レッドシュガー・デッドバレット   作:八つ手

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・今回の登場人物

【五十嵐もみじ(いがらしもみじ)】
 主人公。(次話で軽く触れるが)ラウンドワンを辞めた。
 この十二月以降から(当時B級隊員の)雪丸に重篤な影響を与え、後に改造スラスターで空を飛び回る変態を生み出すきっかけになることを彼女は知らない。
 なお原作で登場しない限り、雪丸が直接描写される日は永遠に来ない。

【小南桐絵(こなみきりえ)】
 A級の負けず嫌い隊(木崎隊)隊員。
 料理勝負では必ずカレー対決に持ち込む大人気なさを誇り、二宮隊とのランク戦ではまっさきに辻を狙う大人気なさを誇る。
 但し、辻はA級隊員の女子全員から狙われている人気者なので、この件に関しては誰も大人げないと思っていない。

【三輪秀次(みわしゅうじ)】
 A級・三輪隊隊長。
 こじらせた復讐心が、飾り気のない容姿をガワに歩いていることに定評がある。
 平々凡々とした髪型には地味にこだわりがあるようで、たまたま別の散髪屋で別の髪型になってしまった時、もみじに魂が抜けた表情をされたせいで、いよいよ行きつけの散髪屋以外に行かないことに決めた。
 万一その散髪屋がトリオン兵に破壊された場合、彼は正気を保つことが出来なくなるだろう。

 ……三輪ゴラスイッチ……



 (※迅さん達が死ぬ炒飯番外編はまた今度やります。ひとまずは本編をどうぞ)



小南桐絵①

 時刻は十八時を過ぎ、十二月である現在の外は当然、夜の暗さに染まり果てていた。

 しかしその暗がりを追い出さんとするように、巨大な建造物であるボーダー本部基地内では、あらゆる活発な光が、煌々と揺らめいていた。

 

 競争。強壮。狂騒。

 都会の冬には季節外れな光色は白のLEDライトによるものか、それともトリオン技術独特の発行によるホワイトか。

 そのやたらめったらに降り注ぐ光を浴び、雪が降る日を珍しがる童のように。

 機械的な大広間(ブース)に中継された映像に、何十人もの少年少女達が、目を凝らしてその光景を見ていた。

 

 個人ランク戦。

 そう、その試合は。

 NO.4アタッカーと、NO.1()アタッカーの――――

 

 

 

 

 ――――もはや、()()()()だった。

 

 

 戦いが繰り広げられている間合いは本来、最低でも片方がサイズを縮めた『スコーピオン』トリガーで肉薄する距離である。

 スコーピオンは変形する白刃のトリガーであり、自由自在に形を変える変幻自在の近接武器だ。

 使い手の体内と緩衝しないため、トリオン体の中からも操れ、体のあらゆるところから枝のように生やすことすら出来る。

 代わりに近接武器(ブレード)の中では耐久力に乏しく、大きく刃を伸ばすと更に脆くなる。

 

 ――――だが、この場にスコーピオン使いは居ない。

 

 激突を繰り返すのは、柄が短く残ったようなスコップが持ち手二つと、刃渡り60cm(小太刀)の二刀流。

 白い刃がおまけと言わんばかりに柄に短く生やされたスコップに、反りがかった光刃が、似合うはずもなく同格な衝突を続けている。

 それら不揃いな武器達の担い手は、両方が十代の女子だった。

 

 カミソリを顔になぞらせるように小太刀が二刀を交差させ、間髪入れずに敵対者を多角的に切り刻む。

 対するスコップの持ち手は、刃という猫じゃらしを正確無比に追い切っている……猫ならざる獅子だ。

 一つ、刃の差し込みを隙ありと見たならば、猫じゃらしを持っている相手の手ごと重心に引き込み、食いちぎる獣の動き。

 しかし、刃の鋭さはそれを許さない。捉えどころのない剣撃は跡を濁さない。

 果てしなく緊張が高まり、息の詰まった攻防が灼熱と見紛う空気感を生み出す。

 

 

 ()()()という言葉がある。

 近年では剣道三倍段などと呼ばれるが、元々は戦国時代、槍と刀の対決の優位度を言い表した言葉だ。

 

 意味は簡単。()()()が長いほうが強い。

 

 近寄るに難い故、崩すに能わず。

 太刀の一撃が届かない距離から、槍が一方的に相手を苛め抜くことが出来る。

 これを覆すには、初段を数字の一として、三倍の段位の実力が刀の使い手に必要とされたという。

 

 

 だが、目の前の光景は如何様か?

