ありふれた神様転生の神様の前世の魔王様は異世界に放り込まれる   作:那由多 ユラ

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第24話

ハジメ達は、現在、入場ゲートを離れて、町の出入り口付近の広場に来ていた。ハジメの漢としての株が上がり、社会的評価が暴落した後、ハジメは、ギルド長の下へ依頼達成報告をし、二、三話してから、いろいろ騒がしてしまったので早々に町を出ることにしたのだ。

 

光輝達がぞろぞろと、出ていこうとするハジメ達の後について来たのは、香織がついて行ったからだ。香織は、未だ羞恥に悶えつつも、頭の中は必死にどうすべきか考えていた。このままハジメとお別れするのか、それともついて行くのか。心情としては付いて行きたいと思っている。やっと再会出来た想い人と離れたいわけがない。

 

しかし、明確に踏ん切りがつかないのは、光輝達のもとを抜けることの罪悪感と、変わってしまったハジメに対する心の動揺のせいだ。しかも、その動揺を見透かされ嘲笑されてしまったことも効いている。

 

香織も、ユエがそうであったように、ユエがハジメを強く思っていることを察していた。そして、何より刺となって心に突き刺さったのは、ハジメもまたユエを特別に思っている事だ。想い合う二人。その片割れに、「お前の想いは所詮その程度だ」と嗤われ、香織自身、動揺する心に自分の想いの強さを疑ってしまった。

 

自分の想いはユエに負けているのではないか、今更、自分が想いを寄せても迷惑なだけではないか、何より、自分は果たして今のハジメを見れているのか、過去のハジメを想っているだけではないのか、加えてユエの尋常ならざる実力の高さとハジメのパートナーとしての威風堂々とした立ち振る舞いに、香織は……圧倒されていた。要は、女としても、術者としても、ハジメへの想いについても、自信を喪失しているのである。

 

いよいよ、ハジメ達が出て行ってしまうというその時、何やら不穏な空気が流れた。それに気がついて顔を上げた香織の目に、十人ほどの男が進路を塞ぐように立ちはだかっているのが見えた。

 

「おいおい、どこ行こうってんだ? 俺らの仲間、ボロ雑巾みたいにしておいて、詫びの一つもないってのか? ア゛ァ゛!?」

 

薄汚い格好の武装した男が、いやらしく頬を歪めながらティオを見て、そんな事をいう。どうやら、先程、ミュウを誘拐しようとした連中のお仲間らしい。ティオに返り討ちにあったことの報復に来たようだ。もっとも、その下卑た視線からは、ただの報復ではなく別のものを求めているのが丸分かりだ。

 

この町で、冒険者ならばギルドの騒動は知っているはずなので、ハジメに喧嘩を売るような真似をするはずがない。なので、おそらく彼等は、賊紛いの傭兵と言ったところなのだろう。

 

ハジメ達が、噛ませ犬的なゲス野郎どもに因縁を付けられるというテンプレな状況に呆れていると、それを恐怖で言葉も出ないと勘違いしたようで、傭兵崩れ達は、更に調子に乗り始めた。

 

その視線がユエやシアにも向く。舐めるような視線に晒され、心底気持ち悪そうにハジメの影に体を隠すユエとシア。

 

「ユエお姉様にそんな目を向けるな」

 

宇未が手に握るのは無骨で通常のものより一回り太く、刃こぼれやヒビが無数に出来ている刀。名を『罰廻』特殊な効果を一切の持たない、ただ重くてボロボロな刀。

それを振るわれた傭兵崩れ達は手足や背骨、あばら骨等をバキバキとへし折られ、痛みに悶える。

 

「おおー。やっぱりロリっ子にはでかい武器が定番だよね」

 

「…ん、宇未、ありがとう」

 

「どういたしまして、お姉様!」

 

「ん、よしよし」

 

ユエよりちょっとだけ背の低い宇未はユエに撫でられて頬を緩ます。

 

 

「んー、気が変わった。縁は縁でも別の縁にしよ」

 

希依はポケットから赤い糸を取り出し、未だメルドに担がれている光輝に向けて糸の片端を投げると、糸は伸び、光輝をグルグル巻にする。もう片端を、ハジメを睨んでいる檜山に投げつけると光輝と同じようにグルグル巻にしてしまう。

 

