ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる   作:那由多 ユラ

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第18話

魔力駆動四輪が、行きよりもなお速い速度で帰り道を爆走し、整地機能が追いつかないために、天井に磔にしたティオには引切り無い衝撃を与えていた。

 

希依は宇未を背に乗せ、着地する前にもう一度ジャンプする二段ジャンプの要領で四輪に並走する速度で低空飛行していた。

 

と、その時、ウルの町と北の山脈地帯のちょうど中間辺りの場所で完全武装した護衛隊の騎士達と愛子の生徒達が猛然と馬を走らせている姿を発見した。ハジメの『遠見』には、先頭を鬼の形相で突っ走るデビッドやその横を焦燥感の隠せていない表情で併走するチェイスの表情がはっきりと見えていた。

 

しばらく走り、彼等も前方から爆走してくる黒い物体を発見したのかにわかに騒がしくなる。騎士達から見ればどう見ても魔物にしか見えないだろうから当然だろう。武器を取り出し、隊列が横隊へと組み変わる。対応の速さは、流石、超重要人物の護衛隊と賞賛できる鮮やかさだった。

 

別に、攻撃されたところで、ハジメとしては突っ切るし、希依は空中浮遊くらい容易く出来るから問題なかったが、愛子はそんな風に思える訳もなく、天井で妙に艶のある悲鳴を上げるティオや防具一つ付けていない希依と宇未が攻撃に晒されたら一大事だと、サンルーフから顔を出して必死に両手を振り、大声を出してデビッドに自分の存在を主張する。

 

いよいよ以て、魔法を発動しようとしていたデビッドは、高速で向かってくる黒い物体の上からニョッキリ生えている人らしきものに目を細めた。普通なら、それでも問答無用で先制攻撃を仕掛けるところだが、デビッドの中の何かがストップをかける。言うなれば、高感度愛子センサーともいうべき愛子専用の第六感だ。

 

手を水平に伸ばし、攻撃中断の合図を部下達に送る。怪訝そうな部下達だったが、やがて近づいてきた黒い物体の上部から生えている人型から聞き覚えのある声が響いてきて目を丸くする。デビッドは既に、信じられないという表情で「愛子?」と呟いている。

 

一瞬、まさか愛子の下半身が魔物に食われているのでは!?と顔を青ざめさせるデビッド達だったが、当の愛子が元気に手をブンブンと振り、「デビッドさーん、私ですー!攻撃しないでくださーい!」と、張りのある声が聞こえてくると、どうも危惧していた事態ではないようだと悟り、黒い物体には疑問を覚えるものの愛しい人との再会に喜びをあらわにした。

 

シチュエーションに酔っているのか恍惚とした表情で「さぁ! 飛び込んでおいで!」とでも言うように、両手を大きく広げている。隣ではチェイス達も、自分の胸に! と両手を広げていた。

 

騎士達が、恍惚とした表情で両手を広げて待ち構えている姿に、ハジメは嫌そうな顔をする。なので、愛子は当然デビッド達の手前でハジメが止まってくれるものと思っていたのだが、ハジメは魔力を思いっきり注ぎ込み、更に加速した。

 

距離的に明らかに減速が必要な距離で、更に加速した黒い物体に騎士達がギョッとし、慌てて進路上から退避する……しようとしたが、体をくの字に曲げながら吹き飛んでいった。

 

「悪質なロリコンの駆除はロリコンの仕事。警察に仕事なんてさせやしない」

 

愛子の「なんでぇ~」という悲鳴じみた声がドップラーしながら後方へと流れていき、デビッド達は建物の壁に衝突まま固まった。そして、次の瞬間には、「愛子ぉ~!」と、まるで恋人と無理やり引き裂かれたかのような悲鳴を上げ、立ち上がろうとして腰から崩れ落ちる。。

 

「希依さん! どうして、あんな危ないことを!」

 

愛子がプンスカと怒りながら、車から降り、希依に猛然と抗議した。

 

「んー、いい感じの思いつかない。明日メールするからそれでいい?」

 

「理由もなく蹴飛ばしたんですか!?」

 

「あ、いい感じの建前思いついた。

あのまま騎士共に止められて、そしたら事情聴取されるわけよ。多分、新顔のティオさんと宇未ちゃんは特に念入りに。

あんな幼児体型の愛子ちゃんラブなロリコン共に裸ワイシャツの宇未ちゃんを預けてみ?また速攻で処女散らされちゃうよ」

 