 ハンドレンジ程度しか持ち得ないはずの千切れたスコップ二つが、二つの小太刀の攻撃一つ一つを堂々と受け流している。

 

 小太刀は、スコップより長い間合いを活かし、離脱と接近を不規則に繰り返し、ペースを握られないように戦闘距離を操作する。

 対してスコップの持ち手に許される制圧行動は、大きく分けて振り向きと接近のみ。

 攻めに回っては一気に近づき、攻撃を流しては独楽(コマ)のように振り向きながら近づき、相手が刃を振るう間に近づく。

 持ち手の握りを回転させ、掌側か裏拳側か……スコップの柄をトンファーの如くに左右させ、刃の振りを止めて、いなしては、またいなす。

 無慈悲な鉄塊の如き防壁が意思を持ってはバキッ、バキッと、大地を踏み鳴らして迫ってくるかのようだ。

 

 ほぼほぼ互角。

 しかし、武器の間合いの違いがハンディキャップになっている様子はない。

 既に互いの得物が、単純に手足の延長に等しいだけ。

 細かい程度の間合いの違いなど、両者の足かせにもならなかった。

 

 だが両者共にここまでで表向きアクロバティックな動作こそ見せていても――――結局は()()、硬い。

 これが居合抜きの勝負であれば、未だ互いに刃を抜いていないに等しい。

 故に、まだ『動き』はない。

 戦いの映像が中継されているブースの中でも、薄々それを察するものが何人か居た。

 

 

 

「……五十嵐」

 

 そのうちの一人。

 平凡に降ろされた頭髪。

 黒と紫を基調とした隊服の少年が表情筋を僅かに動かして、その映像を睨み見ていた。

 

 

 

 五十嵐もみじ。

 現在ボーダー内レート、個人ランクポイント・攻撃手(アタッカー)4位。

 

 小南桐絵。

 ()()ボーダー内レート、個人ランクポイント・攻撃手(アタッカー)1位。

 

 

「な、なんだあの人……!?」

「No.1アタッカーと何分戦ってるの!?」

「いやいやいや!?持ってるのアレ武器なの?カタログにないんだけど!」

 

 堂々たるNO.1アタッカー・小南と同等に戦い続ける者を、ブースに居る多くの人は知らない。

 考えれば当然だ。

 もみじが個人ランク戦のブースに姿を現すのは実に一年ぶり。

 C級(みならい)隊員の多くが、存在を今日知ったばかりの戦鬼の存在感に圧倒され、大画面に視線を釘付けられている。

 

 だが、彼女は知る人ぞ知るボーダーの申し子の一人。

 B級以上で彼女と関わりのある隊員達は、納得するかのような……或いは、初めてランク戦で垣間見るその戦いぶりに、普段とは異なるギャップを叩きつけられた表情をしたか。

 彼女がA()()()()()()()()()()の持ち主であると知らしめるには、目の前の彼らに見せるは十分すぎる。

 

 ――――()()()()()()()()

 

 今日はもみじも小南も、お互いに勝ちに来ている。

 明日も、明後日も、何より、『決着』がつくまで。

 彼女たちは熾烈を極め続けることだろう。

 今か今かと戦いの中で牙を研ぎ続け、相手を潰す機会を見出すために、途切れぬ気迫を修羅と向ける。

 

 

 

 「――――そこ」

 

 どちらが言い出した好機の言葉だったか。

 

 トリオン体に短髪を設定している小南が太刀筋を鋭く突き立てると同時、弧月の刃をもみじの水月(みぞおち)に向かって鋭く穿ち放つ。

 だがその機微をもみじは見逃さない。

 瞬時に半身になり刺突を躱しながら、仕手を流すために刀身に右手のレイガストの側面を添え――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――――

 

 

 ――――重心を殺しに行く前に、刀身が()()()

 

 

「(! ()()()!)」

 

 トリオン供給をOFFにされた小南の左手の狐月の刃が無惨に崩壊する。

 強度展開を終了したトリガーの挙動には各武器ごとに規則性が有るが、弧月のそれは脆くなり、切れ味を失うこと。

 わざわざ武器を消さずに展開をOFFにすることは、その場だけの手間を省いて納刀をしておくためか……または用無しを意味する行為だ。

 

 一瞬の内の一瞬。

 

 タイミングを穿ち、小南は右から弧月を差し込んだ。

 刺突が裏拳側に回していたスコップの三角形の内に入り――――外側に刃を振り払ってはもみじの左手のスコップを剥奪する。

 相手が武器を持つままであれば体勢を崩させ、手を離せば武器は遠くに去り、確実な防御力の欠如を生み出す。

 次の瞬間、もみじの体勢は、武器は……すっ飛ばされただろうか?

