

「うっさいわよ破壊神!?」

「解決したみたいで何だけど、私にも最近悩みが有るのよね……」

「いいよいいよ!レーちゃんなぁに?」

 

 うちの隊の戦術の幅に伸び悩んでて……と、自らの隊の伸び悩みを話す那須。

 小南がズバズバと切り込み、もみじがフォローを入れ、戦術に未熟な中央オペレーターである朝霧が後学のため講義を聞きながら、同時に話をかき回す。

 彼女たち四人のランチタイムのやり取りは軽快で、輝いていた。

 羨み、妬むものが実際に陰から出るほどには。

 

 「……気に入らない」

 

 実際に、もみじのクラスメイトの一人が、そのようにこの光景を見ていたが……

 五十嵐もみじに直接彼女の怒りが炸裂するのは、この半年ほど後を待つことになる……また別の話である。

 




Q.朝霧あすかちゃんって誰?
A.原作では名前が出てるだけのモブなので、ここでは経歴を魔改造したが特に後悔はしていない。

 本作では以降も、ちょくちょく現状で名前が出てるだけのキャラや設定名の独自解釈が発生します。あとオリキャラも少々。
 描写を覆せないほど進んだタイミングで原作側で該当情報が更新された場合、敢えてそれを原作に合わせずにそのまま進めるだろうこと、今後ともご容赦ください。


(※2019/09/06追記)
・小南の設定把握のブレに気づいたため、該当箇所を修正

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