ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる 作:那由多 ユラ
投稿する度に感想くれる方を神、または休みをくれない社長(褒め言葉)と呼ぼう。
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「香織は本当に優しいな。クラスメイトが生きていた事を泣いて喜ぶなんて……でも、南雲は無抵抗の人を殺したんだ。話し合う必要がある。もうそれくらいにして、南雲から離れた方がいい」
何度も遮られた言葉をようやっと言えた言葉だが、クラスメイトの一部から「お前、空気読めよ!」という非難の眼差しが光輝に飛んだ。この期に及んで、この男は、まだ香織の気持ちに気がつかないらしい。何処かハジメを責めるように睨みながら、ハジメに寄り添う香織を引き離そうとしている。単に、香織と触れ合っている事が気に食わないのか、それとも人殺しの傍にいることに危機感を抱いているのか……あるいはその両方かもしれない。
「ちょっと、光輝! 南雲君は、私達を助けに来てくれたのよ? そんな言い方はないでしょう?」
「だが、雫。彼女は既に戦意を喪失していたんだ。殺す必要はなかった。南雲がしたことは許されることじゃない」
「あのね、光輝、いい加減にしなさいよ? 大体……」
光輝の物言いに、雫が目を吊り上げて反論する。クラスメイト達は、どうしたものかとオロオロするばかりであったが、檜山達は、元々ハジメが気に食わなかったこともあり、光輝に加勢し始める。
次第に、ハジメの行動に対する議論が白熱し始めた。香織は、既にハジメの胸元から離れて涙を拭った後だったが、先程のハジメの様子にショックを受けていたこともあり、何かを考え込むように難しい表情で黙り込んでいた。
「……くだらない連中。ハジメ、もう行こう?」
「あー、うん、そうだな」
絶対零度と表現したくなるほどの冷たい声音で、光輝達を〝くだらない〟と切って捨てたのはユエだ。その声は、小さな呟き程度のものだったが、光輝達の喧騒も関係なくやけに明瞭に響いた。一瞬で、静寂が辺りを包み、光輝達がユエに視線を向ける。
ハジメは、元々遠藤から話を聞いて、香織を助けるために来ただけなので用は済んでいる。なので、ハジメの手を引くユエに従い、部屋を出ていこうとした。シアも、周囲を気にしながら追従する。
そんなハジメ達に、やっぱり光輝が待ったをかけた。
「待ってくれ。こっちの話は終わっていない。南雲の本音を聞かないと仲間として認められない。それに、君は誰なんだ? 助けてくれた事には感謝するけど、初対面の相手にくだらないんて……失礼だろ? 一体、何がくだらないって言うんだい?」
「……」
「お姉ちゃん、やっぱりダメ?」
「我慢して」
光輝が、またズレた発言をする。言っている事自体はいつも通り正しいのだが、状況と照らし合わせると、「自分の胸に手を置いて考えろ」と言いたくなる有様だ。ここまでくれば、何かに呪われていると言われても不思議ではない。
ユエは、既に光輝に見切りをつけたのか、会話する価値すらないと思っているようで視線すら合わせない。光輝は、そんなユエの態度に少し苛立ったように眉をしかめるが、直ぐに、いつも女の子にしているように優しげな微笑みを携えて再度、ユエに話しかけようとした。
このままでは埓があかないどころかユエを不快にさてしまうと感じたハジメは、面倒そうな表情で溜息を吐きながらも代わりに少しだけ答えることにした。
「天之河。存在自体が色んな意味で冗談みたいなお前を、いちいち構ってやる義理も義務もないが、それだとお前はしつこく絡んできそうだから、少しだけ指摘させてもらう」
「指摘だって? 俺が、間違っているとでも言う気か? 俺は、人として当たり前の事を言っているだけだ」
「いい加減にしてください、天之川光輝。間違っていなければいいのではないし、周囲に理解されていない時点でそれが当たり前なのはあなたの中だけです」