 

 

 ――――両方の現象が起こる。

 

 ――――両方の現象が起きて、小南桐絵の体は遠方に弾き飛ばされた。

 

 

 トリガーの高速切り替え。

 武装を高速でスイッチして、瞬間的に取れる手札の数と対応力を引き上げる……いわば実力者の地力の一つ。

 一切のロス無く武装を切り替える力は、迷いのない動きと、途切れることのない隙の無さにつながる。

 ひいては、強さを底上げすると言っても良い。

 

 

 ラウンドワン三門支店長、信濃川匙に曰く。

 レトロゲームのBGMには、曲自体に、一度に出せる音の数に制限が有った。

 瞬間的な演奏個数そのものに制限が有ったので、一つの音源がなる瞬間『だけ』他の音源を違和感なく鳴らさず、その逆も然りな作曲が求められた。

 制限あるルールの中で幻術(マジック)のように多数の音をかきならしたレトロBGMは、見かけの楽譜以上の魅力を聞くものの耳に提供し、評価されたのだ。

 

 

 ()()()()()

 両手のメイン。サブトリガーで起動・展開できるトリガーの数は二つが原則だ。

 だがこの切替の瞬間だけ、展開できるトリガーの幅は大きく広がりを見せる。

 武装を使い捨てるその瞬間、既に新たな武装を展開する妙技は、ボーダートリガーの限界展開数である『ニ』をその瞬間だけ『三』、または『四』へと昇華させる。

 

 

 五十嵐もみじは左手のレイガストごと体が飛ばされる瞬間にレイガストの強度展開を終了。

 弧月の遠心力に相乗りする形で体を浮かせ――――左足のつま先にレイガストを発生して噴射(スラスター)し、空中捻り後ろ回し蹴りで反対の側面から小南桐絵をぶん殴ったのだ。

 

「っっ!!」

 

 小南はギリギリで左手に逆手持ちで弧月を起動してこれを受けるも――――強すぎる衝撃を殺すことができない。

 戦闘ステージの後方に設定・建造されている構造物が、放たれた小南のトリオン体の重みで幾重にもなぎ倒される。

 もみじの十八番であるパイルバンカーをうちこむには、まさしく絶好の好機。

 

 

 だがその瞬間――――もみじの周囲を破砕する()()が駆け巡り、遂に釘による追撃が発生することはなかった。

 

 

 ……十秒ほど静寂が訪れる。

 その僅かな時間で体勢を整え再び姿を現した両者は、土埃にまみれていた。

 更にもみじのトリオン体は全身から浅めの破砕傷と少量の発煙(トリオンもれ)がうかがい知れ、先の爆発を防ぎきれなかったことが把握できる。

 

「……困るわね。今のあんたならこれ一回で殺しきれると思ったんだけど」

「あははは……一瞬でも反応が遅れてたらミンチだったけどね」

 

 ――――()()()()()()

 

 メテオラとは、射手(シューター)ポジションが多く扱う、着弾時に爆発する白い弾丸だ。

 起動時に立方体状に中空に形成されるそれは、発射するまでの間に分割して細かくすることが出来る。

 これは発射を遅らせたり地面に置いたままにすることで、時間差攻撃や地雷としての運用を可能とする。

 

 近接戦でそれを瞬時に行うは、小南桐絵の歴戦ぶりを象徴するゲームメイク。

 もみじの攻撃によって吹き飛ばされることまでを計算ずくで視界外にメテオラを展開、八方にばらまいておき、相手が攻撃した直後に起爆する、圧倒的手癖の悪さを象徴する手段だ。

