ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる 作:那由多 ユラ
「一体何があったらこんなことになんだよ」
ハジメ達が希依のもとへと駆けつけると、既に黒龍との戦闘は終わったのか大量の魔物の死体の山の上で黒龍が気絶しており、行方不明者かと思われる冒険者の鞄を希依が漁っているところでハジメ達が到着した。
「お、ステータスプレートみっけ。ウィル・クデタ、ねぇ」
「希依さんメッ、ですよ!人の荷物を漁ってはいけません!」
「先生、まず言うことがそれかよ」
「…ん、愛子、意外と逞しい?」
「ハジメくん!探してた人ってこのウィルって人でいいの?」
「おう。てか随分早かったな」
「私の気配察知は2050年の軍事レーダーよりも広範囲で高精度だからね!」
「そこまで来ると怖えぇよ。…それなら落ちた俺を探しに来れたんじゃねぇの?」
そういえばこいつ、俺が落ちる時笑ってやがったなと思い出す。
シアとユエ、愛子までもが「確かに」と、希依に疑いをかける。
「なんで?助けに行く必要あった?」
「「「は?」」」
「だってハジメくんがどうやってかは知らないけど助かって、強い力をもって迷宮から出てくるのは分かってたことだし、獣人であるシアちゃんを人間の街でもお構い無しに連れ回すのはびっくりだけどそれでも女の子連れてるくらいは予想通りだし。
そもそも仮に、もし私があの後飛び降りてハジメくん担いで香織ちゃん達と帰ったとして、その場合ユエちゃんとシアちゃんはこの場に居られたのかな?
二人にどんな事があって何をしてもらって何をもたらしたかなんて知らないけど、ハジメくんのもとで仲良く幸せにとはいかなかったと、勝手ながら思わせてもらうよ」
「希依さん、その、その考え方は…」
愛子は恐れるような、憐れむような目で希依を見つめる。
「そんな、そんな理由で見捨てるなんて…」
「…ん。でもシア、そんな理由でもそうでないと私達はハジメに助けてもらえなかった。そもそも、怒るも怒らないもハジメ次第」
「ま、そもそも私には直接的な手助けが根本的というか、血縁的に向いてないからっていうのもあるんだけどね。お父さんが這いよる混沌だし」
「最後の一言で決心したわ!お前二度と関わんじゃねぇ!」
「南雲くん!?それはちょっと酷くないですか!?」
「いいか先生、這いよる混沌、ニャルラトホテプっていうんだが、人間に規格外な兵器とかよこして破滅させるクトゥルフ神話最強クラスの神の一柱だ」
「お父さん曰く感覚的にはなろう系のラノベ読んでるのと似た感覚だったらしいけどね。
お母さんに色々されて改心したあとは自己嫌悪しまくったあと親バカになって私が困ったりしたけど。
君たちにわかる?魔王よりも魔王みたいな登場してきたくせ邪神が赤いスーパーヒーローみたいなふざけた格好して君のお父さんだよーなんて言われた当時19歳JK兼魔王だった私の気持ちが!」
「わ、悪かったよ。なんかすまん」
「あと一応肉体的には100%人間らしいから安心していいよ」
「…お前の身体能力は100%邪神って言われた方が納得いくんだが」
「そこはまぁフワッフワさせておこうよ」
説明面倒だし。と付け加えて希依はクックが魔物を一通り食べ終えて地面に寝かせられている龍を引きずって持ってくる。
「ねぇ愛子ちゃん、この龍どうしたらいいと思う?喋ってたから食べる気にはならないんだけど」
「さ、さぁ?」
「龍はどうでもいい。それよりこいつだ」
ハジメは手っ取り早く青年の正体を確認したいのでギリギリと力を込めた義手デコピンを眠る青年の額にぶち当てた。
バチコンッ!!
「ぐわっ!!」
悲鳴を上げて目を覚まし、額を両手で抑えながらのたうつ青年。愛子は、あまりに強力なデコピンと容赦のなさに戦慄の表情を浮かべた。ハジメは、そんな愛子をスルーして、涙目になっている青年に近づくと端的に名前を確認する。
「お前が、ウィル・クデタか? クデタ伯爵家三男の」
「いっっ、えっ、君達は一体、どうしてここに……」
状況を把握出来ていないようで目を白黒させる青年に、ハジメは再びデコピンの形を作って額にゆっくり照準を定めていく。
「質問に答えろ。答え以外の言葉を話す度に威力を二割増で上げていくからな」
「えっ、えっ!?」
「お前は、ウィル・クデタか?」
「えっと、うわっ、はい! そうです! 私がウィル・クデタです! はい!」
一瞬、青年が答えに詰まると、ハジメの眼がギラリと剣呑な光を帯び、ぬっと左手が掲げられ、それに慌てた青年が自らの名を名乗った。どうやら、本当に本人のようだ。奇跡的に生きていたらしい。
愛子はハジメに一言物申したいようだったが希依に「あくまでも依頼を受けたのはハジメくん。私達に文句を言う資格はないよ」という言葉にしぶしぶだがお説教を諦めた。
「俺はハジメだ。南雲ハジメ。フューレンのギルド支部長イルワ・チャングからの依頼で捜索に来た。(俺の都合上)生きていてよかった」
「イルワさんが!? そうですか。あの人が……また借りができてしまったようだ……あの、あなたも有難うございます。イルワさんから依頼を受けるなんてよほどの凄腕なのですね」