「た、建前と言いつつ反論出来ないです……」

 

若干、納得いってなさそうだが、確かに、勝手に抜け出てきた事やハジメの四輪の事も含めれば多大な時間が浪費されるのは目に見えているので口をつぐむ愛子。

 

「じゃ、そういう事だからちょっと私と宇未ちゃんで行ってくるねー」

 

呼び止める間もなく、希依は宇未を肩車して町中へと消えていった。

 

 

 

 

ウルの町のとある服屋さん。

 

「宇未ちゃん、なんか良さげなのあった?」

 

「いえ、ワンピースやドレスなんて着たこと無いのであまり」

 

「奇遇だね。私も二万年以上生きててドレスなんて魔王時代に片手で数えられる程度だしワンピースなんて漫画の方しか知らないよ」

 

「神、なんですよね?」

 

「神って基本的にコスプレ勤務だよ?」

 

「そんなこと知りたくなかったです!」

 

「神といえば…宇未ちゃん、私の眷属になる気は無い?そうすれば私的には気に入った可愛い子が部下になるし、服の問題も解決するしで一石二鳥なんだけど」

 

「そ、そんなこと急に言われても…」

 

「今急に思いついたからね」

 

「その…眷属になったら、ずっと一緒に居られますか?」

 

「もちろん。私、喜多希依とステラ・スカーレットは眷属を家族として対等に接するし、よく遊びに連れて行ったりするよ。…たまに今の私みたいに異世界に内容不明な仕事と一緒に放り出されたりするけど」

 

「家族…、なりたいです!お姉ちゃん、私を眷属にしてください!」

 

宇未の背を見ると、シャツがパタパタと動いている。中で羽根が動いているのが丸わかりだ。

 

「じゃ、とりあえずお店からでよっか」

 

「は、はい」

 

いつの間にか大声を出したことに気づいた宇未は顔を赤くそめ、急ぎ足で外に出た。

 

 

人気のない路地裏で、希依は折りたたみ式携帯電話を取り出した。

 

「じゃあはい、これね」

 

希依が宇未に渡したのは金色ベースに赤い線模様が入った折りたたみ式携帯電話。

 

「あの、なんでケータイ?」

 

「えっと、近いものでいうと社員証みたいなものだよ。ステラ・スカーレットには吸血鬼としての一面もあるから眷属化するには吸血鬼としての眷属にしないと…」

 

ゴクリと固唾を飲み込む宇未。

 

「し、しないとどうなるんですか?」

 

「私たちとその眷属にありがちな中二要素がちょっと薄いかな~」

 

「それは無いといけないものなんですか!?」

 

「いや全然。我が家でちょっと浮くくらいで大したことないよ。眷属じゃない子の方が多いし」

 

「全然平気じゃないですか。時間ないんで早くしてください!」

 

焦らされたあとの呆れからなのか、段々と宇未の口調が崩れていく。若干笑みを浮かべているのはこれまでこのようなやり取りをしたことがなかったのだろう。

 

「じゃあ、覚悟はいい?」

 

「は、はい!」

 

覚悟を決めた宇未はギュッと目を閉じる。希依はそんな宇未の方顔に手を当て、額に軽くキスをする。

 

「へっ、あれ?」

 

「ん、終わったよ。体調悪いとかない?」

 

そっと、慎重に目を開くと、ワイシャツ一枚だったはずの服装が、白と黒という変わった配色の巫女服を身につけている。

 

「体に大した変化はありません。なんで巫女服?」

 

「ステラちゃんの普段着が巫女服だから眷属も女の子は巫女服になるんだよ。制服ならぬ聖服ってやつ?服の神と季節の神と熱の神が悪ノリと中二病拗らせて出来たから汚れない、破れない、一年中快適というすごい服だよ」

 

「その、お姉ちゃんみたいなパーカーとか無いんですか?」

 

「これ?これはただのユニシロで買った普通のパーカーとジーンズだよ?」

 

「…そっちの方がまだ良かったです」

 

「でも巫女服可愛いよ?」

 

「…ちゃんと着ます」

 

 




今話からはちゃんと宇未ちゃんもパンツを履いてます。履いてますよ!

ちなみにユラさん自身も時々なんて読むのか分からなくなるのでここでちゃんと書いときますね。

東江(あがりえ) 宇未(そらみ)

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