あくまでも糸なので注意力が散漫になっている檜山は気づかないが、希依の行動を見ていた他の生徒たちやメルドは訝しげながら見ている。

 

「これは『縁を結ぶ赤い糸』って言ってね、二人の人間を物理的に縁結びしてくれる便利アイテムなんだよ」

 

物理的に縁結びする糸。その糸が光輝と檜山に巻きついている。つまりは、そういうことだろう。

 

「それではご唱和ください。it's showtime!!」

 

糸は収縮し、光輝はメルドから離れて檜山に近づいていく。流石に檜山も異変に気づくも、神の縁結びには逆らえず光輝と檜山の顔は目と鼻の先。

この後の展開が読めた男子達は苦笑いを浮かべ、女子達はキャーキャーと言いながら顔を手で隠すも目の部分に当てている指には隙間が空いていてしっかりと見ている。

檜山は腕を伸ばして近づけないようにしようとするが、そうすると腰に巻きついた糸がくい込んで痛みが生じ、腰に手を当ててしまう。

ブッチュウ、と未だ気絶している光輝と目を血ばらせている檜山の唇が重なる。

唇を重ねてなお、糸は収縮をやめない。腹が重なり足が重なり、全身が重なったところでバランスを崩し、光輝が檜山にのしかかる姿勢で押し倒されてしまう。

檜山は文句を言おうとするも光輝の唇は離れず、口もまともに開けないでいる。

 

「「っ~~!~!」」

 

どうやら倒れた拍子に光輝も目が覚めたようだが既に力を入れられるような状態では無く、キスをした状態で動けないでいる。

 

散々この二人から迷惑をかけられたハジメやユエ、宇未からは「よくやった」とでも言いたげな目を向けられるが、何処からか殺気の篭った視線が希依に突き刺さる。この二人のどちらかに惚れてる子でも居たんだろうと解釈した希依はお構い無しに本来ハジメと物理的縁結びをする予定だった香織のもとへと向かう。

 

「さ、香織ちゃん。今のうちにハジメくんに告っておいでよ。今なら邪魔する人は居ないよ」

 

「えっ、いや、でも、えっと~」

 

「あなた、この状況で告らせるって結構な鬼ね」

 

雫がつっこみを入れるがその言葉は希依にも香織にも届かない。

 

「何を躊躇ってるの?告るだけなら失うものなんて大してないでしょ?」

 

「いや、えっとね、その~…」

 

何かに悩み行動出来ないでいる香織。

 

「香織ちゃん、そんなもたついて、明日告られたらどうするの?」

 

「へ?」

 

「ハジメくんからじゃないよ?今日というか今すぐにでも出発しちゃいそうだし。

例えばそこの天之川光輝とか、檜山とか。仮にその辺のから告られたとして、それを香織ちゃんはOK出せるの?」

 

「そ、そんなわけ…」

 

「そう、無い。そりゃそうだよ。香織ちゃん、そいつらのことそんなに好きじゃないんだもん。

当然振るとして、その後一緒に訓練とか迷宮攻略とかできると思ってんの?」

 

「そんなの、…ううん、そうだね。ありがとう希依ちゃん!私行ってくる!」

 

香織は魔力駆動四輪に荷物を積んでいるハジメのもとへ駆けていく。

 

「驚いたわ。あなた、まともなアドバイス出来るのね」

 

「意外と失礼だね、雫ちゃん」

 

「あそこで香織が決心しなかったらどうする気だったのかしら?」

 

「その時はまぁ、物理的縁結び?」

 

「もっと普通の縁結びは無いのかしら。あれじゃあその先に幸せが無さそう」

 

「そう?私が告ったときは割とあんな感じだったけど」

 

「あなたに恋人がいるの?」

 

「またまた失礼な。いるよ、琴音っていうとびっきり可愛い恋人が」

 

「名前からして、女の子よね?」

 

「うん。妹で後輩の女の子」

 

「私、あなたにだけは恋愛相談しないと決めたわ」

 

「神々って結構同性愛が普通なんだよ。つまり、同性愛を嫌う人間の方が異常」

 

「その超理論で納得出来る人間は極僅かよ」

 

「いつでも少数派の味方、そんな神で私はありたい」

 

「神って、あなた厨二病?」

 

「むしろこの世界の人達の大半が厨二病でしょ。何あの鳥肌が立つような詠唱」

 

「それは否定できない…って、どうやら済んだみたいね」

 

