ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる   作:那由多 ユラ

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第13話

「……何となく想像つくけど一応聞こう……何してんの?」

 

ハジメ達が半眼になって希依に肩車される愛子に視線を向ける。一瞬、気圧されたようにビクッとする愛子だったが、毅然とした態度を取るとハジメと正面から向き合った。ばらけて駄弁っていた生徒達、園部優花、菅原妙子、宮崎奈々、玉井淳史、相川昇、仁村明人も愛子の傍に寄ってくる。

 

「私達も行きます。行方不明者の捜索ですよね? 人数は多いほうがいいです」

 

「却下だ。行きたきゃ勝手に行けばいい。が、一緒は断る」

 

「な、なぜですか?」

 

「単純に足の速さが違う。先生達に合わせてチンタラ進んでなんていられないんだ」

 

 

 

時刻は夜明け。

 

月が輝きを薄れさせ、東の空がしらみ始めた頃、ハジメ、ユエ、シアの三人はすっかり旅支度を終えて、〝水妖精の宿〟の直ぐ外にいた。手には、移動しながら食べられるようにと握り飯が入った包みを持っている。極めて早い時間でありながら、嫌な顔一つせず、朝食にとフォスが用意してくれたものだ。流石は高級宿、粋な計らいだと感心しながらハジメ達は遠慮なく感謝と共に受け取った。

 

感動の再開ならぬ混沌の再開のこともあってハジメ当人も半ば忘れていたが、そもそもハジメ達は行方不明者の救出という依頼でウルまで来たのだ。

 

行方不明者、ウィル・クデタ達が、北の山脈地帯に調査に入り消息を絶ってから既に五日。生存は絶望的だ。ハジメも、ウィル達が生きている可能性は低いと考えているが、万一ということもある。生きて帰せば、イルワのハジメ達に対する心象は限りなく良くなるだろうから、出来るだけ急いで捜索するつもりだった。幸いなことに天気は快晴。搜索にはもってこいの日だ。

 

「ちょっと、そんな言い方ないでしょ? 南雲が私達のことよく思ってないからって、愛ちゃん先生にまで当たらないでよ」

 

なにか勘違いした優花の物言いに、ハジメは「はぁ?」と呆れた表情になった。ハジメは説明するのも面倒くさいと、無言でどこかからから大型のバイクのようなもの、魔力駆動二輪を取り出す。

 

突然、虚空から大型のバイクが出現し、ギョッとなる愛子達。

 

「理解したか? お前等の事は昨日も言ったが心底どうでもいい。だから、八つ当たりをする理由もない。そのままの意味で、移動速度が違うと言っているんだ」

 

魔力駆動二輪の重厚なフォルムと、異世界には似つかわしくない存在感に度肝を抜かれているのか、マジマジと見つめたまま答えない愛子達。そこへ、クラスの中でもバイク好きの相川が若干興奮したようにハジメに尋ねた。

 

「こ、これも昨日の銃みたいに南雲が作ったのか?」

 

「まぁな。それじゃあ俺等は行くから、そこどいてくれ」

 

おざなりに返事をして出発しようとするハジメに、それでもなお愛子が食い下がる。愛子としては、是が非でもハジメ達に着いて行きたかったのだ。捜索が終わった後、もう一度ハジメ達と会えるかはわからない以上、この時を逃すわけには行かなかったのだ。

 

もう一つの理由は、現在、行方不明になっている清水幸利の事だ。八方手を尽くして情報を集めているが、近隣の村や町でもそれらしい人物を見かけたという情報が上がってきていない。しかし、そもそも人がいない北の山脈地帯に関しては、まだ碌な情報収集をしていなかったと思い当たったのだ。事件にしろ自発的失踪にしろ、まさか北の山脈地帯に行くとは考えられなかったので当然ではある。なので、これを機に自ら赴いて、ハジメ達の捜索対象を探しながら清水の手がかりもないかを調べようと思ったのである。

 

