ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる   作:那由多 ユラ

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第14話

北の山脈地帯

 

標高1000mから1800m級の山々が連なるそこは、どういうわけか生えている木々や植物、環境がバラバラという不思議な場所だ。日本の秋の山のような色彩が見られたかと思ったら、次のエリアでは真夏の木のように青々とした葉を広げていたり、逆に枯れ木ばかりという場所もある。

 

また、普段見えている山脈を越えても、その向こう側には更に山脈が広がっており、北へ北へと幾重にも重なっている。現在確認されているのは四つ目の山脈までで、その向こうは完全に未知の領域である。何処まで続いているのかと、とある冒険者が五つ目の山脈越えを狙ったことがあるそうだが、山を一つ越えるたびに生息する魔物が強力になっていくので、結局、成功はしなかった。

 

ちなみに、第一の山脈で最も標高が高いのは、かの【神山】である。今回、ハジメ達が訪れた場所は、神山から東に1600キロメートルほど離れた場所だ。紅や黄といった色鮮やかな葉をつけた木々が目を楽しませ、知識あるものが目を凝らせば、そこかしこに香辛料の素材や山菜を発見することができる。ウルの町が潤うはずで、実に実りの多い山である。

 

ハジメ達は、その麓に四輪を止めると、しばらく見事な色彩を見せる自然の芸術に見蕩れた。先程まで、生徒の膝枕で爆睡するという失態を犯し、真っ赤になって謝罪していた愛子も、鮮やかな景色を前に、彼女的黒歴史を頭の奥へ追いやることに成功したようである。

 

ハジメは、もっとゆっくり鑑賞したい気持ちを押さえて、四輪をしまうと、代わりにとある物を取り出した。

 

それは、全長三十センチ程の鳥型の模型と小さな石が嵌め込まれた指輪だった。模型の方は灰色で頭部にあたる部分には水晶が埋め込まれている。

 

ハジメは、指輪を自らの指に嵌めると、同型の模型を四機取り出し、おもむろに空中へ放り投げた。そのまま、重力に引かれ地に落ちるかと思われた偽物の鳥達は、しかし、その場でふわりと浮く。愛子達が「あっ」と声を上げた。

 

四機の鳥は、その場で少し旋回すると山の方へ滑るように飛んでいった。

 

「あの、あれは……」

 

音もなく飛んでいった鳥の模型を遠くに見ながら愛子が聞く。

 

それに対するハジメの答えは〝無人偵察機〟という自動車や銃よりも、ある意味異世界に似つかわしくないものだった。

 

「じゃ、私も行ってくるね。クックちゃん、愛子ちゃんのことよろしくね」

 

希依は道中の魔物の死体を丁寧に食べるクックを一撫でしてから音もなくその場から消える。

 

 

 

 

 

 

ハジメ達は、冒険者達も通ったであろう山道を進む。魔物の目撃情報があったのは、山道の中腹より少し上、六合目から七合目の辺りだ。ならば、ウィル達冒険者パーティーも、その辺りを調査したはずである。そう考えて、ハジメは無人偵察機をその辺りに先行させながら、ハイペースで山道を進んだ。

 

おおよそ一時間と少しくらいで六合目に到着したハジメ達は、一度そこで立ち止まった。理由は、そろそろ辺りに痕跡がないか調べる必要があったから。

 

愛子は途中で力尽き、クックの背に乗せられて上空からハジメ達を追っていた。

自分より強いものと子供以外乗せないという希依の言葉を思い出すも、子供扱いなんて今更だと自分に言い聞かせる。が、蛇が愛子に頬ずりするなど、愛子は子供がどうのというのに関係なくクックに好かれたようだが全長10mを超える巨体に尻尾代わりに生えている蛇はかなり大型なもので愛子は戦線怖々といった様子だった。

 

 

「……これは」

 

「ん……何か見つけた?」

 

ハジメがどこか遠くを見るように茫洋とした目をして呟くのを聞き、ユエが確認する。その様子に、愛子達も何事かと目を瞬かせた。

 

「川の上流に……これは盾か? それに、鞄も……まだ新しいみたいだ。当たりかもしれない。ユエ、シア、行くぞ」

 

「ん……」

 

「はいです!」

 

ハジメ達が到着した場所には、ハジメが無人偵察機で確認した通り、小ぶりな金属製のラウンドシールドと鞄が散乱していた。ただし、ラウンドシールドは、ひしゃげて曲がっており、鞄の紐は半ばで引きちぎられた状態で、だ。

 

ハジメ達は、注意深く周囲を見渡す。すると、近くの木の皮が禿げているのを発見した。高さは大体二メートル位の位置だ。何かが擦れた拍子に皮が剥がれた、そんな風に見える。高さからして人間の仕業ではないだろう。ハジメは、シアに全力の探知を指示しながら、自らも感知系の能力を全開にして、傷のある木の向こう側へと踏み込んでいった。

 

先へ進むと、次々と争いの形跡が発見できた。半ばで立ち折れた木や枝。踏みしめられた草木、更には、折れた剣や血が飛び散った痕もあった。それらを発見する度に、愛子の表情が強ばっていく。しばらく、争いの形跡を追っていくと、シアが前方に何か光るものを発見した。

 

「ハジメさん、これ、ペンダントでしょうか?」

 

「ん? ああ……遺留品かもな。確かめよう」

 

シアからペンダントを受け取り汚れを落とすと、どうやら唯のペンダントではなくロケットのようだと気がつく。留め金を外して中を見ると、女性の写真が入っていた。おそらく、誰かの恋人か妻と言ったところか。大した手がかりではないが、古びた様子はないので最近のもの……冒険者一行の誰かのものかもしれない。なので、一応回収しておく。

 

その後も、遺品と呼ぶべきものが散見され、身元特定に繋がりそうなものだけは回収していく。どれくらい探索したのか、既に日はだいぶ傾き、そろそろ野営の準備に入らねばならない時間に差し掛かっていた。

 

未だ、野生の動物、魔物以外で生命反応はない。ウィル達を襲った魔物との遭遇も警戒していたのだが、それ以外の魔物すら感知されなかった。位置的には八合目と九合目の間と言ったところ。山は越えていないとは言え、普通なら、弱い魔物の一匹や二匹出てもおかしくないはずで、ハジメ達は逆に不気味さを感じていた。

 

しばらくすると、再び、無人偵察機が異常のあった場所を探し当てた。

 

「おいおい、マジか」

 

「ん、ハジメ、なにか見つけた?」

 

「…喜多が男担ぎながら龍しばいてる」

 

「はい?」

「っ…」

 

シアは何かの聞き間違いかと気の抜けた返事をし、ユエは人間が龍を相手に互角以上に戦えるなんてありえないという表情だ。

 

「南雲くん!なにかありましたか!」

 

立ち止まったハジメ達のもとへ愛子を乗せたクックが着陸して愛子が大きな声をあげる。

クックは地面に伏せてもなお、背の高さは約5mとかなりの巨体だからそれなりに大きな声を出さないと聞こえにくいのだ。

 

「喜多が多分行方不明者のやつ見つけたから俺達も向かうぞ」

 

「ごめんなさい!聞こえないです!」

 

「見つかったからそっちに向かう!」

 

「はい!」

 

 


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