ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる   作:那由多 ユラ

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第11話

 

愛子の怒声がレストランに響き渡る。幾人かいた客達も噂の〝豊穣の女神〟が男に掴みかかって怒鳴っている姿に、「すわっ、女神に男が!?」と愉快な勘違いと共に好奇心に目を輝かせている。生徒や護衛騎士達もぞろぞろと奥からやって来た。

 

生徒達はハジメの姿を見て、信じられないと驚愕の表情を浮かべている。それは、生きていたこと自体が半分、外見と雰囲気の変貌が半分といったところだろう。だが、どうすればいいのか分からず、ただ呆然と愛子とハジメを見つめるに止どまっていた。

 

一方で、ハジメはというと見た目冷静なように見えるが、内心ではプチパニックに襲われていた。まさか偶然知り合ったギルド支部長から持ち込まれた依頼で来た町で、偶然愛子やクラスメイト、あと…知り合い?、と再会するなどとは夢にも思っていなかったのだ。

 

あまりに突発的な出来事だったため、つい〝先生〟などと呟いてしまい、挙句自分でも「ないわぁ~」と思うような誤魔化しをしてしまった。愛子の怒涛の質問攻めに内心でライフカードを探るが、『逃げる』『人違いで押し通す』『怪しげな外国人になる』『愛ちゃんを攫って王子様に』という碌でもないカードしか出てこない。特に最後のは意味不明だった。というか、最後のは希依の囁きだった。

 

と、そこでハジメを救ったのは頼りになるパートナーの少女。もちろん残念キャラのウサミミ少女、シアではなく金髪ロリ吸血姫、ユエの方である。ユエは、ツカツカとハジメと愛子の傍に歩み寄ると、ハジメの腕を掴む愛子の手を強引に振り払った。その際、護衛騎士達が僅かに殺気立つ。

 

 

「……離れて、ハジメが困ってる」

 

「な、何ですか、あなたは? 今、先生は南雲君と大事な話を……」

 

「……なら、少しは落ち着いて」

 

冷めた目で自分を睨む美貌の少女に、愛子が僅かに怯む。二人の身長に大差はない。普通に見ればちみっ子同士の喧嘩に見えるだろう。しかし、常に実年齢より下に見られる愛子と見た目に反して妖艶な雰囲気を纏うユエでは、どうしても大人に怒られる子供という構図に見えてしまう。実際、注意しているのはユエの方で、彼女の言葉に自分が暴走気味だった事を自覚し頬を赤らめてハジメからそっと距離をとり、遅まきながら大人の威厳を見せようと背筋を正す愛子は……背伸びした子供のようだった。

 

「すいません、取り乱しました。改めて、南雲君ですよね?」

 

今度は、静かな、しかし確信をもった声音で、真っ直ぐに視線を合わせながらハジメに問い直す愛子。そんな愛子を見て、ハジメは、どうせ確信を得ている以上誤魔化したところで何処までも追いかけて来るだろうと確信し、頭をガリガリと掻くと深い溜息と共に肯定した。

 

 

 

「ああ。久しぶりだな、先生」

 

「やっぱり、やっぱり南雲君なんですね……生きていたんですね。希依さんの言った通りでした」

 

再び涙目になる愛子に、ハジメは特に感慨を抱いた様子もなく肩を竦めた。

 

「まぁな。色々あったが、何とか生き残ってるよ」

 

「よかった。本当によかったです」

 

それ以上言葉が出ない様子の愛子を一瞥すると、ハジメは近くのテーブルに歩み寄りそのまま座席についた。それを見て、ユエとシアも席に着く。シアは困惑しながらだったが。ハジメの突然の行動にキョトンとする愛子達。

 

「ええと、ハジメさん。いいんですか? お知り合いですよね? 多分ですけど……元の世界の……」

 

「別に関係ないだろ。流石にいきなり現れた時は驚いたが、まぁ、それだけだ。元々晩飯食いに来たんだし、さっさと注文しよう。マジで楽しみだったんだよ。知ってるか? ここカレー……じゃわからないか。ニルシッシルっていうスパイシーな飯があるんだってよ。想像した通りの味なら嬉しいんだが……」