「なんだい、君まで。間違っていない事の何がいけないんだい?…その羽根、まさか他にも魔人族が居たとはね!うおぉおお!」
我慢の限界を迎えそうな宇未がついに牙を向く。宇未を魔人族と勘違いし、聖剣を振るう光輝に対し、宇未は一切の防御の姿勢をとらずじっと見つめている。
「キャー!」
女子生徒の誰かが悲鳴をあげる。
振り下ろされた聖剣は宇未の肩から腰を斜めに切断し、半身が地面に落ちる。
「なっ、あ、いや、なんで、俺はそんなつもりじゃ、…そ、そうだ!これはきっと幻覚に違いない!卑怯だぞ!正々堂々と戦え!」
「…そんなわけない。あなたが私を殺した」
落ちた上半身だけの宇未が血を吐きながら光輝に事実を伝える。
顔が青ざめる光輝に宇未がさらに追い打ちをかける。
「お前は、南雲ハジメさんがあの女を殺したから怒っているんじゃない。人死にを見るのが嫌だっただけ」
「な、何を言っているんだ!」
「でも、自分達を殺しかけ、騎士団員を殺害したあの女を殺した事自体を責めるのはお門違いだと分かっている。だから、無抵抗の相手を殺したと論点をズラした。見たくないものを見させられた、自分が出来なかった事をあっさりやってのけられた……その八つ当たりをしているだけ。さも、正しいことを言っている風を装って」
まぁ、八つ当たりは私のお前を殺す理由と同じだからあまり言えたことではないけど。
「ち、違う! 勝手なこと言うな!南雲が、無抵抗の人を殺したのは事実だろうが!」
「敵を殺す、それの何が悪いの?」
「なっ!?何がって、人殺しだぞ!悪いに決まってるだろ!」
「人殺しは悪だと言いながら、お前は悪だと言いながら人を追い詰める輩を、私は『悪質な正義』と呼んでいる」
宇未の下半身が灰になり、未だ落ちたままの上半身から巫女服と一緒に下半身が再生する。
「私は悪党。正義に奪われ、犯され、殺された罪無き悪党」
「だ、だからなんだと言うんだ!俺は君から奪いなんてしていない!」
「そんなこと知ってる。運の悪い己を恨め。これはかつてあなたのような正義に言われた言葉。そっくりそのまま押し付けてあげる」
龍人種としての腕力、吸血鬼としての怪力、神の眷属としての神通力。それら全てを込めて殴り掛かる。
「私の八つ当たりのために死ね」
「…っ」
「はいストップ。宇未ちゃん、外に出てからって言ったよね?」
宇未の表面が龍の腕のように変化した右腕を希依は片手で防ぐが、衝撃は殺しきれず背後にいた光輝が吹き飛ばされて気絶する。
「ごめんなさい、お姉ちゃん。…我慢、出来なかった」
「そっか。じゃあ、宇未ちゃんのために一度皆で外に出よっか。皆、聞くだけ聞くけどそれでいい?」
展開が急すぎてついていけないのか、反応できるものが居ない。
光輝がハジメに言ったことにハジメやユエ以上の怒りを見せた宇未に戸惑っているようだ。
「『ドラゴンクエスト』より、『リレミト』を出力」
その場に居る全員が光に包まれ、一瞬にして大迷宮の入場ゲート前へと転移した。
「あっ!パパぁー!!」
「…ミュウか」
ハジメをパパと呼ぶ幼女の登場である。
光輝の頓珍漢と宇未の怒りによって生まれたシリアスが、外に出た途端幼女によって優しく崩された。
「パパぁー!! おかえりなのー!!」
オルクス大迷宮の入場ゲートがある広場に、そんな幼女の元気な声が響き渡る。
各種の屋台が所狭しと並び立ち、迷宮に潜る冒険者や傭兵相手に商魂を唸らせて呼び込みをする商人達の喧騒。そんな彼等にも負けない声を張り上げるミュウに、周囲にいる戦闘のプロ達も微笑ましいものを見るように目元を和らげていた。
ステテテテー!と可愛らしい足音を立てながら、ハジメへと一直線に駆け寄ってきたミュウは、そのままの勢いでハジメへと飛びつく。ハジメが受け損なうなど夢にも思っていないようだ。
「あの厨二病拗らせたハジメくんにさらにパパ属性の追加!?ママは誰?ユエちゃん?シアちゃん?それともティオさんとそういうプレイでもしたの?」
ドパン!