 

 

 

「雫ちゃん、みんな、ごめんね。自分勝手だってわかってるけど……私、どうしてもハジメくんと行きたいの。だから、パーティーは抜ける。本当にごめんなさい」

 

そう言って深々と頭を下げる香織に、鈴や恵里、綾子や真央など女性陣はキャーキャーと騒ぎながらエールを贈った。勇者パーティとは別の前線組の永山、遠藤、野村の三人も、香織の心情は察していたので、気にするなと苦笑いしながら手を振った。

光輝と檜山も香織の言葉が聞こえたようでモゾモゾと悶えるが指を絡ませたり足が絡んだりと気色悪いオブジェが出来るだけだった。

 

「香織、こっちは私が上手いことやっておくから気にせずイチャついて来なさい。

南雲くん、ちゃんと香織のことも見てあげてちょうだい。そうでないと、大変なことになるわよ」

 

雫の悪魔のような笑みにハジメは顔を引き攣らせる。

 

「『白髪眼帯の処刑人』なんてどうかしら?」

 

「……なに?」

 

「それとも、『破壊巡回』と書いて『アウトブレイク』と読む、なんてどう?」

 

「ちょっと待て、お前、一体何を……」

 

「他にも『漆黒の暴虐』とか『紅き雷の錬成師』なんてのもあるわよ?」

 

「お、おま、お前、まさか……」

 

突然、わけのわからない名称を列挙し始めた雫に、最初は訝しそうな表情をしていたハジメだったが、雫がハジメの頭から足先まで面白そうに眺めていることに気がつくと、その意図を悟りサッと顔を青ざめさせた。

 

「ふふふ、今の私は神の使徒で勇者パーティーの一員。私の発言は、それはもうよく広がるのよ。ご近所の主婦ネットワーク並みにね。さぁ、南雲君、あなたはどんな二つ名がお望みかしら……随分と、名を付けやすそうな見た目になったことだし、盛大に広めてあげるわよ?」

 

「まて、ちょっと、まて! なぜ、お前がそんなダメージの与え方を知っている!?」

 

「香織の勉強に付き合っていたからよ。あの子、南雲君と話したくて、話題にでた漫画とかアニメ見てオタク文化の勉強をしていたのよ。私も、それに度々付き合ってたから……知識だけなら相応に身につけてしまったわ。確か、今の南雲君みたいな人をちゅうに…」

 

「やめろぉー! やめてくれぇ!」

 

「あ、あら、想像以上に効果てきめん……自覚があるのね」

 

「こ、この悪魔めぇ……」

 

「ま、雫ちゃんがそんなことするまでもなく香織ちゃんだけでなくユエちゃんにシアちゃん、ティオさんを一人でも悲しませたりしたら私が適当にイシュタル辺りと縁結びするから片隅にでも思い留めておいてね」

 

「お前…やっぱ妖怪だろ」

 

「だから邪神か魔王にしてって」

 

「喜多さん、それは流石に私もどうかと思うわよ」

 

「最低でも四人、ミュウちゃんも入れれば五人と人生を共にするんだから、ジジイかおっさん辺りとキスするくらいの覚悟はして貰わないと」

 

既に、生まれたての小鹿のようにガクブルしながら膝を突いているハジメ。

 

「ふふ、じゃあ、香織のことお願いね?」

 

「……」

 

「ふぅ、破滅挽歌(ショットガンカオス)復活災厄(リバースカラミティ)……」

 

「わかった!わかったから、そんなイタすぎる二つ名を付けないでくれ!喜多は糸を取り出すな!」

 

「香織のこと、お願いね?」

 

「……少なくとも、邪険にはしないと約束する」

 

「ええ、それでも十分よ。これ以上、追い詰めると発狂しそうだし……約束破ったら、この世界でも日本でも、あなたを題材にした小説とか出すから覚悟してね?」

 

「おまえ、ホントはラスボスだろ?そうなんだろ?そして喜多は裏ボスか」

 

「薬草五つ分の金を持たせて魔王討伐を命ずる王様よりマシでしょ?ほら、そろそろ縁結びの効果が切れるから今のうちだよ」

 

「はぁ~」と露骨にため息を吐きながらハジメは魔力駆動四輪に乗り込む。希依の「またねー」という言葉に返事を返さずに魔力駆動四輪は次の目的地へと走り出した。

 

 

 


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