ちなみに、園部達がいるのは半ば偶然である。愛子が、ハジメより早く正門に行って待ち伏せするために夜明け前に起きだして宿を出ようとしたところを、トイレに行っていた園部優花に見つかったのだ。旅装を整えて有り得ない時間に宿を出ようとする愛子を、愛ちゃん護衛隊の園部は誤魔化しは許さないと問い詰めた。結果、愛ちゃんを、変貌したハジメに任せる訳にはいかないと、園部が生徒全員をたたき起こし全員で搜索に加わることになったのである。なお、騎士達は、ハジメ達がいるとまた諍いを起こしそうなので置き手紙で留守番を指示しておいた。聞くかどうかはわからないが。

 

希依は起こされなかったのだが、自発的に朝早くから起きて白飯を炊き、ハジメ達に卵かけご飯を振舞った。数ヶ月ぶりの醤油味に感動を隠せずにご飯三杯と味噌汁を完食。ユエとシアは卵を生で食べるという事に多少の抵抗があったようだが、ハジメが食べているのを見て口に運ぶと、目を輝かせてハジメ以上のスピードで完食してハジメを軽く引かせていた。

 

「南雲君、先生は先生として、どうしても南雲君からもっと詳しい話を聞かなければなりません。だから、きちんと話す時間を貰えるまでは離れませんし、逃げれば追いかけます。南雲君にとって、それは面倒なことではないですか? 移動時間とか捜索の合間の時間で構いませんから、時間を貰えませんか? そうすれば、南雲君の言う通り、この町でお別れできますよ……おそらくはは」

 

「愛子ちゃんもちゃんと教師として、大人としての風格を発揮してきたみたいだね。ねぇハジメくん、この通り迷惑はかけないし、なんなら捜索も私が手伝うから連れて行ってくれない?私と愛子ちゃんだけでもいいからさ。というか、拒否したところで私が愛子ちゃん連れて追いかけるから愛子ちゃんだけでも乗せてけ」

 

愛子から視線を逸らし天を仰げば、空はどんどん明るくなっていく。ウィルの生存の可能性を捨てないなら押し問答している時間も惜しい。ハジメは、一度深く溜息を吐くと、自業自得だと自分を納得させ、改めて愛子に向き直った。

 

「正直、喜多の足の速さは今の俺でも脅威と感じるくらいには役に立つ。わかったよ、同行を許そう。といっても話せることなんて殆どないけどな……」

 

「構いません。ちゃんと南雲君の口から聞いておきたいだけですから」

 

「はぁ、全く、先生はブレないな。何処でも何があっても先生か」

 

「当然です!」

 

 

ハジメが折れたことに喜色を浮かべ、むんっ! と胸を張る愛子。どうやら交渉が上手くいったようだと、生徒達もホッとした様子だ。

 

「……ハジメ、連れて行くの?」

 

「ああ、この人は、どこまでも〝教師〟なんでな。生徒の事に関しては妥協しねぇだろ。放置しておく方が、後で絶対面倒になる」

 

「ほぇ~、生徒さん想いのいい先生なのですねぇ~」

 

ハジメが折れた事に、ユエとシアが驚いたように話しかけた。そして、ハジメの苦笑い混じりの言葉に、愛子を見る目が少し変わり、若干の敬意が含まれたようだ。ハジメ自身も、ブレずに自分達の〝先生〟であろうとする愛子の姿勢を悪く思っていなかった。

 

「でも、このバイクじゃ乗れても三人でしょ? どうするの?」

 

園部がもっともな事実を指摘する。馬の速度に合わせるのは時間的に論外であるし、愛子を乗せて代わりにユエかシアを置いて行くなど有り得ない。仕方なく、ハジメは魔力駆動二輪をどこかににしまうと、代わりに魔力駆動四輪を取り出した。

 

ポンポンと大型の物体を消したり出現させたりするハジメに、おそらくアーティファクトを使っているのだろうとは察しつつも、やはり驚かずにはいられない愛子達。今のハジメを見て、一体誰が、かつて〝無能〟と呼ばれていたなどと想像できるのか。ハジメは「喜多、お前は荷台な」と言い残し、さっさと運転席に行くハジメに複雑な眼差しを向ける希依。

 