 無論その切替は弧月をOFFにした瞬間から行われ、最後に受け太刀に使った弧月も計算づく故に起動が間に合い、後方にあえて吹き飛ぶことが許された。

 その時の違和感にもみじが気づけなければ、彼女はシールドで両防御(フルガード)することもできずに爆発四散していたことだろう。

 

「偶然丸くなれて助かった!」

「もみじ……久々に見たけど、控えめに言っておかしくない?ダンゴムシか何か?」

 

 至近距離から三百六十度を粉砕するメテオラを、全方位に広げた円形のシールドで防ぐことは難しい。

 シールドは面積を広げるほど防御力が低くなる上、デフォルトサイズでももみじの愛用するレイガストより耐久力の信頼性は低い。

 

 しかし、偶然ひねりを加えて小南を蹴った直後だったことが幸を奏した。

 反射で体を丸めたもみじは底面積の円球シールド内に瞬時に引きこもり、損害こそ被るものの五体無事のままで爆発を凌いだのである。

 

 

 今頃、沈黙と驚愕がブースの広い空間を支配していることを、彼女たちは知らない。

 当然ながら、今の超常的なやりとりは、一部の実力者以外把握できている者が居ない攻防だ。

 内容に気づいている者に至っては、その誰もが戦慄の表情を浮かべているほどの。

 

 

 

 ――――……思う。

 

 一年間逃げていた、戦いの空間。

 この前、力を鈍らせたまま三輪(ワー)君に渾身の相打ちと毒舌を拾って不貞腐れていたあの気持ちから、そうあんまり日は経ってない。

 でも、今日この場でナーちゃんと戦えているのは、きっとワー君と……黒江(クー)ちゃん達のおかげだ。

 

 目を覚ました、新鮮な心地を味わう。

 正確には、久々に錆だけを落として、やる気だけが舞い上がってるようなものだけど。

 けど、やる気がなかった頃よりは全然いい。

 最低限、体は覚えていてくれている。

 今は、それだけでも十分だから。

 

「ナーちゃんっ!」

「何?」

「私――――負けないからっ!」

「それはこっちの台詞!でも、まぁまぁ倒し甲斐が戻ってきた感じは認めてやってもいいけど?」

「ありがとう、ナーちゃんっ!」

「ふんっ」

 

 小南桐絵は、表向き鼻を鳴らすように威張る。

 だがその表情には笑みがこぼれ、体もこころなしか浮足立っている。

 

 ……やっと、あたしのクラスメイトが戻ってきた感じがある。

 こいつが何を考えて場違いに明るく振る舞うかは、少しまだ理由を聞ききっちゃいないけど。

 それでも、あからさまに落ち込んでるのをずっと見るよりかは、よっぽど気分がいい。

 

 あんたはそうでなくっちゃ。

 どこもまぁまぁ認めてるけど……友達の顔を見るならやっぱり、笑顔がいいんだから。

 

「あたし、あんたの錆落とすつもりないわよ」

 

 くるくると、現れた弧月の刃が巡りめく。

 両の手元で何度か刀身ごと柄を遊ばせてから、手ぬぐいを締めるように再び強く握る。

 

「あんたを刀の錆にして、堂々とセレモニーを飾るから」

「そう?私にも目標が有るよ」

 

 正面。

 広げた掌の前、瞬時に発生した二つのスコップを力強く掴み、小南を見据えながら彼女の相貌は、飢えている。

 

太刀川(ター)さん、風間さん、そしてナーちゃん。まずは皆からポイントを根こそぎ奪い取って――――ワー君にぎゃふんと言わせる!」

「はぁ……最終的にあいつがターゲットなの最高にあんたらしいわね。あたしは眼中にないってわけ?」

「そんなことないよっ!強い人の方がポイント多く取れるじゃん!」

「言ったわねもみじ……潰す!」

「潰れないっ!行くよナーちゃん!」

「こ・っ・ち・の・台・詞っ!」

 

 戦いの幕が上がり、少女たちは己の武器を手に、駆け巡る。

 渡り鳥が熱気を求め、大地を、海を旅するかのように。ボーダー本部の個人ランク戦ブースは、一年ぶりの闖入者をきっかけに熱気と湧く。

 冬季休暇が始まるまで、恐らくは冷めないであろう、凍えを吹き飛ばす熱狂が

 ――――そこに在った。

 

 

 A級部隊、木崎隊。

 その()()()()()()まで、残り十日を切っていた。

 

 

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