「喜多、黙れ」
希依の右手にはハジメお手製の弾丸が握られた。
「ちょっ、ハジメくん!?普通か弱い女の子に向かってレールガンなんて撃つ!?」
「か弱い女の子はレールガン素手で掴み取らねぇよ!」
周りのクラスメイト達もウンウンと首を上下させている。
「パパ、あの人パパの友達??」
「あれは喜多っていう妖怪だ。友達じゃない」
「ふーん」
「ちょ!妖怪は無いでしょ妖怪は!せめて邪神か魔王にしてよ!」
「ミュウ、迎えに来たのか? ティオはどうした?」
「無視すなー!」
「うん。ティオお姉ちゃんが、そろそろパパが帰ってくるかもって。だから迎えに来たの。ティオお姉ちゃんは……」
「妾は、ここじゃよ」
「くっ、ハジメくんのお嫁さんたちが美人揃いだからハジメくん以外に文句は言えない…」
人混みをかき分けて、妙齢の黒髪金眼の美女が現れる。言うまでもなくティオだ。ハジメは、いつはぐれてもおかしくない人混みの中で、ミュウから離れたことを非難する。
「おいおい、ティオ。こんな場所でミュウから離れるなよ」
「目の届く所にはおったよ。ただ、ちょっと不埒な輩がいての。凄惨な光景はミュウには見せられんじゃろ」
「なるほど。それならしゃあないか……で? その自殺志願者は何処だ?」
「いや、ご主人様よ。妾がきっちり締めておいたから落ち着くのじゃ」
「……チッ、まぁいいだろう」
「……ホントに子離れ出来るのかの?」
ハジメとティオの会話を呆然と聞いていた香織達。ハジメが、この四ヶ月の間に色々な経験を経て自分達では及びもつかないほど強くなったことは理解したが、「まさか父親になっているなんて!」と誰もが唖然とする。特に男子などは、「一体、どんな経験積んできたんだ!」と、視線が自然とユエやシア、そして突然現れた黒髪巨乳美女に向き、明らかに邪推をしていた。ハジメが、迷宮で拷問殺人した時より驚きの度合いは強いかもしれない。
ゆらりと一人進みでる。顔には笑みが浮かんでいるのに目が全く笑っていない……香織だ。香織は、ゆらりゆらりと歩みを進めると、突如、クワッと目を見開き、ハジメに掴みかかった。
「ハジメくん!どういうことなの!?本当にハジメくんの子なの!?誰に産ませたの!?ユエさん!?シアさん!?希依ちゃん!?それとも、そっちの黒髪の人!?まさか、他にもいるの!?一体、何人孕ませたの!? 答えて!ハジメくん!」
「えっ、私ハジメくんに孕まされたの?」
「少なくとも喜多はねぇよ!」
ハジメの襟首を掴みガクガクと揺さぶりながら錯乱する香織。ハジメは誤解だと言いながら引き離そうとするが、香織は、何処からそんな力が出ているのかとツッコミたくなるくらいガッチリ掴んで離さない。香織の背後から、「香織、落ち着きなさい!彼の子なわけないでしょ!」と雫が諌めながら羽交い絞めにするも、聞こえていないようだ。
そうこうしているうちに、周囲からヒソヒソと噂するような声が聞こえて来た。
「何だあれ? 修羅場?」
「何でも、女がいるのに別の女との間に子供作ってたらしいぜ?」
「一人や二人じゃないってよ」
「五人同時に孕ませたらしいぞ?」
「いや、俺は、ハーレム作って何十人も孕ませたって聞いたけど?」
「でも、妻には隠し通していたんだってよ」
「なるほど……それが今日バレたってことか」
「ハーレムとか……羨ましい」
「漢だな……死ねばいいのに」
「いやいや、あんな微笑ましい光景見て和もうよ。大迷宮なんて篭っててもモテ期なんてこないんだから」
「「「「グハッ」」」」
どうやらハジメは、妻帯者なのにハーレムの主で何十人もの女を孕ませた挙句、それを妻に隠していた鬼畜野郎という事になったらしい。未だにガクガクと揺さぶってくる香織を尻目に天を仰ぐハジメは、不思議そうな表情をして首を傾げる傍らのミュウの頭を撫でながら深い溜息をついた。
「岩石の土炒めと、水晶の刺身。お姉ちゃん、どっちが食べたくない?」
「八つ当たりで食べさす気?とりあえずミネラルは豊富そうだね」
既に宇未の手には岩と土を混ぜて焦がしたものを皿に盛り付けたものが出来上がっていた。
「栄養を取らせて丈夫なサンドバックに…」
「ねぇ宇未ちゃん、その超肉体派魔女みたいな考え方やめない?」
「じゃあ、お姉ちゃんならどうする?」
「香織ちゃんとハジメくんの縁結びとか?」
「それお願い」
「いいよー」