尊敬を含んだ眼差しと共に礼を言うウィル。先程、有り得ない威力のデコピンを受けたことは気にしていないらしい。もしかすると、案外大物なのかもしれない。いつかのブタとは大違いである。それから、各人の自己紹介と、何があったのかをウィルから聞いた。
ウィル達は五日前、ハジメ達と同じ山道に入り五合目の少し上辺りで、突然、十体のブルタールという魔物と遭遇したらしい。流石に、その数のブルタールと遭遇戦は勘弁だと、ウィル達は撤退に移ったらしいのだが、襲い来るブルタールを捌いているうちに数がどんどん増えていき、気がつけば六合目の例の川にいた。そこで、ブルタールの群れに囲まれ、包囲網を脱出するために、盾役と軽戦士の二人が犠牲になったのだという。それから、追い立てられながら大きな川に出たところで、前方に絶望が現れた。
漆黒の竜だったらしい。その黒竜は、ウィル達が川沿いに出てくるや否や、特大のブレスを吐き、その攻撃でウィルは吹き飛ばされ川に転落。流されながら見た限りでは、そのブレスで一人が跡形もなく消え去り、残り二人も後門のブルタール、前門の竜に挟撃されていたという。
ウィルは、流されるまま滝壺に落ち、偶然見つけた洞窟に進み空洞に身を隠していたら、下半身の膨れた女に殴られて気絶して気がついたらハジメにデコピンを受けていた。
ウィルの話を聞いた全員が希依に目を向けると希依は照れるような仕草をしながら言った。
「いやー、さすがに光より早く走るってなると脚二本じゃ安定感が足りなくてね。無理矢理だけど
まさか、見られるなんて思わなかった。と希依は締めくくったあとクックの毛並みに顔をうずめた。
「き、希依さん?なんでそんなに恥ずかしそうなんですか!?」
「愛子ちゃんならいっか。人間の身体で生やした触手ってね、性感帯なんだよ」
「へっ!?」
愛子も希依が何を言いたいか察したようで顔を赤くする。
「そ、そそそれってつまり…」
「女の子で言うところのおっぱいとかが見られたのと同じってこと」
「はわわわわわっ、希依さん、シーっです。シー!」
「愛子ちゃんが癒しすぎる~」
愛子を抱きしめたまま寝そべるクックを背もたれにすると、クックは羽根を布団のように希依と愛子に被せる。これにてふわふわ癒し空間の完成である。
ウィルは、話している内に、感情が高ぶったようですすり泣きを始めた。無理を言って同行したのに、冒険者のノウハウを嫌な顔一つせず教えてくれた面倒見のいい先輩冒険者達、そんな彼等の安否を確認することもせず、恐怖に震えてただ助けが来るのを待つことしか出来なかった情けない自分、救助が来たことで仲間が死んだのに安堵している最低な自分、様々な思いが駆け巡り涙となって溢れ出す。
「わ、わだじはさいでいだ。うぅ、みんなじんでしまったのに、何のやぐにもただない、ひっく、わたじだけ生き残っで……それを、ぐす……よろごんでる……わたじはっ!」
洞窟の中にウィルの慟哭が木霊する。誰も何も言えなかった。顔をぐしゃぐしゃにして、自分を責めるウィルに、どう声をかければいいのか見当がつかなかった。近くにいた愛子と希依はいつの間にか居なくなっており、ユエは何時もの無表情、シアは困ったような表情だ。
が、ウィルが言葉に詰まった瞬間、意外な人物が動いた。ハジメだ。ハジメは、ツカツカとウィルに歩み寄ると、その胸倉を掴み上げ人外の膂力で宙吊りにした。そして、息がつまり苦しそうなウィルに、意外なほど透き通った声で語りかけた。
「生きたいと願うことの何が悪い? 生き残ったことを喜んで何が悪い? その願いも感情も当然にして自然にして必然だ。お前は人間として、極めて正しい」
「だ、だが……私は……」
「それでも、死んだ奴らのことが気になるなら……生き続けろ。これから先も足掻いて足掻いて死ぬ気で生き続けろ。そうすりゃ、いつかは……今日、生き残った意味があったって、そう思える日が来るだろう」
「……生き続ける」
涙を流しながらも、ハジメの言葉を呆然と繰り返すウィル。ハジメは、ウィルを乱暴に放り出し、自分に向けて「何やってんだ」とツッコミを入れる。先程のウィルへの言葉は、半分以上自分への言葉だった。少し似た境遇に置かれたウィルが、自らの生を卑下したことが、まるで「お前が生き残ったのは間違いだ」と言われているような気がして、つい熱くなってしまったのである。
もちろん、完全なる被害妄想だ。半分以上八つ当たり、子供の癇癪と大差ない。色々達観したように見えて、ハジメもまだ十七歳の少年、学ぶべきことは多いということだ。その自覚があるハジメは軽く自己嫌悪に陥る。そんなハジメのもとにトコトコと傍に寄って来たユエは、ギュッとハジメの手を握った。
「……大丈夫、ハジメは間違ってない」
「……ユエ」
「……全力で生きて。生き続けて。ずっと一緒に。ね?」
「……ははっ、ああ当然だ。何が何でも生き残ってやるさ……一人にはしないよ」
「……ん」
傍らでウィルが未だに自分の内面と語り合っているのを放置して、ハジメとユエは二人の世界を作る。ユエには敵わないなっと、ハジメは優しくユエの頬を撫で、ユエもまた甘えるように、その手に頬ずりする。何が何だか分からない怒涛の展開にシアは半眼でハジメとユエを見つめる。
密かに目を覚ましていた龍は空気を読める龍のようでふたたび眠りにつくのだった。