「荷台は交通違反でしょうに。元魔王なめないでよね。

あぁ、皆ちょっと衝撃注意ね」

 

「貫通力MAX」と呟きながら無造作に裏拳を背後に放つと、まるでそこにガラスがあったかのように割れ、真っ黒な穴が空く。

 

希依の行動に訳が分からないと目を丸くする愛子やハジメ達を放置し、希依は穴に頭を入れて「クックちゃーん、出番だよー」と呼びかけて穴から離れると、巨大な生物が穴を広げながら飛び出てくる。

 

獅子の頭と胴体、背から生えた鷹のような翼、尻尾の代わりに生えた蛇。

いわゆるキメラと呼ばれる幻獣が現れた。

 

「き、キメラ、なのか?」

 

「ハジメくん正解。こことは違うファンタジー世界で魔王やってた時にペットにしたキメラのクックちゃん。多分エヒトより強いから気をつけてね~」

 

軽々しく恐ろしいことを言う希依をクックは蛇を希依に巻き付かせ、獅子の方は希依の顔を舐める。

 

「さ、行こっか。クックちゃん、自分より弱い人は子供以外基本乗せないから優花ちゃんたちはお留守番お願い」

 

希依はクックの背に跨って飛んでいくがすぐに戻ってきた。

 

「…ハジメくん、先導してくれる?私もクックちゃんも方向音痴だからたどり着ける気がしない」

 

「弱いやつは乗せないとか言うプライドはどこやったんだよ」

 

「ほら、よく言うでしょ?馬鹿な子ほど可愛いって」

 

ハジメはチラッとシアを見た後に納得した風で魔力駆動四輪に乗り込んだ。

 

「ちょっとハジメさん!?何でこっちチラッと見たんですか!」

 

「…ん、大丈夫。シアは可愛い」

 

「いまは馬鹿を否定して欲しかったですぅ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 前方に山脈地帯を見据えて真っ直ぐに伸びた道を、ハマーに似た魔力駆動四輪が爆走し、その背後を幻獣キメラが追跡する。

 

車内はベンチシートになっており、運転席には当然ハジメが乗り、隣の席には愛子が、その隣にユエが乗っている。愛子がハジメの隣なのは例の話をするためだ。愛子としては、まだ他の生徒には聞かれたくないらしく、直ぐ傍で話せるようにしたかったらしい。

 

本来、ハジメの隣はユエのものなのだが、ユエは、愛子の話の内容をハジメに聞かされて知っているので、渋々、愛子に隣を譲った。愛子もユエも小柄なので、スペースには結構余裕が有る。

 

 

 

ハジメから当時の状況を詳しく聞く限り、故意に魔法が撃ち込まれた可能性は高そうだとは思いつつ、やはり信じたくない愛子は頭を悩ませる。心当たりを聞けば、ハジメは鼻で笑いつつ全員等と答える始末。

 

一応、檜山あたりがやりそうだな……と、ニアピンどころか大正解を言い当てたハジメだが、この時点では可能性の一つとして愛子に伝えられただけだった。愛子もそれだけで断定などできないし、仮に犯人を特定できたとしても、人殺しで歪んでしまったであろう心をどうすれば元に戻せるのか、どうやって償いをさせるのかということに、また頭を悩ませた。

 

うんうんと頭を唸って悩むうちに、走行による揺れと柔らかいシートが眠りを誘い、愛子はいつの間にか夢の世界に旅立った。ズルズルと背もたれを滑りコテンと倒れ込んだ先はハジメの膝である。

 

普通なら、邪魔だと跳ね飛ばすところだが、ハジメとしても愛子を乱暴に扱うのは何となく気が引けたので、どうしたものかと迷った挙句、そのままにすることにした。

 

 

「…ハジメ、愛子に優しい」

 

「まぁ、色々世話になった人だし、これくらいはな」

 

「…ふ~ん」

 

「ユエ?」

 

「…」

 

「ユエさんや~い、無視は勘弁」

 

「…今度、私にも膝枕」

 

「喜多にやってもらえ」

 

「や、…ハジメがいい」

 

「……わかったよ」

 

 


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