 

「……なら、私もそれにする。ハジメの好きな味知りたい」

 

「あっ、そういうところでさり気ないアピールを……流石ユエさん。というわけで私もそれにします。店員さぁ~ん、注文お願いしまぁ~す」

 

最初は、愛子達をチラチラ見ながら、おずおずしていたシアも、ハジメがそう言うならいいかと意識を切り替えて、困った笑みで寄って来た店員に注文を始めた。

 

だが、当然、そこで待ったがかかる。ハジメがあまりにも自然にテーブルにつき何事もなかったように注文を始めたので再び呆然としていた愛子が息を吹き返し、ツカツカとハジメのテーブルに近寄ると「先生、怒ってます!」と実にわかりやすい表情でテーブルをペシッと叩いた。

 

「南雲君、まだ話は終わっていませんよ。なに、物凄く自然に注文しているんですか。大体、こちらの女性達はどちら様ですか?」

 

「まぁだから落ち着きなって愛子ちゃん。こういうときは大人のやり口って奴があるでしょ」

 

「希依さん?ってなんですかその言い方!まるで私が子供みたいじゃないですか!」

 

「悔しかったら身長をそこのウサミミちゃんくらいまで伸ばすことだね。

 

さてハジメくん、宿代と食事代を全額私が負担するから話を聞かせてくれない?」

 

ハジメは少し面倒そうに眉をしかめるが、どうせ答えない限り愛子が持ち前の行動力を発揮して喰い下がり、落ち着いて食事も出来ないだろうと思い、仕方なさそうに視線を愛子に戻した。

 

「依頼のせいで一日以上ノンストップでここまで来たんだ。腹減ってるんだから、飯くらいじっくり食わせてくれ。それと、こいつらは……」

 

ハジメが視線をユエとシアに向けると、二人は、ハジメが話す前に、愛子達にとって衝撃的な自己紹介した。

 

「……ユエ」

 

「シアです」

 

「ハジメの女」「ハジメさんの女ですぅ!」

 

「お、女?」

 

「ワオ大胆。私は喜多 希依。愛子ちゃんのお母さん。よろしくねー」

 

愛子が若干どもりながら「えっ? えっ?」とハジメと二人の美少女を交互に見る。上手く情報を処理出来ていないらしい。後ろの生徒達も困惑したように顔を見合わせている。いや、男子生徒は「まさか!」と言った表情でユエとシアを忙しなく交互に見ている。徐々に、その美貌に見蕩れ顔を赤く染めながら。

尚、希依の冗談には馬車での道中にある程度慣れてしまった。

 

「おい、だからユエはともかく、シア。お前は違うだろう?」

 

「そんなっ! 酷いですよハジメさん。私のファーストキスを奪っておいて!」

 

「いや、何時まで引っ張るんだよ。あれは『南雲君?』……何だ、先生?」

 

シアの〝ファーストキスを奪った〟という発言で、遂に情報処理が追いついたらしく、愛子の声が一段低くなる。愛子の頭の中では、ハジメが二人の美少女を両手に侍らして高笑いしている光景が再生されているようだった。表情がそれを物語っている。

 

顔を真っ赤にして、ハジメの言葉を遮る愛子。その顔は、非行に走る生徒を何としても正道に戻してみせるという決意に満ちていた。そして、〝先生の怒り〟という特大の雷が、ウルの町一番の高級宿に落ちる。

 

「女の子のファーストキスを奪った挙句、ふ、二股なんて! 直ぐに帰ってこなかったのは、遊び歩いていたからなんですか! もしそうなら……許しません! ええ、先生は絶対許しませんよ! お説教です! そこに直りなさい、南雲君!」

 

「アッハハハハハハハハハ!!」

 

 きゃんきゃんと吠える愛子、ケラケラと笑いお腹を抑える希依を尻目に、面倒な事になったとハジメは深い深い溜息を吐くのであった。

 

 

 

 

 


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